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鍛冶屋に行こう


最前線から帰還し間抜け面で口を開けて黒煙を見つめている女騎士ガラダリを見つけ、その正面に降り立つと正気を戻したのか吃驚した感じの声を挙げ黒煙を指さし酷く動揺しながら尋ねられる。


「あ、・・あれを・・・貴様がやったのか!?」

「そうだが、やはり全滅させるまでの威力には至らなかった」

「あ・・・ああ、ああああああ!!」


「おい、どうし・・・」



言葉まで選んでいられるほど余裕が無い状態で事実をそのまま伝えると、その体はガタガタと恐怖におびえるように震えだしまともな言葉を発しなくなったので、肩を押さえようと1歩前に出ると腰の剣を乱暴に引き抜き俺に剣先を向ける。


「私に近づくな触るな化け物!!」

「化け物?どこにそんなものが・・・」

「貴様だ!貴様に言っているんだ!!」

「俺?」


女に罵られるようなことをしておらん筈であり、きっと誰か他の人間が後ろに居るのだろうと振り向いたがそこには誰もおらず首を傾げると、一瞬で首に剣先が触れており悲鳴に近い怒声を向けられた。

理解が追い付かず首を傾げた状態で考えるが答えは出てこない。


「ガラダリ様!誰にそんな事を言ってるのかお分かり・・・」

「カルデディア様!カルデディア様は騙されているのです!ご覧になられましたでしょう!あの大軍を一瞬で壊滅させてしまう者が人間である訳ありません!!この男も魔族です!!今すぐ捕らえて処刑を・・」


カルディがガラダリに喰って掛かるがその両肩をグッと掴み鼻先が触れ合いそうな位置でカルディに問いかけ、人外判定を受けた。


「帰るぞ」

「え?はい・・・それではガラダリ様、私達はこれで失礼します」


「逃げるな!卑怯だぞ魔族めがー!!」



俺を見るガラダリの目には怒り憎しみが満ちていた、きっと大切な誰かを魔族か魔物に殺されたのだろう。

こういう人間はこちらの言い分など聞く耳持たない、そう判断しカルディに短く伝え一足早く期を纏い飛び上がり、律儀に挨拶を挟んで戸惑いながら後を追う様に飛び立ちその背中を罵声を掛けられながら西門まで一気に距離を稼いだ。



「ユウタ様・・・宜しかったのですか、ガラダリ様は勘違いをなされたまま、」

「あの手の状態に陥った人間は周りの意見など聞かん、放っておくのが一番だ」

「そうでしょうけど・・・貴方様は大丈夫なのですか?」


「は?今更何を思うことがある」


列に並び早く中に入れないかな?とか考えている所にカルディがそんなことを聞いてくるが、今更何を否定しろと言うのだ?

騎士とは言え結局は一般人止まりの女に侮辱された程度ではもう何も感じない。


「よし、行ってよし、次・・・ああ、貴方様方は上から許可が下りておりますので、次回からは顔パスでOKです」


自分らの番になり兵士に通行許可書を提示しようとしたが、少し待ったを掛けられ奥の兵士が皮の洋紙を持って渡そうとした2人分の許可書と内容を見比べて顔パス出来るとか言われたが、あまり役に立たないだろうと思った。


無事夕方日が沈み切る前に街に入ることが出来どこかの飲食店でも入ろうとしたが所持金が無いので諦めた。


「今日は城には戻らない」

「え?まさか・・・嫌です!なんで街に入って野宿しなきゃいけないんですか!!」

「そういう意味じゃない、お前が行きたがっていた宿に泊まるだけだ」


「えー、でもお金持ってませんよね?私が払わなきゃいけないんだったら・・・」

「金か・・・それくらい何とかなるだろう、何だったらお前が城で前借してくればいいだけだ」

「女性をパシリに使う気ですか!?うー、肉体労働は嫌いです」


野宿と勘違いしたカルディは女子みたいな身振りで嫌だと主張するが、昨日の事を思い出しているのか今度は頬を膨らませいる。たまには少し敬ってみるか

日が沈もうと鍛冶屋の1つくらいは開いているだろう、問題は・・・。


「カルディさん鍛冶屋に行くぞ」

「え?今なんて言いました?私に”さん”を付けましたか?どうしたんですか?」

「うるさい、付いて来い」


武器屋や防具屋などが並んでいる街道を歩き鍛冶屋を探す、夕食時であるからかこの通りは空いていたので割と簡単に鍛冶屋を見つけることが出来た。半開きの扉を開け、剣や槍などの刃があるタイプの武器が立て掛けられている棚横の番台から、人の頭であろうものが見えてそれに声を掛ける。


