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自分が信じる相手。

 4月1日。



 午前11時。



「おはよー」



 琴が背中にぺたりと引っ付く。



 コタツの電源は点いていない。ソファーに寄りかかれないので、後ろで膝立ち中の琴に寄りかかる。



 背の小さな琴は、膝立ちして俺の座高と高さが同じになる。いや、正確に言えば、少しだけ琴の方が高いが。



 だから、寄りかかると琴の顔が隣にきて、その顔を覗くには上目にならないといけない。



 目を合わせると、琴は口を薄く開いて、俺の目の前を唇が通行。鼻にキスをしてきた。



 視界が真っ白な首で塞がれる。



 三日前くらいから琴は、二人のときはキスとかも、してくるようになった。



 もう、ダメらしい。



 たとえダメでなくとも、俺が諦めたくて堪らないのだ。



 何の為に、あいつらから色々聞いたのか。



 分かっていたけど、いちいち思い出せるほどの力も無い。



 とりあえず今は、愛しさを妹にぶつけることにした。細い体だ。



 脂肪の少ない胸は、鼓動が聞こえやすかった。どくどくと。



 琴は胸のとこにいる俺の、頭を撫でて、頬を俺の頭につけている。



 たまらなくて。その顔を覗く。



 紫がかった黒い瞳が、優しく潤んでいて、その下にちょこんと付いている小さな唇が



 何度も、何度も、おでこにキスをしてくる。



 『俺』が小刻みに震える。涙が顎まできて、静かに落ちる。



「お兄ちゃん?」



 琴が気付いて、心配そうに眉を細める。



「大丈夫だよ……」



 琴が冷たい手をぴたっと、俺の頬につけてくる。



「本当に?」



 二度は言わずに俺は、琴の背中に手をまわした。



 軽く、潰れないように軽く、抱きしめる。



 柔らかい。温かい。



 いいのだろうか。甘えても。



 いいのかな……、甘えても。



 妹に、甘えても。



 俺が甘えることで、琴を、傷つけないかな……。



「痛いよ、お兄ちゃん……」



 琴の声に、気付く。いつのまにか、強く抱きしめていた。



「ごめん……」



 やっぱり、ダメだ……。そう思って、離れようとした。



「離さないで……」



 琴の目を見た。涙が頬に落ちてきた。



「痛くても。痛くしていいから……、離さないで……」



 泣きながら、笑っていた。幸せそうに、泣いていた。ダメだ。



 泣かないでくれ……。



「お兄ちゃ……ぅん」



 唇を重ねた。熱くて、みずみずしい。



「おにぃ……ふぅ……ぁ」



 存分に、甘えようと思う。



 そんな俺が、俺は。



「琴……」



 唇を離した。



「……お兄ちゃ、んぅ」



 そしてまた、重ねる。



 琴の細い腕が、俺の首を軽く絞める。



 首を刈り取られ、俺の体は溺れていく。



 琴、琴、「琴……」。



 残された首だけで足掻いた。



 舌を、琴の舌に絡ませる。



 最初こそ、動きの堅かった琴の舌は、徐々に活発になり、琴の甘ったるい声が漏れ始めた。



 少し口を離すと、舌足らずに「ぉにーちゃん」と呼んでくる。



「もっと……。もっとしたいよ……。もっと……。はぁぁ……おにーちゃ……はぁ」



 自ら舌をいれようと、唇の端を舐めてくる。息を切らしながら、子犬のように舐めてくる。





 はぁ……。





「琴……」



 自由になった体で、琴をゆっくりと倒した。



 口の中の寂しさが、消えてゆく。











 午後12時。


 昨日作っておいた肉じゃがを食べた。



 ダシが染みていて美味しかった。特にジャガイモ。



 琴も黙々と、そしてニコニコ食べていた。その顔を見る度に、作ってよかったなって思える。



 琴はナス以外なら何でも口にする。



 だから作る俺も助かる。



「まあね。せっかく作ってくれたもんだからね。他にできること、無いから」



 琴が申し訳なさそうに言った。



「食ったあと、皿洗いしてくりゃ助かるけどな」



 琴は耳を押さえて「聞こえません」のポーズを見せた。



「はあー。今日は良い天気だ」



 外を見る。ざー。雨だろう。



「じゃー、皿持ってこれるだけ持ってこい」

「……はぁい」



 俺は自分が使った皿を両手で持って、キッチンに行く。その直ぐ後ろから、足音が付いてくる。



