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成長限界

ロルッオ


明るい日差しが窓から差し込み俺は目を覚ました。

部屋の中のベットに寝かされていた。

あの戦いの後の記憶は無い、どうやってここまで来たかは分からない。

でも、こうして生きているということはおっさん等が魔物の集団を討伐できたってことか、まさかあの世って訳じゃないだろうしな。


「ユ・タさん・・ユウタさん、目覚めましたか?」


優しい女性の声に名前を呼ばれ起き上がろうとしたとき、胸と横腹に激痛が走りみっともないうめき声を漏らしまた横になった。


「まだ痛むようですね、すいません。私の魔法では貴方の体を完治させるほどの力が無い様です」

「ああ・・・お前か」


顔だけを声のするほうに向けると立ったまま俺に微笑みかける天使が居た。神秘的な光はもう纏っておらず手を伸ばせば届く位置にいるそいつは


「無事だったんだな」

「いいえ、私はもうすぐ消えます」


あっさりと答えたその顔を見ていられなくなって壁側を向く


「すまない・・・守ってやれなくて」

「何故貴方が謝るんですか?私は満足していますよ、こんなちっぽけな力でも・・・お役に立てたでしょうか?」


「助けてもらって立ってない訳無いだろう」

「そうですか、それならよかった。さぁそろそろお仲間が来ますね・・・さようなら」


「おい待て!名前を・・・」


何も悔やむことなんか無い・・筈だ。

自分で自分を犠牲にしてそれがこんな結果になっただけで・・・でも消え入りそうな言葉が聞こえた時、手を伸ばしてその場所に言葉を掛けるがもう誰も居なかった。










それから何時間か経った昼時に部屋のドアがノックされ数人分の足音が入ってきた。

カルディー・サッカル・フェイ・おっさん、おっさんは腕に包帯を巻いているがそれ以外は特に怪我を負っている訳では無い様だ。


「あ!ユウタさん、まだ起きちゃ駄目ですよ」

「カルディー俺はどれくらい寝ていた?」

「ほぼ丸1日ですね、光に包まれながら落ちてきた時は心配しましたが意識もはっきりしているようですしどこか痛む箇所はありますか?」


たった1日しか経っていないことを顔には出さず驚きホッとしたこいつ等の顔が見れ、よかった・・のだろうか。


「いや、脇腹くらいだ」

「それは・・驚きの回復力ですね」


確かにこれまで重傷を負った時は大概7日は動くことが出来なかったはずだ、なのにたった1日でここまでの回復は異常だ。

ベットから降りようとするとフェイとサッカルが黙って手を貸してくれる、部屋の中をそっと歩きおっさんの前で止まる。

2人から離れ強化で治癒の気を全身に纏わせ淡く発光し薄らと影が伸びて消える、そして少しだけ力を込めて筋肉を膨張させ全快したことを確認する。



「驚いた・・・そんな魔法があるのか・・」

「これは魔法じゃない」


魔法を初めて見た人間みたいな反応で俺の気法に驚嘆しマジマジと見つめる。

・・・カルディー曰く現在この世界で古代気法を扱える人間は俺だけだと聞かされた、王国の騎士でも知識は無いんだな。


「俺は明日にでもこの街を出てアルキメスに向かう」

「そうか・・・すまなかったな昨日は無様な姿を晒してしまって・・」

「ああ、そうだなアルリンとかいう副隊長に比べれば情けないことこの上なかったな」


「・・・それはアルイン殿の事ではないのか?なぜ彼の事を・・・」


