弔い合戦
改めて目の前でその躯体を目にするとこれまでの戦闘では無かった重圧を感じ、気を張ったままで構え初手をどうしようかと悩んでいる所に
「来ナイナラバ、コッチカラ、イクゾ!勇者!」
「・・・おっと、鈍いな」
地響きを起こしながら巨大な躯体が迫ってくるが、その姿がスローモーションでも見て居るかのようにゆっくり感じ、大振りに振り回された腕を潜り足蹴りを胴に打ち込むが、鉄塊にぶつけたような感触が伝わり2撃目を叩き込むのをやめ一旦距離を取り、四肢に気を行き渡らせ一気に接近し連打を打ち込んだが。
「ブゥハハハッハ、今ノガ攻撃ナノカ?ムズ痒イゾ勇者ヨ!」
「ッチ、」
まるで効いていないとばかりに腹をさすり欠伸し。その行動にイラついた俺はその顔面に渾身の1発をお見舞いしたが、ニヤリと笑ったオルドランがさっきまでとは見違えるスピードで蹴りが放たれ、片手で勢いを殺しながら後方に飛んだが、威力を殺し切れ無かった腕は不自然に曲がってしまいそれを見たオルドランが再び嬉しそうに声をあげる。
「グギャハッハハハ、油断大敵ダゾ勇者!ダガコレデモウ、ソノ腕ハ使イ物ニナラナイ」
「何を勘違いしている?この程度の怪我であれば・・・があああああ!!・・この通り」
「人間ノ身デ瞬時ニ傷ガ治ッタ・・ダト!?一体何ヲシタ!?」
何故か勝ち誇ったかのように笑い声あげているのを見て呆れ、叫び声を上げ数秒足らずで元の状態を取り戻したが、それと同時に相手の言った言葉にイラつきを覚え多少なりとも驚いてはいるその姿を見ても、余裕などは湧いてこなかった。
「幾ラ傷ガ治ルトイエドモ、限界ガアルハズ、ダクルフ様ノ最高傑作トシテ、負ケル訳ニハイカナイ!」
「そうだな・・・出し惜しみしている余裕は無さそうだ」
結論を出した両者、鋼の肉体を膨張させ力を貯めているオルドラン、決死の限界を引き出そうとこちらも全身に力を籠める。
「喰ラエ勇者!」
「界王拳・・・モドキ4倍だ」
再び巨体が腕をブンブンと振り回し諸突猛進してくるのをじっくり見据えて待ち、振り下された大きな拳を片腕で受け止めそのまま反対の肘で鳩尾であろう場所に突き刺し、動きが止まったところで拳を受け止めて居た方の腕を一杯に引き伸ばし、敵の分厚い胸板に叩き込んだ。
するとさすがに幾らか堪えたのか数歩勢いを逃がすように後ずさり、殴られた場所に手をかざし呻る。
ダメージは通るようだが・・・
「グヌヌ・・・コノ体ニ痛ミガ走ルトハ、流石ト言ッタトコロダガ!コノ程度、何発喰ラオウトモ、特ニナンデモナイ」
「・・・なんでもないことを一々口にするか?無駄に頑丈な体をしているようだが、このデカブ・・」
「親切ニ教エテヤッタノダガ、分カラナカッタカ・・・!?」
「すまんな、俺は他のやつみたいに賢くないんでな!」
こっちがデカブツと言おうとしたときに大きな拳が左右に振られ、強い衝撃が頭部を震わせ仰け反る様にしてよろけ、憐れなものを見るような視線を向けられヤレヤレと首を横に振ったオルドランの言葉が途切れ、代わりに腹筋へめり込ませた腕を見ながらふっ飛ばされた頭を押さえ、さっきのオルドランの言葉に答える。
そして追い打ちを掛けるように急所も含め何発も高速で動き、身構え守りの体制に入ったオルドランの隙を突き着実にダメージを蓄積させていき片膝を突かせるまで、攻撃の手を止めずに考えて居たことがついこぼれてしまった。
「・・・幾ら打ち込んでもな・・決定打に欠ける、タフな奴だな」
「煩ワシイ!調子ニ乗ルナ!!」
「それなら一気に終らせてやろう・・」
表面的には傷だらけになったオルドランだが、その圧倒的な質量と皮膚の硬度が衝撃を緩和させているのは確かなことで、何時までやってても決着が付かず体の維持が出来なくなるかもしれない事を考慮し、大きく飛び上がりデカブツを見下ろす様な形で両手を組み合わせる。
