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墓参り 強敵


一晩マリーの実家で夜を明かした。


テーブルで座ったまま眠ってしまった俺は、首を動かす度に鈍痛が響くのを解しながら席を立ち家の外に出た。日はまだ完全に上がってないが大人の村人は道具を持ち、森へ畑へ生きるために自らの役割を果たそうとする。

その内の何人かが家から出てきたこちらの姿を観察していたが、すぐに興味が失せたのか鍬を担いで細道を歩いて行く。


「もう起きていたのか、昨日は眠れたか?」

「・・・ええ」


扉の開く音が聞こえその後ロイセルさんの疲労が隠せていない声に曖昧な返答を返す。

眠れたわけがない俺もこの人も・・・。


「・・・あの手紙にも書いてありましたが、俺はこの世界の人間ではありません。地球という星で生まれ育った日本人です」

「ほう・・・」


「こっちに来てもう何年も経ってしまいましたが親も兄弟もまだ元気にしているはずです。この世界とは違った文明の発達をしていて・・・魔法がありませんが、それに代わる科学というものがあります。生活もこっちとは比較にならないほど良く命がけで狩りをするなんてことはありません、いや何かに命を懸けると言うこと自体珍しい事です」



今まで戦友ライガイにもしつこい魔導士カルディにも仲間マリーたちにも、他の誰にも話したことのない事をロイセルに呟くように呟き、特に何を伝えたいわけでもなく言葉を紡ぐ。


「俺はこっちの世界にも居る大工の息子として育ちましたが、誰かに自慢できるような特技も持ち合わせておらず勉学も運動も下から数えた方が早い馬鹿だった。そんな俺がこんな魔法が使える世界に飛ばされ勇者とされました」

「・・・・勇者?」


「ですが召喚されたすぐに絶望のどん底に叩き落とされました、他に召喚された勇者と能力が天と地ほども劣っており、俺に寄ってくれる人間は一人も居ませんでした。そして短い訓練を積んだ後、国に捨てられました」


ロイセルは混乱した表情で俺を見る、それもそうだろう、目の前にいる人間が勇者として神に選ばれた極一部の人間で、しかも自分たちと違う文明を持った異世界人であったが、国に見捨てられた状況からどうやって魔族すらも打ち倒す力を手に入れたのか。


「俺は憎んだ・・・神を・・この世界を・・勇者を・・王族を・・でも、それはあまり力にならなかった。大事なモノも守れない出来損ない・・・この技を使っても一時的にしか能力は上がらない・・・昔、医療士の女の子に言われたんです、”この技は限界を超えた力を引き出せる代償に寿命を消費する”と・・・」


モドキを使い体の周囲に上昇気流が発生し砂が舞い上がり息を吐いて解く、これまでの魔族との戦闘でどれだけの寿命を消耗したか見当つかないが、まぁ元々長生きしようとも思ってなかったから丁度いいけれども。


「魔物も魔族も魔人も魔王も・・・すべて殺し、もう2度とマリー達のような被害者を出すことが無いよう俺は生きる。どうせ女神もそれを望んでいる・・・そうでなければあの時・・・。」


「・・・分かった分かったが、そんな人生・・娘が望んでいるとは思わない、アレには好きに生きろと書いてあったがそれでも、そんな辛い道を・・・」


「別に今決めたことでは無いんです、もっと昔から仲間達アイツラと出会う前からそう思っていたんだ。ただその想いがより一層強くなっただけの話」



過酷な人生・・・冒険者でも勇者としてでも同じ運命だった、冒険者であった方が幾分マシだったかもしれない。

日が山から完全に姿を現しすべての生き物に平等に光を与える、だがそれをもってしても俺の心は黒く染まったままだった。










日は完全に真上に登り雲もまばらに散らばるだけの良い天気になった。

朝食を3人で摂ることにしたかったが、マリーのお母さんアリアは俺の姿を見ると気が狂ってしまうと自室に閉じこもって、彼が出て行った後で食べると言われ、質素な食事をだがそれを無理やり胃に詰め込み、ここに来た理由の1つを訊ねた。


