<コント>ラブレターを書いてみよう
ゲラゲラコンテスト応募作品です。
ちょっとだけ、ダークです。
男二人の設定ですが、ツッコミを女に変えても成立するかもしれません。
小学校の休み時間の騒ぎの中、チャイムが鳴る。
明転する。
先生、舞台袖からやってくる。
先生「は〜い。皆んな席に付け〜」
吉田「先生、山下くんのお家はお寿司屋さんなのに、山下くんのお父さん、鯖食べられないんですって。山下、自分が口へ運べないもの人に食わせて、商売してんじゃねえよ」
先生「山下くんのお父さんは鯖アレルギーなんです。吉田、早く席に着きなさい」
吉田、つまらなそうに自分の席に着く。
先生「今日の国語の時間は、皆さんに『ラブレター』を書いて貰います」
吉田「(周りの生徒たちと顔を合わせるように)うおおお!やっべえええ!」
先生「吉田、興奮しすぎだぞ。良いですか?ラブレターと言っても、人に対して書く訳じゃありません。人以外のものに向かって日頃の感謝の思いを綴って下さい。例えばこうです」
暗転しつつ、先生にピンスポが当たる。
先生「ラブレター。あなたは時に、道に迷った私に正しい道順を教えてくれます。ラブレター。あなたは時に、銀行の代わりをしてくれます。ラブレター。あなたは時に、夜中空腹で困る私の、小腹を満たしてくれます。そう、あなたの名前は、…コンビニです」
明転する。
吉田「おお…」
先生「とまあ、こんな感じで、日頃お世話になっているものに向かってラブレターを書くんです。気を付ける箇所は、初めに『これは何だろうな?』と興味を引かせておいて、最後に『その答え』を持ってくるんです。皆さん、良いですか?」
吉田「(挙手して)先生」
先生「なんだ吉田?」
吉田「先生はコンビニばかり利用していて、独身が寂しくないんですか?」
先生「やかましいわ。では、皆さん考えて下さい」
吉田「(挙手して)は〜い!は〜い!」
先生「今度は何だ?」
吉田「出来ました!」
先生「早っ!大丈夫か?」
吉田「はい」
先生「じゃあ吉田」
暗転しつつ、吉田にピンスポが当たる。
吉田「ラブレター。あなたは時に、僕に安心を与えてくれます」
先生「おお、出だしは良いよ」
吉田「ラブレター。あなたは時に、僕の遊び相手になってくれます」
先生「テレビゲームかな?分からないな」
吉田「ラブレター。あなたは時に、僕から新しいお父さんへ立ち向かう勇気をくれます」
先生「………」
吉田「そう、あなたの名前は、僕だけ見える妖精です」
明転する。
先生「(咳払いをして)吉田、今日の放課後、職員室へ来なさい。じゃあ、他に出来た人?」
吉田「は〜い!は〜い!」
先生「他に誰もいないのか〜?先生、さっきの吉田のSOSはしっかりと受け止めているぞぉ…」
吉田「は〜い!は〜い!」
先生「………。もう分かった。吉田」
暗転しつつ、吉田にピンスポが当たる。
吉田「ラブレター。あなたは時に、僕に安心を与えてくれます」
先生「先生は不安しか感じないぞ」
吉田「ラブレター。あなたは時に、僕から辛いことを忘れさせてくれます」
先生「吉田、頼むぞ」
吉田「ラブレター。あなたは時に、僕から新しいお父さんへ立ち向かう勇気をくれます」
先生「………」
吉田「そう、あなたの名前は、お酒です」
明転する。
先生「まず未成年の人はお酒を飲んではいけません。吉田、先生は出来るだけ早く家庭訪問に行くことをこの場で約束する。じゃあ、次の人」
吉田「は〜い!は〜い!」
先生「(頭を抱えて)吉田のメンタルがよく分からん」
吉田「は〜い!は〜い!」
吉田「怖い!吉田の日頃お世話になってるもの」
吉田、立ち上がる。
先生「当ててもないのに吉田が立ち上がった!」
吉田「ラブレター。僕はあなたの手入れを毎日欠かした事はありません」
先生「絶対、嫌な予感しかしない」
吉田「ラブレター。あなたは時に、僕から新しいお父さんへ立ち向かう勇気をくれます」
先生「そのメッセージ強すぎだぞ」
吉田「そう、あなたの名前は、包丁です」
先生「やめろ〜!これは俺の国語の時間だ!」
吉田「先生、気付いてくれたか分かりませんが、僕は今、家庭の問題を抱えています」
先生「充分伝わってる!」
吉田「ぷっ。くくくっ。はっはっはー!」
先生「どうした?吉田」
吉田「先生、気付くのが遅すぎるんですよ。僕は随分と前から、先生にSOSを出し続けていたんですよ?」
先生「吉田、どういう意味だ?」
吉田「こういう意味です」
吉田、机の引き出しから、血だらけの包丁を取り出して見せる。
先生「ぎゃーっ!」
吉田「先生が早く気付いてくれないから、僕はこうせざるを得なかった…」
先生「吉田、申し訳ない!」
吉田「先生」
先生「なんだ?」
吉田「失って初めて気付く愛情もあるんですね」
吉田、包丁を机の上にゆっくりと置きながら、
吉田「ラブレター。塾からの帰り、僕はあなたの小言が嫌で嫌で仕方がなかった。でも本当は仕事で疲れた眠い目を擦って、僕の帰りをいつも待っていてくれたんだ。父として立派だったと思いますよ。…新しいお父さ〜ん!」
先生「なんて事だ」
吉田「あ!」
先生「今度はなんだ?!」
吉田「人に対して、ラブレターを書いてしまいました…」