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戦場・・・三人の勇者 

城内から出て城下町を歩き適当に屋台で昼食を取り、他の門より警備が厳重な西門を抜け道を外れて南西方向に歩いていく。


「そういやさぁ、紋章を付けるときアルインのおっさんに何か言われそうだったけど何か悪いことした?」


「ユウタ様・・・それは素だったのですか・・。一般的に紋章や証は左胸に付けるのです、それは”自らの命を陛下や国民に捧げ忠誠を誓う”と意味が込められています。まぁそんな事など知らず周りがそうしてるから、又は異端の目で見られたくない・・が殆どの理由ですね。右胸に付けるという事は異端の目で見られるだけでなく、王や位の高い貴族に反逆心を持っていると公表している様なものです。反王家派や穏健派でさえ上辺だけは”手を取り合って協力していきましょう”と言ってるくらいですから」


「そういう事ならば丁度良い。だからさっきの屋台のおっさんと警備兵の態度が異様だったのか」

「今からでも左に付け直すことをお勧めしたいですが、しませんよね?」

「ああ、無理だな」

「貴方はそういうところ頑固ですよね・・・それがまた好いのですが」


王や貴族なんぞに何を恐れる必要がある、邪魔するものは殺せばいい。

そんな危ない考えが頭を過り左右に振って霧散させる。


「余程の事が無い限り人は殺さない・・だった」

1人呟きその声は風に消えていった。


南西に何キロ行けばいいか聞いてなく戦場なのだから声の1つくらい聞こえるだろうと林に入り、カルディ目当てに襲い掛かって来るゴブリンやオークなどの雑魚をあしらいながら林を抜け、人の大軍が目の前に広がっていた。

向かって左側に兵士が右側に魔物が臨戦態勢で停止ており睨み合いが続いているようだ。


「大軍とは聞いていたがこれは千じゃ効かないな二千か三千は居るぞ」

「それに対して兵士の数が少なすぎですね半分も居ないのでは?」

「幾ら勇者が居るとしても・・・やっぱ怖気付いたか、数字がデカイとは言え番隊長が指揮をしているからか」


1個体の力は小さくても数が倍以上居る物量戦で勇者が抑止力として働いているだろうが、総攻撃でも仕掛けられればひとたまりもない。


「アンタラそこで何をしている!死にたいのか!」

「斥候か・・丁度いい俺達をお前らの陣に連れていけ」

「兵士募集の依頼書を見て来たのか?それであれば構わないがそっちの女は違うだろう、どう見ても戦闘向きな体ではない。それでも行くのか?」


どうやら国から特別依頼として冒険者を兵士の代わりに戦地に送り込んでいたようだ、下手な兵士よりは役に立つだろうが今だに開戦していないところ見るに人数が足りないのか?

斥候の男が確認してきたので

「構わない・・自分の身くらいは守れるだろう」

「それじゃ付いて来い、悪いが案内するのは入り口までだ、まだ偵察を終えていないのでな」


斥候男は口早に呪文を唱え木々の間を走り抜けていく、それに続いて見失わない様に抜かさない様に追いかけていき簡易のテントが見えた辺りで斥候男は一旦止まり、指で何か合図を送り武装した数名の人間が入り口の柵を退け腕を回して入って来いと合図する。


「後は中で作戦を聞きなオレは戻る、次は酒場で合おうぜ、がんばれよ!」

「ああ・・」

「腑抜けた奴だな」


斥候男がそそくさと林を戻っていき俺達は柵の方に歩いていく

「お前らが新たな自殺志願者か・・きれいな嬢ちゃん連れて馬鹿な奴だな・・・大方高額報酬を当てに来たんだろうが、この依頼で生きて帰られる確率は一割もない。だが逃げようとはするなよ?そこに居る騎士共に見つかって首刎ねれちまうからよ」


