ロルッオ
昼から一行は食事を済ませ森の中を進行しその最後尾をトボトボと歩く俺
「あんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴にあんな奴に」
カルディによって自尊心などなどを喪失し念仏を唱えるように怨言を発している、正気の無い顔で前を歩いているそいつらを見た。
先頭にはサッカルとカルディー中衛にフェイその間に2つに分かれた住民達。
いつもなら高速で移動するのだが、女なんかのために力を分けることがアホらしく感じてしまったので、ボーっと前を見ながらダラーンっと腕を垂らして力なく歩を進める。
「ユウタ様どうしたんでしょうか?今朝から元気が無いんですが」
「いつも私達のために気を張り詰めておられたのだ、そのせいで体調を崩されたと考えた方がいいのだろ」
「え、私達のせい!?一体どうすれば・・・」
言いつけていた隊列を崩し先頭に3人が集まりコソコソと話をしている。
気を張り詰めている・・・か、見えねえだろうに。
「あぁ!大丈夫大丈夫!あのお方はしばらく夜間以外の力をセーブされるので特に心配しなくてもいいですよ」
「カルディーさんホントですか!」
「うん、だから気にしなくてもいいと思うよ。貴方達が何かしようとしても意味ないだろうし」
「フニューひ、酷いです・・・」
(この極度の疲労感はお前のせいなんだがな!夜間以外・・・夜は・・ガタガタガタ)
地獄耳のせいで数十メートル離れているのにそれらの声が聞こえてくる。
・・・にしてもどこに向かっているのだろうか?人数を減らしたいな。
それから一週間かけ林道を進行し塔の様な建物が連なっている、アルキメス工業都市のロルッオに入った。
アルキメスから南南東に位置し魔法を施行するための補助装置の開発が盛んで、魔道具(装飾・防具・武器)が最も多彩に安く店売されており、魔法を使う者にとってもだたの市民にとっても国にとっても主要な場所である。
まぁトケカガミと同じく魔族に襲来されたようで、あちこちに瓦礫が散乱してまだ煙が上がっている所もある。
門が開きっ放しになっていたのは誰でも歓迎されている訳でなく、見張りにまで手が回らないってことなのだろうか?少し不用心な気もするが人のことは分からん。
人が慌ただしく走り回っているカルディが付いている分、別行動してもいいだろうと判断し裏道に入っていく。
普通裏道って薄暗くかび臭くならず者が行く手を阻む・・って感じに思うが周りの建物が半壊・全壊し日当たりは悪くない、まぁ瓦礫の下敷きになった人の死体や黒い泥に埋もれた人を見ることはあった男か女かは分からない。どっちでもいいか死んだなら。
一部瓦礫に塞がれた場所は踏み越え外壁に沿う様に外回りを歩く、面積はトケカガミより広いが人口はそんなに変わらないか少なかったのだろう。
目に見える建物はほとんど窓が無く天辺から煙が出ている。
教会風の建物があったその周りには数え切れない・・・事もないが100以上の十字架が地面に刺さっていた。
神を信仰している訳では無い、それに代わる恨みと自分に対するやるせなさはあるがな。
墓と墓の間を歩き人が一人蹲っているのが見えた、別に蹲ってないか地面に何か埋めて山を作っているだけか。
気が変わりその後ろに立ちその人に影が掛かる、この格好は・・・シスター?うす茶色のドレスを身に着け十字架を立て祈りを捧げている。
立ち上がったそのシスターに声を掛けようとしたが背を向けられたまま質問された。
「お参りですか?」
「いや、違う」
「この街の方ではありませんね」
「ああ」
「以前この街に来たことは?」
「今日が初めてだ」
「そうですか」
ここまで言葉を交わして彼女は振り返った。少しだけ驚いた、何故かって?その顔には目が無かったのだから・・両方とも。
残念ながらそれ以上の感想は無い、声からするに同い年位もしかしたらまだ若いかもしれない。
髪は黒色、帽子で長さは分からない。痛くは無いのだろうか?無意識に手を伸ばし顔に触れようとしていた。
「気持ち・・悪いですよね?」
「ああ」
「淡泊ですね・・もっと驚くと思ったんですが」
「もっと酷いのを知っている、ここに来るまで死体をいくつも見たし」
「・・・そうですか、では休んでなんていられませんね。貴方にはまた会える気がします」
「は?」
目が無いシスターは脇を通り過ぎ、意味が分からなかった俺は呼び止めようとしたがそこには何も居なかった。
・・・・幻覚だったのだろうか?でも足元の墓にはまだ湿り気が残っている。
「・・魔法があるなら幽霊ぐらい居るかもな」
クスクス
教会を通り過ぎ奥の方に一際大きな建物外から見えていた塔が連なった建築物の側面に出た、途中壁が壊れておりそれを超えて来たためか空気が悪い。
目の前には堀が施されそこに水が並々入っているがその色も汚い、泥が混ざっているとかでなく汚い。
堀の中間に橋が架けられそこから中に入れる様だ。
ここにも見張りは居ない後ろの本来の門は閉められている、あの前には居るのかな?
