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勇者vs魔族


「さてと・・・」


東側に通じる道を歩き開けた場所に出る、目を細めそれを睨む様に観察する、山と山の間から羽ばたく黒い物があった。

全身に力を巡らせ、いつでも気弾を放つ態勢をとる。


「またお会いしましたね」


そう聞いたことのある女の声がした。人影すらなかった墓地の・・俺の真後ろから聞こえた。



「今は忙しい、後にしてくれ」

「分かってます、でも何か手伝えることはありませんか?」


背を向けたまま目を瞑り深く息を吸い言葉を出す。 何か・・・と言われてもな・・。



「俺が死んだときの墓でも作っていてくれ」


「お断りします、貴方は死にません。彼女らがそう望む限り」

「・・邪魔だけはするな」


彼女らとは誰のことか?この幽霊の言葉を聞き流し前に注意を向け。

両手を胸の前で組み気を込めた後、指を放し掌を空に向け伸ばす。

そして


「飛んでけぇ!!」


両手の平から何十おも光弾が黒い点に向かって発射され、その内数個が直撃し爆煙が漂った。

距離が離れていたせいもあるが、さっきの言葉が少し胸に引っかかっていたのも。


「おのれぇー!!!人間風情が!!」

「落ち着きなさい!アラン」


煙が薄くなりその中心から雷鳴のような怒声が辺りを震わせ、その振動によってかろうじて型を保っていた建物は一気に崩壊した。

その後もう片方から動じるなといった声が聞こえた・・・様な気がした。


「アラン・・・」


ヴァンパイア族の末永かなんかだったか?仕留め損なったのはそっちだったのか、にしてももう一つの声もどこかで聞き覚えがあるな・・。






いつの事だったかを考えるより先に両腕を後ろに伸ばし、光弾の力を2本の腕に集中させ一気に放つ。


2つの薄黄色がかった光線が目標に向かって伸びるが、手前に居た奴には躱されてしまった。

距離が遠いせいもあるだろうが・・・前回、手も足も出なかった相手+1に接近戦を挑むのは・・無謀か?


「お手を貸しましょうか?」

「・・・お前に何が出来る・・?」

「これでも私はロルッオの守護天使です、まともな攻撃手段はありませんが・・この身1つ賭ければ邪魔位はなると思います」


気持ちの整理が億劫になっているところまたあの声がした、それに対し振り返ってその顔を見た。

すると彼女は穏やかな表情で天使であると告白した、そして己を犠牲にと手を伸ばす。


「それに・・邪悪者には天使の姿は見えません、うってつけの奇襲手段です」

「お前はそれでいいのか」


「これまでは見守るだけでも良かったかもしれませんが、人々が戦っているのに守護天使の私が何もしない訳にもいかないでしょう?」


天使の使命とでもいうのか、そんな大層なものを人間である俺にまで持ってくるな。


「・・・・・・」

「1人では無力でも手を取り合い協力し合い困難を乗り越えてきたのが人間です、見習わなければいけませんね・・・私を使いなさい勇者よ、女神様がお選びになった貴方のためなら喜んで・・」


「それ以上口にするな・・」


「・・はい、では参りましょう」


彼女の姿が淡く輝きだし色褪せた服や髪が綺麗になり両目に光が戻る、羽は生えていなかったがこれは本当の天使なのか?


いや本物なんぞ見たことないが。



「勇者様は飛べるのですか?」

「ふん、出来なかったら殺せないだろ」


「それもそうですね」

「無駄話もここまでだ」



天使は先に宙に浮き見下ろすように言葉をかけ納得した。そして下半身に気を集中させ浮き上がる、天使と並び先導する。

チラリとだけ正門の方を盗み見て気持ちを切り替えた。






気砲と気弾を喰らった魔族の姿がはっきりと見えてくる、吸血鬼アランの方は片方の羽が不格好に折れており、右半身は痣のような斑点模様になっており高貴な姿だった名残すら感じられない。



