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報奨・・・

昨日数年振りに再会したリイに襲われて一悶着あったがあの後男湯に案内してもらい、無事・・というか久しぶりに温かいお湯に浸かり長湯してしまい、逆上せて風呂から上がった頃にはその姿は無かった。

風呂場から出て城内を少し彷徨い何人かの兵士に客室の場所を尋ねて、やっと髪が乾いた頃荷物を置いた客室に戻って来れた。

だが、ベットの布団が妙に盛り上がっており心なしか寝息も聞こえ嫌な予感がしその布団を剥ぎ取り犯人を見ると、案の定カルディがダブルベットを占領し枕2つを持ってスヤスヤと寝ていた。仕方ないのでそのまま敷き布団を持ち上げ丸太を転がすようにそれを床に落とし布団に入り就寝した。


そして翌朝・・日が水平線から顔を出したころ体を締め付けられるような感覚に陥り目を覚まし、体に巻き付いている白く冷たい手足の様な物を引き剥がしその本体に肘鉄を入れて無理やり押し退け、布団を奪い取りもうひと眠りした。



そして今俺は不機嫌なカルディと一緒に朝食を摂っている。昨日どこかに消えたメイドのリイが朝食を持って入ってきた時は焦ったが、特に何も言われることなく壁際で待機している。


「酷いですよ、女性を突き落として暴行して布を奪って、勇者がやる事じゃありませんよ」

「おい、ワザとだろその言い方、何被害者面してんだ?部屋間違えたお前も悪いだろ、暴行されたくなかったらとっとと自分の部屋で寝ていればよかったんだ」


「そうですか、あ!これは思春期の男の子が女の子をいじめるソレでは・・・」


醤油風味のソースがかかった焼き魚の小骨を丁寧に取り除きながら反論する、カルディはグチグチ言いながらフォークで魚を突き刺し頭から口に放り込みモグモグ咀嚼し、飲み込むと同時に手を合わせあらぬ疑いを・・・。


「黙って食えよ、刺すぞ?」

「不死身ですのでどうぞ?」

「お客様・・食事の手が止まって居ります。・・・やっぱボインの方がお好みなのですね。クックク」


こいつ・・・不死身をどうにかするために俺と居るんじゃねぇもかよ。

後・・リイお前もその笑い方何とかならないのか?怖ぇんだが・・・おい待てその剣どっから出した!?


無事食事が終わりリイが食器を片づけ部屋から出て行ったが、


「・・・お前はいつまでいるんだ?」

「え!私に出て行けと仰るんですか!?幾ら好みでない女性でもゴミの様に捨てするのは人としてどうかと思うのですが・・・?」

「ちげぇよ!!自分の部屋帰れって意味だよ!」


いつまでも人のベットを(実際は国のだが)占領するカルディを、椅子に腰かけ向かいでゴロゴロしているソレヘ遠回しに早く出て行けと言ったつもりだったのだが、見当違いな返答に声を荒げてしまった。


「それなら心配いりません!荷物は全部持ってきました!偉いでしょ!」

「何への心配だよ!?お前が居ると落ち着かないから出て行け、と言ってるんだ!」

ウキウキで部屋の角っこを指さしその方をみると確かに小さい鞄が1つ置かれていたが、そういう意味じゃねぇんだよ!?と詰め寄り説明する。


「えー・・あ、あのロリメイドで自慰をなさるおつもりですね?言って下されば使わせてあげますのに・・・」


「うっざくらしいわ!!ああ!この口か!要らんこと言うのはこの口かぁ!」

「うげ!し、死んじゃいます!不死身だけど死んじゃいます!」


落ち着かない・・という意味をそういう風に勘違いしたカルディは自らの服に手を掛け脱ごうとするが、それを阻止しようと押さえつけうるさい口を塞ごうとし、面白がって抵抗するカルディが暴れて、間の悪いことにその状況でアルインが2人を迎えに扉をノックし返事も聞かず入ってきた、のだが


