模擬戦
冒険者PT”夕焼けに誓う”はヘンリー村を出立し向かったのはアルキメス国第二都市トケカガミこれからここを拠点として生活していく。
面積的にはアルキメスより一回り程小さいが軍事・冒険者の登録数はアルキメス国内随一でエリルドリ皇国と魔境からの襲撃に備え建設された。
トケカガミまでの日程は1週間1人で飛ばせば3日で着くが、ペースを合わせての日程だとこれでも限界速度に近いんだと。
起きている間は常に周囲を警戒しいつでも戦闘陣形に持ち込めるように隊列もきっちり崩さず歩かなければならない、油断大敵で警戒するのは当然だとは思うがこれじゃ1週間で着くかどうかも怪しいな?
前と違って時間には余裕があるか・・・気長に行こう。
途中何度か戦闘になったが無事・・2日遅れで着いた。
まず初めに行くとこと言ったらギルドだよな、個人登録とPT登録を済ませておかないと依頼を受けれないことがあるようなのでな。
マリーのおやっさんがギルマスだから紹介状でも持たしているのだと思っていたが、そんな親の七光りは嫌だったのか通常手続きで登録を済ませた。
PTランクE
全員のランクE
PT名登録義務なし
さっそく依頼を受けるのかと思ったが今日は帰って寝るようだ。
まあ明日からは忙しくなりそうだ。
翌朝ギルドに向かい初仕事を探す
ゴブリン討伐歩合 ランク指定なし
オーク討伐5体 D以上
薬草採取歩合 ランク指定なし
商人護衛 C以上 上乗せ金可
だいたいこんなもんか高ランクの依頼なら結構あったが最初はいつものゴブリンか薬草採取だな・・・。
と言っても薬草採取じゃPTで受けると割が悪いのでおのずとゴブリン討伐に決まって来る。
さてこの依頼書を受付に持って行けば受注完了なのでマリーにやって来てもらおうとしたが、ガッツとダムが真新しい紙を依頼板から引き剥が・・そう・・した。
それをマリーが受付をしているところにバンと叩きつけ無理やり受注した。
その依頼というのは”Cランクへの昇格試験”
・必要な資格は無し(当ギルトの組員であれば)
・本日昼開催
・腕に自信があるもの歓迎
・受験料なし
・試験官 イリル・シュル他3名 Bランク
・参加 自由
以上・・・。
やっかいな物を受注しやがった、俺ら初日だぞ?マリーとギルド職員に取り消しを請うが今のが最後の1枚だったらしく、面倒くなさいのでこのまま行うようだ。
なんで嫌がるかって?・・・一気にランクを上げれば新規優良株だとかほざくきゃつらが出てくるだろう?大体目立つのが嫌なんだよ、こうなったら俺は戦わん。
そう決めた。
受付の人に案内され闘技場・・・?に案内されそこには他の参加者が待っていた。21人でPTは4人組が3つ、3人組が3つと俺達か。
3人組のPTは3つとも静かに座って待っている戦闘力・・・250位かそこから少し離れたところに男女で煩くお話ししているPTは50~120かこっちはまだ俺らと同じく駆け出しだな、これを受けた理由は多分うちと同じだろう・・・。
定時になったんだろう3人組のPTが立ち上がるのを見て4人組もPTが準備運動をし出す、ガッツ・カク・ダル・マリーはやる気に溢れている、というかこの場でやる気ないのは俺だけじゃね?
そうこうしている間に扉からゲーム終盤で装備していそうな武具を身に着けた4人試験官が入場し扉がバタンと閉められる。
先頭を歩いているのは女だ長い髪で水色の美形、その後ろに短髪の両手剣持ちが2人その後ろから大盾と槍を持ったタンクが入って来る。
そして目の前に並び槍を持った男が
「勇敢成る兵どもよ、よく集まったな。毎週のように対面する古参と新人が数組か、この試験は通常数年の歳月を必要とするCランクが・・いやそれ以上の人材不足によりギルマスが企画したクエストだ。書類面ではCランクと記載されていただろうが合格ランクはBだ!なので最低限私達と同等レベルで合格とする。覚悟のない者は今すぐご退出願う」
それを聞き4人組の2つのPTがゴタゴタ言いながら出て行った。3人組のPTの人たちはもう戦闘準備に入っておりそれに促されこっちも戦闘モードに入る。
「トレント!アイル!それとカイン!中堅の相手は頼んだぞ?私はルーキー2つの相手を務めよう」
長髪女がPTの男陣に役割を話す。・・・あれ?PT対PTじゃなく1対多数か?