「おい、店はまだやっているか?」

「お客さん申し訳ありませんが今日はもう店じまいで・・」

「1時間で終わる、鍜治場を貸してくれ!」


何か作業をしているその頭に声を掛けるが閉店時間だと言われるが強引に用件を伝えると、ガチャガチャと金属を触る音が止みよっこらしょと掛け声を出して番台から出て来た、それはドワーフだった。


「お客さん冗談も程ほどにして下さいね、素人に鍜治場お貸しするような鍛冶職人はこの街におりませんよ?」

「場所代は俺が打った剣の中から払う、屑鉄でもいい使わせてくれ!」

「そういう意味ではなくてですね、お客さん鍛冶の仕事を甘く見ないでください。そんな体じゃまともな刃は打てませんぜ?」


店主であろうまだ若そうなドワーフはやれやれと迷惑な客が来たなという感じの反応をし、店の武器を1つ手に取って怒鳴らず諭すようにその刃の部分を暗い店内で見せてきた。


「お前より俺の方がマシな物を打てる、屑鉄でも混ざりモノの鉄でも」

「なん・・!お前こっちが下手に出ていれば出鱈目言いやがって!お前なんか客じゃねぇ出て・・」


「キナラ!おめぇ店の中で何でけぇ声出してんだ!!」


頑固者のドワーフをどうしようかと悩んだが喧嘩腰になり、若いドワーフを怒らせてしまい叩きだされそうなったとき、店の奥から低い声で若いドワーフの名前を呼ぶ声が聞こえた。


「アンタがこの店の店主か?」

「そうじゃが、お前さんはなんじゃい?もう店じまいの時間なのじゃが」

「そっちの若いのじゃ話にならんのでな・・・俺に1時間鍜治場を貸してくれ」

「ほう・・・武器なんぞ作ってどうするつもりじゃ?」


ドワーフにしても背丈の低く岩石の様な皮膚をした老ドワーフが奥の扉から入り薄くなった頭を搔き俺の問に答え、反対に質問してきたが


「少し金が欲しいだけだ・・・俺の腕なら2.3本で揃うはず」


「金か・・別に貸しても構わんがワシらに利益はないであろう?それとも何か、お主だけにしか出来ん技能の1つでも伝授してくれるのかのう?」


「おやっさん!こんな人間に何が出来るって言うんだ!まだオレの半分も生きて無い様な人間に!」

「お前さんは少し黙っとらんかい、ワシ等は今大事な”商談中”なのじゃぞ!」


素直に金のためと答え怒鳴られるかと思っていたが老ドワーフは半信半疑の目で俺を値踏みをしていき、メリットが無いと貸してやらんと言っている様な感じで答え、途中割り込んできたキナラの頭に拳骨を落としこっちを向く。


「メリットねぇ・・・・俺の最高傑作1本やるよ、だがそれを作るだけで1時間掛かってしまうのだが」

「ほほう・・最高傑作か、どの程度の物かは知らぬがそれだけ自信があるのであれば、それで手を打ってやらんことも無い」

「本当か!感謝する」

「おやっさん!マジかよ!?オレでも未だに打たせてくれねぇのに・・・」


何故かこの老ドワーフは剣1本で場所を貸してくれるようだが、弟子であろうキナラはそれを聞いて目を見開き自分ですらまだ武器を打ったことが無いとか抜かした。


「なぁに・・年寄りの気まぐれじゃよ、ところでそちらのお嬢さんはお主の連れかのう?」

「あぁ、そうだ」

「・・・惚れ惚れするほど美しい人間の娘じゃな、ワシらドワーフにはトンと縁の無い容姿をしておる。嫁さんか何かか?」

「それは違う、こいつはただの同行者だ。そんな気はこれっぽっちもない」


冗談なのか本気で言ったのか分からないがきっぱりと否定する、そしてそれに今まで一言も話してなかったカルディが発言する。


「私はただの性奴隷、ユウタ様に拾われ夜な夜なそのお世話をいたしております・・たまに暴力も振るわれますが!」

「ちょっと待てい!お前はいつもいつもそうやって嘘を言う?なぁあれは悪かったって、謝っただろうが!・・・・少しじっとしてろ」

「え?キャ!」


「お前・・・変態だな」

「失敬な、俺は異常ふつうだ」


どこの部分が偽りであるか初対面の2人には分からないであろうし、そのままその言葉を信じられると俺が非道で変態というレッテルを張られてしまう。

それは何としてでも回避せねばとカルディに掴み掛り体を前後に揺らすと、さっきクズ勇者によって貫かれた右胸が赤黒く爛れていたのがマントの裂けた部分から見え、目を落としその場所に手を翳し気を送り込むとカルディは”あっ”って表情をし、何を思ったのか破れた部分のマントを手で隠そうとし握るがそれを解き一気に気を送り込み、放すと白い肌の豊胸がマントから覗かせカルディは短く女らしい声を挙げ後ろを向く。


