パーティー
熊と戯れた翌朝、日が頭上に登った頃野草と干し肉と米で作った雑煮を作っていたとき年老いた男の声で
「申し訳ないのだがそれを少し分けて貰えないだろうか・・?」
と背後から聞こえた。
振り返るとおっさんと言うより爺さん寄りな男が立って居た、その後ろにも薄汚いヨレヨレの服を着た目の前の爺さんより少し若い位の髭面が1人とキッチリとした顔のおっさん2人。
武装はしていなかった
事情を聴くと1週間前にトケカガミを出立したのだが、途中ブラックベアーに襲われ装備と食料を奪われ2日ほど水しか口にしてなく行き倒れる寸前、雑煮を作っているところが目に入ったのだと言う。
仕方ない。
おっさんの泣き顔など見たくもないので雑煮をご馳走することにした。
まだ目覚めないしな。
10分後3人分作ったはずの雑煮はきれいになくなったが、おっさん達は物足りない様で少し食べたことにより余計腹が空いた様だ。
腹の膨れるもの・・・パンは食ったし米は今ので最後だ、あ!あれは食えないだろうか?昨日倒した熊は・・・?
もう少し何か無いかな・・?と視線を向けてくる爺さんに
「昨日熊を倒したのだがそれは食えないのだろうか?」
と聞こうとしたのだが「それは」の時点で髭面のおっさんが「オラァーー!肉ぅー!」と変な叫び声を上げ森に走って行ってしまった。残りの3人がそれを聞いて愕然としているが3分もしないうちに斬り飛ばした熊の両手をを持って満面の笑みで「あったぞぉーー!」とまた叫びそれを火の中に放り込んだ。
それを見た3人は何故か俺の方を見て苦笑いをしていた。
何分待ったのか肉の少し焦げたような匂いがし出した頃髭面の人が手の甲を持って肉に齧り付いていた、するとそれを見ていた爺さんとキッチリ顔の1人が火からもう一方の腕を取り出しナイフで肉を削いで食って、キッチリ顔のもう1人は腕組みをしたまま森の方を見つめブツブツ呟きながら俺に近づき
「剣を貸して貰えないだろうか?」と無理だろうか?的な表情で聞いて来たので「ああ」生返事で下ろしていた剣を投げ危なげに受け取ると一礼して森に入って行った。
肉を食っている「爺さんに何しに行ったんだ?」と聞くが首を傾げるだけで今は食事で精一杯の様だ。
熊の腕が骨と化す頃森に入った男が出て来た、一緒に持って入った鞄がパンパンになっており何か血生臭い。それと肉の塊が幾つかを草で包んで引きずって来た。結構がっちりした体格だと思っていたが何十キロ持って来れるんだろうか・・・。
まあ・・・いいか、俺も人のこと言えないし。
持ってきた肉の塊の1つを分厚くスライスし棒切れを刺し火を囲んで並べる、1,2、3・・・9切れか1つ当たり1キロ位あるだろう、ちょっとしたステーキだ。
熊の肉って美味しいのだろうか?あっちでは食べたこと無かったのだが・・。
そうこうしている中に肉汁が滴れボワッと火が上がる、待ってましたと言わんばかりにおっさん達が串に手を伸ばし齧り付く、あ、塩コショウ振るの忘れた・・・が、まあいいか。
肉に噛り付いていると腰のあたりの服を引っ張られた気がして後ろを振り返る、そこにはやっと起きた魔法使いとその仲間たちが居た。
肉の焼ける匂いで起きたのだろう、腹の音が鳴った。
「あの・・・私にも下さい?」
普通に下さいではなく後ろに疑問詞を付けられた、それは俺に頼んでそれが貰える確証は無いからなのか?俺がこの人達に集ってるとも見える訳だし・・・おっさん達は見て見ぬふりで肉を喰ってる、ジッと見られ目がウルウルしてきた辺りで根気負けし1本差し出すとそれをひったくる様に受け取り噛り付く・・・ェ。
残りの野郎どもにはおっさん達が1本ずつ渡していき完食した。
食事が終わった後の行動をどうするのかと爺さんに聞かれ、昨日出て来た村に逆戻りすることを伝えたのだが、少し不審な目をされ何故かと聞くと
「いや、若い時の私達でもヘンリー村からここまで2日半掛かったんだが」
と言われ地図を見せ森を突っ切って来たと伝えると納得した表情で肩を盛大に叩かれた。音は凄いが全く痛くない。
調理器具を鞄にしまい街道を道なりに逆戻りした、おっさん達もヘンリー村に向かう途中だったようなので同行してもらう。俺が先頭間に野郎ども後方におっさん達の順で並び1度野営を挟み急ぎ足で村に向かい次の日の夕方にたどり着いた。
村にたどり着くと大の字になる野郎どもと息を荒くするおっさん達、おっさん達はまあ仕方ないが野郎どもは体力無さすぎだろ・・・井戸から水をくみ上げそれぞれの水筒の中に入れる、それを一気飲みする人達、その中で昨日熊を解体した人に「君は疲れていないのかね・・?」と聞かれるがまた地図を見せようとしたところを爺さんに止められた。
