人間vs魔物
一夜明け日が昇るフェイ達を叩き起こして街の中に入り、錬鉄場の門の前にズラリと並べる。
そして1人門を潜り場内へ入りおっさんを探す、昨日の部下等も一緒に居たので見つけやすかった。
「おっさん、約束は覚えているだろうな?」
「なんじゃ?ああちょっと待っておれ替わってやろう・・・私だ、もちろん覚えている」
「うぉ・・確かに許可は得ているようだ」
おっさんに問いかけると不思議そうな顔をした後、手のひらを叩いてから俯いてブツブツと呟いていたかと思うと、しばらくして声色と口調が変わり昨日の副隊長になった。
「覚えているならいい、付いて来い。俺の連れの面倒を見てもらいたいだけなのだから。」
「連れだと?お前らはそのまま待機し装備の整備を続けろ」
「了解」
「少し数は多いが大丈夫だろう?騎士様」
「ふん、約束は約束だからな違えるようなことはしないさ」
背を向け場外に出て少し確認をし門を開けると子供や女性に囲まれているフェイ達が居た、こちらを確認した彼女等は手を振りにこやかに笑いかけエレキレルは戸惑っていた。
こいつには一応2人分の記憶が存在している、この街の住人でないことはすぐにわかったようで
「女ばかりではないか・・・彼女等全員か!?」
「いや・・そこの黒髪の長い奴は送る所がある、まぁそれ以外全部だな」
「なぜこんなにも・・50は超えているではないか!・・・」
エレキレルは顎に手を添えいかぶしげな視線を俺に向ける。
「変なこと考えてそうだから言うがこいつらは魔物に襲われた村の生き残りだ、途中一緒に行動するようになり安全そうな場所までの契約で護衛していた」
「護衛?こんな大勢をか!?それならばもっと良い所が・・」
もっと良い場?ああ・・あるかもな。
見つけていないだけで都合のいい場所があるのかもしれないが、そんな場所何か月いや何年も探し求めてやっと見つけられるそんなもんだろ。
「ここはこれから復興しなきゃならんのだろ?あいつ等力は無いが生き残るすべはそこそこあるし子供受けもいい、難民を受け入れるな感じだな。女だぞ、丁度いいだろ?」
「おい、私はこの人の体をお借りしているだけだ、こんな大人数の受け入れなど・・」
「俺はおっさんの方の人格と契約したつもりだったんだ、途中でエレキレルという元騎士だったアンタの人格が混合している事を知り、あの時会話していたのもそうだったと。でもさっき言質を取ったからな?」
「ふむ・・・約束は守るがこの地に再び奴等が襲来する可能性が高くてな、街に引き取ることは出来ても命の保証までは・・・」
「そうか、フェイ!サッカル!こっちに来い!」
渋々断りそうな雰囲気だったので捨て置くつもりで2人を呼ぶと、抱っこした状態を解き子供の頭を撫でてから走って着た。心なしか息が上がっている風にも見える、気のせいだろうか?
「ユウタ様いかがなされましたか?」
「ああ、伝えておかなければいけないと思ってな」
「・・・ユウタ様?そういえば名前を聞いていなかった、発音しにくいな・・・どこの言葉だ?」
「・・こちらにいるおっさんがお前らを受け入れてくれるようだ、これからはここを第2の故郷として生きろ」
「フェ?」
「・・貴方様はどうするのですか?」
エレキレルの呟きは置いておいて2人に説明・・・ざっくりここで生きろ、としか言えなかったが戸惑いながらも受け入れていっているようだ。
サッカルにどうするのかと聞かれ
「俺は一度アルキメスに戻る、カルディーを送らなければならないからな」
「さようでございますか・・・お元気で」
「お、おい!私はまだ良いとは言っていないぞ!!?大体なんだ!彼女らをここまで護衛してきただけの力が有るのなら王都まで連れて行けばいいじゃ無いか!ここからならそう遠くないはずだ、こんな危険地帯に置き去りにするのは無責任というもんだろ!!」
お別れムードの雰囲気を醸し出しているのに慌てたエレキレルが、おっさんの体格を生かし話を割って入って来る。
力が有ると言われているのか、人でなしと言われているのか知らないがこれだけは言わせてもらおう。
「俺は友と呼べる者も知り合いも居ないんだよ王都どころかこの世界に誰一人、王都まで連れていく事自体は確かに難しいことじゃないでもなその後が問題なんだよ。こんな大勢の面倒をどうやって見ろと言うんだ?まだ若ければ仕事も見つかるかもしれない住むところもあるだろう、でもなそうじゃ無い奴も居るガキだって体の自由が利かない女だって居る、王都に連れて来たばっかりに自立が出来ず変なもんに手を出して死んじまったらどうするんだよ。俺のせいになっちまうだろうがよ!!・・・もうそんなに背負えないんだよ俺は」
さて、一言じゃなくなっちまったがまぁいい。
「・・ここに置いて行っても死んでしまう可能性だってある」
「知るか・・少なくても俺が殺したんじゃない、テメェのせいで死ぬんだよ」
「私・・・我々にも限界というものがある。今回がその遭ってはならない例だ」
「何と言おうと約束は守ってもらう・・・今の話の様に俺はお前らを見捨てる、恨みたいなら恨めばいい」
エレキレルは堅い表情で言葉を発し下を向く、そして2人に向き直り告げる。
「だが今しばらくだけここに滞在する、そのまた街を襲う魔族とやらに興味もあるしな」
と付け加えると
「私は貴方様に命を拾われてより、恨むようなことや死にたかったなどと考えた事はありません。付いてきた皆も同じ思いだと思います」