傍から見れば人前で女性の胸を触っている様に見えたであろう、キナラに白い目で見られいい訳するものいい加減嫌になってきた。


「ヒュウ~ヒュ~お熱いね」

「あ、ありがとうございます、でも無理なさらなくてもこんな体・・・」

「女は・・・見た目が第一だと俺は思っている、お前は見た目だけなら一級だからな」

「・・・ユウタ様?今日は何故そんなに優しくしてくれるのですか?いつもなら」


老ドワーフに茶化され酸欠に近い状態になり、距離感が分からなってカルディが頬を赤らめているのが何重にも見え、頭を押さえ息を整え自論を言うと不思議そうな顔をして不安そうに俺に質問する。


「ガハハハハ!久しぶりに良いモノを見た!若旦那、付いてこい奥に案内しよう。お嬢さんも付いて来て良いがかなり蒸し暑いぞ?」

「大丈夫です、気温も気候もすべてに置いて対策は完璧です」


カルディの言葉を遮るように老ドワーフが豪快に腹を押さえて笑い、奥の扉を開けカルディにも声を掛ける。良いモノとは一体何のことだろうか?


薄暗いムッとした廊下を歩き進むごとに熱気が強くなっていく、鍜治場の扉を開けると強烈な熱気に当てられ思わず顔を顰めるが、老ドワーフは何も思う事が無い様でドスドスと歩き炉の方に歩いていく。


「これがワシのカカア様の次に大事な豪鋼ゴウテツだ」

「ん?炉に名前を付けているのか?」

「なんじゃ?悪いかの?こっちの方が愛情が湧くんじゃ!ここに店を構えて数十年殆ど火を絶やしておらんが火力は改良してある、そこらの人間じゃここにおるだけで酷いじゃろな」


炉に名前を付けているのを少し不思議に思ったが、老ドワーフのいう事も分からんでもなかったのでそれ以上は聞かなかった。火力に関してはその言葉に同意した。


「鉄はそこにあるインゴットを使えばいい、どうせ今日の余りだ。キナラにもそろそろ打たせてやらんなんとは思っているのだが、中々根性が直らんのでな」


「分かった、済まないが道具も少し借りる」

「そうじゃった!ちょっと待っておれ・・・確か大金槌が奥の倉庫に・・・あ、これじゃ!よっこらせっと」


老ドワーフは炉の隣にある扉を開け中の物を漁りながらブツブツ呟き、金属部分が子供の胴程ありそうな金槌を肩に担いでやってくる。


「お主これ使えんか?ワシの若い頃使っていたダマスカス鋼製の大金槌なのだが、年のせいで最後に使ったのは十年前だったはずじゃ、今じゃ倉庫の肥やしになっておるの無理にとは言わんが・・」

「またバカでかいものを・・・」


槌の部分を床に置くとドシンっと重く足に響き柄を片腕で持ってみるが、それだけでは浮かせることすらできず両手で持ってやっとできる、だがこれを振るうためには今の体力では足りない。


「界王拳モドキ2・・・3倍」

「・・・片手で軽々と持ち上げられるとは、お主只者ではないな」

「すまないが水をくれ」

「そうじゃな、水分補給は大切じゃ・・台に腰かけて待っておれ」


モドキで強化し右手で柄の中ほどを持ち、肩に担ぎ上げ床に下ろした。

老ドワーフに感心されるが強化も解けその声すら聞いて居られる精神力は無く、柄にもたれ掛かり喉が渇いた訳でもないのに水を欲し、気を使ってくれた老ドワーフは別の扉に入って行った。


「ユウタ様・・・お辛いのでしたらもういいですよ、私が宿代払いますから」

「うるさい・・・お前は黙っていろ、カルディ・・お前には色々と迷惑を掛けた、だが結局俺はお前の不死を解くだけの力は・・持ち合わせていなかった」

「何を仰います、私は貴方様のおかげで・・・」


「俺はお前に礼をしたい、仲間を失い孤独に生きようとした俺の傍に一時でも・・・力が目的であっても一緒に居てくれた事が嬉しかったんだ、だからあの時・・お前が傷を負ったあの時マリー達の姿が・・・フラッシュバックして我を忘れかけた」

