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閑話 中級治療士 アン 2

彼の力によって気絶してしまった私は別室で寝かされ1時間ほどで目が覚めた。


外壁の補修を治りかけの冒険者の方にやってもらい私は彼の部屋に入った。

混乱していただけなんだ、仲間を殺され・生死を彷徨い・防衛本能で記憶を消そうとする、何もおかしくは無い彼だって人間だもの。


椅子を持ってベットに近づき横に座り手を握る。

そしてウトウトしいつの間にか寝ていた。


ガサゴゾ・・・布がこすれる音がし目が覚める、握っていた手を外そうとしているようだが諦めたよう。


カタン、床に硬い物が辺り音を立てた、細く目を開けると片手で剣を持ち眺めていた。


「剣を持ってどうするつもりです?」


思わず口に出てしまったが、ジーっと目を見つめる。

一瞬迷ったような仕草をし殺気の籠ってない目で私を見た後、額から何かが溢れてきた。

・・・この人は私を殺そうとした、でもあんまり怖くなかった、心のどこかで”この人に殺されるなら”と思っていたのかもしれない。


「何故避けようとしない・・・当たったら死んでいたんだ?」


彼はとても不思議そうに尋ねてきた、別に死んでも良かったので


「何故って一度助けてもらいましたから貴方に、それを今散らされても別に気にしません」


怪訝そうにジロジロみて首を横に振った、ため息を吐いた後


「済まなかった脅す様な真似して」


剣を横に投げ高い音が響く、項垂れて目に光が灯ってなかった。


「貴方は私に嫌われるように今みたいなことをしたんですね?少し怖かったですが」


後になるにつれ声が小さくなっていき最後はボッソっと言った。

顔を上げることなくまた首を左右に振る、


「自分を責めないでください、貴方は最善を尽くし結果を残しました。ありがとう」


己を否定している彼に声を掛け感謝の言葉を述べ部屋を出た。

廊下でガンドさん達とすれ違い彼の病室に入って行き騒がしくなった。

私が居るよりあの人達に任せた方がいいのかもしれない。



拠点を出て野草を探しに出た、たまには風に当たりたかったと思ったのかもしれない。

籠に山盛りに積んで鼻歌を奏でながら帰った

。一人で寝たが・・・寝付けなかった、枕を持って彼の部屋に行こうとしたが面会時間が過ぎているのにも関わらずガンドさん達が彼の部屋に居り、入ることが出来ず引き返し眠った。



3日振りでその部屋に顔を出し体を起こして軽く運動をしていた彼に聞く


「・・・記憶は戻りましたか?」

「ええ・・・できればずっと忘れていたかったですけどね」


忘れていたかったと言うのはすべて?仲間のこと?それとも魔族のこと?


