外伝1 クリンの旅立ち
本日2話投稿。1話目です。
「クリン。クリンはどこだ。」
狐の里に天狐の声が響き渡る。真夜中であったため、寝ていた狐たちが驚いて目を覚ます。一匹の老いた狐が近づくと天狐の前で頭を下げる。
「クリン様はいつもの場所で眠っておられます。呼んでまいりましょうか?」
「いや、我が行こう」
そう言うと、天狐は里の奥に進んでいく。その後ろを老いた狐がついて行く。
ボクはいつものベットで寝ていた。里の奥に位置する大きな巨木の根本に藁を敷き作った特製べっトだ。今日のように風の気持ちいい夜はここで寝ることにしている。
「あれ、とうちゃんが呼んでる?」
遠くから聞こえる天狐の声によりボクは目を覚ました。どうしたんだろう。普段は夜に自分を起こすことはほとんどない。何かあったのだろうか。クリンはベットから下りると背伸びをする。空を見上げるとたくさん星が煌いている。クリンが星を眺めていると天狐がやって来た。
「クリン。お前の後見人候補が見つかったぞ。」
「ホント。父ちゃん。」
ボクは嬉しさのあまり、無意識に尻尾をブンブン振っていた。
「先ほど狼共を追い払ったときに見つけた。今、平原の真ん中で眠っておる。」
「父ちゃん、どんな人?」
「よく知らん。だが、おそらく転移者だ。」
「ふーん。じゃあ、見てきてもいい?」
「ああ。行って見てこい。お前が気に入ったら、俺の元に連れてこい。それと、そいつにはこの手紙を渡せ。」
「これで、里の外に出れるんだね。」
狐族は12歳になると1年間旅にでる。成人の儀だ。過保護な父ちゃんはボクの後見人探しに躍起だった。後見人とは旅の間、ボクの手助けをしてくれる人らしい。詳しいことは分からない。探し始めてしばらく経つが、やっと候補者が見つかったようだ。ボクはすぐにでも旅に出たいのに。
ボクは手紙を受け取ると外に向かおうとしてあることに気づく。
「ねえ、父ちゃん。外に出て何をすればいいのかな?」
「自分のしたいことをすればいい。」
「自分のしたいこと・・・。なんだろう?」
「それなら、したいことが見つかるまでは、後見人がすることを手伝ってやれ。」
「・・・うん。わかった。それじゃ、行ってくるね。」
ボクは里を飛び出した。とりあえず、平原の真ん中を目指した。そこに寝ている人がボクの後見人になってくれるそうだ。しばらく進むと、人間が魔物と戦っていた。ネズミの大きいやつだ。あいつ等、嫌いなんだよな。ボクは炎の魔法を唱える。ネズミは一瞬で燃え尽きる。あの人間、びっくりして腰をぬかしてるな。ボクたち狐族は炎の魔法が得意だ。あの程度の魔物なら、ボクでも一撃で倒せる。ボクは強いんだ。
さらに平原を走っていく。そろそろ平原の真ん中のはずだ。あそこ光ってるな。きっとあそこだ。近づくと、父ちゃんの結界の中に人間が一人倒れていた。この人が後見人か。あれ、後ろに何かいる。
「坊ちゃん、やっとお着きになりましたね。」
そこには先ほどの老いた狐がいた。
「なんだじいやか。びっくりした。・・・あれ?じいや、ボクが出かける時に父ちゃんの後ろにいなかった?」
「坊ちゃんが出発した後、天狐様の命令でここにきました。」
「なんで先に出たボクより先に着いてるの。」
「まだまだ、坊ちゃんには駆けっこでは負けません。」
どうやら追い抜かれたようだ。いつかじいやより早くなってやる。
「坊ちゃん、この男が後見人の候補者です。どうですか?」
ボクは男をじっくり観察する。尻尾はない。耳は頭の横にある。匂いは・・・なんか懐かしいな。横に居ると安心する。こんなことは初めてだ。ボクは無意識のうちに背中をこすりつけていた。
「どうやら、この方で大丈夫なようですね。坊ちゃん、お楽しみのところ申し訳ありませんが、移動しますよ。」
じいやは背中に男を乗せると移動を始めた。ボクはそれについていく。
「ねえ、どこに行くの?」
「街です。人間は街で暮らしています。」
「そっか。」
それから何事もなく街までたどり着いた。じいやは街の門の近くに男をおろした。
「それでは坊ちゃん。私はこの辺でお待ちしておりますので、天狐様と会わせるときは、この東の平原にお連れください。」
「うん。わかった。」
じいやの姿が消えた。おそらく、幻影の魔法で姿を見えなくしたんだと思う。空を見るともうすぐ夜があけそうだった。男はまだ起きそうにない。そういえば、真夜中に起こされて、あまり眠ってないな。そう思うと眠くなってきた。ちょっと寝るかな。ボクは男の影に入ると眠りに落ちた。