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最後への道

最後の村から南下し風化して何十年と使われてない街道を数時間歩き、人間と魔族を隔てている山脈を遠目に見ながら、本調子でない身体を休め手持ちの食料を口に運び再び歩を進めていく。

そういった繰り返しを数日繰り返し遠くに見えていた山脈が目の前を覆う位に迫る。

登山口らしきものがないか一日使って散策したが見当たらず、夜を明かし標高の低い部分の崖にしがみ付き垂直に近い壁を登り、一日半掛けて登頂し黒い雲に覆われた魔族の領地へと踏み入った。


枯れ木が荒野に点在しているだけで今まで見てきた自然は壊滅していた。

昼か夜か分からない、荒野に降りると山脈の向こう側の景色は寸断され僅かに光が差し込むだけで離れればそれも見えなくなるだろう。

荒野の奥へと歩を進めると祠だろうかそれらしきモノがポツリと存在しており、中に入っても柱が並んでるだけの空間で天井は崩れ落ち奥に扉があったがそれも半壊していて機能していない様だった。

その建物から離れ枯れ木から薪を集めている最中に突然祠が輝きだし不信感から薪を投げ出し近くにあった岩の背後に身を隠し息をひそめ、複数の生命反応が発生した祠内を注意深く観察すると小さいながらに人間が祠から顔を出すとあの屑勇者達の姿だった。

白黒の聖剣を背負った屑が2人、それを守るように周囲を警戒する者が3人、敵地であることを理解してなさそうな女が2人、足が竦んで動けない女が1人、屑にべったり付いている女が2人の計10名。

警戒する3人が先頭でそれ以外は大した注意をすることなく続いていき、見通しのきかない荒野ではすぐ見失ってしまった。


(転送魔法か・・・便利なものだ)


自らが一週間以上かけてきた苦労が一瞬で飛ばされてしまった、得体のしれぬ不愉快感で気分が最悪になり後を追う気にはなれず、ばら撒いた薪を拾い集め一晩を明かした。


(まぁ、奴らが先を行こうが後を付いて来ようが俺には関係なかったな)


次の日屑勇者共が向かった方角と同じ方向に進み歩き詰めると足跡の形跡を辿り、遠くに城の外郭のようなものが見える頃にはもう足元に視線は行かなかった。



巨大な城門が立ちそびえ左右の高い壁が平地を区別しているようだ。

先に行った屑勇者一行に強引に開かれたか元から壊れていたのか知らないが、片側の扉に人が通れるくらいの隙間が出来ており自分もそこを潜った。


(魔王城か・・・この禍々しい魔力の根源は最奥にあるのか)


辺りが暗いせいで正確な居城の大きさは測れないが、それでもこれまで見てきたどの国よりも立派で強固な外装なのであろう。

城への入り口は何もなかった、扉もなければ門番もいない、この禍々しい力さえなければ本当にここが魔王城かと疑いを持つレベルだ。


城内に侵入した、ここからは敵の腹の中と言ってもいいが拍子抜けするほどに魔物の気配がしなかった。

警戒は緩めず柱が立ち並ぶ空間を探索していった。


「ユーマ様ぁーユリー歩き疲れましたー」

「リョウマ様!あたし達も一旦休憩しましょうよ?」


一階部分崩れた居住区を探索中に甘ったるい声で虫唾が走る名前が呼ばれ、思わず部屋の一角に隠れてしまった。

女共と屑勇者の声を聞くだけで何度の忘れようとした怒りが沸々と湧き上がってきた。


「殺気!?お二方ともまだ魔族が潜んでいるようだお気を抜かれませんように」

「大丈夫大丈夫、あんた等はこれまで通り私達の露払いをしてくれればいいんだから、お父様からそれに見合う位の金額は貰ってるでしょ?」

「なっ・・・俺達はあんたらのためを思って・・・・」

「うるさいな、魔王を僕らが倒すんだ、それまで余計な力を使わないようするためにお前等がいるんだ、主役の踏み台にさせてやっているんだ感謝してくれてもいいんだぞ?」

「チッ・・・もう少しだけの辛抱だ」


屑勇者PT内でも派閥はあるようだ、周囲を警戒している冒険者か傭兵の3人の男達は屑勇者一行に相当不満を抱えていたようだ、それもそうだろう彼等も冒険者・傭兵の中では超一流の部類に入り高い実力とプライドを持ち合わしている、まだ屑勇者は人外の戦闘力であるため口を慎むがその付き添いなどは身分と魔力が高いだけの小娘だ、一国の姫にであろうとも顎で使われるのは気持ちのいいものではない。


屑勇者達が通り過ぎ去り壁に寄りかかって気分を落ち着かせ額に滲んだ汗を袖で拭い、彼らが歩いてきた方向に歩いていくと重量感のある黒鉄の扉がひしゃげており、多少だが戦闘を行った形跡もあり内部の装飾武具が荒らされていた。


(宝物庫荒らしか・・・勇者らしいと言えばそうだが)