「仲間達アイツラの墓はどこにあるんですか?」


「・・・この村の死者の遺体は、ゾンビ化することがないよう火葬し共同墓地に埋葬される。娘達をこの手で遺骨を埋めたのは20日前のこと、共同墓地にはあそこに見える村奥の裏細道を辿って行けば着くが今日一緒に行こうか?・・娘が帰ってきてからは毎日会いに行くことにしているんだ」



テーブルに向かいあって座る2人は暖かい飲み物が入ったコップを両手で包み、それぞれが思いを馳せ午後に仲間のもとに向かうことにした。


涼しげな村奥の林細道を抜け木材作られの墓石が20ほど並ぶ開けた場所に出ると、比較的新しい墓にロイセルがフラフラと歩み寄り手を振った。


「マリー聞いてくれ昨日彼が訪ねて来てくれたんだ、お前のお前達のため・・・そうだ・・・私も嬉しく・・・」



墓石にはマリー達の名前が彫られ膝をついて土を撫でながら語りかけているロイセルさんの姿が痛ましく、視線を逸らした先に記憶に残っている彼女と瓜二つの光がおぼろげに映った。その光りはガッツ・カク・ダルと姿を変えまたマリーの姿になった、ロイセルをその場に残したままその光の数歩手前に立ち止まる。


「・・・やっと会えたねユータ」

「・・・・・・マリー・・なのか」

「うん、これは貴方に残した最後の幻影・・・みんなは先に逝っちゃったけど、私はユータをここでずっと待っていた」


「マリー・・・俺はお前らを・・・」

「そんなに自分を責めないで、これは私達が決めた未来、私達は貴方を怨んだりなんかしてない」


やけにゆっくりと動く木々の影を不思議に思うことより、心地よい声が耳にスッと流れ込み思わず感情が溢れてくる、抱きしめようと両手を交差させるが空気を掴むような感覚に陥り呆ける。

幻影・・・古代気法の力が世界の理力に優りその姿を見せていた。



「うぐっ・・・俺は・・・こんな力なんか」

「ダメ、貴方は私達の・・世界の希望なんだから」

「俺が希望なわけない、好きな女の子も守れないんだぜ・・・出来損ないだ」



膝から崩れ落ち彼女たちの最後の姿が浮かび地面を殴りつけ、弱い自分が表面化していく、一人の女に執着した醜い男の姿が。


だが誰に何と言われようとこの気持ちを変える気にはならない、許しを得ようと罰を受けようと絶対に。

謝罪の言葉を口々に自らを卑下しまくり精神を保とうとする。



「ねぇ・・・約束して」

「何をだ?言っておくが・・俺はもう決めて居るんだ、」

「分かってる、それとは別・・・ユータは頑固だからそこは諦めている、けど、お願い、この世界を守って人々に平和をもたらす光となって。そうすれば私も安心できる」



彼女の口から出た言葉を俺が理解するのには少し時間を要した。だが理解したそして怒った、己が受けてきた仕打ちを思い返し、酷い感情が沸きあがってくる。



「・・・・なんの冗談だ?あんな奴らを、奴らの国を・・俺は守らなきゃいけないんだ!!!」

「エイリス様に聞いたの、ユータが本当の勇者だってそして女神さまの加護を受けていることも、そして」


「そんなもの関係ない!」


エイリスはともかく神のことなんぞ憎しみしか沸いてこない。

いつの間にかマリーに向けている視線さえもそれに近いものになっているとは、本人も気付いていない。悲しげな表情で見つめられ視線をずらし、空を見ると大きな雲が真上にあり青空を遮っている。


