閑話1.5 見習い兵士ライガイ 1.5 アルキメス編 8
私が目覚めたのはそれから3日後のことだ、城内の医療室のベッドで寝かされていた。
体には特に異常はないが、頭と左目に違和感があり巻かれていた包帯を取り外し鏡を見た。
大量に髪が抜けていた、家系的にいつか禿げると言われていたが毛の量が半分ほどになっていた。
それはまだいい、短髪にすれば誤魔化せるだろう・・・が、左目の真ん中部分、なんて言う名称かは忘れたが元は髪と同じ茶色だったはずなのに、今は真っ黒でユータの目のよう・・・。
私はどうやってここに居る?・・・あの時ドラゴンに何かを覗かれたような気がしてそれからは何も記憶が無い。
ふと横のベッドを見る、あの時指名された女の子が横になっている。
ベッドから降り他のところを探す、・・・居るはずなんだ絶対・・・ここに・・・だが自分とこの子以外のベッドは空で誰も居なかった、・・・彼は居なかった。
そこにユータが異世界人だという事を告げてくれた教官殿が入って障壁を張る・・・、
「彼女はまだ昏睡状態だから問題ないだろう、腰かけたまえ」
入り口に近いベッドに腰かけて私はその横に座った。
「さて、君には伝えておかなければならないことがある、2つだ」
教官はまっすぐ私に目を見つめていた、
「もう気付いているかもしないが、君の左瞳の色が変わった。何がきっかけは多分君が最後に見たモノが原因だろう」
そんなことはどうでもいい、彼は無事なのか?無事なんだろ?・・・・。
「そしてもう1つは君のルームメイトのことだが、現在消息不明だ」
淡々と別に大したことではない、とそんな口ぶりで言った。
「・・・不明ってどういうことだ!?おい!」
教官の発言に困惑し立ち上がろうとしたが足がもつれ教官殿に跨る態勢になった、だが今はそんなことに頭は回らなかった、あの後どうなったかのか彼は・・・とにかく情報が欲しい、が
「おやおや、君にとって彼はそんなに大切な存在なのかね?戦地で友が命を落とす、ショックなのはわかるがそんなにか?そんなに彼が大事か?」
押し倒されている状態でそんな言葉、よく言えるなぁ!!畳みかけられた言葉で理性というものが薄れ消えかけていた。
「黙れ・・黙れ・・黙れ・・黙れ!黙れ!黙れ!!、お前などに何が分かる!!」
自分の中の彼を否定され頭が命令を出す前に手が固く握られた拳が目の前の女を殴ろうとしていた。が
「やめなさい!」
凛とした声音で止められた、いや止まった腕をそのままに声のした方に顔を向ける。
そうすると自分の隣で眠っていたはずの女の子がベッドから降りよたよた近づいてくる、そして私の顔を指さし「女性に暴行を加えようとは男の風上にも置けません!貴方最低です!」
子供が出しているとは思えない声で風上だの最低だの言ってくれたのだが、正気に戻り現状を客観的に見ると・・・この子の言う通りか・・・。
ベッドから離れ壁に当たりそのままずり落ち、座り込む。
「ふぅ~おちびちゃん助かったよ、もう少しで暴行されるところだったピ」
上体を起こし少女の頭を撫で茶化した言い方をし、睨み付けるが視界を少女が遮る。
「私はこれでも16です、あとおチビちゃんはやめてください」
プンスカと擬音語が聞こえてきそうな顔になり私を見る
「貴方は・・・13番隊のライガイですよね、貴族のディン様を何度か返り討ちにしたという」
私のことを知っているようだが13番隊にこんな子供は居なかったはずだ。そう思っているのを顔に出たのか
「今失礼なこと考えましたね、ギロリ」
童顔に睨まれる、
「まあ知らないのも無理はありません、私は11番隊所属キル・ロイバンといいます」
姓がある、貴族様か。
「チッ、おい、ここから出せ」
「出てどうする気だね?」
「決まってんだろ、ユータを探しに行く!」
「許可は出来ない」
「お前の許可なんざ要らん、勇者の愚行にも呆れた」
私と教官の問答が続き
「貴方!勇者様を愚弄する気!?」
チビが会話に入る
「お前も見ただろうドラゴンに薙ぎ払われ手も足も出なかった姿を!」
それを言われどうも言い返せなくなったのか口をパクパクさせているだけ、
「一応は資材物資の回収に部隊を出す予定だが、捜索隊は出ない、たかが一人の見習いのために割ける軍は無い」
「過去のことは諦めろ、誰にもどうしようも出来なかった。君はまだ生きている、これから騎士を目指して修練に取り組んでもいいし、どうしてもというなら退団という手もある。君はまだ甘えている、ドラゴンに遭遇しこの程度の被害だけで済んだこと自体が奇跡なのだ、これ以上は贅沢というものだろう」
そんなことは分かっている・・・分かっているが・・・理解したくない。
張られていた障壁が消え外の雑音がよく響く。
私の感覚はそれなりに長い時間が経過した、と認識し・・・決めた
「私は騎士になる、そしてもう悲惨な未来は起こさない」
済まないユータお前の分まで私は生きる、そして強くなって見せる!
勇者取り巻きである貴族の娘は城内に勤務していた神官によって窮地を出した。
私はそれから数日後国境警備に飛ばされた。
たった数か月だったが彼との思い出は一生心に刻まれる。
・・だがそんな私が数年後騎士となり友と再会・・するがそれはもう少し後のことになる。
元々この閑話は後から本編とは別に、物語に厚みを出したいと思って書いたやつです。