番長討伐
集団は半日かかる道のりを1時間強で走り詰めたがその表情は絶望に染まっていた。
助けを求めやってきたこの集落はすでに何者かによって滅ぼされていた。
家は焼け家畜は居らず死体は散乱し一番大きな屋敷も灰になっていた。
「ダメだったみたいだな、生き残りも居ないようだし俺の役目も終わりっと」
「待って下さい・・・確かにここまでの護衛でしたが・・・抱かないんですか?」
「は?」
「貴方はここまでの護衛条件として私を選びました、それは体が目的だった訳でしょう?であるならば」
「おい、それ以上言うな。無料で引き受けるのが嫌だっただけだ、そんなみすぼらしいのに欲情しろと?」
「み・・みすぼら・・・なるほど最初からそのつもりで・・・」
一通り見回り襲われてから数日は経っていることが分かり煤が付いた石に腰を下ろす、その横に先導した女が座り肩を寄せて頬に吐息が掛かる近さで疑問を投げかけ”準備は出来ている”という仕草を取るのでムカついて貶した。
その態度で分かったのだろうか?少し間隔をあけ座り直しその廃村になり果てた光景を見つめていた。
「次に近い村はどこだ?」
「え?・・・私達には貴方の望むものをご用意する力はありませんよ?」
「俺はしばらくフリーだ、行く当てもない帰る場所さえも、お前らと似たようなものだ。だからという訳では無いが・・・手伝ってやる」
「・・・・・はい、そのお言葉を信じさせてもらいます。ここ以外ではラッカ・フライ・エンダー・サッカルという村がこの北西に隣接し固まっています。そこであれば多少の兵力もあるでしょうからまだ無事だと思います」
「ふーん、じゃ30分後に出発する、他の奴らに伝えておけ」
「分かりました」
立ち上がって女の方に首上だけ向き次の目的地を聞くとキョトンとした後に、服を寄せ身を固めじっと俺を見つめそれに返す。
手伝ってやると言ったが大したことは出来ないしやろうとも思わない、精々魔物を殺戮するくらいだ。
そしてほんの少しの休憩を挟み北西の村に向かった。
さっきまでとは違い木々が多く少し進行が遅れたが、木製の大柵が道を塞いでおり茂みに何か居る感じがしたので一旦停止させる。
「俺達は・・・そういえば、あの村何て名前だ?」
「コルックでございます」
「俺は魔物に襲われたコルックの生き残りを護衛してきた、彼女らは長旅で疲れているしばらく滞在の許可を取りたい。中に入れてくれ」
「よくわかったな、よし通せ。だが男よ村の中でおかしな真似はするなよ?」
「ふん、余計なお世話だ」
女どもを後方で待たせ1人柵の前に立ち姿の見えない見張りに向かって少し声を張り道を開けるように願い、木の上から女の声が聞こえ忍装束のような格好した奴が飛びおり着地した。
それを合図に柵が左右に開かれ手で合図し先に女どもを通す、そして最後に通ろうとした時その忍になにやら警告された。
柵から先に進みそこからでも家の屋根が見えさらに歩くと木製の門?と塀の様な物がありそれが村を囲む様に配置している。
村自体はそんなに広い訳でも無い、まぁ滅ぼされた前の2つより家が密集・・・長屋みたいになっているといった感じか。
適当に村の中央の方に進むと石で造られた井戸があり、何故かその周りにも木材で囲いがしてあった。
少し喉が渇いたのでちょっと失礼して飛び上がり囲いの中に入ろうとした時、3方から薄い石が飛んできたので慌てて降りてしゃがむと、木材に当たり砕けた。
(当たったら痛いだろうな・・・)
「おかしな真似はするなと言っただろう!人様の井戸に何をしようとした!?」
「少し水を貰おうとしただけだが?」
「男など泥水で十分だ」
「それは少しひどくねぇか・・・」
「はっ!普段威張り散らすくせに、肝心な時に腰が抜け賊に殺される者たちなどそんなもんだ!」
「その人達はあなた方を守ろうとして・・・」
「違う!ラッカ・フライ・エンダーこの3つの族長は戦いもせず皆殺しになった。私達だけが策を講じ何とか全滅は免れたのだ」
「じゃここもダメか・・・フェイ他を当たろう」
「それは出来ないな」
石を投げたのは多分この女だろう、さっきの忍装束が顔の部分の布を取り長い髪を揺らしながらこちらに近づき足で泥を蹴り飛ばした。
それからは4つあった族の内3つが亡くなったと告げその次に男に対する嫌悪感を隠すこともせず嘆いた。
それを聞いて戦力も何も無いと判断しフェイ(俺に体を差し出そうとした女)を呼び、また他の村に行こうとしたが目の前の奴に止められる。