「お時間となりましたのでお迎えに参りました、ご用意の程はよろ・・・失礼しました。後ほどまたお迎えに上がります、ごゆっくり」

「ごゆっくり、じゃねぇよ!?違うからな?本当に引き返すんじゃねえよ!」

「ギャァーオソワレルー」

「お前も悪乗りしてんじゃねぇよ!?」


扉を開け今の光景を目撃し俺がカルディを襲っていると勘違いしたのだろうか、一礼してスタスタと廊下を歩く足音が聞こえ悪ふざけが過ぎるカルディを怒鳴り、アルインの後を追いかけようと扉を開けると目の前に待ち構えて顎髭を撫でていた。


「まぁまぁ落ち着いて・・不用意に開けてしまった私も悪いですし今のは見なかったことに致しましょう。にしても、まだあの段階なのですね?もう老後の事まで考え及んでいるのかと・・・」

「もういいそれ以上言わないでくれ、・・・大臣の所に行くんだろ?悪いが俺は正装なんか持ってないんだが?」


「ああ、陛下の御前では無いのでそんなに畏まらなくてもいい、バルニッシュ様もそこまでお堅いお方ではないのでな、」


この話題はもういい。

アルインが来たってことは謁見の支度が整ったってことだな、後ろのカルディは乱れた服を整え左胸に紋章の様な物を付けていた。

適当に服の皺を伸ばし苦笑いするアルインに付いて廊下を歩き、一々メイドや兵士が敬礼をしていく様を見てなんだか申し訳ない気持ちになった。


2つ階を上り大扉の前に着いた


「今日は他の士官も忙しく・・・殆ど戦場に行っておるのだが」

「なんだ?何か不都合でもあるのか?」

「そういう訳ではなのだが・・・おっと大扉が開くぞ」


歯切れの悪い事をアルインは言ったがあまり気にせずにおくことにした。

扉が開き中の様子が見える、あの時とは違い人も少なく10人足らずが書物を持って右往左往していた。

そのなかで玉座の隣に立っていた初老の男がこちらの捉え頷く、


「バルニッシュ様御2人をお連れ致しました」

「うむ、ご苦労であった。魔導士筆頭カルデディア久々の御帰還心待ちにしておったぞ、そして其方がアルインと共にサルディラの港町を襲った魔人を討伐し、ロルッオの街にてエレキレルと共に2体の魔族を葬むった冒険者か、名は確か・・」


「ユウタ様でございます」

「ユウタ殿かあの御二人と同じ名前の響きをしているがもしや其方?」

「アンタが考えているそれで一応合っているだろう」


アルインが大臣バルニッシュの前で膝を突き、横に居たカルディも一礼したので頭だけは下げておく。

大臣の口からサルディラとロルッオでの経緯を聞かれ頷く、そして名前を尋ねられ俺が答える前にカルディが伝えた。

あの二人というのは多分勇者の事だろう、同じ日に召喚されそれ以来何度となく・・・


「バルニッシュ様が仰るあの御二方とは?」

「もちろん勇者様の事である」

「召喚出来たのは勇者様はニ人だけと聞かされておりましたが?」

「彼はその三人目・・数年前の遠征時に行方不明となり死亡したとみなされていた」

「まさか・・・そんな・・」


納得のいっていないアルインが首を傾げ大臣にその二人とは誰の事か問うと、俺さえも驚くほどはっきり勇者だと言い切った。

大臣に俺の正体が勇者だったことを告げられ動揺を隠せずにいるアルイン、ずっと下を向いて黙っているカルディ。


「いや私は行方不明になった後、2度も彼と遭っている。そしてそのどちらも・・・」

「昔のことはもういい、俺はお前らを許さない。これだけはどれだけ時が経とうと変わることが無い」


「申し訳ないと思っている・・思っただけで行動を起こすことが出来なかった、自分がこんなに無力な人間なのかと思い知らされた。今更虫のいい話だと思われるのは百も承知だ、その力を国のために・・」


