閑話1.4 見習い兵士ライガイ 1.4 アルキメス編 5
私はライガイ、ただの見習い兵士だ。
今は昼時、ユータと共に城下町にある定食屋に来ている、2階の席はすべて埋まっており1階窓側の席に座り注文をする。
今日は修練が休みである。それは何故か?
実は昨日、”勇者様お披露目パレード”なるものが行われると使女から聴き及び教官殿からもゆっくり体を労わるよう休暇が言い渡された。
そして一桁番隊名が入った旗を掲げた軍団が夕方、城内に重々しく招集されなにか命令されていたようだが修練場まで聞こえてきたのは騒めきだけだった。
料理がテーブルに乗せられ食べ始めた少し後、急に通りが騒がしくなった。
どうやらこの道に勇者様のお姿を一目見ようとしていた者達の声援・ざわめきだった様だ、食事中の者からしてみれば煩わしいことこの上ないが、仕方ないと言えばそう言うしかない。
伝承やおとぎ話でしか聞いたことが無い伝説、それが勇者という存在。
金髪で私達と同じ人間で・・・剣を持っている?あ!従者を従えているか!
チラっと窓から人ごみの隙間に、王家専用馬車で手を振っている私達と同じくらいの青年が2人見えた。
2人?伝承では3人のはずではなかったのか?髪の色は良く見えなかったが茶か金に近かったような気がした。
馬車の音とざわめきが遠ざかりやっと静かに食事ができる、そう思い皿を見た後解した魚を口に運ぶ、そしてさっきから一言も話さないユータの顔を見たのだがいつもと様子が違う・・・。
フォークを握りしめ小刻みに震えている。
その異常さに何かあったのか!?と肩を抑え微かに何か言っている彼の顔に耳を近づける、”カミシロ”と”サイキョウ”という言葉を呟いていることが分かった
神の城?最強?意味が分からない、ふざけているのならやめて欲しいのだが、尋常ではない汗と焦点の定まってない眼を見て至急城の医療室に連れて行く必要があると判断し、自分と彼の食事を流し込み会計を済ませ担ぎなるべく急いで城に駆けた。
医療室のベッドを至急お貸しいただき、治療魔法が扱える女性の教官殿が駆けつけて下さり、すぐさま回復魔法の光がユータを包むが容体は一向に良くならない、教官殿に詰め寄り「もっと上位の魔法を!」と頭を下げ懇願するが光が消え教官殿は首を左右に振る。
「これは身体的な傷ではなく、精神または過去の記憶によるトラウマが原因だろう・・・今日はどこに出かけていたのだ?」
身体的ではなく、過去のトラウマが原因?
「今日は・・・城下町で行きつけの定食屋に2人で行きました。」
「その時の彼の様子は?」
「いつもと変わらなかったですよ」
「では、彼の異変に気付く前、何か変わったことは?」
少し考え
「注文した魚料理が出され、その後勇者様が前の通りを通りました。ぱれーどでしたっけ?それがそれが通り過ぎ彼に視線を戻すと今の様に震えていました」
よく考えるとおかしい、ユータはほとんど料理には手を付けていなかった。
彼の苦手な食べ物でも入っていたのかとも思ったが、兵士の食堂でも同じようなものは出されそれを食べているのと見た。
女性の教官殿は手を顎に添え呻った後
「その他に何か無かったか?なんでもいい、何か話さなかったか?」
それならあったが言ってもいいものか、
「”カミシロ”、”サイキョウ”という言葉を呟いていました。私は何のことなのか分かりませんでした。教官殿は何か思い当たることはありますでしょうか?」
最初に言った2つの言葉に異常に・・・とまではいかないにしろかなり教官殿は驚いていました。
そして何かを呟き魔法障壁をこの部屋に張ったのを感じ身構える、が手を挙げて制し
「気にするな、今から機密に近い物を話すのでな念のためだ」
美しいご尊顔とは裏腹に背筋も凍る冷たい声音・・・何と言えばいいのか飛竜に睨まれた様な・・それくらい体験したことのない何かヒンヤリとしたものが首筋に這ってくる様な感覚に陥る。
歯がガチガチ鳴り金縛りになった時の様に動くことが出来ない、教官殿の目が細くなり耳元に息が吹きかけられる。そして、
「面白い反応をするもんだね君は、でも安心していいよ?外に漏らさなければね」
怖いですー教官殿ォー内心ビクビクで心臓が止まるかと思ったな!ホッとため息を吐き向き直る。
「良い目をしている、彼とも仲良くしているようで感心だ」
スラッとした足を組み直しベットで寝ているユータに目を向ける。
そして立ち上がり座っている私の後ろに立ち、おんぶした時の様な感じで寄りかかり耳元でこう囁く
「彼は異世界人だ」