「お前はあの時の・・・勇者!?」


「こんなところで遭う羽目になろうとは・・・ワタクシは嬉しいですよォォォ!!」



もう1人の魔族はアレだ・・・ダークエルフ・・名前は知らない、蜘蛛の化け物だ。



「ダクルフ!貴様こいつを知っているのか!?」

「あ?ああ、報告していませんでしたね」

「まさか!僕達だけじゃなく魔王様にお伝えしていない!?」


「ワタクシは貴方方と違い魔王様に忠誠を誓っている訳でもありませんし、それに今片づければ何も問題ありません」


「ッチ、これが終わったら覚悟しておけよ」




目の前に敵が居るのにも拘らずアランは蜘蛛野郎を睨み付け、それに対して飄々と答える。



「・・・おい天使、お前はダークエルフの方を頼む」

「お任せください」

「・・・ッハ」



向こうが話し終わりこちらに視線が合うと小声で天使に命令を出し、短い息を吐き怒りを力に変換する。


「ワタクシ空中戦は向いていませんからね、貴方1人でどうぞ」

「ッチ、分かってる。前回は不覚を取ったが、もう奇跡は起こらないぞ!」


「ふん、マリー達の敵は俺が討つ!!」



不安定な空中でアランを睨み構え飛び出してきた腕を掴み横に投げ飛ばす、すぐさま飛んで行った奴を追いかけ先回りし数撃打ち込む、そして右手に気を集め放出した直後右側に避けられ攻撃は空振りした。


自由に宙を飛び回れる相手に対しこっちは機動力に欠け、何度も攻撃するが初撃から掠りもしない。



「ヒィハハハハ!!鈍い鈍い!何も恐れることなど無かったんだ!更なる力を手に入れた僕が!負けるはずなんて無かったんだ!!ヒィハハハハ!」


「当然です!貴方はこのワタクシの最高傑作です!神であろうと勇者であろうと恐るるに足りません!」



自らの戦闘力を蜘蛛野郎によって増大させたアランは奇声を上げ叫ぶように笑い、それに便乗するように蜘蛛野郎が自信に満ちた声音で賛同する。


「そうだな・・・これぐらいでは相手にならないことなど分かっていた」



耳障りな奇声を挙げる生物を無気力に眺め気分を落ち着かせるように言葉を落とす。



「なんで俺なんだろうな・・・仲間も女1人守れないのにこんなところまで着ちまった、お前らも俺を勇者と呼ぶようだけどその定義はなんだ?脅威になる人間は皆勇者なのか?魔族はそれでいいかもしれない問題はこの世界の人間・・そのほんの一握り、人を連れ去って見殺しにし何度生死を彷徨ったことか」


「貴様!何の話をしている!」

「おのれの無力さを実感し逃避を行っているのですよ、所詮は人間脆い生き物です。早く止めを刺してしまいなさい」



自分の生き様を考えそれがいつの間にか口に出ていた。それに魔族が如何しげな反応をし身構え勘違いをする。


「・・・確かに俺は無力だがそれに抗う方法を見つけた、お前らは終わるんだ。それに魔王も」

「戯言を!・・・っな!?」


アランが渾身の回し蹴りを放ち顔面に吸い込まれる様に接近するがそれを頭突きで砕き、裏拳を側頭部に叩き込む。



弱さを強さに変える・・・そんな器用なことは出来ない、弱さを認め強さを求める・・・認める訳にはいかない、封印されし力などある訳無い、隕石でも落ちてくる・・・それもない。



「俺が出来る最高は命を懸け戦うこと・・・人はそれを当たり前だと言うかもしれない、当たり前・・それは勇敢なのか無謀なのか・・命を懸けさえすればいいのか・・・良いわけはないか・・・こんな命1つ賭けて何が出来ると言うんだ、それよりもっと有効的なやり方があるじゃないか」