おっさんの姿をしたエレキレルが自らの不甲斐無さを自虐しそれに賛同する、そしてどっかで遭った熱い男の名前を出すと少し悩んだ後不思議そうに首を傾げた。


「お前らと同じだ、偶然通りかかった所の敵をぶっ飛ばして金を貰う約束をした」

「・・・私は金など持っておらんぞ・・こんな体だし・・ヒュゥ~ピュゥ~」


金という単語を出すと気まずそうに視線を外し、その後訳の分からない言葉を口走った・・それを誤魔化すように下手な口笛を吹きそっぽを向いた。


「エレキレルさんちょっとよろしいですか?」

「なんだ?」

「貴方・・・もしかして生前は女性だったのではありませんか?」


「そんなこと今は何の関係もないではないか!」

「やっぱりそうですか、騎士団長の顔と各番隊の主副隊長の顔は覚えておいたのですが、そうですか貴女だったのですか」


「なんだ!貴様は人が墓場まで持って行ったっ事をペラペラと・・・!」


エレキレルという感じからして男だと思っていだがめんどくさそうだな、女の性別でおっさんに取り憑くのは。

墓場まで持って行ったということは


「なぁ、騎士って女だと成れないのか?」

「いえ、実力主義のショウクン様なので女性でも子供でも功績さえ上げれば何にも問題ありませんよ」


実力主義か・・まぁ一般的な物差しで強い分類に入る奴等を纏めている奴がどんな野郎なのか少し興味が湧きカルディーに聞いてみる。


「ついでに聞くがその将軍ってのはどんな奴だ?」

「知りません」

「知らない?」


「私にも分からない」


そこそこのポジションに居たはずのこの2人が分からないはずはないと思うのだが?


「知らない・・というのは少し違いますが彼の実態は、王・又は近衛隊長・騎士団長の限られた役職の者達だけで最重要機密になっているようです。そしてそのショウクンという人物が人間かはたまた魔族かすら私達では・・・」


将軍じゃなくてショウクンかい・・・。

話の内容は入ってこず、ポカンとしてるフェイの顔を眺めていた。


「そうか、まぁいい。俺はもう少し休む・・カルディーお前も準備をしておけ」

「ユウタ様・・・やはり行ってしまわれるのですね・・」


カルディに一声掛けベットに戻り横になると、ほとんど直立で話を聞いていたサッカルがボソっと呟き早足で部屋から出て行く。それを追いかけるようにフェイが一礼して小走りで外に出て行った。


「私も少し野暮用が出来た、もし用があったら鍜治場に寄るがいい」


一息おいてエレキレルも足を引きずって部屋から出て行きカルディと2人きりになった。


「・・・やっと2人きりになれましたね」

「お前もどこかへ行け、どうせロクなこと考えておらんのだろう、頭の整理が出来ん。シッシ」

「ええ、ここからアルキメスまではほぼ平地で・・・あ、途中に大きな湖がありましたか」

「・・俺とお前は空を飛べる、お前はそれに加えて瞬間移動魔法を扱える地形なんぞ何の意味もない」


「まだ心は変わってくれませんか?」



こいつと一緒に居るというのは非常に疲労が溜まる、勝利の余韻をもう少し楽しませてくれてもいいだろう。

適当に話を流し寝返りをうつ、耳元にささやきが掛かるが無視して眠りの世界に埋まっていく。




「詰りませんね、楽しい日々もそろそろ終わりですか・・・」














翌日



昼頃昨日告げたように身支度を整え二晩泊まった家屋を後にし、東回りで街を歩き教会の敷地に入ると戦死した者の家族か魔物に殺された身内かが多く、簡素な墓の前で蹲っている。