「男などに大勢の女性の命を預けてなどいられるか!彼女たちの面倒は私が見る、出て行くならお前だけ出て行け!」
「アンタに何が出来る、いや女が数十人集まったところで何が出来る?魔物の餌か苗床・性奴隷になるだけだ。別に俺はどっちでもいいんだ此奴らが残りたいと言うならばその意思を尊重する、だが2度と助けんぞ。男も女も変わらん人を見下し侮辱しそれが自分に返って来るだけだ」
「男に言っても分かる訳無いだろうな、私達はつい昨日オーガを含む集団を返り討ちにしたところだ。その自信から見るにオーク程度との戦闘をしたことがあるのだろが、オーガだぞ?お前にはそれを退けるだけの力は無いだろう、私達といる方が安全なのだ!さぁ共に魔物を打ち滅ぼさんではないか!」
この女はコルックの女どもを置いていけと、自分らの方が守る力が有ると、男にはそんなことが出来るはずもないとそんな感じだが、オーガなど新兵の時すでに討伐可能だったわ。
素手でもいけるは・・・口には出さんでおこう。
「フェイ、お前たちで決めろ。死にたいか・いきたいかを」
「そうだな疲れているところに立ち話とは、悪いことをした。狭いが我が家に案内しよう。男・・・お前は厩だ、私の手下が見張っているからな?」
「わ、私は・・・信じています。それしか道は無いようですから」
「そんなことは無い、最近聞いた話であるが王都に勇者といわれる者が現われ、魔族を討伐したそうではないか!男であるという点は気に食わないがこんな奴よりは好感が持てる。次第にここらにも救いの手が差し伸べられるだろう、それまで持ちこたえればいいだけの話」
「・・・俺をあんな奴らと比べるな・・・。」
フェイに一言告げ端っこの方に歩き出そうとした時勇者の話を聞いた、多分トケカガミのやつが間違って広まったのだろう。
いやわざとそう広めたのだろうか、聞こえはいいしな。
<勇者が魔族を撃破!>
厩でも壁があるだけいいと思いながら空腹で寝っ転がった。
そして夜になり鐘が強く鳴り響きその音によって目が覚めた。
どうやら敵襲の様だ木柵の破壊される音と女の悲鳴が聞こえる、その少し遅れて勇ましい掛け声もかかるがまるでお話になっていないようだ。
驚いた馬に蹴られる前にそこを出て警鐘が聞こえる方に歩くと、巨体が火のついた松明に照らされてやんわりと姿が見える。
でっぷりと太った体型で背丈はオーガよりも高い、手には棍棒を持っておりオークの様に腰巻を付けているだけだ。
その魔物はトロールに似ているが、あれって群れで行動するのか?
「ガハハハハ!辺境の清掃だと聞かされたときはゴミを掴ませやがってと思ったが、こんなにメスが残っていたんなら我慢して正解だったぜww」
「化け物め・・・よくも皆を・・てりゃあー!!」
「サル女はどれだけ突いても長持ちする、壊れてもすぐ替えが利く、非力な癖に反抗的な態度をやめない、お前は格別活きが良いな、俺様のをしゃぶらせてやる」
「やるのはいいが俺の目の入らないところでやれ」
俺の連れて来た女ではなくこの村のやつが地面に伏せられ魔物に腰を振っている、残りの女はそれを見て青ざめ槍を持った忍び女が攻撃に出るが、柄がへし折れ足を掴まれ、それに口から突き立てられそうになる所に一声かける。
その声に何人かがホッと安堵の息を漏らすが、逆さまにそれを持ったままのトロールが振り返り対峙する
「なんだ?おめぇ。邪魔しないでくれよ、俺様にぶっころされてえのか?」
「人言を話すトロールとは珍しい、お前野良か?魔王軍か?」
「人間の野郎には関係ないだこった、オークどもそいつを血祭りに上げちまえ!」
「ブォーン!!」
「無駄なことを・・・」
余りものの女を犯していたオークが4体突進してくるが、棒立ちでそれを弾き飛ばし気弾を1つそれらに投げると爆発し地面も抉った。
「変な魔法だでい・・・アランとアンデットエルフの報告に似ているでい。」
「アラン?・・・・そうか、そうか・・お前も番隊長だな!?」
「ハハッハそうだ!聞いて慄け!おらは魔王軍6番隊長!ゲイキドキング様だ!」
「名前などどうでもいい・・・貴様らのせいで!・・・殺す」
トロールが女を振り回しながら脳裏に焼き付いた魔族の名前を呟いた様な気がして聞き返すと、バカでかい声で自分が魔王軍隊長であることを公言した。
それによりその場の女どもは絶望に突き落とされ生気が抜けた表情になった。