「無駄だ。俺がここに来たのは邪魔な女を届け報酬を貰うためだけだ・・・あいつらはともかくお前らとは手を組むことは無い」

「どうしてもか?」

「ああ無理だ。」


今更懺悔されても許す気など少しもない、ましてや協力など反吐が出る。

何度聞かれても答えは変わらない。


「其方の気持ちは分かった、・・・私からはもう何も言いまい」

「バルニッシュ様!ユウタ殿それはあんまりな!」

「良いのだ、すべては身から出た錆・・もうやり直すことなど出来ない」


はっきり申し出を断ったことにより大臣は項垂れるように返答をし、アルインがこちらを責めるように声を荒げるが制止の声が掛かり、やりきれない感情を床をぶつけた。


「それでは報奨金についてお話しさせていただきます。我が王国は現在魔王軍番隊長又はそれ同等以上の実力を持った魔族1体に付き金貨200枚・子爵に相当する当代貴族の称号・城の宝物庫の金品などを対価としてお支払い致しております」


「致しております、ということは俺以外にも魔族を倒した奴が居ると言う事か?」

「はい、今日まで2組の冒険者ギルド様が討伐を完了申告をされております」

「討伐された魔族の名前は分かるか?」


どこの誰に倒されたのかはこの際どうでもいいが、数の小さい奴が死んでくれればそれだけ突破しやすくなる。

大臣は近くに居た文官に戦況報告書を持ってこさせ目を通し


「魔王軍8番隊長悪魔族長シラカバはエリルドリ皇国ギルド連合に討たれ、魔王軍10番隊長死霊鬼ヌキは獣王ギャラドル率いるエルダー軍に討ち取られました」

「8番と10番だけか?」

「そうでございます。只今魔王軍9番隊奇術師ギャタルが大軍を率い南西の戦場に陣を広げ、我が王国軍と勇者様が相対しておりますが・・・」

「敵の数は?」

「大軍とだけ書かれておりますので最低で千・・・下手をすれば数千」


項垂れ一瞬で一回り老けたようにも見えたが大臣らしい威厳を取り戻し報告するが、やはり芳しくは無い様だ。

隣国が総出でやっと1体ずつ仕留め・・戦場で陣を張っている敵の中にも番隊長が居ると聞かされ、雑魚を数千近く引き連れているということだった。

勇者が出ているのにも関わらず1週間近くも時間が掛かるだろうか?そしてこの爺さんが恥を忍んで俺に頭を下げた事も少し気になる。


「そうか・・午後に戦場を見て回ろうと思っているのだが、奴等はどうしている?また無様にやられて隠れているのか?」

「・・・幾ら貴殿でも勇者様を侮辱することはこの私が許さん!彼らはアルキメスでの戦闘時に魔族の1体を倒しもう1体にも重症を負わせたが、ご自身も相当なダメージを・・・」

「おいちょっと待て?なんだ、結局そういう風に伝わっているのか?」


褒章の件は一旦置いて戦場を見て回ると大臣に申告しついでに勇者に付いて聞くが、渋い表情のまま答えようとしないのであの時の様な姿を晒しているのだろうと憶測で話すと、アルインが食って掛かりアルキメスであった出来事を如何にも勇者の功労によってなされたかの様に話すので待ったを掛けた。


「おい、大臣・・結局の所お前らは勇者の失態を隠し、ニセの情報を公表し国民を騙しているのだな?」

「何を言う!バルニッシュ様が嘘など吐く訳が・・バルニッシュ様?」


「アルインよ、黙っていて済まなかったな。ユウタ殿言う通りだアルキメスでの戦いで勇者様方は魔族を倒してはおらん、倒しておらんばかりでなく我が命欲しさに民を見捨て逃げ戻ったという」