「俺は魔王を殺しに逝くだけだ、それ以上の事をする気はない。ましてや平和とか世界とかどうでもイイ」

「貴方は優しい人・・・」


「優しくなんか・・・ない・・そんな出来た人間じゃないんだ」


「最後の我儘聞いてほしいの・・・」


何とか言葉を出しうつむく、だが頬が僅かに熱を持ちそのまま前に持ち上げられ、淡い口づけをマリーに奪われ、真っ直ぐじっと見つめられ目が覚めた。


「分かった、出来るだけのことはやってみせる」

「ありがとう・・・いつか私達も一緒になれたらいいね」

「ああ・・」


最後の言葉の意味を聞く暇もなく彼女は微笑み消えた、長いようで短い一瞬の出来事に夢だったとも思わせられたが、唇に残った僅かな感覚だけがそれが真であると告げていた。



「ユータ?ボーっとしてどうした?そろそろ戻るぞ・・・何か嫌な予感がする」


ロイセルさんの声で我に帰り、風に肌を撫でられ、久しぶりに現世に戻って来たように感じられた。

温かな日差しが2人を祝福するように照らしたが、すぐにそれは消え今にも雨が降り出しそうな模様になる。


村へと急ぐロイセルさんを追いかけようとして止まり、彼らの墓に視線を移し瞼を閉じ頷く様にして祈り急ぎ足で村へと戻ろうとした時、猛スピードで迫ってくる強大な力を感じモドキを2倍にして走った。















村に着くと喚き声がそこまで遠くない場所から聞こえ、いくつかの家が燃え黒い煙を上げ空気が淀み惨たらしく殺された男女の死体が転がっていた、それは朝まで生きて居た村人達だった。


口に袖を当てその声の方向に・・村の中央が見える物陰に隠れ様子を窺うが、飛び込んできたのは剣を持ったロイセルさんと数人の村人達、その後ろには女性が子供を抱え脅えている姿だった。



「なんだ・・・あのバケモノは・・!?」


「勇者ヲ出セェッェェ!コロシテヤルゥゥゥ!ダ・・・様ヲカエセェェェ!!」



成人男性の2倍以上ある背丈に頑強そうな黒赤色の肌、2本の角が生え体の大きさに釣り合わない小ぶりな翼、鱗に覆われた下半身はドラゴンを彷彿とさせ、2足歩行で醜悪な顔に脅え切った村人の1人を掴み上げ、トマトのように握り潰し血飛沫をばら撒き塊を地面に叩き付け四散した。


まともな武器を持ったロイセルさんが斬りかかるが腕を盾にして防がれ、お返しとばかりにその躯体から放たれた蹴りを受け、形を留めていた民家に激突し倒壊した。


「アナタぁ!!」

「勇者ヲ出セ・・・勇者ヲ出セェェェェェェ!!」


「チキショウ!ロイセルの旦那があっさりやられちまった!?」


女性の悲鳴とバケモノの雄叫びが同調し場を凍らせたが、瓦礫を押しのけ立ち上がった姿を見た女性は他の女性達に支えられ、気を失った。



「・・うっぐ・・貴様・・・一体・・何者だ!?」

「我ガ名ハ、オルドラン!親愛ナルダクルフ様ノ第一実験成功体ダ!!」


咄嗟の攻撃に剣を盾にし威力を半減させたロイセルが、代わりに犠牲になった剣を片手に目の前の怪物に問うと、意外なことにその怪物は片言なれど重く高い声で自らの名を上げた。


オルドラン・・・・その名前は聞き覚えがあった。


(・・・・魔王軍12番隊隊長鬼人のオルドラン)


ロルッオの地で聞いた、王国騎士と冒険者が数十人がかりでも捕えるのがやっとだった隊長格の1人。

それがどうしてこんなところに居るか・・・その前にどうやってここに辿り着いたか、まさか手当たり次第ということじゃないだろうが・・・不味い。


「聞コエナカッタノカ、人間、我ガ主仇出セ」

「ここには勇者などいない!!ガァァァァァァl!!!」


「嘘ヲ吐クナ人間!俺ハ臭イデ分カルンダゾ、ココニ憎キ勇者ガ居タ、ソシテ今モ近クニ隠レテイル!出テコイ勇者!!サモナクバ、ココノ人間ヲ皆殺シニ、スルゾ?」



ロイセルが満身創痍で再びオルドランに仕掛けるが、攻撃は通じず体を掴まれ絞め上げられ、叫び声とともに肉が骨が潰される音が聞こえる。

彼がまったく歯がたたないのに加えオルドランが皆殺しを宣言すると村人達の中でもざわめきが起こる。


「クッソ、あの厄病神が来てからロクなことになっちゃ・・・?疫病神?おい!あの黒髪の野郎はどこ消えやがった!!」

「そういえば今朝から見当たらないね・・まさか!?」

「アイツ厄介事を押し付けて逃げやがったのか!ふざけやがって」

「息子たちを殺しておいて今度は俺達を始末しようってかぁ!!」

「アイツは疫病神なんかじゃない、悪魔だ!!」



動かなくなったロイセルを地面に叩き付けたオルドランが辺りを見渡して、黒髪の青年に怒りが鰻上りに溜まっていく村人達を捉え舌を舐めずり回し、比較的若い少女達に狙いを定めたその背中に光弾が命中しウゥっと呻ったオルドランは、物陰から出てきた人物を見てニヤリと笑った。