「私ども同じ気持ちです!あの時助けて戴けなけらば化け物を生み出すだけの、苗床に成り果てていた運命であったのですから。ユウタ様から受けた御恩をまだ返しきれておりませんが、この街に留まることによりその一端でもお返し出来るのであれば私達はそれに従います」
2人は石畳に膝を突き俺の顔を見つめて言葉を発し、そのまま膝を着いたまま返事を待っているようだったので。
「だ・・そうだ、俺の護衛はここまでだ。後はお前らの出番だぞ?騎士様」
「貴方は自分勝手過ぎる!我々に何が出来るというの・・」
「少し黙れ・・・今は言い争っている場合じゃなさそうだ。戦いの準備をしろ、奴等が来るぞ」
「は?それはどういう・・」
「さっさと用意をしろ!貴様等皆殺しになってもいいのか!?」
エレキレルがまたしても自虐を言うつもりだったのだろうが、教会があった方向の空に大きな気が2つ索敵範囲内に侵入したことに驚き口早に警告する、敵の内1体に心当たりがある推測が当たっていればかなり面倒なことに。
「カルディー、あいつをここに呼べ!エレキレル!お前は今すぐ住民させ、まともな武具を装備して陣形を組み地上の敵を街に入れるな!」
「先ほどから何を言って・・?」
「魔族が接近してきてるんだよ!それも魔物の群れ付きでな!!」
大きな力を感じている方向は東側だが南側、つまりまだ修繕が間に合ってない門の方から魔物がやってきている、正確なは分からないが三百以上五百未満こちら側の人数の2倍以上は確実だ。
今は時間稼ぎしてくれる勇者(笑)もおらず、魔族に当たることが出来るのは独りしかいない。
俺の呼びかけでサッカルとフェイが走り、目に見えている住民と女どもをこの街で一番頑丈であろう製鉄所の中に避難させようとしてる。
未だポカンとしている馬鹿を蹴り飛ばし、襟を掴み正面(南門側)を向かせたまま少し浮かび上がり土煙が上がり、チラチラと異様な形をした動くものを確認させたところで手を放しドンっと着地した奴に向かって指示を出そうとした。
「魔族は・・・俺が相手をするお前等は・・・」
「ユウタ様ー!魔物の軍勢です!正面から五百近い軍勢がこちらに進軍してきます!いかがなされま・・・」
「分かっている・・カルディお前はこのおっさんのエレキレルと共に雑魚の相手をしていろ、上は俺がやる」
「・・・お一人でですか?それはいくら何でも無謀というものでは・・・」
正面方向からローブをはためかせながら飛んでくるカルディの姿が見え、推測通りの数を告げようとするのを手で制し指示を飛ばすが無謀と言われ黙りこくった。
「ならお前が加わるか?言っとくが前回の魔人より数段出来る奴だ、人間が戦える相手ではない」
「それでは貴方様も・・」
「心配いらない負ける気はない、やっと・・・・敵が討てるのだからなぁ!!」
別の手段を提示するが即座に否定し不安そうな表情をするカルディの肩に手を置き、強く確信を持って東の空に雄たけびを上げたのだった。
「仇ですか・・・お仲間のですね?」
「ああ」
その短い会話でカルディはローブをはためかせ無言でエレキレルに歩み寄ると
「私も手伝います、まずは目の前の敵をどうするか考えましょう」
「貴女も彼も先ほどから何を言っているのですか!?魔物も近づいているのならここはもうダメです!そんな戦力我々にありません!?」
「ですから貴方方の力が不可欠・・・」
「お前だけでどれくらい持ち堪えられる?」
「魔物の種類的には高い個体は居なさそうですが15分・・・それくらいです」
「大魔法でドカンと出来ないのか?」
「時間があれば出来ますが・・・それですと・・・」
「おっさん、聞いたな?下の指揮はこいつに任せる、今すぐ装備を整えて門の前に整列しておけ」
「うむ、了解した」
エレキレルの人格が怯え使い物にならないので、カルディーにドカンとやってもらおうとしたが、それでもいくらか準備がいると言われたのでおっさんに向かって指示を出した。
「布陣は整った!カルディー殿わしらはどう動けば良いのかな!?」
正門前に横2列で並んだ騎士と鍜治場の男達は不安そうな表情を浮かべ、それぞれ武器を構える。
中央最前線に立っているおっさんは、外壁見張り台で魔物群を注視しているカルディに指示を仰ぐ。
それに答える様に小声で嘆く・・。
「私の役目は、この者達を上手く利用し、ユウタ様の戦闘に邪魔を入れさせないこと・・・万が一にもあのお方が殺されるようなことがあれば、世界わたしたちは終焉を・・・人間は魔物の餌になる、どんな手を使っても・・・」
手前と奥を交互に視界に入れ考えるけれども、そんな都合のいい案は出てこない。
「ぁあ!?なんだって?もっとデカイ声で教えてくれ!!」
独り言で口が開いていたのを指示されたのだと勘違いしたガンコウの大声が響き、考えるのを止める。
「全員隊列を乱さずに前進!東側の敵は一切無視し、目の前の敵にだけ集中・殲滅してください!」
「おぉ・・シャッキっと話せるじゃねぇか、おい聞いたか野郎ども!」
「「承知しました」」 「「おおおおおおぉ!!」」
凛とした女性らしい声が放たれ辺りがしんと静まり、2度目のガンコウの掛け声によってその場はいきり立った。
「必ず勝って下さい、私の勇者様・・・・全員前へ!!」
東の空に浮かぶ3つの点を見つめ眼前に広がる黒い群集に兵を進めた。