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6 クリンの主人になりました

「ヨシツネ?」

「我の名だ。800年程前、陸奥国で出会った武士の名だ。別れるときに名を貰った。」

 源義経のことだろうか。800年前なら時代的にも合う。

「サクラよ。我の名は口外するでないぞ。」

 天狐が睨みながら言ってくる。声にはドスが効いている。これは警告だ。おそらく喋れば命はないだろう。額に冷や汗が流れ落ちる。

「クリンの名前は?」

 俺はおそるおそる聞いてみた。

「それは構わん。真名ではないからな。」

「真名?」

「そのものの魂に刻まれた名だ。真名を知られるということは相手に全てを知られるということだ。我らにとっては命を握られた、ということに等しい。」

「えっ、それなら・・・」

 天狐(ヨシツネ)と知られたのはまずいんじゃないか?

「心配するな。ヨシツネは真名ではない。真名に近いものではあるがな。」

「分かりました。恩名は一切口外いたしません。」

 天狐は満足そうに頷く。

「加護について説明しておこうか。今までの加護は健康長寿と狐族の友の二つだ。」

 ・・・健康長寿。なんだか神社の御守りみたいだ。狐族の友とはどんな効果だろう?

「狐族の友の効果はお前を狐族が友人として見ることだ。クリンがお前にすぐに懐いたのも、我が昨日助けたのもこの加護を持っていたからだ。」

 そういえば、昨日助けられたお礼を言ってなかった。俺がお礼を言うと天狐は「いまさらか」と笑った。

「さて、新たな加護の効果は今までの二つに加えて、ステータス強化+3%だ。」

 何かいきなりRPGぽい効果がきたな。ただ、たった3%か。物語なら+1000%とかチート級の効果が貰えそうなんだか・・・。仕方ないか。ないよりはましか。

「あまり気に召さないようだな。まあ、狐族との友好度が上がったら、5%、8%、10%と上げていってやる。」

 何か消費税のようになってるな。まあ、この効果は気にしないでおこう。

「分かりました。有難く使わせて頂きます。」

 俺がお礼を言うと、天狐は満足げにうなずく。そしてクリンの方を向く。

「クリンよ、聞いての通りだ。今日から1年間、里に戻ることを禁じる。外の世界で見聞を広めてこい。」

「うん」

 クリンが元気に頷く。

「それと、もう一つ・・・。成人の儀に当たって、お前の能力は大幅に制限される。」

「そうなの?」

 クリンは知らなかったようだ。首を傾げている。

「うむ。力の強い狐はそのまま外の世界に出ても、なかなか見聞を広げられないからだ。」

「うん。分かった。」

 クリンは元気に頷く。その瞬間、クリンの体を何かが包み込んでしまう。おそらく力を制限されたのだろう。

「後は、サクラと主従関係を結べば終わりだ。」

 主従関係?聞いてないのだか?