橋を渡り扉を開け中には居る上を見上げるが天井は見えなく代わりに光が小さく見える、前には男達が上半身裸でハンマーを交互に振り下ろし金属を鍛えていたり、ドロドロに溶けている鉄を型に入れていたり、数人がかりで大鍋を扇ぎ上からは砂の様な物を放り込んでいた。
「ああ、鍛冶屋のデカい版か・・・」
砂鉄から鉄を生成して塊にし量を溶かし鋳型で武具を量産する、ああ質より量か。
なんか呼ばれた気がして振り向くと細マッチョの男が眉を上げ大声で怒鳴った。
「おい!テメェ!なに休んでやがる!働け!お前の持ち場はこっちだ!」
「・・・は?・・いやいや俺は部外・・」
「若造がオレに文句垂れんじゃねぇ!・・・親父!隠れて休んでいた腑抜けがをしばいてくれ!」
見た目のわりに力のある腕により引きずられ、左壁付近にある大人二人でも抱えられない直径の鍋の前に放り出され、立ち上がると髭もじゃのおっさんに胸倉掴まれ片腕で持ち上げられ命令される。
「こんなクソ忙しいのに舐めた真似しやがって!!そこの砂鉄をこの窯に全部入れろ!!」
「親父そんなの生ぬるい!こんなヒョロヒョロもっとシバいたれ!!」
「おめぇはんなこと言ってる暇あるんなら、とっとと鋼の一本も鍛えてこいや!」
「ひゃい!!」
この髭もじゃは何をきりきりしているのだろう?細マッチョを蹴り飛ばしズッコケたそいつは怯えて中央の方に走って行った。
・・・まだ胸倉掴まれたままなのだけれど
「おっさんは何のためにそんなに焦っているんだ?」
「あ?軍の奴らなんぞ当てにならん、奴等トケカガミに主力を割きやがって!おかげでこっちとら大損害被ったはボケ!!」
「ああ、そう」
「彼奴等を打ち滅ぼすには、ワシ等一人一人が装備を構え戦場へ赴かなければならん!お前の様な軟弱者が居るせいで者どものやる気が下がっては叶わん!さっさと働け!!」
文句たらたらで国へ暴言を吐く、勇者を寄こさなかったことで大損害を受け軍を信用できなくなり、急ぎ装備類を増産している。彼奴等というのは多分魔族達のこと。
「軍の主力が来たところで、結果は大して変わらなかったと思うがな」
「なんじゃと?王国には勇者が2人居ると聞く、片方こっちに派遣すればこんな被害を受けることは無かったはずじゃ!!若造の戯言なんぞ信用できるか!」
ここでも勇者の話が出るが幹部1体に2人がかりでボロ負けする奴らが一人こちらに来たところで何が出来る?
勇者と呼ばれる者がこの世界の人間より力が高いのもそれに助けを求めるもの当然だと思うけど、噂を鵜呑みにしてあいつ等が来たところで2つの都市が壊滅するだけだ。
服を放してもらい皺を払う、おっさんに言われたように窯の横にある黒い粉末が入った革袋を上げ持ち上げ段差を上がる。
それを赤白く煮え滾る窯の中に振って入れ降りる、1つ50キロ位だがここに居る体格の良い者たちはこれを悠然と持ち運び作業に勤しんでいる。4回往復しそれをずっと見張っていたおっさんに声を掛ける。
「終わったぞ」
「細腕の割には力が有るようだな」
「・・それはどうも」
「窯はまだ4つある、それらに全部砂鉄を入れてこい。それが終われば・・・鉄を打ってもらおう」
「分かった」
おっさんに感心されそっけなく返すと追加で作業が入った。
中央にある特別でかいのを除く壁際4つの窯に向かうと、子供の様な背丈の人達が別容器に砂鉄を移し替えてよろよろと何往復もしているのが目についた。
「おい、あまり時間を置くと温度差で鉄がもろくなるぞ?」
「・・・ちっ、そんなこと言うならお前がやってみろよ!っこんな重い物持ち上げられる方が化け物なんだよ!」
「そうか、なら遠慮なく」
「っげ、マジで持ち上げやがった」
一般人を退かして革袋を持ち上げ窯の中に回し入れる。
顔から汗が滴り落ちる、鉄を製錬しているサウナの様な空間で作業しているのだから当たり前か。
3か所目と4か所目を終わらせおっさんのところに戻る。
「終わったぞ」
「おお、早かったな?まさか全部をこんな短時間に済ませる若人が居たとは」
「いや・・少し懐かしくてな」