ふと目に留まった木の板が何枚も打ち付けてある教会の扉、今はあの天使も居ない。

かなり頑固な状態で留められており開けるのに少し手間取り、取っ手を持って開こうとして慌てた粗々しい声で呼び止められた。


「アンタそこで何をしている!」


反転し背の低いおばさんが杖を突きながら墓地の方から歩いてくる、その後ろにはその知り合いであろう若い女がオドオドと戸惑っている。


「少し気になっただけだ、中を見たらすぐ戻す」

「中を見たらじゃない!今すぐ戻せ!こんな教会なんかあっても何の役にも立ちゃしない!」


「おかあさん!その人困ってるよ、やめてよ・・・」

「うるさいね!あたしに指図するのかい!神なんか居やしないんだ!いくら祈ったって誰も帰って来ちゃくれないんだよ!!」


「ごめんなさい、旅のお方、母に悪気があった訳じゃないんです。少し前にお父さんとお兄ちゃんが死んじゃって・・それで・・」


このおばさんは息子と夫を亡くしたようだ、癇癪を起した母を宥めながら娘が訳を話した。

一気に2人も身内を失ってしまい精神を病んでしまったようだ、神に祈っても死んだ者は生き返らない。

そんな当たり前なことすらも考えられなくなり扉を打ち付けて・・・何が変わる訳でも無いのに。


「すぐ終わる、中を見るだけだ」


強く睨みつけてくるのを無視し軋む扉を開け放ち中に踏み入ると、椅子机の破片が散乱し複数の足跡が1人でやった犯行でないことは見て取れる。


「中を見ただろう!さっさと出て行ってくれ!」

また老婆の罵声が飛んでくるが散らばった木片を飛び越え両手を広げた少女ほどしかない石像の前に立ち、あの天使の姿によく似ていたが両目の部分が削り取られていた。


「この街の守り神エイリス様の石像です」

「エイリス・・・か」


母親を落ち着かせた娘が室内に入って瓦礫を避けて後ろに座って言った、そしてそれを心の中で何回も呼んだが何も起きなかった。


石像の顔の部分に手を添え力を流し込む、理由もなく無意識に体が動いた。

全力の半分をつぎ込んだ後石像が光を放ちぼやっとした靄が人の形になり


「エイリス・・・」

「勇者よ、私は貴方の知っているエイリスではありません」

「分かっている。ただ知りたかっただけだ、伝えたかっただけだ・・・ありがとう、と」


「私はまた見守ることしか出来ないのですね。貴方の使命は魔王バラスを倒すこと、直に女神様の力も尽きてしまうでしょう。貴方が最後の希望なのです、お行きなさい・・勇者ユウタよ・・・平和をその手で」


そこで光も声も途絶え消費した気力の分だけドッと疲れた。


「悪かったな用事は済んだ、出て行こう」

「あわわわ!天使様と勇者様ぁ!?あわわわ、母がご無礼をいたしまして何とお詫び申し上げてよいやら、あわわわ・・・」


杖突き老婆の姿は無くその娘が目の前で起きた光景を目の当たりにしパニック状態でひれ伏していた。


「俺は勇者じゃない、ただの旅人だ」


それだけ言って教会から出て扉を閉めようとしたが、娘がまだ固まっているので少し低い声で催促した。


「さっさと出ろ、閉じ込めるぞ」

「ひぃ、ひゃい!」


娘が走って外に飛び出し木片に躓き顔から地面にダイブし、そのうちに元通りに木の板を打ち付けまだ伸びている娘の傍にしゃがみ仰向けに体を回転させ、捻ったであろう足首と殴打した顔面に手を翳し元通りにする。

それから教会を後にしゆっくり正門まで歩き子供が怯えず駆け回り、男は瓦礫を撤去し女はその男を支え新しい生活の1歩目を着実に踏み出していた。


「ああ!もう遅いですよ!どこほっつき歩いていたのですか!?」

「カルディーお前は・・・いや、いい」


多くの見送り人に街を救った英雄として囲まれ、おっさんや騎士の生き残り・兵士・サッカルとフェイ含め看護にあたってる者以外移住人全員がそこに整列しており、こちらを確認して一斉に頭を下げ1人1人に感謝の言葉や握手を求められそれに応じた。


カルディも騎士や兵士達に囲まれペコペコと頭を下げられていたが、そして俺の姿を見たとたん兵士達を押しのけ左隣りに腕を掴んで文句をいいベッタリと寄り添うようにくっ付かれた。


「そうだ、ユウタ殿!エレキレルから手紙を預かってんだが、王都に行くんなら持って行ってくれんか?」

「ガンコウのおっさん、ダメ騎士はどうした?」

「朝起きた時にはもう居なくなっちまってたよ、きっと成仏したんだろう」


おっさんが思い出したかのように名前を呼び腰のポケットから少し折り目の付いた封筒を差し出し頷いて受け取る、宛名はアルキメス騎士養成訓練長カリキイ・ドロイ様。


「騎士養成訓練長カリキイ・ドロイ・・・なんだこいつ?」

「ああドロイ様ですか、アルキメス王国の軍事権言実質トップ、王国騎士団2番隊団長。実力はレイバン・ウィル騎士隊長を上回る」


「そんなやつが国に居るのか・・・行きたくねぇな・・・」

「そうですね、このまま私を遠くに連れ去って2人で国と全面戦争にもらっても構わないのですが」

「それは遠慮する、一生追われる身になどなりたくない」

「ロマンチックでいいと思うんですけどね?」

「・・・・・。」


ドロイの情報をカルディから聞かされ一気に行く気が失せた、だがそれ以上の暴言をこの女が吐いたので飛ぶ準備をして顎で出発を促し


「それではみなさんお元気で、」

「御二人もお元気で・・・この街が復興したらまた来てくださいね」

「ユウタ様は無理でも、私はそのつもりですから」


カルディも浮き上がり見送り人を見下ろすような形で一声かけ、フェイがちょこちょこと前に出て来て大きく手を振り小さく振り返す。



2人が見えなくなるまで彼ら彼女らは手を振り続けた、一人の男と女に感謝の意を込めて。








次はアルキメス・・・この世界のどこよりも訪れたくない都市。


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