琴さん、漏らす。
3月27日。
午後2時。
コタツにはくろたんが横になって、ウチにあった東野圭吾の推理小説を読んでいた。その横ではリンが寝ていたが、
無意識なのか、それとも本当は起きているのか。リンはまた、頬を引っ張っていた。「ぅあー」
冬休み終わる頃には、ブルドックにでもなっているんじゃなかろうか。
向かいには琴と星葉がいた。二人も寝ていた。
しかも星葉に至っては、星形の鼻ちょうちんを作っている。少しは人間らしくしてほしい。
ちなみに、なぜみんな寝ているかというと、昨日オールしていたからだ。
俺は早々に眠りについたが。
だから女性陣は眠くなって、今眠りについているのだろう。
しかし。琴にはあまり、夜更かしを覚えさせたくはないのだが。
日頃、家事をほとんどせず、朝もまともに起きれないのに、夜更かしまで始めたら、だらしないことこの上ない。まるでダメな女、略してマダオだ。
1月のときは12時には眠りについていたというのに。なにをパワーアップしているのだ妹は。
コタツ横のソファーに座り、ポンカンをむさぼりながら、そんなことを考えていたら、くろたんがいきなり歌い始めた。
「青い空に高く、今なら飛べるかな。
もしこのまま落下しても、今はそれでいい」
サビのようだった。……なんの歌だろう。てゆうか何で人が歌ってると、恥ずかしくなるんだろう。
「それ、誰の歌?」
「ん? あ、ああ。はね、大塚愛の『羽ありたまご』」
「へー。大塚愛にしては、落ち着いた曲だな」
すると軽く微笑みながら、くろたんは言った。
「今度持ってくるから、聞いてみて」
俺は、「楽しみにしてる」と言って、ポンカンの皮を剥いた。
このポンカンの、身のしまりっぷりが堪らない。
午後3時。
志太が来た。
「あれ? 女性の皆さん、お昼寝タイムなの?」
その言い方を聞いていると、とても小学生には思えないな。
説明。
「あはは。そういうことか」
しゃがみ、星葉の鼻ちょうちんを割りながら笑う志太。
「ふきゅん☆」(寝言)
すると直ぐにまた、星形の鼻ちょうちんが出来上がる。強し。
志太は、琴達とリン達の真横の方向を陣取った。そして思いついたように口を開く。
「そういえば、この3人だけの組み合わせって、初めてじゃない?」
「え……? あ、うん、そだね」
くろたんが答えた。
確かになぁ。
しかし……話すことが何もないな。
くろたんは話さなくても、いるだけで落ち着くし、志太とは喋るというよりも、事務的な会話ばっかだしなぁ。
小太郎とかなら、けなせばしゃべられるんだが。うるさい奴だと話がしやすい。
ああ、そうだ。じゃあ志太のキャラを解剖してみようか。
「なあ志太」
「なに?」
「お前って学校じゃ、いつも何をしてんの?」
「んー、昼休みはバスケかな」
「あー。そういえばお前、バスケ上手いもんな」
「あはは。やっぱね、太りたくないからね」
「やる理由ソレかよ」
おっさん臭いな。
ちなみに、くろたんは推理小説に老けっている。
「俺も湯鷹〈ゆたか〉クンに聞きたいことあるんだけど」
湯鷹というのは、俺の名前だ。
「なに?」
「なんで童話作家になろうと思ったの?」
「そりゃあ、子供に見てほしいからだよ」
「へえー……。でも、それでもよくなれたね」にこり。
「うん、まあ、奇跡に近いね。シュウさんって覚えてる?」
「あー、雪合戦のときの、あの?」
「うん。俺、取り合ってくれたのが、あの人じゃなかったら(童話作家に)なれてなかったかもしんない。
『君の文章はイマイチ読みにくいけど、ストーリーは暖かくて良いね』て言ってくれてさ。
まあ、そこは生意気にも文章力もあるわボケとか思ってたけどね、そのあと知り合いの作家紹介されて、色々教えてもらって、それがキッカケで今の今まで仕事できてんだから、結構感謝してる……なんか、難しい話だったかな?」
いつもは糸目の志太の目から、青い光が見えた異常さに、心配になって問う。
「ううん、大丈夫。ただ珍しいって思っただけ」
「珍しい?」
「うん。そんな饒舌な湯鷹クン、初めて見たから」にこり。
また、いつもの微笑み紳士へと。
「真剣さが伝わってきて、面白かったよ。俺も、そんな真剣になれる職、探して、掴み取りたいって……そう思うくらい」
志太は、いつもの微笑みを浮かべている割に、その言葉は熱かった。
熱いとは分かっていたが、冷やしてみる。
「まだ小学生なんだから、そんなこと思ってたら、老けるぜ」
しかし、言った自分が、ゾッとした。
こいつは、まだ小学生だろう。
なのに、なんでここまで丁寧な雰囲気を出せるのかと。口先だけでなく、芯まで熱い言葉をなぜ出せるのかと。
そう思うと、ゾッとした。
同時に期待。
この目の前で微笑む小学生が、これからどんな成長をするのかという、期待をした。そんな俺の顔にも笑み。
横で推理小説を読むくろたんが「凄いなぁ……」と一人、呟いた。うーん……。
午後5時。星葉除くの、二人が起きた。
「お兄ちゃぁあん、喉が乾きまくってるよぅあああああああミルクかオレンジジューシージューシージューシーくれぉ」
琴は眠気まなこをゴシゴシこすったかと思うと、せっかく起き上がっていたのに、また倒れ込み、横の、幼児体型の星葉の腹にムチャクチャ絡まる。ていうか今の寝言か?
「星葉ぁ。星葉〜」
いつもは避けようとしてるハズなのに、寝ぼけているときの琴は、ツンツン成分を忘れているらしい……。
「琴ちゃん可愛いっすねえ」
リンがポンカンを口にしながら言った。
「お前は寝ても覚めても、何も変わんないな」
「へ?」
リンは左手で、くろたんの顎下をいじくっていた。
「ぅあー」
もはや完全にネコ扱いだ。
「ぅあー」
志太はというと、星葉の鼻ちょうちんを割って遊んでいた。
「ふきゅん☆」