首を傾げるがずっと見つめられているような気がして顔が少し熱くなるのが分かった、そしてなぜか手を伸ばして額に触れ暖かいモノが感じられた。

数秒だったがそれが終わりサッと手を戻すのでふぇ?と思い


「今何しました?」

「傷を治しただけです」

「そうですか・・・別にしなくてもよかったのに・・・」


魔法で傷を治しただけと言われちょっと期待していたのにーと、残念がっている自分が居た。


「・・・散歩に行ってきます」


ボッソっとそう言われたような気がした、散歩に行くのに何故剣を背負うのだろうか?窓から村の外回りを歩いているのが見え「どこにもいかないで」と願った



彼のベットで少し昼寝をした、彼の匂いは心が安らぐ、ずっとこうして居たいけど布団干して置かないと・・・。

惰性と治療士としての心が争い惰性が折れた。でも外の物干し竿に持って行くまではそれを堪能した。

・・・私は洗濯をしている、やましい事などしていない。



夕方彼は戻ってきた、ちょっと当てが外れた、見たいな顔だった。


「おかえりなさい、宿屋は無理だったでしょ?」


彼は答えることなく部屋に戻って行った。行く時と同じに戻したから大丈夫だと思うけど。

彼はそれから毎日昼頃散歩に出かけ夕飯頃に帰って来る運動リハビリをしていたのだが




ある朝

王都アルキメスから伝令が届き一時の安らぎは消えた



私は走っていた王都から来た兵士に渡された紙切れを握って、そんなに長くない広場から彼の居る部屋までを・・・泣きながら。


すれ違う人達は何事かと道を開けて振り返り首を傾げるが不思議に思っただけで作業に戻っていく

階段を2つ上がり息を切らしてその部屋に入り、キョトンとしている彼に紙切れを差しだすと気持ちを落ち着け反応を待った。


「ああ・・・やっぱりか・・・」


溜め息まじりで肩を落としベットに腰を下ろしたけどその顔は平然としていた。

この人は至極当然の様にこの状況を受け入れているように見える。それなのに


「行かないで、こんなの間違ってる!何で逃げ帰った者のために戦った人が罰を受けるの?おかしいよ・・・」


また私は彼に泣き縋った、自分の中で靄が掛かったような気持ちに説明が付かないまま。



「ふざけるな!!」


男の人の大声で目が覚め斜め上に困惑した彼の顔があった。


「ユータ、こんなものに従うことは無い!君は私達の命の恩人だ・・・この村に居る皆のな」


ガンドさんが息を荒げ拳を握りしめていた


「でもそれ王宮からですよね?俺が行かないと向こうは何かするんじゃないですか?」

「うっ・・」

「その気になれば我々が王宮に抗議しに行く・・Aランクの冒険者達でな、王も無下には出来まい」

「すいませんが俺は行きます、勇者アイツラにも言いたいことがあるので」

「いや・・・しかしだな・・・」

「大丈夫です」


苦い顔をするガンドさんと薄笑いを浮かべようとして真顔に戻る彼・・何かを呟いたが聞き取れなかった。


・・・私が居るのに2人だけで話を進めて・・・

「ダメです、往かせません!中級治療士の私がダメだって言ってるんです。絶対どこにも行かせません」


行かせるものか・・・絶対に渡さない。

平気そうに見えるけど彼の体はもう限界なの・・・ここに居れば苦しむこともないしここで暮らせばいい。

そうすればずっと一緒に居られる。フフ



「ガンドさんこの村にギルドカードを再発行できる施設はありますか?」


何の話をしていたんだっけ?ガンドさんがぶつくさ愚痴っていたけど全然聞いて無かった。


「この村はまず村じゃなく私達生き残りが資材を持ち出して作った拠点だ、でギルドに代わる施設は無い・・・いや村はずれの方に仮設で建てていたか?あぁそうか、アルキメスから代理のギルマスが来ているはずだそこで出来る筈だ。発行しに行くなら私も付いて行こう見届け人兼保証人だすぐ終わるだろう」


ガンドさんなにサラっと外出しようとしているんですか?・・・でもこの人達は規格外だから気にし出したらキリがないことを学んだ私は黙っていた。


「着替えてくるから少し待っていてくれ」 


速足で部屋から出て行き数十秒で戻って来て


「よし準備出来た、行こうか」


あ・・・ズルい


「それなら私も付いていきます、途中で逃げ出す可能性のありますから・・・ね?」


ただ単に付いて行きたかったもっと傍に居たい。


「行きましょうか」


彼の腕を引っ張り外に出た



「とうとうアンちゃんにも春がーー」

「幸せにするんだぞ兄ちゃん!泣かせたら俺達がーー」

「ありゃ英雄様じゃないかね?」


何か照れます・・・彼は居心地悪そうな表情でした


村のはずれに一軒だけ木造の建物がありガンドさんはそれを指さし中に入りました。


受付に居た男に見覚えがありました、それは私が殺そうとした人でした。ギルドの職員だったね・・・だから何だって思いますが私のせいでご迷惑が掛からなけれないいんですけど。