「まだピンと来ていない者・・・主にルーキーに付け加えるが審査方式は私達一人に対し各PT攻撃職全員で行う、だが!”囲めば勝てる”などの浅はかな考えは捨てることだな」
大盾を持ったカインと呼ばれた男がそう忠告する、Bランクはそこまで甘くないと言いたいのか。
「制限時間は1時間各自最善を尽くすように!それではCランク昇格試験開始!」
ギルドの職員の合図で3人組の古参陣?が先手を取り斬りかかっていく、そのいい感じの攻防戦に見とれていた新参陣は
「オラオラ!戦場で敵を目の前にしてよそ見するなんて命が幾つあっても足りないぞ!?」
と細身の剣を鞘から出した挑発女の声で我に返り武器を構えなおす。
「お前ら前衛PTだろ!俺達が魔法で援護するから突っ込めぇ!」
もう1組のPTリーダーであろう声が聞こえその方向を見る、そこは一人残して詠唱に入っていた。
それを聞き入れるか入れないかで大声を上げ大振りで長髪女に斬りかかって行ったガッツとダル。
その後方にいつでも奇襲できると俊敏を上げているカク、ガッツの大斧と細剣が打ち合うが打ち上げられた大斧によって態勢が崩れその隙に足払いで転ばせ首筋に赤い筋をたらし無力化気絶、魔法PTの方にゆっくり歩いて近づくそこにダルが体当たりを入れるが避けられ転がる。
その後ろにカクが回り込み首筋を狙い振り下ろされた短剣は空振りする、視界から消えたように見え立ち上がったダルが「カク後ろだ!」とカクが振り返ったが間に合わず首に手刀を入れられ床に倒れる、それを見て片手に持っていた剣を無茶苦茶に振り回すダルだったが腹部の鎧が厚いはずの部分に膝がめり込み痛みで座り込むこともさせず蹴りで壁際まで吹っ飛ばす。
この地点で古参の試合が終わりギルド職員がけが人に治療魔法を掛けていた。
「さて、剣を担いでいるのは君だけになったなルーキー?だけどその前に・・・」
剣先を俺に向けている長髪女が一瞬微笑し真顔に戻る、そして後ろの魔法PTに目を向け構える。
「よっしゃぁぁぁ!!時間稼ぎご苦労ぉぉ!全員一斉射撃ぃぃ!」熱いなコイツ・・・遠距離じゃなく近距離型だろ・・・。
「フレイムバーッストーォォ」「ライトニングアロー」「ロックウェーブ」「包囲・結・絶」「ウインドアロー」
暑い合図で一斉射撃された攻撃魔法が砂煙をあげ着弾していき全弾命中したが砂煙が晴れず状態が分からず「やったか?」と不安な面持ちで呟くが突風が起き砂煙と共に俺とマリー以外壁際に飛ばされる。
「私は魔法が苦手なのだ・・・手加減が難しい、今回は死人が出ていないので良しとしよう」
すっげぇとんでもないこと言いやがったぞ此奴・・・。
試験会場から15分経過~
「さて君たちは続けるかい?もう立っているのは君らだけなのだが?」
魔法陣営が吹っ飛ばされたことにより一気に寂しくなった場上ある意味絶望的な状況棄権してもいいのだが・・・。
「マリーのおやっさんは元何ランクの冒険者だった?」
「私のお父さんはAランクだったお母さんに聞かされてた、でも20年も前のことだし何でそんなこと聞くの?」
それ今聞く?みたいな顔をされ不思議がったがようだが質問には答えてくれた。
さっきの戦わない宣言は取り消す。
背中の剣を抜き構える
「この依頼、俺達の失敗でいいですが、1対1での勝負をお願いできますか?」
古参の方から冷やかしと指笛の音が聞こえ長髪女も
「女の子に良いとこ見せようとした馬鹿共は過去にもいたが、それらが皆私に一撃も入れれずに格好悪く散ったぞ?」
散ったって言い方があれだな、負けたとか倒れたとかなら分かるのだが・・。
「まあいい。相手はしてやる、宝の持ち腐れでないことを祈るよ」
あきれ顔から真顔になり構えている剣を一瞬見た後眉を顰めそう言いい踏み込んで斬りかかってきた。
目にも留まらない連撃を隙間なしに放ってくる相手に防戦一方な俺、一旦下がろうとしても回り込まれ力技で押し込むが横に受け流される、やっぱ実践の違いか・・。
そんなことを考えている間相手も焦っていた・・・、
(なぜ当たらない!何故何故!自らの剣技には自信も誇りもあった、それは周知の事実なのにそれを経験の浅いルーキーに全部防がれているだと!?)