1人だけ無言のまま拳を握りしめているがそれには誰も気づかなかった。
「であってもでい、お前がそれを知っても何も変わらないでい、少し変わってる魔法なだけでい大したこと無いでい。」
「・・・・3倍」
「な、なんでい!?この力はでい!」
「殺すと言っただろう、お前らは俺に勝てない」
「はったりでい!そうに決まってるでい!」
「なに、戦ってみれば分かることだ」
モドキ強化を使いオーラを纏い肩幅に足を広げる、野生の本能危険を感じ持っていた女を落とし動揺を隠せず後ずさりする、魔物でありながら人並みの知能を持つ番隊長。
実力的には5番隊長のアランに少し劣るが、トロールという希少ではあるが力の分野に特化した種族であるため、1体で破城槌に匹敵する破壊力を発揮できる。
不敵な笑みを浮かべ構えることもなく赤黄のオーラを纏い歩み寄る俺に、雄たけびを上げながらタックルを喰らわそうと突撃してくる。
通常なら避けるか飛ぶかするのだがそれを頭突きで受け止め、トロールの肩から鈍い音が聞こえた。
「ウギァッァァァ!!?オメェ!!ただの頭突きでおらの突進を止められる訳がねいでい!?」
「少し前の俺では今のお前とほぼ互角だっただろう、結構首に来たがお前のダメージよりは少ない。だが現状のままだと魔王には勝てないんだろうな」
「お前が?バラス様を倒すだとでい?ブァハハハッハ!人間にしては面白いジョークだでい。でいがお前の相手はこのゲイキドキングが最後でい!!」
「・・・4倍」
馬鹿笑いを上げるトロールは傷を負ってない方の腕と足に力を巡らせ肥大させるが、同じタイミングで強化をもう一段階・・・体が耐えきれる限界まで上げ相手を見据える。
「ゲイゲイゲイ・・・何をしたって遅いでい、これを使ったらバラス様以外には絶対に止められないでい、オメェを終わらせてタップリ遊ばせてもらうでい!!」
「ふん!1分も持たんだろう」
「ヌカセェェッェ!!・・・・?」
ただでさえ醜いトロールが血管浮かせ白目になり体色が濃くなっている。
それでも話せるだけの理性は残っているが所詮魔物、猪突猛進で真面から突っ込んでくるだけだった。
宣言したと後すぐさまそいつの懐に入り三段腹に気波で貫通させ、ついでに壊れた方の腕を捥ぎ取り捨てる。
一瞬の間だが2か所の損傷を与えた理性が少し飛んでいる敵がそれに気づくまで大して時間は掛からなかった。
「何だでい!?オメェおらに何したでい!!」
「痛覚は無いのか、胴に風穴開いているんだぞ?」
「ウギャアアアア!!腹がぁぁぁ!おらの腕がぁぁぁ!」
「うるさいな、声でけぇんだよ・・・まぁすぐ静かにするんだけどな」
ギャアギャア喚く哀れな番隊長を眺め呟く丈夫さだけは一級品、後ろの女どもは犯された者を物陰に隠し自分らも同じ様に様子を窺っている。
内1名トロールを圧倒する人間に唖然と口を開いている、自分では歯も立たなかった相手に重傷を与えまだ余裕な表情を浮かべていることに悪寒を感じても居た。
「おらを・・倒したところでまだ・・番長は・・・残っている・・無駄な・・足掻きだ」
「それがどうした全員ぶっ殺せばいいだけの話。無駄かもしれないが、それでも俺はやり遂げる!その手始めにお前から地獄に送ってやる」
「人間なんかに・・・このおらが・・不覚」
出血多量か胴を支える筋肉を剪断したためか、トロールは膝を着き棍棒を支えしているがそれも時間の問題だろう何もしなくても死ぬんだし。
「答えろ、お前以外に番隊長は何人残っている?あぁ・・別に答えなくてもいいか、魔王を倒すまで何人来ようがすべて倒せばいいだ・・・」
「シネェェッェェ!!!」
瀕死のトロールに質問を投げるが自己解決し野垂れ死にさせようと背を向けるが、往生際の悪いとしか思えない行動に出た。
最悪道ずれにでもするつもりだったのだろうが、叫んじゃ不意打ちも成立しないじゃないか。
人の胴よりも太い棍棒を振り下ろすがそれを左手で受け止め気功波を発し武器を破壊する、渾身の一撃を軽く受け止められ呆然と呻るが口を開く前に顔面へ裏拳を打ちその巨体をぶっ飛ばし、4倍状態で合掌するように前で手を合わせ気力を籠めバランスボールほどの気弾を形成する、それを一度頭上に掲げた後投げつけ地面に転がった者に命中させると断末魔の悲鳴と共に消滅した。
全身の力を抜き動きの止まっている残りの雑魚に気弾を乱射させ一掃した。
「全く・・・力試しにもならん」