 琴を見ると、二枚の皿を重ねて、片手で持っていた。



「無理せず両手で持てよ」

「お兄ちゃんと手を繋ぐために空けてるの〜」



 にひひと笑う。



 いやいや、これはさすがに「あほか」。



 そんなことしてて、皿割られたらシャレにならない。



「両手!」

「……はぁい」



 琴は皿を両手で持った。










 午後3時。



 志太の話。



「俺の友達がクッキー作るって言ってたから、昨日遊びにいったんだ。最初はまあ普通に生地作ってたんだけど、でもオーブン170度にしなきゃいけないのに、レンジの500で焼いててね、丸焦げになったんだよ。それでね、なんでそんなことしたんだよ? て聞いたら、『いやあ。電子レンジにオーブンなんて、あるんだねえ』てなんか感心してるんだよ。アホすぎやろ?」



 ぷ。



「でもね。その黒こげクッキー、他の友達が『うまい、うまい。はあ、うまい。ごほっ。ぅおっほん』言うててね、黒こげを美味しそうに頬張り始めて。さすがにその時は、そいつが本当に人間なのか? て疑ったよ」


「つうか、よく食う気になったなぁ。そいつ」


「ココアクッキーって言っといたから、黒いのなんて、当たり前だ! て言ったら引っかかったよ。匂いで気づかないソイツが神に見えたね、うん」


「ははっ。そいつ会ってみてえわ」


「ダメダメ。そいつ琴に嫌われてるから」


「あ? そうなの?」



 そんなの聞いたことねえ。



「そいつは琴のこと、好きらしいけど」


「ああ。そうなんだ」


「うん。でもね、あれだよ。好きだからいじめちゃうんだろうね」


「ああ。あー」



 その気持ちは、分からないな。



 俺は逆に、話せなくなるタチだしな。



 ん? でも琴とは話せるか。あれ? まあいいか。



「しかし志太。最近俺と話すこと、多くなったよな」


「昔はなんか、湯鷹クンが話したがってなかったみたいだから。最近はねぇ、俺に懐いて困ってるよ」


「なっ!」



 こいつ、皮剥いでやろうか。



 そう思い、俺は志太の頬を引っ張った。おお、柔らかい。くろたんのぷにぷにな柔らかさとは違い、フワフワした感じだ。



 言うならばくろたんはハジくけれど、志太は吸い込まれていくような柔らかさを持っているのだ。



「やめいよ。俺、餅肌なんだからね」


「いやあ、気持ちいくてね」



 トイレから琴が戻ってきた。



「うんこ出たああああああああああああああああああああああああああ」



 そういう琴の表情は、天に召される気まんまんだった。



 というか最近、トイレ行きすぎだろう、琴よ。



「俺たちって、いつまでウンコとか平気ツラして言えるのかな」にこり。



 琴が幸せ顔をしてソファーに顔うずめて果てたあと、志太がなにを思ったのか言い始めた。



「お前はイヤなの? そうゆう単語、出されるのが」


「いや、じゃあないよ」にこり。


「ただね、そうゆうこととかを言ってても、大人になれるのかなぁ……って思ってね」にこり。



 よく分からんが、早く小学生を卒業したいという気持ちは分かった。



 意外だと思った。意外にも子供らしいと。しかし、意外だと思えるほど志太のことを知らないことにまた気付いて、志太に何かを期待しようとしていた自分が阿呆に思えた。



 こいつは、ひかえめなだけで自分が無いわけではない。



 それを、笑顔でごまかしていたのだろう。自分がしたいことを笑顔でごまかしていたのだろう。小太郎みたいにヘタに周りが見えすぎていたのを、ごまかしていたのだろう。



 だからいつも隙が無く、脇で笑っていたのだろう。



 いつも、当たり障り無く。



 人の気持ちがよく分からん俺にしては、やけにピースが上手くはまっていった。



 きっとこいつは、自分が自分を出してもいいやつを探してて、それを俺にしたのだろう。



 俺の目をえぐるように見つめてくる。観察している。自分すら信じることができないから。



 俺にぶつけるつもりなんだろう。



 ならば、出来る限りのことはしよう。



「ウンコしてー☆」



 玄関からリビングへ入ってすぐに、そんなことを言う星葉。



 ああ、こんなやつ好きになったら苦労しそうだ。



 志太は例の微笑みを浮かべている。



 それを見て、俺と似ていると思ってしまったのは何故なのか。

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