「ソレジャァ、遊ボウカ・・・ヤットオ出マシカ」


「てめぇ逃げた野郎じゃねぇのか!!」

「・・・・俺は逃げてなどいない」

「うるせぇ!この悪魔が!!今更戻って来たってどうにもならねぇんだよ!!死ね」

「お前が・・・お前のせいだ!!!こいつを差し出すから俺達は逃がしてくれよ!!頼むよ!!?」


「邪魔ダ、人間ナド、ドウデモイイ、オ前ガ勇者カ?確カニ臭イハ微カニスルガ、本物カ?」



姿を現したときの村人の反応は想像した通りだった、それらを聞かないように敵に集中したが、最後に命乞いをした村人はオルドランの足に踏みつけられ潰された。

ああなるほど、臭いを辿って着たというのはあながち嘘ではないらしい、こいつは俺があのダークエルフを倒したことを知っているらしい、奴が作った実験体であるのが関係しているかは分からないし、一体何の臭いを頼りにしてきたのかも知ら無いが・・。



「お前の主人を殺したのは俺で間違いない、勇者勇者呼ぶのは気に喰わないがこっちも仕方ないか」

「アァ主様・・コノ、オルドラン、必ズ彼ノ者ヲ滅ボシ無念ヲ、オ晴ラシイタシマス。ソシテ、ソノアカツキニハ・・・・」


「が、その前に」



天を見上げ主人に祈りを捧げているその姿は、主人を失った騎士の誓いのように見えないことも無いが

オルドランを見据えそれを挟んで向こう側に村人が集まっており、無残な姿で横たわっているロイセルさんの体を子供達が抱えようとして動けないでいる。

未だ祈りを捧げているオルドランの横を高速で横切り、必死に背負って歩こうとする子供を威圧し膝をつき話掛ける。


「退け・・・大丈夫ですかロイセルさん」

「ハハ・・無様・・・だろう・・私は。ここ・・・まで・・力の・・差が・・あるとは」

「しゃべらないでください、今動けるまでに治療します」

「やめ、ておけ・・君だけ・・でも逃げ、るんだ。こんな、所で・・死んでは、いけない」


「デアリマスカラ安心シテオヤスミニ・・・オマエ!?・・・コノチカラダ!私ガ感ジタノハコノチカラダ、遂ニミツケタゾ、八ツ裂キニシテ殺シテヤル!!」


全身をグチャグチャにされ息も途切れ途切れなロイセルは目だけを動かし俺を見る、治療を断るがアレと戦える力を残すためせいぜい痛みを伴って動ける位にしか施せず、その途中で祈りを中断したオルドランが気を解放した俺の方に警戒しながらも喜びの声を上げた。



「これで動けるはずです、おいそこのガキ、この人を・・村のやつらも連れて遠くに逃げろ」

「私が殿を・・こんな体でも時間稼ぎ位には・・がぁ・・」

「無理です、今度は本当に殺されます。俺が足止めをします、貴方達には生きて貰わなければ困るんです。アイツラの家族なんですから」


「それでも、私に出来ることは・・」

「早く行ってください、そんなに長く持たないかもしれませんよ?」

「分かった、だが死なないでくれ・・頼む」


足を引きずる様にして痛みを堪えながら他の村人のところに歩いて行く。



「すまないな、待ってくれて」

「オマエサエ殺スコトガ出来レバ、他ハ取ルニ足ラヌコト」


紳士的な態度で構えているオルドランに一言告げ自身も3倍まで強化を上げる、両者が睨み合い



「それじゃぁ、弔い合戦と逝きますか」


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