復讐勇者
カードを発行した日からアンの態度が変わった、今まではやけに慣れなれしかったがあれから貴族と対話するような言動になり一部の村人が不審がっていた。
王都に旅経つ日になりガンドさんとリーゼント頭の人が付き添いで同行することになった。
リーゼント頭の人に名前を聞いたら「リーセントだ」と言われた。
リーセントさんは言動は荒々しいし格下にはまともな態度は取らないようだ、まあ今一緒に居て不愉快になるようなことは避けているようだガンドさんにでも忠告されたのか?
アンには最後まで結局何も言われなかった。
何か言われたかった訳では無いが少しもどかしい気分になった。
トケカゲミから馬車で街道を走ると約3日ほどでアルキメスに到着する予定だ、
「数日だけ我慢してくれ近くの村から借りた馬車だからそんなに早くないみたいだ」
「ああオレは気にしない」
いやリーセントさんには聞いて無い気が・・・。
運転は操縦者を雇ったようで夜でも走り抜けていた。
4人分の食事だが1回だけ料理を作ったが感心した風にガンドさんとリーセントさんが
「店を構えたらいいのでは?」
「店を出した方がいいなこれは・・・」
と言われゆっくり味わい、操縦者の男性は黙々と食べていった。
3日でアルキメスに着き操縦者に泣いて別れを告げられた。そんなに美味かったのか?と首を傾げると
「「そうだろうな」」
・・・・お、おう被ったな。
城門で馬車から降り中に入っていく今思ったけどガンドさんもリーセントさんもいつの間にか燕尾服を着ていたな、いつ着替えたのだろう村を出るときは普通の格好だと思ったのだが。
そんなことを思ったせいか急に自分の格好が恥ずかしくなってきた。
新調したばかりの服だが貴族というよりも平民の格好だ。
キョロキョロしているのを見ていたのか
「君は堂々としていればいい」
「お前はそれがお似合いだ」
リーセントさんそれは励ましているのか貶めているのか?
まあ今更服をどうこうするのも遅いだろうし、確かに似合っているかもしれない。
リーセントさんは何か返しが来ると思っていたのかしばらく俺の方見ていたが、調子が狂ったと言わんかの如く舌打ちし先に進んで行った。
大扉から中に入り出頭状を衛兵に渡し案内される途中恭しく頭を下げるメイドの中にもクスクスと笑うものが居た。
最近少し昔の調子が出てきていると思う、人の目を過剰に感じビクビクしてしまう。
「おい、背筋を曲げるな胸を張れ・・・ナヨナヨした奴に命を助けて貰ったとは思いたくない」
前を歩いていたリーセントさんが後ろに少し下がり注意をしてくるこの人は貴族の出なのだろうか?
長い廊下を歩き豪華な装飾が施された扉に着きメイドと兵士はその廊下の端に下がって立ち、扉の両脇に立っている兵士がレバーを下げ
「「リーセント子爵様及びガンド男爵様他一名ご入場!」」
扉が開かれ完全に開ききる前に立っていた兵士が何か叫び、その後リーセントさんが先に中に入って行きそれの後ろに付く様に進んで行く途中背中を押された気がした、後ろにガンドさんが手を添えていた様だ。
右側に貴族かなんかが整列しており、左側にマントを着こなした武官文官だろう人達が整列していた。
ある位置でリーセントさんは立ち止まり膝を突き頭を下げる、ガンドさんもその後ろで膝を突きそれに習って同じ様にしようとしたが
「お前はそのまま偉そうに立っていろ!ガンドの言ったことが真実なら跪く必要はない」
屈もうとした時前から声が聞こえ立っていろと言われる、気を巡らせた状態で腕組みし空の王座を睨み付ける。
「ハッハ・・・それでいい」
下から笑い声が聞こえた、
「国王陛下御入場!皆の衆頭が高い!控えろ!」
別の入り口から声が聞こえ騎士が入ってくるそいつが玉座の両脇に剣を顔の正面に持ってきた状態で制止しすぐ後に跪く、その合図に従って俺以外は全員頭を下げ異様な光景が映る。
