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界王拳モドキ

王都からの馬車で寝ながら考えていた、この恨みを晴らすにはどうすれば一番いいかを。


(どうやって見返そうか。力で捻じ伏せようか?大切なもの壊してやろうか?皆殺しにしようか?)

「ダメだ・・・まともなのが出てこない」


出てくる答えは全部暴力で解決するものばかりだった。

あいつ等の取り巻きを全部殺したらどんな顔するだろう?とか四肢切り落として性奴隷にしてやろう、とか・・・思い付いた言葉を消そうと頭を抱えこみ必死にその気持ちを抑えため息をつく。


「よう、どうした?難しい顔してつまらないこと考えているのか?」

「・・・つまらない?復讐のことか?」

「ああ、つまんねぇよ、そんなもんもっと楽に生きようぜ?俺様が代わりの女紹介してや・・」

「ふざけるな!そんな代わりなんか要らないし代わりにならない、むしろ巻き込んでしまう」

「ったくめんどくせぇ奴だな、・・・どうしてもやっちまうのか?」


リーセントが隣に座り言葉を投げかかけてくる、だがその無神経さにカッとなり言葉が荒くなるがすぐ心を静め正気の抜けた顔で答える。

そして髪を掻いた後、真面目な顔になり顔を近づかせる。


「わからない、俺なんかが”仲間を守る”なんて荷が重すぎたんだ。心の奥では復讐など望んでないが、何かが囁くんだよ!奴ら等を惨殺しろ!犯せ!滅ぼせ!と、」

「それはいかんぞ、ユータ!君はそれを実行できるだけの力がある、憎悪に飲み込まれるな。簡単なことではないが君ならできる、私はそう思う。」


ガンドが前に胡坐をかき強く諭すように発言し「憎悪」と言った時の顔はどこか悲しそうだった。


「なんにしたってまだ時間はある」

「じっくり考えた上で結論を出せ・・・くれぐれも死に急ぐな君はまだ若い、心を開ける女性にも出会えるだろう。私達のように枯れかけではないのだから」


「おい、さらっと俺様を入れるな、まだ千人も抱いてねぇよ・・」

「お前・・・まだそれを?」

「悪いか?俺様は最強のハーレム軍団を作るまで枯れる気はねぇんだよ」

「ふっ・・20年も昔の男の誓いか」

「ああ、後78人なんだよ、ガキには興味ないしな」


いい話の後に笑いを取ろうとしたのだろうが、男2人で昔話に花を咲かせている。

(俺もこんな風になりたかった)




















帰りは行きより1日ロスして拠点についた。約8日振りのこの場所だ。

別に何も変わっていない、変わったのは2人だけ。


到着したのは昼前途中馬車の車輪軸が破損し修理に時間を使ったせいで、夕方着くはずだったのに・・・ってこれはいいか。

子供は元気に走り回り大人は作業に没頭している、馬車が帰ってきたこと喜んだ者は貸し出した所有者と少女だけだった。


「長旅ご苦労様でした・・・おかえりなさいユータさん」

「あ・・・うん」

「君はもう少し素直になったほうがいいな」

「もうやっちまえばいいのによ」

「ふぇ?やるって・・・その・・」


「セント・・お前は言葉を選べ彼女はまだそういう年頃ではないのだから」

「わりぃワリィ口が滑った、じゃ手遅れになる前に済ませろよ」

「す、済ます・・・ボン」

「リーセントさん誤解ですよ、アンは俺のことなんかなんとも思ってませんよ?」

「セントにも困ったものだが、君も大概だな」


呆れているガンドに頭から湯気が出ているアン、これでも遠回しに言ったのだろう頬を擦って宿屋に向かったリーセント、分からないふりをした俺。

(まさかな・・・こんな人間のどこがいいのだろうか?)



