7 冒険者になることにしました
本日2話投稿。2話目です。
次の日の朝、俺は転移者サポート協会にいた。協会員のハヤトと将来について話し合うためだ。
「昔は技術者や知識人として転移者が国に雇われていたが、最近はよっぽど特殊な技術や知識を持ってないと雇わなくなっている。最近は、冒険者や商人になるやつが多い。後は、元の世界でやっていた職業をそのままって、人もいる。後、少ないが鍛冶師などの職人を目指したがる人も何人かいる。まあ、どんな職業にでもなれるように訓練と手助けはするつもりだ。」
ハヤトは資料に目を通しながら説明をしてくれる。
「最近の転移者で成功している人にどんな人がいますか。」
「そうだな。30年前の転移者で凄腕の料理人がいたな。彼の店は大陸一と評されていて、支店がいくつもできているらしいな。西の大国ヴェガロニアの『和の花』という店だ。」
たぶん和食の店だな。そういえば、ライトノベルでは味噌とか醤油を異世界で作って、売っている主人公がいたな。この世界でもいけるかな?
「俺の国の食べ物を作って売るのはどうでしょうか?」
「悪いが君の国の文化はかなり浸透している。君の国の調味料である味噌や醤油もこちらの世界ではすでに一般的だ。100年以上前の転移者が独力で開発に成功している。はっきり言って、文化面ではおそらく目新しさをアピールするのは無理だ。」
先駆者がいたようだ。文化面では無理か。となると、やっぱり冒険者か商人か。これも、ライトノベルでは定番だ。鍛冶師なども興味がないわけではないが、なんかパッとしないな。
「冒険者と商人だとどっちが多いですか?」
「そうだな。半々といったところかな。若くて体が丈夫なやつは冒険者になる傾向が高いみたいだな。」
ハヤトは資料を読みながら答える。
「冒険者か。・・・そういえば、魔法は俺たち転移者でも使えるんですか?」
「ああ、大抵問題なく使える。ただ、鍛えてきていないから、どうしてもこっちの人間と比べると弱いやつが多いな。」
「それはいいです。使えることにロマンがあるんです。」
「ロマン?」
ハヤトさんにはロマンが伝わらなかったようだ。まあ、しかたないか。
「決めました。冒険者になって見ようと思います。」
「そうか。それでは、冒険者ギルドと話をしておく。まずは、冒険者初心者講習を受けてくれ。」
「初心者講習ですか。」
「ああ、受けなくてもいいんだが、君は冒険者としての基礎ができてなさそうだから必要だろう。危険な職業だから受けることを勧める。」
「わかりました。」
「そうそう、君が昨日泊まった宿の部屋は、とりあえず、1ヶ月は泊まれるようにしておくから、それまでに独り立ちできるようにがんばってくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
その後、この世界について説明があった。おおよそライトノベルに出てきそうな設定そのままであった。この世界の特徴としては各地に天狐のような巨大な力を持ったモンスターがいるということだった。氷の国の大狼、西の大国ヴェガロニアの吸血鬼、海洋大国のリヴァイアサンなどが有名らしい。彼らはすべてが邪悪な魔物ではなく、天狐のように神獣として崇められているものもいる、ということだった。
神様も存在するようだ。時々、神託が下ることがあるようだ。「神様が降臨された」という話はここ数百年聞かないようだ。一番有名なのは主神ユナスで、その教えをユナス教という。現在、この世界の8割以上の人が信仰しているそうだ。
後は、奴隷制度である。この制度はこの世界でもあった。ライトノベルお馴染みの制度である。ハーレムを目指す主人公が美少女奴隷を購入していく、と。・・・今のところ使う予定のない制度だな。
冒険者ギルドには、明日行くことになった。ハヤトさんに「この世界の常識基礎編」という本を渡された。困った時に読むように言われた。本当は一冊丸ごと覚えた方が良いのだろうが、さすがに面倒くさい。困った時に読むことにしよう。
「クリン。これからどうする?」
俺はクリンに尋ねる。クリンは昨日の夜から子キツネのふりをしてとても大人しくしている。
「サクラ兄ちゃん。俺、外に出てモンスターと戦ってみたいんだけど。」
意外な提案だった。なぜモンスターと。俺が不思議がっているとコリンが続けた。
「父ちゃんに力を制限されているから、力が上手く使えないんだ。今、どのくらいの力が出せるか知りたいんだ。」
「危なくないのか?」
「わかんない。」
ハヤトさんに相談すると、西門から出てすぐに弱いモンスターが出るので、そこなら大丈夫だろう、とのことだった。ハヤトさんは念のため、と木剣を貸してくれた。人生初めて手にする武器だった。
西門から外に出ると街道がずっと続いている。周りは見渡す限り草原だ。クリンはテクテク歩いていく。すぐにモンスターは見つかった。ウサギのモンスター?だ。
「ちょっと、やっつけてくるね。」
クリンはそういうとウサギに向かって突進していき、爪を振るう。一撃だった。クリンは不満そうに足を振っている。
「もうちょっと試してみてもいい?」
「いいよ。でもちょっと待ってね。」
ハヤトさんが肉はお金になる、とカバンを渡してくれていた。俺はいそいでウサギをカバンにしまう。本当はここで解体をした方がいいのだろうが、やり方をしらない。カバンが少し重くなる。
しばらくして、2匹目のウサギに遭遇する。やっぱり、クリンは一撃で倒した。今度は嬉しそうに鳴く。どうやら満足したようだ。
「今度は魔法で倒してみるね。」
まだやるのか。ウサギをカバンにしまう。カバンが大分重くなる。
今度はウサギが2匹一緒に現れた。クリンが何か唱えるとクリンの頭上に炎が2つ現れた。炎はウサギに飛んでいき、ウサギの丸焼きを2つ完成させる。こんがり焼けておいしそうだ。
「あれ、消し炭にならなかった。」
クリンが物騒なことをいっている。ウサギの丸焼きを2つカバンに入れるとカバンはいっぱいになった。かなりの重さだ。
「クリン。悪いけど、これ以上は持てないから帰るぞ。」
クリンはまだ試したかったようだが、言うことを聞いてくれた。クリンによると、運動能力は半分ぐらい、魔法に至っては十分の一ぐらいまで威力が落ちているそうだ。弱い魔物には勝てるがちょっと強くなると難しいそうだ。元々のクリンの実力はどんなだったんだろう?
ウサギは少し大型で、重さが1匹4kg前後だと推察される。4×4=16kgか。重いはずだ。門に着いた時、かなり体力を消耗していた。いままで運動をしてきたことがなかったので、16kgを担いで動くのはかなりしんどかった。帰り着くことができたのは狐の加護の身体強化+3%のおかげかもしれない。
ハヤトさんにウサギの肉を見せると、この程度ならとサポート協会で引き取ってくれた。ウサギ1匹100ゴールドで400ゴールドとなった。これが高いのか安いのかは分からないが、これからお世話になるので細かいことは気にしないことにした。木剣とカバンはプレゼントということだった。