【百鬼の懸想、一鬼の思案】(改稿前)
「やっと、やっとだわ。でもここからが勝負なのよね」
桜が散りだした日の朝、私は、少し明るめの夜明け前のような紺色をしたブレザーを着て「私立陽明高等学校」と書いてある校門の前に立っていた。校門には、「入学式」という看板が立てかけてある。
看板の横で写真を撮っている人がいたり、いかにも高校デビューしました、と顔に書いてあるような人がいたり。 背が高くて2メートル近くあるのではないかという子もいれば、130センチぐらいしかない子もいる。
今日は私たちの入学式なのだ。
全国各地からここを受験した中のほんのひとにぎりが、ここに入学することを許された。
それには理由があってーー
「あの、すみません、すみません、頭に花びらついてますよ、その、桜の花びら……」
女の子、至って普通の女の子が話しかけてきた。……あれ? なんか違う、変な気がする。でもそれが何かわからない。栗毛のボブカット、くりくりした黒い目、平均身長に十センチぐらい足りなさそうな小柄な体格。普通といったら普通なのだけれど。
「あ、あ、あの失礼ひまふっ!」
「へ? は、あ、ありがとう」
女の子は全力ダッシュで逃げていった。
「ひまふっ」って噛みまくって可愛い。
あの子はなんなのかな......?
「そろそろ、体育館に、入場してください。席は自由なので空いているところに座ってください」
指示をしているのは、高校の先生らしい。スーツを着ている。紺色なのは陽明カラーで揃えてるとかそういうことなのかな。その他の先生らしき人も紺色。......あの先生、たぬきみたい。小太り、垂れ目って。
ああいけない。ぼんやりと考え事をしてしまった。
周りの人に置いていかれてしまう、席をさっさと取らないと。ぼんやりしてられないのだ、私はここで優等生であることをおじい様、我が家の当主様に求められているのだから。
というわけで、とりあえず思考をストップ。体育館に向かうことにした。
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「学校長、式辞」
式典に付き物の、長ったるーいお話だ。
この学校を作り上げていく者の一人として頑張って下さいだのなんだの。ほんとうに長いなあ。
暇なので、周りの人を観察して見ることにする。
あ、さっきの女の子。おどおどしてるなぁ。周りの個性の強そうな見た目からすると、とても普通の人間らしい見た目。
ふんわりボブカット、いいわねぇ。
私の髪は直毛すぎてあんなふうにふわっとカール、なんてしてくれないから。
腰まで伸ばしているからカールなんて関係ないんですけどね。ポニーテールにすると、凶器になる長さだ。
しかし、こうやって見るとこの学校の制服の着こなしは本当にバリエーションが豊かだ。
普通の形のブレザーなのだけれど、リボンかネクタイか選べる。色は、学年ごとに違う。私たちの学年は鬼灯色。赤みの強い橙で、ブレザーの紺色に映える色だ。スカート丈は特に決まっていない。女子でもズボンありというのも珍しいのではないかな。いろいろな生徒がいるからね、ここには。
だから、私やさっきの女の子みたいにただ標準形を着ている生徒もいれば、なかなかとんがった格好を初日からしている生徒もいるわけだ。金髪もいるし、赤髪もいるし,青とかも、いるし。私の髪は黒、と言いたいところだけれど、ちょっと赤みがかっているし、なぜか一房白いのだ。白髪ではない、断じて。
本当にバラバラ。今揃っているのはブレザーの紺色ぐらいね。
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ほんとに話が長かった。
ホームルームが癒しになるぐらいにね。時計の長針が半分ぐらい回ってしまった。今は教室に到着して着席状態。ざわざわしているが、私にはあいにく話す相手がいない。昔から、話しかけようという人なんてほとんどいない。たまにいても、権力にゴマすりに来る人ぐらい。いやになる。
学校の最初につきものの自己紹介。話すことがないのだけれど、どうしようか。
「では、自己紹介をしていきましょうねえ。名前、種族、好きなこと、あとなんか一言ぐらいで良いかなあ。出席番号1番からどうぞお」
担任の先生は、さっきのタレ目の先生。名前は、なんだっけな。
1番の子は、「ひまふっ」の女の子だ。
「藍澤真美です。種族……? 種族? ほ、ホモ・サピエンスです? いや、ホモ・サピエンス・サピエンスかな? みんな一緒じゃないのかなあ......クロマニョン人とか、いたりするんですかね。これでいいのかな?」
え、
「「えええええええええ!?」」
クラス全員が大合唱。本当にバラバラなのにこういうところだけはまとまるのねぇ。
そうなるのも仕方がないのだけれど。
ここの学校は、「あやかし」の子供が通う学校なのだ。
この日本に、普通の人間として暮らしているあやかし達の唯一姿を晒せる場所。今は人間の姿に近い格好でいるけど。
人間の子が入ることはまずないのだ。 人間に私たちの存在を気づかれてはならない。気づかれたら終わりだ。私たちあやかしは駆逐されてしまうのだから。
マイノリティーってやつよね。
「とするとさ、あの子相当な妖力だぞ。いままで僕気づかなかったし」
「だよなあ、俺も。......かわいいなあ」