「・・・・」

「俺に叶えられる願いなんかこの程度だ、すまないそしてありがとう・・・俺に幻想を見せてくれて」



カルディが俺の体調を気遣うがそれを跳ね退け俯きながら話しだす、途中何か言おうとしたようだがそれを聞かず今日考えていたことを口にする。

俺に俺自身に価値なんか無い、他人が必要としているのはその技術又は力だった、こいつもそれが目的で今まで生きて来たようなものだろう。

こんな人間が勇者な訳が無い。カルディの頬を少し触りすぐ離す。


神は俺の妄想・俺の事を想ってくれる女は幻想、驕りは死・希望は絶望・欲は地獄へ


「違います!私は貴方をあ・・・」

「ほら水持ってきたぞ・・・もしかして取り込み中だったか?」


「いや、大したことは話していない、悪いな」


老ドワーフが持ってきた水筒を受けとりよく冷えた水を一気に流し込む、すると朦朧としていた意識が鮮明になり水筒をドワーフの爺さんに返し再び大金槌を持ち上げ担いだ。


「そういえばアンタの名前を聞いていなかったな?」

「ワシか?ワシの名はバーグじゃ、この店の主でこの国一番の鍛冶士じゃと自負しておる」


「そうか・・では、バーグの爺さん俺が叩くから鉄を押さえてくれ」

「そうじゃな、流石に1人ではきついじゃろうよし・・最近は安価な鋳造で大量生産できるからのう、訪ねてくるのは顔見知りかお得意様くらいじゃし、腕力だけならまだ若いもんには負けんぞ!」


老ドワーフの名を聞き暇していたと言われ袖を捲くり力こぶを見せてニヤリとした、積み上げられた鋼棒を炉に2つ放り込んで赤くなるのを待つ。


「カルディお前は室内の換気と炉の火力強化を頼む」

「女性をこき使う鈍感鬼畜ユウ者様、分かりましたよ・・・王宮魔導士筆頭カルデディアの力、存分にお使いになって下さい」


何か吹っ切れたような表情を見せ初めて自分の本名を声に出し、ほぼ密室であるにも関わらずそよ風が頬を撫でより一段と炉が赤く燃え上がる。



それから怒涛の連打音が室内外に響き渡り2時間をかけ剣を4本製作し、内2本が過去最高品質に到達した。


「お主・・・どんな体力・・しておるんじゃ?・・・それも大金槌を」

「ユウタ様は少し・・規格外なところがございますから、本調子であれば・・・」


「約束通り片手剣か両手剣、このどちらかを譲ろう。ついでに気も込めてやる」

「気じゃと?お主それを知って居るのか?」

「知っているんじゃない、扱えるんだ」


今までで最高品質の鋼剣+10と鋼大剣+10をバーグに見てもらい、気がどうこう言うので一般人でも感じ取ることが出来る強さの気を体から発すると、カルディはため息を吐きバーグの爺さんがわなわなと体を震わせ俺の方を指さし


「な、なんと!それは数百年前に失われた古代の技術ではないか!!一体どこでそれを学んだ!?」

「基本は師匠ドラゴンさんに学んだが、試行錯誤しながらやっと今の域に達したんだ」

「ドラゴン?」

「ああ、俺がこの世界で生き方、知恵を教えてくれた2人の恩人の1人」


古代の技術だとバーグの爺さんは言ったがあながち間違ってはいなそうだ、カルディが俺の力を古代気法と呼んでいたのを思い出し師匠の事を少し話すとカルディが聞き返してきてそれに答える。


