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もきゅもきゅ。

 4月2日。



 午前11時。いつもより暑い。



「お兄ちゃん。今日のあたしはなんか、汗が吹き出てるから、あたしがパジャマ脱ぐから、汗拭いてー」



 俺の太ももにダイブしたそいつが、小さいカラダをうつ伏せにしたまま、そう言ってきた。



「自分でしなさい」


「けちー」



 俺は琴に頭を下げさせて、琴の耳元で言う。



「俺じゃ、汗だくにしちゃうだろ……逆に」



 そう言って、耳の穴に舌を入れた。



 琴は顔に、恥じらいが浮かばせるとすぐにカーペットに視線を向けようとしたが、俺はそれをさせずに震える首を掴み、右耳朶に鼻を軽くつけながら(……はぁ)、囁いた。



「行け……」


「……わ、わか、りました」



 琴は、へなへなと立ち上がった。



 ……たくっ。



     *



「でも今日は本当に暑かったんだよ〜」


「そうかい」



 琴は顔からジョバジョバと水を垂らしながらオオオオオオオイ。



 頭を叩いた。「ふぎっ!」琴の顔から水が散る。



「顔拭けよ」


「焦りゆえの過ちです」



 額から汗が流れる。そうか、確かに暑い。



 コタツから出た。そうか。



「コイツをそろそろ、片付ける時期かい」


「あー。今年は結構粘ったねぇ」



 お腹のとこから聞こえる琴の声。ごしごし。



 頭バシッ。「きょはん!」俺で拭くなっつの。



「冷静すぎたゆえの過ちです」



 訳わかんねぇよ。



「とりあえず、コタツ片付けるぞ」


「はーい」



 今まで家事させてなかったからな、たまには手伝わせよう。



 コタツの上の、ポンカンの入った皿をキッチンの机の上に置き、コタツをひっくり返した。



「ちゃぶ台返しっ!」



 うるせえよ。



「琴、そっちの脚外して」


「うぃ」



 ことん、ことんと2つ外した。



 俺も2つ外した。



「そんで、布団を剥がすから、そっち持って」


「うぃ」



 そんで、俺は琴が持っていた部分を持った。



「ねー、お兄ちゃん」


「んー?」


「脚外すんじゃなくて、テーブルを外せば手間数少なかったんじゃない?」


「……あ」



 琴が口を指の腹で抑えながら、クスリと笑う。



「お兄ちゃん……まっぬけ〜」



 ……うるせえよ。



 俺は洗面所にコタツ布団を持っていった。



     *



「ついでに掃除もしとく。琴、寝っ転がってないで手伝え」


「えー」



 琴は先ほどまで、ずうっとコタツがあった場所に仰向けで大の字に寝ている。



 時計を見る。12時か。



「掃除し終えたら、昼食だ」



 くぅ。琴のお腹から、チワワみたいな音がした。



「なにすりゃええの〜?」



 外からの太陽の光が、俺の髪を暖めていく。



 窓が少し、白く濁っていた。



「窓拭きしてくれ。布巾はテレビ台の奴な」と言って、指を指した。



「へーぃ」



 琴がそこに向かう。俺の手には掃除機だ。



『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』



 掃除機の音がうるさい。



 なんか、もっと静かな奴でも買いに行きたい。が、壊れてもないものを買い換えるのは少しもったいない気がした為、このムダな考えを排除することにした。



 記憶クンは刀を持った。



 そして、ムダな考えに一の太刀をくらわせる。



 ムダな考えは、悲鳴のような血しぶきをあげながら、かくかくと躰を震わせたのち、ジェンガのように崩れ落ちた。よし。



『バァアアアァンッッ!』


「ひょえー!」



 なにごとだ?



 琴を見る。カエルのようにひっくり返っていた。んなアホな。どれだけリアクション上手なんだ、妹よ。



 次に、琴の目の前にあった窓を見る。



 豚がいた。鼻は潰れ、目も潰れ。不細工なこと、この上ない。



「なにをやってんだ、ホシ豚」



 その豚は星葉であった。窓から顔をはがすと、潰れていた目は途端に大きくなり、潰れていた唇は気色の良いピンクになり、結構な美少女になった。ピンク髪がキラッ☆ と光った。ああウザイ。



 俺は掃除機の電源を切った。



 窓を開けると、星葉は頭の後ろに手を回し、「てっへへへ☆」と照れた。ああ、ぶん殴ろうかなぁ。



「いやね、珍しく琴が窓なんか拭いてるのを見ちゃってね☆ なんか本でも見てたのか、こっちにも気付いてなくて☆☆ つい☆☆」☆


「つい☆ じゃねえ……てのっ!」



 ひゅん☆ おらぁ! 紙一重ぇ!



 しかし、なんか見てた、という発言は気になるな。



 琴を見る。片手にNANA21巻を持っていた。油断したな、琴よ。涙を浮かべていた。



「あ。ついでに星葉、お前も掃除してけ」


「えー☆」


「メシと和菓子くらいは用意してやっから」


「おお☆ それは楽しみさ☆☆」



 俺は、台拭きを星葉に命じた。



「頼むよ」


「まかせるさ☆」



 星葉はがめつい奴なので、ご褒美さえ(和菓子のこと。とくに桜餅とお萩が大好き)用意すれば、なかなか頼もしいのだ。



 さて、と。



『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』



 俺は掃除機で、琴のお尻を突いた。つんつんと。



 は、や、く。しろ。



『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』



 つんつん。



「はーぃ」



 カエルは立ち上がった。



「でもね、お兄ちゃん……。掃除どころ、ちゃいまんねん……。レンが死んどんねん!」


「俺は電子レンジ壊れる方が悲しいわ」


「鬼か!!」











「はー☆ めっさ旨いさ☆☆」



 午後3時。



 星葉が桜餅をぐにぐにと食べながら、『星座』をして緑茶を呑む。見た目がファンタスティックなため、なんだかシュールな絵になってしまう。



「あれ? あたしの桜餅は?」


 琴も相当なお菓子大好き人間である。




「春よのう☆」



 がめついって、罪ねぇ。



「あれ? 星葉、さっき食べてたよね? また食べてない?」


「もきゅもきゅくちゅくちゅ☆」



 どうやったらそんな音、出せるんかねぇ。



「おい。聞いてんのか、スター」


「もきゅもきゅきゅるりん☆」


「星葉ああああああああああああああああああああ!!!」


「もきゅぅううううううううううん☆☆」



 捕まえられた星葉は足を持たれてぐるぐるぐるぐる大回転したのち、テレビに頭をぶつけて沈んだ。



 最近、身長差もついて、だいぶ力の差もついたというのに、懲りない奴だわ。



 珍獣ショップに売ろうかな。



 そう思いながら星葉を見ると、琴も一緒になって倒れていた。



「めがまらる〜」



 ……まらる?



 目が回ってしまったらしい。



 二匹でいくらになるかなぁ。

作者「その前に、珍獣ショップって実在するのか?」

湯鷹「あ。あー……たしかに」

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