大柄な顎髭の男は槍を持って出迎え軽いジョークを飛ばし、一瞬カルディの方を見て目を伏せ呆れた様にやれやれとため息を吐き、注意点を手短に説明された。


「ああ、気付けるよ。それより指揮官か責任者に会いたいんだがどこに居る?」

「あ?そこの一回り大きいテントに偉い騎士様が居るが、護衛の兵士が邪魔で面会は無理だろうよ」

「そうかありがとな、これ安酒だがやるよ」

「おお!若ぇのに気が利くじゃねぇか、お前ら一旦休憩だ」


指揮官の場所を聞くと入り口に兵士が両脇に立っている赤いテントを顎で指示し、礼に城からパクってきた酒瓶を渡すと兵士に見えない位置に移っていた。


「高級酒を安酒などと言っては、好んで飲んでいる人間に失礼ですよ?」

「俺は酒は飲まんのでな、高かろうが安かろうが同じだ」


髭の男に教えてもらったテントに向かいカルディに小声で注意されるが、適当に濁し前を向く


「何だお前たち?ここはガラダリ様の作戦本部、用がない者の立ち入りは禁止されている」

「貴様!なぜ紋章を逆に身に着けている!?それが何を意味しているのか分かっているのか!!」

「中の指揮官に用がある退け」

「貴様ぁ!口の利き方も知らんのか!貴族の恥さらしが!ここで打ち首にしてくれる!」


鉄槍の矛先をこちらに向け割と若い男が先に口を開き、その隣の兵士に紋章の事を指摘されるがテントに向かって用件を言うと、激昂して長剣を振り上げ斬りかかってきたが、中から聞こえて来た声によって止められる。

「待てその男は黒髪か?」

「は、はい。そうですがどうかなされましたか?」


「その隣に黒髪長髪で胸の大きい女が居るか?」

「はい、そのような容姿の者がおりますが・・・」

「武器を収めその者達を中に通せ、大事な客人だ」


「は!・・チッ・・お許しが出たぞ、中に入れ。くれぐれも失礼の無いようにな」


布越しに何度が問答を交わし斬りかかろうとした男が剣を下ろし舌打ちした後、幕を開け低い声で忠告を受けた。

中に入るとインクと汗の混ざった様な臭いが鼻を刺激し、書類が散乱しているテーブルの向こう側に椅子に腰かけている鎧姿の金髪女が居た。


「君らの事はアルイン殿に聞いた、サルディラで世話になったと。こんな戦地であるが君らを歓迎する、戦力が増えるのは本当にありがたい」

「ガラダリという名前らしいな?」

「ああ、自己紹介がまだだったね。私は王国騎士団4番隊隊長ガラダリ・レインだ、こんな外見だが一応女として扱ってもらいたい、ここの司令官及び総責任者だ。まぁここを突破されれば責任も何も無くなるのだが・・よろしく頼む」


金髪女ガラダリは立ち上がりテーブルを周り正面に立つと戦場には似合わない短髪美女であったが、左目縦一線に大きな斬り傷が入っておりそれが全てを台無しにしていた。

握手を求められたがそれを取らず名前の確認をすると手を引っ込め苦笑し、騎士らしく敬礼し最後に少し頭を下げた。


「俺は・・」

「こちらはユウタ様、私はカルディ出来る限りの支援は致しますわ」

「有りがたい・・・ところでカルディと申されたか?もしや大魔導士カルデディア様でしょうか?」


「大魔導士なんてそんな大袈裟な者ではありませんよ」

「いえいえ、筆頭魔導士様が戦力に参して頂けるとは、これ以上心強い味方は居りませんぬ」


また俺が名前を言う前にカルディが余計なことまで抜かし、止める間もなくガラダリがカルディの顔を見つめ記憶を探るように天井を見上げ本名の言いにくい名前を出すと、目に見えて友好的な態度に変わった。