「お主がいう恩人の1人がドラゴンだとするともう一人もそれに似た者か?」

「いいや、もう一人の恩人はあんたと同じドワーフだ」

「ワシより年は上か?」


「さぁな同じ位じゃないか」

「名は何と申す?」


ドワーフと言った途端やたらに食いついてくるバーグに聞かれ


「テッカの国で出会った親方ガルドに鍛冶を教わった」

「ほう・・・あの百年に1人の逸材と言われた鍛冶士の天才ガルドか、ワシがここに店を構えた時にはその名が国中に広まっておったが今は聞かんのう?」


「鍛冶は親方ガルドに習ったが、気は俺が唯一扱える属性だ。さっき大金槌を片手で持ち上げたのはそれの応用だ。親方ガンドはもう金槌を握れない」

「そ・・そうじゃったのか、あのガルドの弟子か。人間にしては高等な技術を使っているとは思っていたが、奴の弟子であればなんら不思議は無かったという訳じゃな」


バーグはうんうんと頷きながら話に耳を傾け残念そうにまた嬉しそうに俺の方を向いた。


「それでじゃ・・・古代気法をその剣に込めると言ったかの?ワシの知る限りではその技術は特級鍛冶士以上の者に代々言い伝えられてきた、聖剣を制作するための技術じゃ」


「聖剣か・・・あれは作ったのか、てっきり神かなんかに授かった武器かと」

「その様子じゃと実際に見たことある様じゃの、まぁそう思われていても仕方ないんじゃ・・・国のお偉いさん等はその出所なんぞ知らぬだろうし、そこらの既製品とは比較にならん切れ味を誇るのじゃからな」

「へぇ・・」

「お主が言う気を籠める作業を見せてくれぬかの?出来るだけゆっくりの」


聖剣と呼ばれているから聖なる力を宿した剣だろうと考えていたが、込められていたのは気か。なんかがっかりしたな・・・でも気が聖法に取って代わる又はそれの上位属性だとすれば俺は・・・。


バーグに言われ右手で柄を持ち左手の指を揃え剣先に当て集中し、右手から剣を通って左手に流れるように気を送り徐々にそれを強め左手を根元に移動し、剣が耐えられる限界付近まで気を送り続け最後に左掌を刀身に押し付け、根元から剣先までを一呼吸置きにゆっくり気を鋼に馴染ませるように添わせ完了する。


気を籠めた片手剣をバーグに渡すと気が済むまでじっと見つめ感触を確め首を傾げる。


「今ので本当に気は籠められたのか?ワシには違いがまるで分からん」

「そうか、ならその剣をカルディ・・・その女に渡してくれ」

「ん?分かった、お嬢さん柄をしっかり握り両手で・・それは逆手じゃ・・そうそう・・では手を放すぞい?」


バーグからカルディに剣が渡され刀身をジッと見つめた後に何を思ったか頬擦りしだした


「これがユウタ様の剣・・・ジュルリ、おっと涎が」

「おい、剣にまで欲情するのかお前は・・・」

「ち、違いますよ?こんな大きいの入る訳無いですか・・・」

「お前が言うと卑猥に聞こえるのは、俺がおかしいのだろうか・・・?」


今さっきまで気を籠めていた愛着がある物をそういう風に扱ってもらいたくないのだが?


「それで持った感じはどうだ?」

「ユウタ様と同じ感じがします・・・ハァハァ・・」


「おい、キモイ、返せ」

「嫌です、これはもう私の物です!・・スリスリ」


我が物顔で息を荒くし剣に頬すりしているカルディを見て頬を引きつらせ、強引に剣を剥ぎ取ろうとするがそれでもがっちり掴んでおり外れないので諦めて、もう1本の両手剣に気を籠めバーグ爺さんに渡し残りの2本を買い取ってもらい店を出た。




「親父あの客は帰ったか?親父?」

「お前もこれを見てみろ」

「あ?・・・・こ、こいつは!聖剣じゃねぇか!?この馬鹿親父いままでどこに隠して・・・」

「それは今の若者が打って置いて行った物だ、そこにある2本もだ」


「はぁ?アレが?2本・・・って!?これ親父が作った剣より質が高いんじゃ・・・」

「そうかもしれん、じゃが憎らしいという感情が起こることは無かった、ワシ等とは格が違うんじゃ」


炉のある部屋で1人今作られた聖剣を見つめキナラが扉から入ってくる、バーグに渡された両手剣を鋭い眼光で見定め大きく目を見開き、台に並べられている2本の剣も手に取ると唖然とした表情でバーグに尋ねその返答に自分の耳を疑う。


「親父はこの国1番の鍛冶士だろうが!!何弱気なこと言ってやがる!」

「世間は広い・・・この国で1番だろうがああいう天才には勝てんもんじゃ」

「そんな・・・」


「ワシは無理でも、キナラお前ならこの剣と同じ質の剣を作れるかもしれん。明日から炉の立ち入りを許可する」

「親父・・・・」


バーグはキナラの肩を叩き励ました、そして自信を砕かれ地面に立っているバーグもまた高みを目指し上げたという。

2人が出て行ったあとこんな会話があったなど知る訳もない。




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