「よくも・・・完全たる僕の足を!!」



「少し前まで死ぬ理由が欲しかった、それを見つけられれば変われる様な気がしたから」




独り言を話ながらアランの連撃を無意識の中に捌き、一旦距離を置いた後意識がはっきりし内側から力が湧き出てくる・・・そんな感覚に陥った。


「界王拳モドキ・・三倍」


「完全たる僕が!あんな雑魚に!負けるわけが!無い!僕は誇り高きヴァンパイヤの末裔アラン・ギルソ様が、こんな人間なんかに!!!」



格下に不意を突かれたことでアランは怒り狂い直線的な突進攻撃を仕掛けるが、接近した状態で背後に回られ地上に叩き落とされ大きな衝撃音と共に土砂が舞い上がる。

だが土砂が地面に落ちるより早く飛び立ち、少し距離が開いたところで停止する。



「アアアアアアア!!コロシテヤル!ニンゲン!」


「界王拳モドキ・・・四倍」



無理な強化の代償で醜くなった身体に傷が刻まれ、青い液体が抉った傷から流れ2本の脚から滴り落ちる。

理性のある話し方でなく本能で得物を仕留めようとしているようだ。


「惨めだな」

「オマエガァァ!!オマエガァァッァ!!」


大してダメージを喰らっていないはずの体に痛みが走り出す、ただでさえ負荷が掛かる技を重ね掛けしている上相手の実力はこの間よりも強化されている。


理性が飛んでいる分動きが単純だとかそういうのは無い。むしろ複雑化してきてる。

強化率をもう一段階上げ痛みが増幅したのを感じ今度はこっちから仕掛ける。

どこぞの戦闘民族の様に楽しんでいる訳じゃない。


身構え一瞬でアランの懐に入り腹部に拳を打ち込みまくる、蹲るように体を丸め後退するそれを蹴り上げ屈伸して追いかけ追い越す、蹴り上げと反対の足で踵落としを繰り出し爆発音と同時に急速落下しそのまま地面に亀裂を走らせめり込み地響きを起こす。


その姿が見えるまで高度を落とし両手で外れない様に狙いをつけ胸の前で集中し最高出力で気を練り上げる。

光弾が眩い光を放ちながら掌の中に形成され雲に隠れた太陽よりも強く辺りを照らす。


「これで終わりだ」


そう呟き光弾を投げようとしたそのとき地上から複数の球体が迫っていた、反応に遅れたことにより無防御な状態でそのすべてが被弾し煙幕に覆われた。


「ヒィィィハハッハハ!!惜しかったですねぇ!もう少しで止めを刺せたんですけどねぇ!」


聞き障りな声でそう叫ぶダクルフその近くに動かない天使の姿があった。


「それにしても天使も落ちぶれた者ですね、奇襲でワタクシを無効化させようなどと!」


煙幕に包まれた勇者と魔族に敗北した天使。


「ま・・・ぱ・・わ・・」


煙幕の方向から声が聞こえダクルフはぎょっと空に視線を向けると、煙幕が飛び散るように晴れ中から腕を交差させた状態で固まっている姿が現れ。


「身体なんぞ持たなくてもいい!MAXパワーだ!!」



大気を震わせ大地を震わせ強い上昇気流が竜巻を起こし敵を拒む刃となる。


筋肉が膨れ服が引き千切れ血管は太く浮き上がりとめどなく気が放出され、瞬く間にダクルフの正面に立ちはだかり右手をその顔に翳し驚愕から恐怖に変わるのと同時に最大出力の気波を浴びせ、この世から消滅した。

1体魔族を片付け、瀕死のアランがのめり込んでいる地面を見下ろせる高さまで飛び上がり狙いを付け左手を引き絞り、掌から明りが漏れ限界まで気を溜め一気に突き出した気砲波がアランに直撃し粉塵を舞い上げ大穴がポッカリと空いた。