その日はあの病室で休み凝り固まった体をほぐした。

翌朝酒場に集まったガンドさん達にこの国を見て回るつもりであると告げる。


「そうか、君はまだ若い見聞を深めることも大切だ」

「ッチ、テメェはまた女を1人残していくのか?男なら・・」

「俺には・・・そんな資格は無い。まだ完全には決めてないが、魔王を倒そうと思ってる」

「テメェに・・・出来る訳・・・ねぇだろう、魔王軍ですら俺様達が束になっても敵わねぇのによお」

「セント、忘れてないだろう?あの魔王軍の番隊長を彼は単独で撃破した。可能性はある」

「けどよぉ・・・」


リーセントが止めようとするがガンドがそれを肯定するようなこと言う。


「本当言うと俺はあの時死んでいたはずだった、でもこうして生き長らえている。それに出来損ないとはいえ勇者の称号を持っている、御伽話しとかでは勇者が魔王を倒し世界に平和をもたらす。そういう感じだ」

「君は夢見がちだ、現実はそんなに甘くないぞ魔王と言えば戦闘力3000は超えると噂だ。あの勇者共が1800前後・・・もしも3人で挑むと言うなら勝てるかもしれんが君はそれをしないだろうがな」

「いや、それも一応視野に入れている、憎い対象ではあるが直接的な被害はほとんどないから」

「お前は甘いな・・・3人で挑んだとしても攻撃する前に1人ずつ殺されるだろ、」

「俺は負けない、最悪相打ちになってでも・・・絶対に・・」


自分がこの世界に来た理由を探すが王道的にはもうそれしかない、姿も知らない魔王討伐を掲げる。



「君はなぜそんなにもこだわる?仲間を失った悲しみは私も分かるつもりだ、だが過去にいつまでも憑りつかれていてはこの先の人生を送るうえで最後に幸せだったと思い返すことができるだろうか?辛いことを抱え込まず少し気分転換でもしたらどうだ?忘れろとは言わないが少しだけほんの少しだけ目を瞑るのも悪くはなんじゃないかな」

「俺のすべてを1ミリたりとも忘れるわけにはいかない”全力で復讐を果たす”界王拳モドキ!!」


ガンドが優しく微笑み肩に手を置くがそれを退けて立ち上がり気を放出した。

誰かの前でこれを使ったのは数年前の城でだったはず、今はいくつまで耐えられるだろうか?


「2・・3・・・4倍・・・・」

「みなさん、何してるんですか!?早く彼を止めてください!その力は体内の生命エネルギーを放出することによって生み出されています!命を削っているんです!!早く止めて・・」

「アン?問題ないよ、さて4倍までは制御できるから次は・・・5倍!!」

「問題ない?貴方は・・・死ぬつもりですか?」


赤いオーラを纏ったまま全身に力を籠めさらに放出量を上げていき、今まで自力では到達できなかった4倍を習得した。

だがそれ以上は耐えられ無い様で気が乱れて霧散し両膝を着き下を向くと、ポタポタと床に滴が落ちて行っている。

(死にかけから復活すると強くなる・・・サイヤ人じゃあるまいし・・あと何回すれば・・)


「私を連れて行ってください」

「無理だ」

「貴方が死ぬのを指をくわえて見ていろと言うのですか?」

「俺一人くらい死んでも大して変わらない、日本人が一人居なくなるだけだ」

「ニホンジン?」


アンが阿保なこと抜かしそれを否定する、自分にはなんでそんなに個人に肩入れするのか分からない。

そして少し口が滑り今まで誰にも言ってなかった事を口走りその単語を聞き返される。

この際言ってしまおうか?そうすればそんなことも言わなくなるだろう、その時はそう思ったが意味のないことに言われてから気付いた。



「俺は異世界人だ、この世界の生まれじゃない。勇者という者の生い立ちなんか公表されてないだろうから同じ世界の生まれだと思ってるかもしれないが・・・」

バシン

「そんなこと・・・そんなことどうでもいい!!私は貴方を好きになりました・・とても大切に想っています。勇者だとか異世界人だとかそんなの関係ありません!傍に居させてください・・・お願いします」

「ハハハハ、こんな時にまでいいよ。何と言われようと俺は1人で生きて死ぬ、守るべき者も守れなかった俺への罰さ。ありがとう慰めでもそんなことを言ってくれて」

「慰め何かじゃ・・嘘じゃないです!」


気付いた、いくら鈍感にネガティブに考えても気付いた。

頬を叩かれ抱きつかれ告白され一緒に居たいと言われ、それでも・・・そんな大切な物を何個も抱えられる守れる力は無い。


最後まで無視した・・・愛なんかあっても俺は強くなれない。

少なくても今は要らない。









「それでは皆さんお元気で、必ずこの世界を魔王から救って見せます。」

「いや、まて・・・・ユータ!」

「ッチ、生きて戻って責任とれよ!」

「・・・ユウタさん」



3人に深く頭を下げ自分の名前を名乗ってからその場から立ち去る。

最後だけ少し懐かしい発音で振り向きたくもなったがそのまま飛び去った。


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