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リン、知る。

 4月3日。



 午後8時。



「宿題終わったー!」



 琴は立ち上がり、ソファーにダイブした。



 そして、ソファーに座っていたリンの股間に、顔をうずめる。小太郎がいたらナニかしら反応しそうな構図である。



「つかりたー」

「よーしよし」



 リンは琴の背中を軽く撫でる。リンは今日、泊まりらしい。



 志太も泊まるらしい。ソファーに寄りかかる俺の右隣で寝転びながらテトリスDSをしている。対戦相手は俺だ。強いな。



 くろたんは更にその右隣で、俺が書いた童話小説を、俺と同じ体制で見ている。



 作品は、出版された作品それのサンプルは筆者のもとに届けられる。それらは丁寧に、俺の部屋の本棚に収められているのだ。



「こら」

「あ?」



 琴が対戦中に話しかけてきた。タイム。



「どした」

「宿題終わったんだから、一言くらいなんかどうだ言ってやれよあたしに!」



 俺は、冬休みのときのように「宿題終わりませんでした」という定番のオチを避けるため、今のうちにやるように言った、というかやらせたのだ。



 どうやってやらせたかというと、宿題終わるまでサイフを没収し、毎日ドリル(合計28ページ)を1日3ページ終わらせるまでお菓子とゴハンとゲーム没収したら、わりかし簡単に終わらせてくれた。



「簡単じゃないやい。リンちゃんいなかったら死んでたやい。ちったあ誉めろよー」

「やだよ」だって当たり前の事だろ。

「はぅぁああ!」



 背景効果音、がびーん!



「お兄ちゃんの鬼! お兄ちゃんなんかもお、鬼〈おに〉いちゃんだ!」



 え? うん、お兄ちゃんだが。



 琴がいじけてリンの股間に頭をぐりぐり押し付ける。



「ぅえぁああ! 琴、ちゃん、ちょっと落ち着けィ!」



 リンがものすごく焦っている。はあはあ言っている。



「そろそろ続き、しよ?」にこり。

「んー? うん」



 タイムを解いた。



「ちょっ、せんぱぁ! 助けて!」

『ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり』

「ひぁぃぃぃぃぃ……」



 ああ、テトリス面白い。



「黒民先、たすけ……っ」



 その黒民先輩は、俺の本に夢中だ。ナイス、集中力。ん?



 くろたんは泣いている。ホロリほろりと。まじか。



 俺は人の心を動かしたのか。










(リンが琴に言いたいことがあるため、リン視点に移ります)



 あー。もお11時か。



 ここは琴ちゃんの部屋だ。



 あたしの隣りには今、琴ちゃんがいます。



 inベッド。先輩に前回のお泊まり会の次の日に怒られたので、今回はちょっと反省して早めにベッドinしました。



 さて。



 今からちょっと怒ります。



「ねえ、琴ちゃん」

「なあにー?」



 真っ暗ななか、ベッドの横に置かれた子棚の上のデジタル時計の文字の光に照らされて、かすかに見える程度なのに、それでも楽しそうな顔をしている。



 可愛いー。もお、欲しいなこの子っ。



「じゃなかった!」

「へ? なにが?」

「あ。あはは、気にしないで琴ちゃん」

「んふふー。うん」



「こほっ、んん」



 気持ちを和ませるために、咳払いをした。ふぅ。



「あのね、琴ちゃん」

「うん」

「あんまり今日みたいなこと、てゆうか二度としちゃヤダからね」

「頭ぐりぐり?」

「そう! それ」

「ふふ、分かったー」



 ニコリとしたと、思う。



 ぅう。琴ちゃん分かってるけど、コレは。もお。



「でも、お兄ちゃんも誉めてくれるぐらい、いいよね」



 お? 拗ねた声。



「あはは。照れくさいんじゃない?」

「んーん。お兄ちゃんって、なんかムダにクールだから」

「あー、分かるなソレ。でも基本的には優しいよね」

「まあ。ねぇ」



 ちょっと声が微妙な感じになった。んー、なんて言えばいーんだろ。なんか可愛い感じ。ツンデレ? ……よく分かんないなぁ。



「優しくないと、琴ちゃんを一人で育てるなんて、出来なかったと思うよ」

「……うん。感謝してる。だから好きなんだもん」



 おお!



「ふふん、今の聞いたら先輩泣くね〜」

「え! ええっ! 言わないでよ!」

「まったまたぁ。本当はいつも言ってんじゃない?」



 琴ちゃんにデコピンした。



「ええっ! 言ってないよ! 嘘じゃないからね!」



 うわー、言ってそうだなぁ。



 動揺しすぎだよ、もお。可愛いな。



「あはは、分かった分かった」

「もお。………言ってくるのお兄ちゃんだからね!」

「うっそお」



 あの先輩が?



「ホントだよ! 抱きしめてきたり、キスしたりもするんだからね!」



 急に。



 頭が冷えるような、熱く煮えるような、そんな感覚に襲われる。



 あの先輩が?



 嘘かとも思う。いや、嘘に決まってる。実際嘘みたいな話、いや、兄弟なら軽いキスくらいするのかな? いや、しないよね。するのかな。



「ど、こにキスされたの?」

「え? おでことか、耳たぶ」



 リッァアアアアル。



 なんかリアル。すっげーすっげーリアルじゃないかねオイオイオイ。



 耳たぶってとこが先輩くさい気がしないでもないな。おおぉ……。いや、普通のことかも。ん? 普通ってなんだろ。んんんんんんんんん。



「リンちゃん?」

「へ?」

「どうしたの?」

「いいや、なにもありません」



 そのあと。ウチは話はここで終わりにしよう、みたいなことを言って、琴ちゃんが寝息をたてるまで、琴ちゃんのお腹に手を置いていた。



 そのあいだに考えたことは、先輩の、キスのこと。



 冷静になると、ホントな気がし始めた。



 だって、「耳たぶにキスされた」なんて嘘、ウチが小学生のときは考えつかなかったもん。おでこは分からなくもないけどさぁ。



 だから、明日聞いてみよう。



 先輩に、何でそんなことしたのかを。



 今は早く寝よう。



 目を閉じる。



『ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、』



 ああ。



『ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、』



 心臓の音……。



『ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、』



 うるさい。うるさいよ。目を開ける。



 琴ちゃんの口が微かに動いてるのが分かった。



「どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、」



 犯人は、お前か!!

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