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愛に殺されたい



廊下を黙って進んでいく5人は城の一室で負傷した隊長の治療を行うために一旦足を止めた。


「ランタン!おいしっかりしろ!!」

「アルイン様大丈夫です息はあります、内臓と肋骨がグチャグチャですが・・・」


「アルイン様・・・」


無謀にもショウクンに戦いを挑んだ10番隊隊長のランタンは瀕死の重傷を負い、辛うじて息をしているだけで通常の回復魔法はほぼ効果が無いようだった。


「マケルン手伝え、俺一人では生命力が足りない。お前の生気をこいつに移しその後、力に耐えきれる体にする、異論はあるか?」

「そのようなことが可能なのでしょうか?」

「ああ、この世界の人間限定であるなら俺だけが扱える特権だ」


「私の命でランタン様をお助けできるのですね?」

「命じゃないあくまで生命力だ、死ぬことは無い・・・まぁ寿命が縮んでしまうかもしれないが」

「分かりました、何なりとお使いください」


カルディとアルインの視線を感じベットに寝かせているランタンに近づき、それを見ているだけで無力なマケルンに手伝えといい快く了解を得て、その首と首を俺がつなぎ生気を送り込む。

吸い取られるマケルンの表情が険しくなるがそれに伴いランタンの息が浅くなっていく。


「もういい離せ」

「はい、凄いですね。こんな魔法があるなんて・・」


表面の傷も体内の損傷もある程度回復させ手を放す、マケルンが感嘆の声を漏らすが特に訂正せず扉の方に歩いていく。


「ユウタ殿、次はどこに向かうご予定かな?」

「・・・ここから西にあるヘンリー村だ」


「ヘンリー村とな?何にもない田舎だったと記憶しているのだが?」

「ああ、仲間に会いに行くだけだ。歓迎はされないだろうが」


アルインに呼び留められこれからの行き先を聞かれ、マリー達の故郷に行くと伝える。

歓迎されないと俺が言ったときカルディ以外は首を傾げ何か言いたそうだったが、多分そういうことであると気づいたのであろう。


「お供します」

「面白くもなんともないぞ、俺は未だあの時の自分を許せない。時が経ってあれが幻覚か何かであって欲しい何度嘆いたか、何も守れないんだ大事な者の一人も」


「私ではユウタ様の思い人には届かないのですか?」

「今は違うが・・・それでも・・無理だろうな」


はっきりしない言葉でカルディの思いを否定する、俺はマリーの事が好きだった・・だがそれは愛というより片思い・・恋に近い物だ。

一方的な思い程都合のいい妄想を描く、向こうでも恋愛経験のない俺はそれを伝える手を思いつかなかった。結局彼女は死んで何も伝えることは出来なかった、だが今ではそれで良かったとも思っている、彼女にはダルがずっと傍に居た俺が入る隙など無かったんだ。


「お前ともここでお別れだ、ヘンリー村には俺一人で行く。その方が早いしお前も安全だ」

「え?捨てるんですか、私を・・」


「聞こえの悪い事言うな、大体拾った覚えはない勝手に付いて来ただけだろう」

「・・・嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!連れて行ってください!何でもしますから!我儘も言いませんから!おいてかないで・・・やっと見つけたのにまた独りはヤダ!!」


「おい・・・どうした、泣くなんてお前らしくない。」


俺はこいつの安全を考えて結論を出したのに、こいつは女みたく腕にしがみ付いて泣きじゃくった。

嫌だと離れたくないと・・この言葉だけを聞くと心が痛むが、しっかりとした目的があるへの言葉だと考えれば幾ら泣かれようともどうでもよくなる。


「俺はお前をこの城まで連れて来た、そこでもう役目は終わってるんだ。お守りは終了だ」

「離れたくない!やめて・・独りにしないで傍にいて温めて・・・この冷たい体を・・」


「悪いがお前の隣は他の誰かに・・・」

「なら殺してよ!!貴方だけを愛したい!その愛で殺してよ!!ヤダ・・・逝かないでよ」



何だろうな・・・気持ちが分からない訳でもないんだが、ここまで酷い風に思われていたとは・・・。

不老不死でその両方ともに欠陥があり、ただの人間の女性では経験してきた出来事が重すぎて解決策が見つからない。

世界に1人だけ自分を殺せる人間が居る、生きるのが辛く死にたいでも死ねない・・身体から体温が消え感情が本当に死なない様に過ごす日々、ポッやってきたと異世界人が自分を愛してくれればこんな思いなんかしなくてもいいのに。


「アルイン・マケルン・・済まないがこいつを頼む」

「やめて!触らないで!私から自由かれを奪わないで!!・・・うっ・・」


アルインがカルディの鳩尾を突きうめき声を上げ、前のめりになった体をマケルンが支え暗い顔をこっちに向ける。


「カルデディア様は私が責任もってお守りする、どうかご無事で」

「本当に行ってしまわれるのですね・・。まだ恩返しも満足に出来ていないのに」


「強引な別れで済まないな、まさかそいつが、力以外に俺を欲しているとは思わないかったから・・その背中にある剣は取らないでやってくれ」



2人の騎士が女を抱え頭を下げ誓う、

部屋を出て廊下を歩くとすれ違うメイドや兵士が視線を俺に向けているのを感じ顔を触ると、何かが流れていることが分かった。


「泣いている・・のか、俺が?何で?」


「探しましたぞユウタ殿!・・・どうなされたのですか!?何かお辛いことでも・・」


壁に掛かっている小さな鏡に映っている自分の顔を見ると可笑しなことに左目からだけ涙を流し、右目は何もなっていなかった。

年寄りの声で名前を呼ばれ振り返ると、昨日会った大臣が革袋を両手で支え小走りでくるのでそっちの方に体を向け、息を切らし呼吸を整え顔を上げ用件を言う前に顔の事を聞かれた。


「いいや、何でもない何か用か?」


「用も何も・・報奨金がご用意出来ましたので謁見の間にてお待ちしておりましたが、貴方様が円卓会議室に入っていたと兵士からの報告を受けこうして持参した次第でございます」


「ああ・・・金か・・ちょっと見せてくれ」

「どうぞご確認ください、重いですぞ・・?」


大臣から革袋を渡され、どっしり伝わる硬貨の重さが腕に伝わり結ばれた紐を解き口を開けると、見える位置に白く光る硬貨が数枚入っていた。


「金貨で八百枚をご用意したところ入る袋がなく、白金貨4枚で嵩を減らしましたがご不満でしょうか?」

「いいや、別にいい。じゃこれだけ貰っていく・・・」


「え!そんな!残りはどうなさるおつもりで!?」

「アルインかカルディにでもやればいい、どうせ俺には使い道が無い」


袋に入っていた白金貨だけを掌で握りポケットに入れる、余った金貨の使い道を考えたが何も思いつかず今さっきまでいた2人に渡してくれと頼む。 


「え・・・それではアルイン殿に金貨400枚を譲渡されるのですか?」

「ああ」


「さようでございますか・・では私はこれで・・失礼いたします、・・よっこらせ」


殆ど重さの変わらない革袋を抱えてきた道を返っていた、片方のポッケが重くなるがそれ以上の重りが体に乗っているので何も感じない。いつの間にか涙は止まっていた。


城を出て城下町を歩き西門から平野に出た、それからは1人静かに飛び上がり徐々に小さくなっていく王国の外壁を見納め、一気にスピードを上げヘンリー村を目指す。

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