「ダクルフ様ァァァ!!!コノ忠実ナ僕ニ更ナル進化ヲ!!サスレバッキット!!」
「今更何をしようとも遅いわ、他の魔族と同じ場所に送ってやる・・・!?」
両手を抱えるように気を溜めそれが最高に達する時、オルドランから発せられる咆哮が大気を振動させ地割れを起こし未だ避難出来てない村人をも巻き込み力を増していき、一瞬自分の最高戦闘力を上回ったのを感じた。
だが今更後には引けずそのまま両手を前に突き出し放出する。
「消えて無くなァれェァァー!!!」
「ガァァァッァァ!!!」
怒鳴り声と叫び声がぶつかり合いオルドランは渾身の気砲を受け止めて見せた。
敵を消滅させるのが先か、自分の体力が尽きるのが先か、そう考えていたが次の行動によって思考が止まる。
オルドランは気砲を命からがら受け止めた態勢のまま自身の体を変異させ顔と尾以外に赤みの残りた羽を大きく広げ気砲の中に飛び込んだ、抵抗がなくなりやっと死んだかと少し力を抜いた時真っ直ぐ向かってくる影が目に入り、押し返そうとしたが気を込めたすぐに気砲を突き破りギラ付いた眼を向けられ、一瞬固まり身構える間もなく一撃で意識を刈り取られてしまいそうになるほどの強烈な拳を受け後方に吹っ飛ばされる。
たった一撃で体が動かなくなるほどの衝撃を受けたが何とか勢いを殺し片目でその姿を確認する。
表皮を真っ黒に染め上げられ躯体は先ほどより2回りは大きく、その身の丈より広い翼を羽ばたかせ宙に浮き口元がだらしなく開かれ牙が目に届きそうなほど長く鋭かった。
「ちきしょうが!!」
「グゥヘヘェェ」
気を膨張させ全身の痛みを掻き消し絶えず放出し続けることにより持続的な治癒効果を生み出し、空中というアドバンテージがなくなったのを苦しく思ったが、頭を目の前の敵に集中させる。
「コレガ、ダクルフ様ノ、チカラァ!!コレナラ、何物ニモ劣ルコトハ無イ!」
「・・・・・・・」
「恐クテ声モ出ンカ?コレガ我ノ真ノ姿!小賢シイ人間ナド、全テ喰ライ尽クシテ、クレルハ!」
「・・・・・・・」
獣と死者の叫びが混ざったような音が辺り一帯を襲い静けさを際立たせる。
地上に居る者達にはもうコイツに対抗できる力はない、前回の魔族との対戦でもここまで実力の差が開くことは無かった、だが今目の前にいる敵は前回のそれを上回る。
変異したオルドランがこちらに憐れんだ視線を流すが、それらを一切無視して心身を落ち着かせ傷の回復に努める。
「体がぶっ壊れる位で済めばいいが・・・」
「グヘェェェエ」
独り言を愚痴り不敵に表情を緩め、焦点の定まっているのかいないのか分からない目で俺を捉える。
「逝くか」
その言葉とともに大きく前に飛び出した、全開で気を放出させながらオルドランの周囲を超高速移動し、常人ではその挙動を捉えることも出来ないスピードで攻撃し始める。
何人もの残像がオルドランの傍を通り瞬きのうちに消え別の位置に出現する。
変異した敵より自分が勝っているのは身軽さを生かした機動力のみ、だが足場のない空中で縦横無尽に動くためには地上では比にならないエネルギーが必要になる。
・・・・さっさと殺せればいいんだが、難しいかな。
「チカラガ溢レル、喜ガ高マル!勇者ヨ、ソノ首貰イ受ケル」
「ッ!」
スピードはそのままで攻撃に転じようとするタイミングでオルドランの姿が消え、背後に気配が現れすぐその場を離れようとした時には体に腕を回され身動きを封じられてしまった。
「捕エタ、コノママ絞メ潰ス」
「ぐあぁぁ・・・放せ・・・・放せっつってんだろ、この雑魚がぁぁぁぁ!!」
