お兄ちゃん、みかんを裏切る。
R−12です。
●兄と妹●
3月26日。今日から妹が春休みだ。
今回は休み期間が短いので、春休みまるまる仕事放棄することにした。きゃほーい。
午後12時。
俺は昼食に、ラーメンを作っていた。真っ白スープのヤツだ。小さな妹の、琴の昼食である。俺の昼食はトーストで、キムチを上にのせ、その上に更にとろけるチーズを載せたものをオーブンで焼いている。
その琴は、リビングのコタツ(電源はオフ)でのんびりと、だいぶ前に放送された番組の録画をブルーレイで見ていた。
『トキェエエエエエエエ』
テレビのあるリビングから、そんな声が聞こえてくる。紛れ、嘲笑も聞こえてくる。
もう、何度となく見ていたから、だいぶ笑い声のボリュームは減ったな。
俺は小鍋に入ったラーメンに一つ、卵を落とした。卵綴じにするためだ。琴は、ラーメンの麺に卵が絡むのが、堪らなく好きなのだ。
卵を軽く、遅く、かき混ぜる。白と黄色の身が麺や豚肉の上で、固まってくる。よし。
俺は小鍋の中身を、そのまま、ゆっくりと、ラーメンの皿に移した。
その後、上にスリ胡麻を振り掛け、リビングのコタツの上に置いた。
「ふお〜。豚骨さーん」
テンション上昇、琴。
ラーメン皿を掴みながら「あったけー」と言って琴はニヤけた。
そしてズルズルと啜る。
俺は「麺、伸びてないか?」と聞いた。
トーストと一緒に作っていたから、伸びていないかが不安だったからだ。
「んー大丈夫だよ、ありがと♪」
なら良かった。
コタツに入り、湯気で白い顔を桃色に染めながら食べる琴を数秒見ていたら、オーブンが音をたてた。
俺はトーストを食べ始めた。
「一口ちょうだい」と琴が強請るので、トーストを琴に貸した。
『がぶっ』。そんな音が聞こえそうなくらい、一口が大きい。四分の一くらい食べられた。食い過ぎアホ。
「じゃー肉少し、くれ」
「はい、あーん」
「んー」
バラ肉旨いわー。
「はい、あーん」
「え? 麺はいいよー」
「いやぁ。今さっき、あーんにハマってしまって。あーん」
「んー」
麺、伸びてんじゃん。
「おいし?」
「俺が作ったからね」
可愛い妹は微笑んだ。
俺は琴の、黒炭色の細い髪を撫でた。
●兄の友達●
午後2時。
ピンポーン
誰かが来たらしい。
「久しぶり」
少し赤みがかった黒い髪、緋色の大きなクリクリ目、細くもろそうな指、十九歳の男の割りに高すぎる声、細身のカラダ。言われなければ女と見間違いそうな中性的な男性が玄関内にいた。
「久しぶりー、くろたん」
そう言った返事をしながら、俺はそいつに軽くハグした。
細いな。肉を食えよ。
くろたんのリアクションは、抱きしめていたから分からなかった。
肩が愉快に揺れていたので、笑っていたのかもしれない。
「まあ、あがれよ。玄関閉めてな」
「うん」
「くろたん!?」
リビングに戻ると、琴がもともと大きな目を見開いて、ポケモンのプリンみたいな目にしていた。マジでけえ。
「くろたーん!」
くろたんの細い首に琴の細い腕が絡まり、
「うわー!」
くろたんと琴がコタツの脇に倒れこむ。
「久しぶり〜。三週間ぶりじゃない?」
「う、うん。その、くらい」
仰向けのくろたんの上から話しかける琴。くろたんの胸に肘を付けている。そして上から笑いかけるのだ。
「くーろたん……♪」
「あ……ぅ……」
「ゲームしよー♪」
ただでさえ女が苦手なくろたんは、小学五年生(今年で六年生)とはいえ女の子の琴に、超至近距離で笑いかけられ、顔を真っ赤にしていた。
「ぅ、ぅん」
そのため、返事がワンテンポ遅れたのだろう。
つーかね。お前が将来小悪魔にならないか本気で心配だよ、琴。
「お兄ちゃん、も一個のDSはー?」
「ベッドのとこに無いなら知らねー」
『ほんとっすかー? 先輩たまにウソ付きますからね』
「こんなことにウソつかねー……つか、いつからいた?」
コタツの中から曇り声が聞こえたから、俺はそう問う。
しかし答え無く、コタツの中で何かががもぞもぞと動きだした。
そして俺の正面に、ひょっこり『ソレ』は出現。
茶髪のポニーテールに、強気な目。凛々しく少し焼けた顔で、「剣道してます」って感じの中背の女の子。俺の1つ下の後輩。
名前はリン。
「うぃっす! ウチの卒業式以来っすねぇ、皆さん。いつから来たかというと、黒民先輩がドアを閉める寸前だったっす、確か! そして!!」
顔をクワッ! としたリンは、くろたんの頬を引っ張る。グイグイと。
「相も変わらず。ほっぺたやわいっすねえ、黒民先輩」
「ぅあー」
触りまくり、にへら顔。
そんなリンの頬を、くろたんの上からペタペタと触る琴。
