閑話1.2 見習い兵士ライガイ 1.2 アルキメス編 3
私はライガイ、アルキメス王国第13番隊に入団所属している見習い兵士であるが、先週我が自室に新しき友が入室することになった。
名前はユウタだったかユータだったか、姓はある様子だったが聞いても話してくれなかったので名前で呼ぶことにしたが、貴族様かと思って冷や汗かいてしまったではないか。
それはさて置き、うの発音がしにくいので「ユート」と言ったら「それじゃ別人になっちまう!」そう強く言われたのでユータと呼んでいる、彼はそれでもしっくりこないようであったがこれが「文化の違い」かと勝手に納得し、私のことは好きに呼んでくれと言うと「じゃライで」とそう呼び合うようになった。
この一週間彼は私に色々なことを聞いて来た、木刀の振り型・基本的な足捌き・魔法の使い方・書庫の位置
・気について・勇者についてなど後は野菜の名前も聞かれたな!だが”気”というものと”勇者様”については分からなかったのでその答えを返した。
私も彼に聞いた、年は?どこの出身でどんな暮らしをしてきたか・好きな食べ物は?好きなタイプの異性は?魔法は使えるのかなど無神経なことも言ってしまった。
魔法は殆ど使え無い様で、故郷のことはあまり話したがらない様だったが、それに付いて「すまない」と謝られたので「そういう者も居る、気にすることは無い」と頭を上げてもらった、ユータは行儀はよく育てられたのだな、年下に頭を下げられる人間は少ない。貴族様でもその比率は変わらない。
年を聞いたとき驚いたのだが私より3つ年上だった、私も最近誕生日が来て年を超えたばかりなのだが「これからはこの口調もやめなければな」と呟いたつもりが聞こえていたらしく「大丈夫だ、問題ない」と答えた後何故か一人で笑っていた。私の顔に何かついてるだろうか?
明日も修練なので「寝よう」と声を掛けその日は就寝する。
翌日は少し気分を削がれる出来事があった。午後の修練の時間10番隊の見習い兵士たちが横やりを入れて来た。
「平民出は腰が据わってない」だの「そんな振り方で敵を斬れるのか?」などその言葉に気を取られ木刀を落とす者や足が絡まり転ぶ者をみて笑い声を上げている、わざとこちらに聞こえるよう。
10~13番隊は見習い兵士が初めに所属する部署だが、10番隊だけは特別で貴族や商人の三男坊や四男坊が多く所属しており、こうしてたまに他番隊修練の見学と称しちょっかいを掛けに来る。
私達13番隊は市民・農民出が多いためか、修練の邪魔になるような行為をした時に教官に注意されるだけで基本言われたい放題だ。
それならばまだいい、貴族様の市民農民卑下は今に始まったことではないらしい、ある意味での伝統だ。
だが問題はこの後だ、地獄トレーニングが終わり自由に打ち合いが始まると10番隊の者が木刀を持って”自分に負けそうな者”を選んでこれも修練だと言いながら叩きのめす。
向こうの言い分も間違ってはいない、間違ってはいないが少々度が過ぎるのだ。
この間だって入団したばかりの隊員を・・・何人も怪我させ笑っていた、それで何人この隊から去ったことか!
貴族様の方を見るとこちらに歩いてくる者が5名、毎回の様に勝負を挑んでくるがまだ私は負けたことは無い、貴族かそうでないかで素質に差は出てくるにしても毎日自重トレをしている我に剣術に置いて勝てる道理はない!が・・・。
「よお!ライガイ久しぶりだなぁ、今日も手合せ頼むは?」
今一番見たくない顔が目の前に現れる、だが出来るだけ表情に出さないようにしなければ。
「これはこれはディン様ではないですか!凝りもせずまた負けにやって来やがったんでしょうかね?」
顔には出なかったが口に出てしまった。ディンとは幼少期からの仲だ、悪い意味でのな。
「あーあ気にするな、こいつとは長い付き合いだ俺達の挨拶みたいなものだ」
こいつの取り巻きでディンが馬鹿にされるとキリルというディンにぞっこんの女が魔法を唱えようとするが取りやめさせる。この魔法を許可なく放った件で前々回教官にお叱りを受けたはずだ。他の3人は名前も覚えてない。
「ユータ済まないが少し離れていてくれ」木刀を片手で構えるディンを睨みながらそう頼むとぶつかる可能性が無いとこまで結構離れた。内心複雑だったが前の相手に集中する。
「あいつは見ない顔だな?新入りか?」
顔がニヤついている、下段からの切り上げで相手の顎が擦れる、そこから連撃を畳みかけ首に切っ先を突き付け降参と言ったのを聞きすぐさまユータのもとに走る。
後ろを振り返った地点で取り巻きに囲まれフラフラであった、「ハァ!」掛け声で男隊員に突きをお見舞いし、少し気が引けたが女性隊員にも膝蹴りと峰打ちを入れダウンさせる。
「・・・すまない」ユータはいつも謝ってばかりな気がする、「気にするな」と言おうとしたがユータは何か言おうとして頭に強い衝撃を受けた。
「一本取ったぜ、ザマァwww」
聞き障りなディンの笑い声が反芻する、ユータが唖然とした顔になるのを見て「気に・・・」ここで意識が途切れた。