「そしてそちらの男よ、外でも警告を受けたであろうが、なぜ紋章を逆に身に着けておる?」

「別に・・こうしたいからだが?」

「意味を知らない訳では無い様だが、はぁ・・・アルイン殿の恩人ともなれば私からはあまりモノは言えないな、騒ぎだけは勘弁してくれよ」


「気を付けるよ、だが絶対とは約束できんな。」


カルディからこちらに軽蔑の意を含んだ視線が飛ばし腰の長剣の柄に指を添わせ、少量の殺気を発し両手を広げおちゃらけるように返す。

殺気は消え呆れられたのか額に手を当て結局少々釘を刺されただけだった。


「あ、そうだ。勇者の奴はどこいる?」

「そのようなこと聞いてどうするつもりだ?勇者様に害を被る存在ならばここで・・」

「少し話があるだけだよ、そんなに殺気出さなくてもこちらから手は出さんさ」


「この丘を少し下ったところに護衛の騎士や冒険者が居るはずだ、そいつらに聞いた方が早いだろう」

「そうか、ありがとな」


くるりと背を向けてテントから出ようと幕に手を掛けようとした時、ここに来た本当の用事を思い出しガラダリに居場所を聞くと、先ほどとは比べものにもならない程殺気が膨れ上がり空間を圧迫していき恐怖を増大させていく、カルディでさえ冷や汗を流し危ない状態一歩手前まで意識が遠のいていたので、気を開放し重い殺気を打ち消すと諦めがついたようで、椅子に腰かけ外の連中に聞けと言われ幕を上げ外に出る。


「なんだアレは・・・どんな死線を潜ればあの域に達する?私の全力をいとも簡単に・・・神の使いね」


4日前訓練場で


「アルイン殿が遭ったその男というのは一体どんな奴だったのだ?」

「そうだな、人間ではとても到達出来そうもない・・・雲の上の存在か?」

「バカを言え、お前は我が騎士団の名誉ある3番隊団長だぞ!騎士を志す皆の憧れなのだぞ!」


「上官に向かってお前とは、随分言うようになったではないか?」

「も・・申し訳ありません」

「まぁ気にするな、私の勝手な推測だが・・私やお前・・エレキレルやランタンが共闘しても軽くあしらわれるだろう、もしあの男に自分が神の使いだと言われたとしても笑い飛ばす気にはならんな」


椅子に深く座り込んだガラダリはしばらくあの男のことが頭から離れずにいた、自らが積み上げて来た自信を一蹴りで崩壊させられたようなものであったが、数日前アルインとの会話を思い出しふっと笑みが零れた。





ガラダリの居たテントから出ると脇に立っていた兵士が武器を持ったまま気絶していた。一般人が喰らえばこうなることは必至だったのかもしれん。

丘を降りた所と言われたが多分兵士が待機している前線の方だろうか?

見張りがこのザマでは話にならんので若い方だけ蹴り飛ばし目を覚ませ、平原が真っ黒な何かがひしめき合っている方向に進むと、さっき酒を渡した髭男等が程よく酔っており声を掛けられる。


「おお!アンタラ無事だったか、よくあの頑固騎士様が通してくれたな?一応貴族の出みたいだが・・」

「これはただの飾りだ。ところで、勇者がどこにいるか知らないか?」

「勇者だぁ?それならそこの下に女囲んで遊んでやがるぞ、ほらその白い煙が上がってる辺りだ」


空になった酒瓶を持って丘を少し下った髭男が酒瓶でその方向を指示した。

丁度木の陰になって見えないが確かにあの向こうに強い気が2つ存在してる。


「だが行かん方がいいと思うぞ?」

「?」

「奴等ここ1週間ずっとあの場所でどんちゃん騒ぎを起こしている、正直戦場に戦いに来た奴に態度じゃない!」

「・・・・・」

「兵士達の話じゃある程度人数が集まらんと奴らは、あの場から動こうとしない。豪遊ってのは見てて憧れるがアレは胸糞悪くなるだけだ」


そこそこベテランっぽい小柄の髭男の話を聞き、現状を少しだけ理解した。

そして確かめることにした、今から会いに行く勇者が信頼に足る奴等かどうか。もし協力が得られなかった時には・・・。




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