ガンドさんと後ろから出て来た女性の方が口論していますが、彼の服の匂いを楽しんでいるので耳に入って来ませんでした、でもその女性の方が短い悲鳴を上げ尻餅を付いたところで我に返りガンドさんが目を見開き唖然としているので何事?と思いその手にカードが包まれているのが見え


「あ・・・ガンドさんだけズルい!私にも見せて下さい」

「ダメだ・・・ショックで立ち直れなくなるぞ」

「えーそんなに凄いんですか?」

「凄い?そんな言葉で片づけない方がいい・・・彼は天才の中の天才だ」

「やっぱり見たいです」


でもそれからのことはあまり覚えていません、一瞬の隙を突いて勝ち取ったカードを見た瞬間から彼がとても遠い人になってしまいました。


”私なんかじゃ釣り合わない” そう思う様になりました


・・・だって彼は勇者様なのだから・・。









数日が過ぎて彼と冒険者の方が王都に出立した。


窓から馬車が見えなくなった後ベットにうつ伏せになり枕に顔を埋め、結局”行かないで”って言えなかった。


それから起きているときはずっと頭の隅で彼のことを考えるようになっていた、


「アンちゃんどうしたのかな?」

「男の人が行っちゃった時から元気ないね」

「うん」


外で子供たちが話している


「はぁ・・・あの兄ちゃんには呆れた」

「全くだね、あんなに献身的だったアンちゃんを捨てたんだから」

「なら、まだオラにもチャンスが・・・!」

「「それはねぇよ」」

「・・・」

「部屋から出て来なくなっちまってから今日で3日目・・・はぁ」


男女の会話が耳に入る


(捨てられたんじゃない・・・元々住んでいる世界が違ったのです)