魔物の国からでも金品を強奪していくその姿はもう勇者じゃない。

来た道を引き返し上に上がる階段を探すとその段に腰を掛けている擦り切れたローブを身に着けている何かを見つけた。

それは祠でも見た屑勇者と一緒にいた奴だった女だった、大事そうに何かを抱え蹲っているようにも見える。

あんなところに居られたら上に登れない、奴らには俺が来ていることを知られたくない。


「勇者様は死んでない死んでない死んでない死んでない死んでないしんでない・・」


何か呟いているがよく聞こえない、女は同じ言葉を繰り返しているようだが邪魔だな。

柱の陰からその女を観察し足を踏み出そうとしたが


「ノロマ、ノロマのマノルそんなところで休んでないで早く魔物をその石ころで探しなさい」

「・・石ころじゃない、これはお母さんの封印石」

「そんなのどうでっもいいのよ、アンタが役立たずなのは今に始まった事じゃないけど死ぬんなら最後の最後、私の盾にでもなってから死んでくれるかしら」

「・・・・・・・・死なない」

「あっそう、じゃあさっさと来なさい、貴方は私達と違って守護してくれる勇者は死んだんだから」

「死んでないって言ってるでしょ!!」

「貴方・・誰に口を利いているのか分かってるのかしら?母娘揃って・・、出来損ない勇者ともお似合いよ、ウフフ」


敵陣営のど真ん中には相応しくなく大階段からローブの女を見下すように裾の短いドレス風の女が指図すると石ころと言われた水晶玉を大切に抱え睨み返すが、その態度が気に食わなかったドレスの女は何かを口ずさみ階段の一部を倒壊させまともに受け身が取れなかったローブの女に薄ら笑いを残して再び階段を昇って行った。


「死んでない・・この封印石が白く濁らない限り私の勇者様は死んでない」


酷い・・勇者PT内で虐めが行われているのか、しかも敵陣地内で・・魔物に襲われたらどうするつもりだ?いや、屑勇者等はこいつが死んでも特に何にも感じないのだろう、それこそあの時のアルキメスの時ように見捨てるつもりなのだろう我が身第一か雑魚共が。

しばらくの沈黙が流れ飛び散った瓦礫の破片が守備力など皆無のローブを貫通し至る所から出血しており、立ち上がろうとしても体がいうことを聞かないようでペタンと腰を落としてしまっている。


「心配しない・・私が死ななければきっと勇者様は帰ってきてくれる。お母さんはそう言ってくれた」

「・・・掴まれ」

「申し訳ありません、自分で立てま・・・す!?」

「動くなよ、治してやる」

「貴方様は・・どうして・・」

「俺は俺の目的でここへ来た、それ以外の何物でもない」


見ていられなくなった俺は彼女に手を差し伸べ引き戻しかけたその手を掴み上げ少しだけ自分を気を分け与えた。震えは止まりこちらの姿を確認した女の瞳は幽霊でも見たかのように見開かれていたが、掴まれている感触で安心できたのか目を細め二筋の雫が頬を伝う。


「お母様・・・私は、私は正しかったのでしょうか?罰を受けるべきなのでしょうか?」

「今は屑勇者に付いていろ」

「勇者様もご一緒に・・・」

「俺とあいつ等は一生分かり合えない、協力することなど出来ん」


倒壊した大階段を上り踊り場まで女を運ぶと女達と屑勇者の声が聞こえる方とは逆の道を行くと女が引き留めるようなことを言うが、今更どんな気分で奴らと顔を合わせる必要があるかと問いかけ、返答も質問も返される前に逃げるように姿を隠す。


「マノル、今誰かと話していましたか?」

「いいえ、誰とも話しておりません」

「そうですかでは目ぼしい部屋を見つけましたので罠の解除と敵が潜んでないか検査してください」


傭兵の男の一人に声を掛けられいつものように”間違った封印石の能力”で罠を検知して宝が隠された部屋を男達に教え墓荒らし紛いの一端を背負わされていた。

それもこれも彼女が気の勇者の従者としての責務を果たせなかった結果であり、本人も自己嫌悪の念に捕らわれ気の勇者が追放・消息不明となり、支える主を失った彼女が果たせる役目の1つであるのは確かだった。


(変な女と喋っちまった、あの屑共に告げ口しなきゃいいが・・・)


自分と似ている、不遇な環境に置かれ蔑まれ怒りを抑え付け耐え続けていた。一時の感情で手を差し伸べたがあの女は屑勇者の仲間なのだ、俺とは違うんだと思い直し、そのまま奥へと進んでいった。



小石が散らばる通路で暗い石壁が点々とだけ存在する灯りで白く照らされる。


「色々あったな、この世界に来てから・・・・」


向こうの世界で生きた20年よりもここで過ごした3年の方がいい意味でも悪い意味でも濃厚な時間を過ごしたと思う。

ふと、右手に視線を落とすと精一杯固く握りしめられた拳が小刻みに震え逆の手は開かれたまま硬直していた。


「怖いんだな・・・俺は・・」


恐怖で思うように体が動かない、今からでも走ってこの場を逃げ出したい。

もともと俺はそういう人間だ、負けると分かってる勝負に挑むことなどまずしない。

怖いからだ、体はデカいくせに小心者で臆病だ、3年この世界で過ごしたが根っこの方が成長することはなかった。

今だって震える体を窘めることで恐怖を表面に出さないようにするだけで限界が来ている。


「勇者か・・・・・」


決戦の時は近い、俺の死も近い、だからもう何も怖くない。



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