村の入り口で座り込んでいる集団を怪しんだのか村人が明りを持って近づいてくるが
「マリー、ダル、カク、ガッツ・・・それにロンリイさん達も・・・。村長ー!」
どれが誰の名前か分からないが一通り呼び上げてから一番明るい酒場の建物に走って行った、すると中から10人程の村人が走って来ておっさん達にお礼を言った後魔法使いと他の野郎どもを抱きしめ殴る者や泣きじゃくる者などで一気に騒がしくなった。
その日は話にならなかったので宿屋に泊まり明日事情を聴く様だ。
次の日
曇りで涼しい日になった、おっさん達に呼ばれ酒場に向かうと、魔法使いのPTにその親数人、厳ついおっさん1人とおっさんPTと俺がそこに居ることになる。
まず若いPTへの説教と指導、その後おっさんPTに感謝と怪我人の手当てを頼まれていた、このおっさん達は医士か治療士だったようだ、それから俺の方に向かって来た厳ついおっさんは「この者は・・・何だ?」とおっさん達と若いPTに聞くがおっさん達は若いPTの仲間だと思っていたらしく首を横に振る、魔法使いのPTに視線が集まるが野郎どもが「そんな奴は仲間じゃない」と言ったもので俺への視線が強くなる。
そこで魔法使いが口を挟む、
「その人は私達がブラックベアーに殺されそうになったとき助けてくれました、回復薬も貰いました・・・。」
その言葉に感謝を述べる村人も居たが厳ついおっさん(村長)は
「ブラックベアーだと!?あれはBランクPTが囲んで討伐される魔物だ1人で倒せるような敵ではない!!」
魔法使いが言った事実を嘘だと決めつけたような言い方をし
「で、でも私見たのこの人とブラックベアーが組み合いをしているのを!」喚く様に暴れるが
「マリーは疲れているんだ、人間でブラックベアーに対抗できる強者は居るかもしれないが、それはAランク以上の英雄くらいだ!済まなかったなもう帰っていい、母さんが家に居るはずだ」
あやすようにマリーを出口に押し出し「ダル!付き添ってやれ」と盾を持っていた青年を呼び頼まれたやつは頷き出て行った。
「さて、マリーの言っていたことは戯言だと思うが何か反論はあるかね?剣も持たない若者よ」
出て行ったのを確認した村長は椅子にドッカリ座りそう言った。あ!剣をまだ返してもらってないな?と思ったと同時に焦った表情を浮かべたおっさんが近づいて来てお礼と共に返してくれた、これ言われなきゃ持っていかれてたな。
「剣の1本があったとて黒熊の相手にはならん、並みの武器では奴の皮に傷も付けれない」
熟練の冒険者から返された物を見てそんなことを言った。
「それはいい、回復薬をマリー達に渡したというのは本当か?」
これも嘘なんだろう?的な視線を感じ目を逸らす。「そうか、話したくないなら仕方ない」椅子から立ち上がりカウンターに腰かける。
「話は変わるが君は冒険者か?」
ホントに話し変わるな、一応頷く、その反応を見て俯き考える村長。
「では、ギルドカードを持っているだろう?見せてくれ」なぜ?という視線を向けその申し出を断ろうとしたが「これでも私は辺境であるがここヘンリー村のギルドマスターも務めさせてもらってる」などと挟んでくるもので仕方なくアルキメスで作った方を渡す。
名前 ユウ
種族 人間 性別男
Eランク
戦闘力 20 (560)
属性 なし (気)
パーティー名 なし
スキル 筋力UP(鍛冶士皆伝・調合士特級・調理士特級)
カードを渡しそれに目を通し唸る村長・・いやギルマス、「ちょっと弱すぎないか?」何を呻ってるのかと思えばそういうこと言うか?呆れ顔でため息を吐く。
ギルマスは「あぁー、すまんすまん、あまりにも低い数値だったのでつい・・。」
カードを返すついでにそんなことを言った。「でもそれなら安心できそうだ」何かボソッと言われたが聞き取れなかった。
その日はそれで解散となりまた宿屋に戻る
翌日ギルマス自ら呼び出しに来て酒場に連れていかれる。
そこで魔法使いのPTと鉢合わせする。
で、用件を聞くと
「君はこれからマリーがPTリーダーを務める”夕焼けに誓う”に所属してもらう、リーダーの許可は取ってある、しばらくPTとしての経験を積むことも悪くないだろう」
俺の意思は無視ですかい?そんな顔をしたんだろう
「Eランク以上ではPT単位で活動するのが一般的だ、ソロでやってきてPT戦の経験が無いのもあとで困るぞ。何しばらくだけだ丁度もう一人メンバーが欲しいと聞いていたところだから丁度いいだろう」
そう言うのだがPTの方でも不満が出ている風にも見えるのだが?