動く気も起きません。

恥ずかしいです、今まで何も知らずに居たのは自分のほうだったことに気が付いて人の目も怖くなりました。

でも今日は定期検診の日です、未だ十数名の負傷者の治療が終わっていないのです。分かってはいるんですが休みたいです。


「アンちゃんー時間だよ?みんな待っているよー?」

「・・・薬なら戸棚に置いてあります。もう少し一人にして下さい」

「はぁーアンちゃん、あの英雄様の事好きだったもんね。どっかいちゃったけど」

「私には手の届かない人だったんです、もう終わったことです。でも・・・」

「ああ!もう!あと15分以内に来ないとご飯抜きだからね!?」


いつも呼びに来てくれる女の子が扉越しに呼んでいます。

だけどそんな気は起きません、死にたいです。

穴があったら埋まりたいです。

でも最後にご飯を人質に取られました、それは困りますあの子のお母さんの料理は特別おいしいのですそれが食べられない・・・。頭の中がぐちゃぐちゃです。


あの人になら無茶苦茶にされてもいいのに・・・この思いが晴れるなら。



服を整え杖を持ち部屋から出ると女の子は立っていました、まるで出てくることが最初からわかってたような笑顔で


「ほらほら!行こう?みんな待ってるよ?」

「わかってます、行きましよう」


小さな女の子に・・・といってもそんなに背丈が変わらないんですけど、私のほうが5つも年上なのに。


診療所にはまだ包帯をグルグル巻きにした人から、ほぼ完治しているのに習慣として来ている人までがにぎやかに会話を弾ませていた。

昼前に診療開始し夕時には終了したけど、少しほんの少しだけ気分が和らいだ気がした。











でもそのあと帰り道で頭に衝撃を受け目の前が暗転して、目が覚めた時には林に寝かされ男が私に跨り服に手をかけているところだった。


「い、嫌!」

「お?目を覚ましたかキチガイ女、お前が部屋から出ねぇから何日もお預け食らった気分だったぜ」

「え?ま、まさか!?」


目の前にいた男はあのギルド職員だった。


「おう、忘れていたら思い出させてやろう思ってたのに、いくら待ってもあの男はもう帰って来ないぜ、王都で処分されているはずだしな。ガハハハ!」

「嘘言わないで!あの人が死ぬわけ・・」

「黙れよ、オレの叔父は国王の側近だ、あんなゴミの始末なんてどうにでもなるんだよ。さて頼れる者がいなくなったお前には2つの選択肢がある。」

「うそ・・・嘘だって言ってよ!」

「うるせぇんだよ!メス豚の分際で!お前、なんか、穴、として、使って、もらえる、だけ、感謝しろ。クズが!」


その口から彼が殺されてこの世にもう居ないと告げられる。

その言葉が頭の中で反芻し何かが崩壊して涙がこぼれ縛られた手でギルド職員の服を縋るように強請るが、髪を掴まれ地面に押し付けられる。

そして何度も殴られ意識が朦朧とする、服が剥ぎ取られその裸体が晒され行為を行うために重なる男だったが、そこにかなり遅い助けが入る。


「ガンドに忠告を受けもしやと思ったが・・・こんなところでうら若き女子おなごになんてことを、若造覚悟は出来ておるだろうな!」

「ッチ!死に損ないが・・・まあいい、この女ゴミ諸共処分してくれる。お前ら出てこい!相手は2人だ、死体は燃やしてどこかに捨て置け、頼んだぞ」

「「「は!」」」


「おぬし等もバカじゃのあんな男に雇われて誇りというものがないのか?」

「そんなもの当の昔に捨てた!」


包帯を巻いた大男が木陰から姿を現しその表情は怒りに染まっていた。だがギルド職員の手の者に囲まれた時には冷静さをを取り戻し黒ずくめに問いかけるが返答とともに襲い掛かってきた。


「わしらにも落ち度はあった、それをここで清算しよう。逃げるのなら追わぬ、心行くまで掛かって来るがよい、一撃を防ぎきれればの話じゃが!」


「女は後回しだ、こいつを全員で片づけるぞ!」

「仕方ないのじゃの、あの世で恨まんでおくれ」

「ほざけぇーー!」


薄暗い林の中で黒ずくめは足音一つ残さず襲い掛かるが、それの急所に一撃を入れすぐ戦闘は終わった。

残ったのは大男と3つの死体に虚ろな目をした少女だけ。


「嘘だ!、嘘だ!、うそだ、ウソダ!、うそ・・うぇ・・・」

「しっかりせい!わしの仲間も同行しておる、あやつらはそう簡単にくたばらん!きっと其方の思い人も帰ってくる!絶対じゃ!」

「・・・帰ってくる?絶対?」

「じゃから・・・そのような顔はやめい、女子おなごは笑顔が一番じゃ」

「帰ってくる・・・彼は帰ってくる・・・でも汚れた私なんかが」

「大丈夫じゃ、今は眠るがよい。明日にはすべて解決しておる」

「・・・・あ・・り・が・・」


破り捨てられた衣服を抱き必死にあの男に言われた言葉を消そうとするが、次第に絶望に飲み込まれそうになる時に大男は優しく腕を回し子供をあやす様に慰める。一部の不安だけ残し眠りについた、そのあと大男は気配を消している者に声をかける。


「ラニス・・・すまぬがこの子を頼む」

「あんたにしては頑張った方じゃない?ゲンロウ」

「わしにはおなごの気持ちはわからぬ」

「あたしにだって初恋の頃の気持ちなんて覚えてないわよ」

「そなたも年をとっ・・・」

「壊すわよ」

「すまぬ、そなたはいつまでも麗しい」

「ふん、根性なし」

「全くその通りじゃ、でわ頼んだぞ」

「はいはい、適当にやっとくわよ」


ローブを纏い背の高い長髪の女が姿を現しゲンロウの手の中からアンを引き取った。

軽い冗談の混じった会話を交わし2人の姿は消えた。






アンはその時の記憶が抜け落ち体も清らかなまま数日が経ち、英雄の帰還を心待った。


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