太った王と勇者が2人後付き騎士が数人入って入り口に立つ。
王と勇者を睨みそいつ等が玉座に付くのを待つ
「皆の衆面を上げい!」
再び声が掛かり両脇の者が立ち上がり、大臣かなんかが話し出す。
「皆さま本日は多忙であるお集まりいただき感謝いたします、さて皆様がこの場に呼ばれたのは他でもありません我らが勇者様のお役目を妨害する不届き者があちらに出頭しており、その処罰を皆様にてお決めいただくと共にその罰を午後に執り行います」
両側が騒めく、半分何言ったか分からなかったが関係ないか。
「この者は魔族が襲来した主要都市トケカガミにて勇者様が深手を負わせた魔族を殺し手柄を横取りした上、自らを英雄と風潮し民を騙し私利私欲を満たそうとしたところ我々が取り押さえた次第にございます。」
・・・・かなり事実と違うな。でも
「「「おーお」」」
よくやったと言わんばかりに歓声が上がるそれと
「なんて貪欲な!」
「陛下!このような者は直ちに斬首処すべきです!」
「忌まわしい平民の分際で死刑でよいでしょう」
「まったくです、平民のくせに」
右の貴族側から多く非難の声が上がり斬首だの死刑だのと声が上がっているが、
「私の聞いたことと違いますな?彼は1人で魔族に立ち向かいその内1体を葬った、と生き残りの冒険者から聞き及んでいます」
「私も友人からそのように聴いております」
「私もです」
「横取りかは判りかねますが私もそのように聞いております」
左の武官文官側から数人ではあるが擁護するような声が上がるが
「それもすべてこの者の策略であり彼が冒険者に風潮させた情報なのです、騙されてはなりません!」
嘘で策だと言われると押し黙り擁護の声は無くなった。これで味方は居なくなったわけだ。
「ハッハハハ・・・これだからオレは貴族をやめて冒険者になったんだ」
「全く・・・頭の固い者ばかりだな」
笑いながら立ち上がるリーセントさんと悪態付きながら不機嫌な声で立ち上がるガンドさん
「貴様等!誰が起立を許した!陛下の御前だぞ控えろ!」
「うっせーなそんな大声で叫ばなくたって聞こえてらぁ」
大臣に向かって威圧を向け押し黙ったのを確認するリーセントさん
「オレ達は貴族としてではなくAランクの冒険者としてこいつに掛かった虚偽罪を晴らしに来た、それだけだ」
左右から非難の目が注がれるが続けて、
「大臣さんよ?アンタ言ったよな勇者”が”魔族に深手を負わせてと、でもなぁその戦闘で深手を負ったのは魔族じゃなくて勇者の方だ。致命傷を負った勇者は魔族と戦うことを恐れこいつが魔族と戦闘しているとき数人の兵士を連れて逃げ出したそうじゃねぇか?オレのPTの奴から聴いたから嘘は無い」
「ざ、戯言を・・・うっぐ・・・」
「戯言だと!?テメェ、オレ達が嘘を言ってると思っているのか!?戦場に出ることもない奴等が偉そうに!」
その言葉で貴族の反感を買い、武官達は何も言えなくなる。
「大臣殿証言が欲しいのでありましたら我々A・BランクのPTリーダー及びメンバー又は要塞に避難していた市民の方にもお聞きした方が良いと思います逃走した場面を見ている者が居るはずですので」
ガンドさんが静かに付け加える。
高ランクPTのメンツと市民を味方につけたような言い方をした。
「やはり彼は英雄なのでは!?」
「うむ・・・勇者殿が逃げ出したとは考えたくないですが」
「でもそれが事実ならば」
割と冷静に判断できる一部の武官・文官側が”処罰はおかしい”のではという声が挙がる。
再び”嘘だ”と大臣が声を挙げるがそれに耳を貸す者は居らず両側で話し合いが広がっている。
「皆の者静まれ・・・双方の言い分は分かった、急だが判決を取ろうと思う。勇者様とそちらの英雄殿どちらの方を信じるか各自まとめ長官と大貴族に告げてもらおう」
たしかに急だなそんなに俺を処罰したいのか?