大体この試験もギルマスに恩を返すつもりで依頼を受けていた、期待の新人の発掘などどうでも良かった。
平民上がりの私の体には多くの市民の冒険者の期待と希望を背負っている、それが!?模擬であれルーキーに敗れるなどあってはならない!引き分けも許さない。圧倒的勝利こそが私達先駆者がこの場でもたらすべきモノ、そして目の前の者は排除するべき害、この瞬間からただの模擬相手が抹消するべき敵になった。
彼女は構えを変え手加減を一切なくし、その違和感に気付いた盾のカインが声を挙げるが全く聞き入れていない、「マズイ、本気モードだ」無駄に長い打ち合いが原因で自尊心プライドが傷つけられたなどは気付いていないが「死人が出る・・・」と呟く。
構えが変わったことで警戒を強めた俺だったがその圧倒的な剣速に驚愕する、さっきまでは守りに徹すれば防ぐか避けるかしていたが今は3撃に2撃弾くのがやっとだ、いや3撃に1発貰ってるからな、さっきまでとは違い殺気まで放ってきた。
場外で吹っ飛ばされた仲間や魔法PTの奴が運ばれて行っているのが目の端に写る、残っているのは目の前の女のPTと治療士であろうギルド職員だけ、ほんの少しだけ顔を動かし本当にその他は誰も居ないことを確認したのが悪かった、左肩に痛みが走り見ると細剣が貫通していた。
女は短く高い笑い声を上げ微笑む、素早く後退するが追撃は止まない片手だけだと1撃受ける度に骨が軋む、とうとう耐えきれなくなった腕に重い1撃が入り剣が飛ぶ、「しまった・・」と声を漏らしたそこに飛び蹴りが入り壁際付近まで吹っ飛ばされる。
痛みで気絶しそうになるが前から化け物が来ていることを思い出し立ち上がるが、全身甲冑の大盾を持ったこの場では1人しかない人物が立ち塞がり必殺の1撃を大盾で受け止め。
「イリル!やり過ぎだ!彼が死んでしまう!・・・おい聞いているのか!?」
怒鳴るように問いかけるが全く聞いている様子はない、それ以前に剣撃が止んでない。
「どいてよ、カイン・・・そいつ殺せない」
攻撃の手を休めず真顔のまま退けと、”殺せない”と言う仲間に戸惑いを隠せずにいたカイン、彼女の言葉に従いここから退けばこの新人は死んでしまう・・・それより彼女を殺人犯にすることになる。
仲間を守る守護人としてそこは妥協してはならないが、どうするればいい?以前戦場でこうなってしまった彼女をBランクの冒険者数人がかりで正気に戻したがあの時は幸運だったと言わざる負えない、仲間を取るか・新人を取るか・・・選択の時は刻々と迫っていた、のだが。
「盾の人、俺が合図したらそこから退いてください」
後ろから決意したような言葉が聞こえたカインはゆっくり瞼を閉じ「済まない・・・」と呟く、自分の力が足りなかったばかりに有能な新人を死なせてしまう。
が、次の瞬間イリルの攻撃は止みそればかりかこの場から大きく距離を取った。
「もういいです、退いてください」
その声が聞こえた後振り返りイリルが退いた理由が分かった。
後ろに居た新人か赤いオーラを纏い立っていた、それは魔法では無い・・・説明は難しいが魔法ではない、これが一番しっくりくる。
私も冒険者家業を長年やっているがここまで威圧的な生物とは出会ったことが無い、常軌を逸している。
止め処なく流れる冷や汗、脳がガンガンに警鐘を鳴らしているが体が金縛りにあったように動かない、イリルも警戒心からではなく恐怖心から距離を取ったのだ、今私たちの心境は同じだ。
ゆっくり歩く異質の存在と、猫の様に縮んだイリル足がすくみ腰が抜け立ち上がることすらできない彼女は生まれて初めて単純な死への恐怖で泣き喚く
「恐いよー!カイン助けて!死にたくないよ!」
と叫ぶと威圧が無くなりそのまま彼が真横を通り過ぎ対面の壁持たれる。
それと同時位に扉が乱暴に開かれ十数人の冒険者が雪崩れ込んできたがその妙な光景を見た、戦姫のイリルと黒甲冑のカインが涙を浮かべて抱き合っているのだから・・・仲間のトレントとアイルや事情を聴き連れ応援にやってきた冒険者たちは口をそろえて「「「なんじゃこれ?」」」と首を傾げた。
その数日後カインさんとイリルさんに呼び出されPTに入らないかと言われた、それを断るとカインさんは残念そうにイリルさんはホッとした表情になった。
模擬戦後気絶していた野郎どもに後で試合に負けたから、「これからは大人しく依頼をこなして行こう」とマリーは話した。