「まさか・・・では、その魔族は今も・・」

「そうではない、魔族が倒されたのは事実だ・・・其方の命を助けたユウタ殿によって」


「バルニッシュ殿は・・陛下は、偽りの情報を我らに・・私はもう何を信じて良いのか分かりかねます」

「本当に悪いことをした許せ、だが今は士気を下げる訳に如何のだ」


国に忠誠を誓っているアルインが一々バカでかい声で話を折ってくるが、それもバルニッシュによって止められ真実を語った。

信頼していた勇者の真相を聞いたアルインは呆然としポツポツと呟いたが、大臣は首を横に振り俺の方に手を差し伸ばし目を伏せた。


「さてと、がっかりしているところ悪いが報奨の1つで爵位をいただこう、俺が殺したのは吸血鬼兄妹・ダークエルフ・オークのデカい奴・魔人、この5体だ。残りは全部金に交換してもらう」


「魔王軍3番隊隊長不死身暗黒騎士・魔王軍第5番隊隊長アラン・ギルソ・魔王軍6番隊長ゲイキドキング・魔王軍7番隊隊長イラン・ギルソ・魔人アルデス以上5体」


「たった一人で5体も魔族を葬るなど前代未聞」

「・・・それこそ御伽話の勇者様くらい・・」


アルインの姿が痛ましく見えてきたのでさっさとこの場から立ち去りたく話を急かし、今まで殺した魔族の特徴を言っていくとカルディが番隊と名前を補足していく。

そしてそれらを言い終わると目の前の2人は唖然とこちらを見つめ、大臣とアルインが交互に話す。


「ということで子爵の爵位と金貨800枚用意しろよ?」

「金貨でご用意させて頂きますと、今しばらくお待ちいただくことになりますがよろしいでしょうか?」


「時間?別に急いでいないので明日にでも取りに来る、爵位の方は今すぐ欲しいがな」

「はい、すぐお持ち致します。誰か!子爵の紋章を急いで持ってこい」


金貨は時間が掛かると言われそれなら爵位をさっさと貰うことにし、大臣を急かすと話を聞いていた文官が走って扉から出て行き小さな赤い箱を持ち戻ってきた。それを受け取り大臣は蓋を開け中からカルディが付けている柄の色違いの紋章を取り出し、俺に差し出す。


「お受け取り下さい」

「受け取るのはいいが、責務とかは発生しないよな?」

「はい、当代貴族と言いますか・・・1代限りですのでそういった類のものは発生いたしません」

「なら受け取るぞ」


一応確認だけ行い紋章を受け取るそして右胸に付けると、アルインからくぐもった声が聞こえたが無視して


「では、また明日金を受け取りに来よう、カルディー行くぞ」

「それではバルニッシュ様・アルイン様、失礼いたし・・・え?ユウタ様今なんて!?」


大扉に歩いている途中でカルディが不意を突かれたような声を挙げ、スタスタと横に並び歩きデレデレしてくるが

「・・・ついにユウタ様も私の魅力にメロメロに」

「勘違いするな・・お前と金貨は交換だ、完全に奴らを信用した訳じゃない」

「えー・・・まぁ分かってましたけど?」


そして数メートルある大扉が開くのを待つがいつまで経っても開かないので、自力で動かしカルディを先に通し扉を閉めた。



「のう・・アルイン、儂は幻を見ておるのか?今ユウタ殿は力だけであの大扉を開けた様に見えたのじゃが?」

「いいえバルニッシュ様・・幻ではありませぬ、私も見てしまいました。あの扉は我々番隊長が10人掛かりで開けたモノ、本来は魔法の力なしでは微動だにしませんが」


「儂等はとんでもない者と対面していたのだな・・・」

「そのようですね」

「アルインよあの者の扱いには細心の注意を払うのだぞ?この首1つでは償いきれぬ怪物じゃ」

「畏まりました」


バルニッシュとアルインは2人が出て行った大扉を日が沈み、城内が騒々しく武官が駆け込んでくるまで見つめ続けた。

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