武官文官は先頭の長官に、貴族は先頭の大貴族に有罪か無罪か?と有罪ならばどうするべきか?を集計していきそれが終わると大貴族の若い男性が発言した
「こちらの集計結果を進言いたします。比率としては有罪8割無罪2割で死刑や斬首の声が有ったものの投獄辺りが妥当かと考えている者が大多数で、大臣殿がおっしゃったような事実は無いと思っている者も少なからずいるということで私もこの結果に賛成します」
思っていたより悪くないな・・・斬首とかに比べればであるが。
長官の方も集計が終わったようで厳つい風格のおっさんが発言した
「こちらの集計も終わり結果を申し上げます。一部有罪を唱える者が居りましたがほぼ無罪で一致しており、逆に勇者殿の撤退行動について納得のいく説明を求めている声が多くあります。私からもお願いしたいですね。」
おお・・・なんだろう喜んでいい・・・のか?頭の中でもやもやが渦巻く。
もしかしたら俺はこの判決などどうでもよかったのかもしれない。
「では判決を言い渡す、貴殿は有罪死刑に処する!」
王が口を開きそう言った。
「陛下!それは・・・何をする!貴様等!ウググ」
大貴族と長官は揃って”何言ってんだこの王は”という顔になり止めに入ろうとしたが、
周りに居た兵士に取り押さえられ別室に連れていかれた。
主に武官側のざわめきが多く抗議をした声もあったがその者も連れていかれる、
「陛下が判を下された何人もこれを覆すことは出来ぬ!」
あぁ、過程はどうあれ結果は決まっていたのか、
「おい、どういうことだ!?クソ!最初っからこうするつもりだったのか屑が!」
「もう少しマシだと思っていたのだが前王に顔向けできぬな」
上着を脱ぎ構えたが丸腰では武器を持っている騎士にはキツイだろう。
王は付け加えるように
「勇者殿あの不届き者の処理は任せたぞ」
逃げるように別室に駆け込んでいった、玉座の左右に立っていた勇者やつらは聖剣を抜き斬りかかって来る。
「人を馬鹿にするのもいい加減にしゃがれ!!」
強化を3倍にし迎え討つ、ある意味一撃必殺の剣を大振りで斬り込んで来るが力任せで動きが単調である。
受け止める意味もなく少し身をずらし右手と左足で2人の腹部に一撃入れ来た方向に吹き飛ばし数メートル飛ぶ、力籠めすぎて殺したかと思ったが咳き込んでいるようで一応生きている。
吹っ飛んだ時に武器を手放したのか白と黒の片手剣が落ちていた、前見た時よりも刀身の傷が増えている黒を右手で白を左手で持ち振ってみると結構馴染む感覚があるが、双剣というのは扱いにくいし昔から左は盾で右が剣というやり方で来ているので2本とも壁に放り投げる。
今だに起き上がってこない勇者ザコを見た後後ろに下がり囲まれているガンドさん達に加勢しようとすると、勇者が一撃で沈んだのを見て怖気づいたのか1歩前に出ると2歩下がりでこれを繰り返し行われ全く役に立たない兵士だな。
扉から出る間際一人の・・・武官が
「君聖剣を持って何ともないのか?」
と聞いて来たが
「ふん、」
鼻で笑って廊下を歩き城外に出る。
リーセントさんにまた馬車を用意してもらい拠点に帰った。
謁見の間に残された者達は今見た光景に唖然とするばかりだった、王が自分らの意見を無視したこと・勇者が一撃で負けたこと・最後にその倒したものが2本の聖剣を持っても平然としていたこと。
勇者にしか持つことが許されない聖なる剣は大昔神から与えられたと言われ、最初は2本で1本であったが相対する性質のため今の勇者はどちらか片方しか持つことが出来ず実質半分ほどの能力しか発揮できないとされていた。
だが今2本を同時に持つことが出来るものが現れたが聖剣を放り投げその場を去った。
神に選ばれた者でない限りそれを持つことも適わないのに、王が愚かな行為を行った故に我々を見放した。