エネルギーの殆どを2つの技に注ぎ込んだことにより筋肉の膨張も過剰な気の放出も収まり、今の戦いにより地形が少し変わる程度に抑えられた。


「・・・勝った、俺は勝ったんだ・・・?」


端的な思いと実感が一致してなく誰も聞いていないのに疑問形になって呟く。

実感は湧かないが戦闘が終わったところで猛烈な脱力感襲われ一気に地面にドサリと落下する。


「・・・ハァ・・・アレ・・クラスがまだ何体も居るんだよな・・・ハハハ」


大の字で空を見上げ息を整えながら乾いた声で笑うが、正門方向から微かに叫び声と甲高い音で向こうの戦いが終わっていない事を思い出さされ、もう一度立ち上がり空中にゆっくりと浮きあがり外壁を超えたところで目を細め戦況の確認をする。


魔物と人が入り乱れ若干数の利で押されているようだった。


「前線が耐えきれんぞ!?カルディーの奴はなにやってやがる・・・これ以上は意識が持たないが仕方ない」


高度を上昇させ魔物全体を視野に収め残っているエネルギーを左腕に集中圧縮し、指を少し曲げ魔物が固まっている地点に照準を合わせ放つが・・どこに命中したかも確認できず、意識が朦朧とし飛ぶ力すら供給できず意識が途絶えた。















正門側

勇者が魔族と交戦し始めた頃



「カルディー殿!魔物の勢いが想像以上に強い、このままじゃ持たんぞ!」


中央防衛最前線から大斧を振り回し続けざまに魔物を両断する男から、外壁に佇む女に緊迫した叫びが響くが返答を聞く間もなく再び男の周りに先ほどより一回り大きい魔物が取り囲み喧騒の中に沈んでいく。


(あと10分・・・いえ後6分)


前線から危険な現状であると叫ばれたのが聞こえたのかそうでないのか、目を閉じ指を組み口早に詠唱し続け徐々に声が大きくなっていく。

最後の単語を紡ぎ目を開け両手を天に掲げ魔力を循環させると雲が割れ光が差し込み



「天上に間座ります我らが神よ!邪悪な魔王の僕下共に光の鉄槌を!」


割れた雲の隙間から黄金に輝く小竜が舞い降り魔物が蠢く大地へとブレスを吐きかけ、鉤爪でその体を引き裂いていくが地面に降りたことにより囲まれ再び飛び立つことが出来ず、翼をもがれ光の粉になり風に飛ばされてしまった。

その光景に一度は湧き起った歓声も静まり再び防戦一方になってしまった。



「禁術を使ったにもかかわらずこの有り様、あの方に私はどう報いればよいのか」


禁術、人智を超え神の領域に干渉出来る魔術。大概生け贄が必要。

数人分を1人で単純強制詠唱したカルディの魔力は尽きかけ大粒の汗を額に浮かんでおり、息も途切れ途切れで杖を支えにしてやっと態勢を保たせる。


小竜が倒され光の粉になったことでその力を取り込み凶暴化した魔物によって前線が崩壊し、羽が生え宙を羽ばたく個体も少なからず出現しそれらが外壁を超え目の前まで迫り


「・・・なさい・・守れなかった」


指揮を任されたにも関わらず全うすることが出来なかった未熟さを悔やみ、魔物の餌食になることを受け入れるように手を横に広げ痛みがやって来るのを待った。



だがそれが訪れることは無く目の前まで迫っていた魔物は胴の部分が焼き切られ地面に落下し潰れた。

そして視界の右半分を何百メートルに渡って大地が抉られ魔物だったモノの亡骸や血肉によって黒く変色していた。

その光景をボーっと眺め下で戦っている彼らも怯え切った魔物を一掃することに手間取ることは無かった。



東側を光砲が飛んできたであろう場所を見ると空からゆっくり地上に向かって落ちていく光体を発見し、枯渇している魔力を補うために指を噛み自分の血を啜り飛び上がりその光の下に急いだ。



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