「経験者だったか!それはいい!半人前はすぐへたばって使い物にならんのだ!」
ワッハハと笑うおっさんに背中を打たれ、ずっしり重い大金槌を持たされ中央の一番大きい窯の元の連れ居て来られ体格の良い男達と交替した。
「いいか?一定のリズムで振り下ろすんだぞ!力が強いことも大切だがそれよりリズムだ!鉄が熱い中に鍛え終わる必要があるからな?まぁ1っ回やってみろ」
「親父?こいつ1人でですか?素人には危険ですよ?」
「なぁにお前らよりも腕は確かだ」
大粒の汗を布で拭きとって雑巾を絞るように握った1人の男がおっさんに確認をとると箱に腰を下ろした。
真っ赤になったインゴットを心地のいいリズムで打ち延ばしていく、折り返しで金属を折り重ねスピードを上げ叩き続ける。
その様子を見せらていた男達の方から感嘆の声が漏れた、おっさんも目を丸くして顔を引き攣ってた。
3度目4度目の折り返しを終え打ち終わった細長い鉄塊を近くにあった水を張った桶に入れると蒸気が上がりジューっと音を立てて沈む。
水から上げ刀身をおっさんに渡す、受け取ったおっさんは目を丸くしたまま見入るように観察し周りの男達にも渡して見せ、手元に戻し砥石を持ってきた。
「まぁまぁだろ?久しぶりにしたせいで本調子ではないが・・・」
「おい、ちょっと待てぇぃ?これで本調子ではないと言うのか?何だお前!?」
「ただの鍛冶職人の弟子だが?」
「嘘つけぇ!形が変わっているのはこの際どうでもいいが、なんださっきの連打!どんな体力していやがる!それにこの硬度と柔軟さの調和・・人間業じゃないだろうが!!」
耳の近くで叫ばれたおかげでキンキンと耳鳴りがする、嘘ついてねぇしちょっと体の構造が違うだけだろが・・・それはそれでおかしいか?
「おっさん声でけぇよ、周りの奴らが休んでみてんだろ?」
「テメェ等!!ワシの前で手を止めるなんざいい度胸してんな!おい!・・それで」
「これはワシが責任もって最高に研いで後に渡そう・・・」
「別にいらん、武器なんか持つと俺は弱くなる。いい気分転換になった」
おっさんの一声で見ていた男共はそそくさと目の前の作業に戻っていく、話は続き刀モドキを譲渡すると言い入り口の方に振り返り手を挙げ礼を言って歩き出す。
「待ってくれ!!!いや待ってください!!彼奴等を倒すためにその力を貸して戴きたい」
打ち上げ花火を真下で聞いた時の様な爆音によって足を止められ耳を塞ぐとこになった、振り向くと言い直したおっさんが刀身を自分の方に向けて両膝をついていた。
「・・無理なことであるのは承知の上でお頼み申します。この武器と同じ、いや数段落ちる性能でもいい五百本・・・いやここに居るも共の百五十本!どうか御作り願えませんでしょうか!?」
「武器だけあっても意味なんだろう?」
「いえ!防具はもうすべて揃えてある。戦死した騎士の鎧を剥ぎ取り数は足りてるんだが、彼奴等の皮膚を貫通できる武器を死体を使い試験したがどれも対抗できるものではなかった。だがこれなら、この強度と柔軟性があれば必ず彼奴等を切伏せることが出来る!だから頼む!ワシらに出来ることなら何でもする!百五十本打ってくれないか?頼む!」
「うわ・・・・別に良いけどさ」
「本当か!?よしそれではワシ等は何をすればよいのだ?こう言っといてはなんだが力仕事しか自慢できるものは無いぞ?」
やけにおっさんが縋って来るもので蹴るのもあれだなと思って承諾したがコロッと顔を変えたなおい。
俺の厄介ごとを1つ押し付けようか?この街ならそこそこ安全だろう。
「鉄を本数分溶かして置いてくれ、鍛えるのは俺だけで十分だ。だが明日からだ慣れないことをするには準備が必要だ」
「それもそうじゃな、では明日ここで待っている。ワシ等の希望よ」
「すっげぇ大げさだな・・・戦うのはアンタラだぞ?」
「分かっている、そこまで迷惑はかけないつもりだ」
おっさんが手を差しだしてきたので思いっきり握ってやったら顔を真っ赤にして堪えていた。
大きな建物を出てフェイたちのもとに向かう、結構夕方だしな。