丸太のような両腕にしっかり絞められどれだけ力を込めてもビクともせず、徐々に苦しくなっていく意識の中、突如爆発した気砲をわずかに反転させた片腕からオルドランの顔に向かって打ち出し、一瞬緩くなった腕を押しのけ地上に落下する。
「無駄ナ悪足掻キヲ、貴様ノ運命ナド、スデニ、決マッテイル、ノダ」
「・・・界王拳モドキ5倍だぁぁぁ」
地面に激突する前に何とか受け身を取って更なるダメージの追加は免れたが、巨大な躯体から生えている羽を大きく羽ばたかせゆっくりと下降してくる物体から目を離すことは出来ず、ようやく立ち上がったのは良いが治癒に回すだけの気が残っておらず、このまま嬲り殺されるか一か八かに賭けるか・・意識さえも保てなくなりそうだったので、最後の力を体に纏った。
「ナ、ナンダ、オ前ハ、ドコニソンナチカラヲ残テイタ!」
「マァックスゥパワー!!!」
5倍の状態に重ね掛けで腕力だけを上限以上に引き出すが、筋肉も骨も血管も痛みも、何もかもが限界を大きく上回る力を発揮している。
人間では引き出すことの出来ない・・・そればかりかほとんどの種族の壁を超えた存在になりつつあった、だがその代償は大きく、身を引き裂かれるような痛みと全ての水分が蒸発していっているのではないかと思わせるほどの蒸気と熱気、血液の激流によって血管は元より筋肉が大きく膨張し今にも破裂してしまいそうである。
とても理性で落ち着かせれるような代物ではなく、本人の声帯から発しているのか疑わしくも思える叫びは遠くの山々に反響し山彦にたり勢いを増して広がっていく。
そこから理性のない怪物の猛反撃が始まった。
地を蹴り大振りに振り上げた右拳をオルドランの脇腹へ打ち出しそれを抉る、自分の巨体のせいで確認が出来ず痛みに襲われる前に身を低くし両脛を砕き、その体が崩れると同時に背後を取り唖然としているであろうその頭を蹴り飛ばし、林の木々を何本もなぎ倒しながら大岩を粉砕し停止した。
オルドランの理解が追いついていないうちに音速を超えたスピードで接近し、砕いた足を持ち上げ空に投げ飛ばし自らも飛び上がる。
俺が徐々にその躯体が近づくにつれオルドラン自身が置かれている状況を飲み込み憤慨し、翼を広げ勢いを殺そうとしたがスピードが落ちた分追いつくタイミングが早まり、ブレスでも吐こうというのか大きく口を開けたオルドランだが、本能で回避を選択した直後青い炎がさっきまでいた宙を掛け走り抜けていき、奴の頭上に姿を現す。
両手を固く組み後頭部を強打し地上に叩き付ける。
「・・・滅べ」
土砂をかき分け立ち上がる敵に照準を合わせさっきと同じ構えを取る。
黄赤のオーラが掌に収縮し放たれる。
精一杯の咆哮でオルドランがそれを受け止め2つの力は均衡する。
「フルパワーだ!!!」
言葉に意味があるのか、両腕から放出されていた黄赤の気砲は勢いを増してオルドランを飲み込み、大地を抉り森をなぎ倒し大きな爪痕を残すことで消滅した。
全ての力を出し切ると、胃から熱いものが込み上げそれを吐き出すと強化が解け意識が戻る。
体は脱力し自由落下していく、薄目を開き自らが残した戦闘痕を笑いしばらく考えていなかった死がよぎる、重力に抵抗する術はなく首すら動かすことは出来ない。ならば、出来るだけ痛みを感じぬよう・・・・む。
落下スピードが緩やかになり人の顔が覗き込んでいた
「君を死なせるわけには行かない、私達の友を・・・」
「ロイセルさん・・・俺は・・逃げろと・・言いました・・よね」
「娘の・・恋人を見殺しにするわけにはいかないからね」
「マリーは・・俺には・・もったい・・・」
ロイセルに担がれ意識が沈んでいく何を話したかあまり覚えがない、大した事でもないのだろう。