ギルマスの発言に食って掛かるように斧を担いだ茶髪が文句を垂れる、
「何で俺達がこんなチョロヒョロの面倒見なきゃいけないんだ!大体今回ちょっと危なかったからって名前も知らねえ奴入れるなんてどういう了見だマリー!」
「ガッツ・・それはそうだけれど彼は貴方も助けてくれたのよ、もう少し言い方を考えて!」
ちょっと侮辱された気もするが確かにお前から見ればヒョロヒョロかもしれないなと改め力士の様な体系の青年を見る。
思いのほか強く反論されたのを見たガッツは少しビックリし黙った。その後何故か魔法使いが近づき謝ってきた。
「ごめんなさい、ガッツも悪気があった訳じゃないんだと思うけれどちょっと言い過ぎたと思う、大体命の御恩人にヒョロヒョロは無いでしょう・・・。」
その言葉に盾のダルが
「ガッツは少し太り過ぎだ戦士だからパワーは重要だが、身のこなしが鈍ければ敵から攻撃を貰いまくるぞ!俺の負担も考えてくれ」
皮肉とアドバイスを受け取ったガッツは俺を一睨みし後ろを向いた。
カクって奴は一言も話さないな、見たところ斥候のようだが大丈夫なのか?いきなり刺されないだろうな。
「さてと、まぁこんな感じだけれど私達の”夕焼けに誓う”にようこそ・・・えっと・・」
名前を言ってなかったな
「ユウだ」
あ、それそれ。って感じの顔するな・・・。
「じゃ改めまして、これからよろしくお願いしますユウ」
いきなり呼び捨てにされたのだが・・・。
正式にPTメンバーとなったのだが特に役割が無い、一応剣を持っているので前衛はするが鞄を背負ったまま戦闘に参加することになるので危なっかしいとガッツとカクに言われたので、回復役兼前衛兼荷物持ちで落ち着いた。
マリー達の戦闘は粗削りではあるがバランスが良いというか適正の敵を危なげなく蹴散らしている、適正と言っても野生動物・ゴブリンやはぐれオークなどだ、流石にオークはてこずる様だがガッツの大斧で深傷を増やしカクの俊敏な技で急所を確実に狙う、ダルは敵の注意を引きマリーはダルの支援と魔法での攻撃をしPTに貢献している、数が多いときは俺も参加するが手加減するのが難しい。
加入直後はまあ役割や動き方でどうこう言われたが今はそんなこともない。
加入して数日経たずで気付いたのだがこのPT料理出来る奴が居なかったのだな、いつもパンと干し肉だけだったのでそんな気はしていたのだがと料理が出来ることをリーダーに伝えるとなんか喜ばれた、それと料理を教えてとも言われた。
俺が思うに料理が出来ない女は何なんだ?と思う。
そんなこんなでヘンリー村での半月に及ぶ練習戦を終え、トケカガミに向かう日が近づきその前夜、俺は村長に村のはずれに呼び出された。
人が寝静まり月明かりが足元を照らす。
範囲索敵に1つ反応がありそれが近づいてくる、その方向を眺め厳ついおっさんの姿が見えたと同時に鞘から銀に光るものを抜き斬りかかって来たがそれを避ける訳でも無くじっと見る、首を斬り落とす寸前で剣は止まり「なぜ避けない?」と聞こえた。正直避けるまでもないと言いたかったが「殺気が無かったから」と適当なことを言った。
一度それを鞘に納め「なるほど」と呟いたのが聞こえ低く姿勢を構えたのを見た後なんとなく後ろに飛んだが、「遅い!」目の前におっさんが抜刀した状態で振り上げていた、さっきとは違い目が本気だ。
仕方ない、そう思い振り下ろされるより先に右脇腹を打ち抜く。
大きく左後方に吹っ飛び3本の傷が地面に付く、何かを吐く音が聞こえその後なんとなく前に2歩歩くと背中ギリギリで剣先が通り過ぎる。
相手の攻撃は当たらないがこちらの攻撃は掠らせる。
このやり取りを何度か行いおっさんが立てなくなるほどの傷を負わせているはずなのだが何故か立ち上がる、また攻撃してくるのかと思ったが支えにしていた剣が滑り倒れる。
肩で息をしているおっさんに近づく表面的な傷は作らないようにしたが老体にはきつかったか。
傍に膝を着き治療をする。
その後は宿屋に帰り寝る。
翌朝”夕焼けに誓う”の一員として旅立つ際、村長は泥だらけで出席した、マリーに「ブラックベアーと戦ったが惨敗した」と告げ俺の目を見た後、娘を頼むと頭を下げそれが合図となり若者5人がトケカガミに旅立った。