「え、どうすれば......とりあえず、うん。はい。え。うん。好きなことは読書です。よろしくお願いします」
混乱しつつも、ぺこりとお辞儀する女の子、いえ、真美ちゃん。これからあの子大変よ、多分他のクラスから、学年からたくさんの人が見に来る。関わりにくる。 妖力の多い女の子。今この世界で生きるには人化は必要不可欠。それを楽にするのは人間の血を家系に入れるのが一番。でもそこで妖力が小さいと、あやかしとしてだめ。
だから妖力が強いってのは、狙われるのよ。妖力が多いと逆に今みたいに綾香氏と間違えられてしまうことのほうが多いけど、名乗っちゃったら広まるしかないものねえ、どうしたことか。この教室の平穏を保ちたいのに。
「荻原瑛斗です。種族は妖狐ですね、得意なことは……」
一応他の子も自己紹介をするのだけれど、みんな聞いていない。
最初にインパクトが大きいことを持ってきてはいけないわねえ。みんな真面目に聞いてない。元から真面目に聞く人なんていないのかもしれないけれど。次は、私の番ね。
「夜霧紅葉よ。種族は鬼。よろしく」
そう言うと、周りの人はまたまたざわっとした。たぶん私のことはここのほとんど全員が知っている。鬼の娘。今年入学することももしかしたら知られていたかもしれない。でもこんな鬼だとは思わなかったかもね、もっと怖そうなのを想像していたかも。鬼って、言われているほどごつごつもしてないし、全身真っ赤の赤鬼とか......いるけどあれは鬼の中でも低級。
鬼はあやかし達の中でもとっても少ないからねえ。この中でも浮くかなぁ。一応この学年の上級クラスなのだけど。そこに真美ちゃん食い込んでくるなんてすごいわよ、どんな妖力もってるんだか。
まあ私が浮くのは生まれのせいと浮くような行動するせい。でもどうしてもしちゃうのよね。今の自己紹介もかなりつっけんどん。これ直さないと。
「はい、終わりましたかねえ。私は佐藤永一郎。見たとおり狸ですねえ。一年間このクラスで頑張っていきましょう」
やっぱり狸だったのね。普通の先生でよかった。当たっていてよかったわ。
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「真美ちゃん、で良いのかしら。私は紅葉。さっき花びらついてるって言ってくれてありがとね」
「ああああ! さっきの方ですね!! あの、私、どうすれば良いんでしょうか。普通の学校だと思って入ったのですれど、いじめがない、いろいろな人がいる高校って聞いて入ったのです。えっと、その、中学とかいじめられてたから」
弱く見える女の子はいじめられやすいのかしら。
もしかしたら人間も妖力が強いのを何かが自分たちと違うって気づいたのかもしれないわね。
自分と違うものを虐げる、怖いことよ。
「ここでいじめにあうことはおそらくないでしょうけど。いや、わからないわね。一緒にいましょう、私ならあなたを守れる」
「ありがたいです!さっきからみんな私の方見てくるのに、話しかけてこないから怖くて……」
「みんな、話しかけようか迷ってるのよね。中学までは人間と普通にいたけどここにはいないと思ってたし、こんなに妖力ある子なんていなかったから動揺しちゃってるのよ。そういえば、あやかし怖くないの?」
「そうなのですねー。人間じゃないものはよく見てたんですけど、そういう者の学校があるなんて驚きです。大丈夫です、そういう者に助けられて、いま私はここに立っているんです。妖力があるのも知ってたんです、使い方を教えてもらったから今ここにいるんですけど。だから怖くはないです、けど、中学にもいたんですね、気づかなかった」
いや、すごく天然なのかしら。それとも妖力が強い家? でもそうだとしたら、こんなところに娘を送り込むことはないでしょう。こんな何も知らない状態で。
「ねぇ、真美さん、だっけ。僕は荻原瑛斗!良かったら話さない?」
「え、ど、今はちょっと」
あ、さっきの妖狐。
銀髪。釣り目。プライド高そうよね、キツネだし。
「わたくしが先に話していたのですけれど。少し待っていただけます?」
「や、夜沙さん。ちょっと話したかっただけですよ、入れてくれてもいいでしょう」
「仮にも女の子同士の話に口をはさむなんていい度胸ね、後じゃいけない重要な話があるんでしょうね?」
そう言いつつ、ぴっ、と睨みつける。
こうすればだいたい引き下がるんだけど、そこはさすが陽明高校、全然ね。肝が座ってる。というより自己中名だけかな。
「では、また後で話に来るとしましょう。真美さん、また後で」
「は、はい」
こういう奴がたくさん来るんだろうなぁ。一応真美ちゃんにも注意しとかないと、だ。クラスの平穏にはまず真美ちゃんの安全が第一目標だ。それにしてもさっきの妖狐、一応あやかしとしてはランクが上のほうだから気を付けるように言わないと
「真美ちゃん、さっきみたいにあなたにはたくさんの人が関わろうとくっついてくるから。あたしから離れちゃダメだからね」
「あ、ありがたいです。話しかけてくる人、中学の時いなかったから、どうやって話せばいいかわかんないので、助かります」
大丈夫かしらね。
私が、守らなきゃ。この子、人間の娘はとても男子たち、あやかしたちに狙われるのだから。
私の高校生活の平穏を守るために努力しましょう。
続きはおいおい。