「サクラ様。成人の儀の後見人が人間の場合、主従関係を結び、従魔となるのが慣例です。お願いします。」

 またまた老紳士が解説をしてくれる。これは、するしかないか。

「クリン、今から1年、俺の傍で助けてくれるか?」

 俺の問いにクリンは元気よく頷く。それと同時にクリンの首に黒い首輪が現れる。それと同時に俺とクリンは東の平原に戻されていた。



「兄ちゃん。早く帰らないと、門が閉まっちゃうよ。」

 辺りを見渡すと周囲は薄暗くなってきている。俺は慌てて街の方に歩き出す。クリンが俺の後をテクテク着いてくる。

「どうしたんだ?影に入らないのか?」

「さっきからやろうとしてるけど、できないんだ。」

 クリンがしょんぼり答える。力の制限のせいだろうか。クリンの力がどのくらい制限されているのかは後で調べた方が良いだろう。

 門にたどり着くと門番の人が待っていた。

「良かった。無事に帰って来たな。もうすぐ閉門時間だ。入街手続きをするから身分証を出してくれ。」

 俺は身分証をかざすと水晶が光る。

「これで完了です。ところで、その狐はどうしたんです?」

 門番がクリンの方を見て尋ねてくる。出る時はクリンは俺の影の中に居たので見たのは初めてか。

「ああ、この子は・・・」

「ボクはクリン。サクラ兄ちゃんの従魔だよ」

 俺の言葉を遮って、クリンが門番に自己紹介をする。

「賢い狐ですね。従魔の証の首輪もしてあるので問題ないです。ただ、この子が問題を起こすと主人のサクラさんの罪になるので気を付けてください。」

「ボクは悪さなんてしないよ。」

「わかってるよ。規則でね。初めての人には言わないといけない決まりなんだ。ごめんね。」

 門番はそう言うとしゃがんでクリンの頭をなでる。クリンは嬉しそうに尻尾を振っている。

「それでは、街に入りますね。クリン、そろそろ行くぞ。」

 俺は門番に別れの挨拶をすると歩き出す。クリンは慌てて俺の後をついてくる。


 これからどうしようかと考えていると怪しい男が話しかけてきた。

「あなた、転移者ですよね。私、転移者被害者の会のキームといいます。」

「はあ、」

「私の曽祖父も無理やりこの世界に転移させられて苦労してきました。我々被害者の会は国に損害賠償と我々の生活の保護を求めて日夜活動をしております。貴方も私達と一緒に戦いましょう。」

 なにか凄く怪しい人が話しかけてきた。こういう人に関わってはダメな気がする。

「すいませんが、お断りします。」

「いえいえ、とりあえず会の本部に来てください。お話だけでも聞いてください。」

「お断りします。」

「まあそういわずに」

 どんなに断ってもしつこく食い下がってくる。しつこい。殴ってしまおうか、などと考えていると向こうから砂ぼこりが近づいてくる。あれは騎兵か?それを見ると男は慌てて去っていった。

 近づいて来たのはやはり騎兵だった。彼は馬から降りると話しかけてきた。

「そこのもの。大丈夫か。馬鹿どもが違法な勧誘をしていると聞いてきたんだが。」

「ありがとうございます。大丈夫です。助かりました。すみませんが、どちら様ですか?」

「君はまだ来たばかりのようだな。私は街の守護隊の隊長のハッシュブルクだ。」

「私は相川桜(あいかわさくら)といいます。昨日転移してきたばかりです。」

 俺は自己紹介をすると、転移者被害者の会について聞いてみた。ハッシュブルクさんの話によると転移者の子孫という理由だけで国に金をたかろうとする集団だそうだ。やっぱり、ろくでもない組織だった。

「ところで、昨日転移してきたなら、サポート協会の奴らはどうしたんだ。護衛についてないのか?」

 そういえば、ハヤトさんはいないな、と思っていると、ハヤトさんが門の方からやってきた。

「ハッシュブルク殿、お手数かけたな。申し訳ない。我々はあの団体とはもめているので手を出しづらかったんだ。」

「なるほどな。事情はわかった。」

 ハヤトさんの説明にハッシュブルクさんは納得すると帰っていった。ハヤトさんはハッシュブルクさんを見送ると俺の方に向き直り謝りだした。

「サクラさん、すまんな。あそこは」

「いいですよ。危険はありませんでしたので。」

「そう言ってくれると助かる。ところで、東の平原で何をしてたんだ?」

「ああ、それは・・・」

 俺は天狐に新たな加護をもらい、クリンの面倒をみることになったと伝えた。

「そうか。大変そうだが頑張れよ。」

 彼と話をしていると、彼が俺のことを心配してくれていることがよくわかる。今日あった人でサポート協会を悪く言う人もいなかった。俺は決心をする

「・・・ハヤトさん。提案されていた話ですが、しばらくお世話になりたいのですが、よろしいですか?」

「えらく早く決めたな。こちらとしては問題ない。これが俺たちの仕事だからな。」

「それではしばらくの間、よろしくお願いします。」



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