「つーかリンちゃん、DS持ってきてない?」
「ないよー。うわー、琴ちゃんもやわやわ、やわ〜」
「でしょ♪ リンちゃんもやべー」
「あ、ぁあ。琴ちゃんに、リン、やめて」
左手でくろたんを触りながら、琴も触るリン。二点攻め。
琴もくろたんの胸板に指置く指を軸にして、ブレるたびカラダを矯正して、バランスを保っている。
くろたんの上で、繰り広げられるペタペタ戦争、なぶられ天国。女男女。
俺はコタツの端でポンカンを食べている。
うまい。うまい。ポンカンは旨い。
で。DSの話はどこに消えたやら。
「ぅあー、ぅあー。やめてー」
……俺も加わるか。立ち上がる俺。
「ぅぁああああああああああはあっはあっはっ! ひぃ!」
「おお、お兄ちゃん!」「プロっすねー」
●妹の友達●
午後3時。
「こんにちは」
志太という男の子が来た。
琴の友達だ。
ハーフだからだろう、薄青い目と短い金髪を持っていて、身長も小学生にしては高い160センチもあり、いつも微笑みを絶やさないことが特徴だ。
そのため、付いたあだ名は微笑み紳士。
「ずいぶん遅かったな。どうしたんだ」
「馬がないからね」
「え? あー。小太郎な。どうしたんだアイツ」
ニコニコと微笑みながら頭に着けていたハットを外し、手で包むように持った。
「春休み中は来ないらしいよ」
「え? なんで?」
「休暇取らなかったんだって」
「え? なんで?」
「夏にとっとくタメだって」
「え? なんで?」
「夏なら、『女性三人の露出度高くなるじゃん? だから夏にとっとくんだよ。あっはっは』て言ってたよ」
性的全年齢対象変態男が。
「まあ、あがれよ志太」
にこりと微笑み「おじゃまします」。
「おー、志太クン♪」
「昨日ぶりー」
琴と志太、『ぱちっ!』ハイタッチ。
「今日は遅かったねー。なんでー?」
「略」にこり。
「あー。そいえば小太郎ちゃん、いないね」
「略」にこり。
「えっ、なんでー?」
「略」にこり。
「えっ、なんでー?」
「略」にこり。
「えぇっ!」赤面琴。
「コッチンは本当にアホっすねえ」
「ぅあー」
いまだ、くろたんを引っ張っているリンは、呆れ顔だ。お前に呆れるよ俺ぁ。
午後7時。
その時間までずっと、皆でウィーをしていた。
マリオテニス、マジはんぱねぇ。
「あー、行っちゃうんすね黒民先輩、しーちゃん(志太)」
二人の足にしがみつくリン。
「ま、た来るよ、リン」
「バイバイ、リンさん」にこり。
「あー。バイバーイ」
手をフリフリする琴。
『ガチャン』
玄関から、リビングのコタツに戻る、俺と琴とリン。
ん? リン??
「つーわけで、今日泊まりますねー、先輩♪」
どうゆうわけで?
「ダメっすか?」
まあ、いいけど。
「じゃあ、リンちゃん、マリテニもっかいやろー?」
「ふふん、ウチのプロペラヘイホーに勝てるかな!?」
「ふふん、勝つよ〜。お兄ちゃん、ダブルス組もー」
「じゃあウチは、星葉ちゃんと組むっす!」
「ぁはん☆ 星葉ちゃんのハナチャンは、何者にも負けないさ☆☆」
「負けねー! お兄ちゃん、勝つよ!」
は?
いやいや待て待て。
俺の横から全身をコタツに入れていた(らしい)星葉が、首だけを出していた。
お前、いつからいた?
「瞬間移動で来ました☆」
どこのスーパーサイヤ人だよ。
「それ、ウチの技だ!(パクんな!)」
それは違う。「パクんな」違う。
「それ以前に答えになってないよ星葉、アホ」
「すいません琴さん☆」
立ち上がって、琴に頭を下げた星葉の髪の色はピンクで、右横に星形の黄色のバレッタをはめており、下げた顔の斜め横から見える顔は、
こんな(≧▽≦)感じになっていた。顔文字レベルの顔なのだ。
「ところで琴さん☆」
「んー?」
「この前DS借りてってたんだけどね☆」
「んーあぁ、そっか。星葉に貸してたのか」
星葉のグーの手をパーにしたら、中からDSが出てきた。お前は何者だ。
「ん……?」
「ごめんなさい琴さん☆」
DSに星がいっぱい刺さっていた(星葉は目から、トゲトゲしい星形の手裏剣を出すことができる。だからお前は何者だ)。
ああ、だから「さん」付けしてるのか。
「最近風邪気味だったからさ☆ 星の制御が出来なかったのさ☆☆」
「じゃあ……。じゃあ。じゃあ、プレイしてんじゃねぇええええええええええええええええ」
琴がキレた。あいつをキレさせるのは、いつも星葉だなぁ。
「にゃぁああああああああああああああああああああ☆」
家んなかでドタバタしないでほしいなぁ。
「先輩、マリテニしましょうぜ!」
「ん? ああ、うん」
俺はノコノコをプレイヤーキャラにした。




