4 この世界にも冒険者ギルドがあった
街に出てみると、ここが異世界であることがよく分かる。石畳の大通りに木造の建物が整然と並んでいる。武器屋、防具屋、宿屋などRPGのゲームに出てくるような看板がいくつも立てかけられている。大通りの先に石造りの大きな建物が見える。おそらく領主の館だろう。
それにしても、美しい街並みだ。例えるなら、中規模の中世ヨーロッパの街並みといったところであろうか。違うところと言えば、明らかに魔法で創造されたと思われるオブジェがいくつ見て取れる。その一つが街の上空に浮かんでいる物体だ。間違いなく宙に浮いている。それともう一つが、亜人の存在だろう。獣人、エルフ、ドワーフと思われる人々が街の中を行きかっている。彼らを見ただけでも俺は異世界にいることを実感できた。
「おう、兄ちゃん。あんた、こっちの世界に来たばかりか?」
いきなり、通りがかりの獣人に声を掛けられた。
「ああ、どうしてわかった。」
「そりゃ、わかるさ。サポート協会の前で見知らぬ奴が茫然と突っ立っていたら、普通そう考えるだろ。」
どうやら、転移者サポート協会は街の人にそれなりに認知されている組織のようだ。
「転移者はよく現れるのか?」
「いや、見たのはあんたが初めてだ。そうポンポン現れるもんじゃねえぞ。まあ、有名になった転移者の名前は結構聞くがな。まあ、兄ちゃんがんばれよ。」
そういうと獣人は去っていった。
獣人と別れた後、俺はしばらく辺りを散歩することにした。しばらくして、見えてきたのは冒険者ギルドであった。これは間違いなくあの冒険者ギルドだよな。ファンタジー系の小説には必ずと言っていいほど出てくる冒険者をまとめる組織だ。この世界にもあるんだ。俺も高校生の時はライトノベルを読み漁ったものだ。もちろん、冒険者には憧れた。中に入ってみても大丈夫だろうか。ライトノベルではゴロツキ上がりの冒険者が入ってきた主人公に絡んでくるシーンが多々ある。俺も入ったら、絡まれるよな。怖いけど、中が気になる。
俺は誘惑に負けて、ちょっと中を覗いてみた。正面にはカウンターがある。二人の女性が座っている。おそらくあそこが受付だろう。うん。受付さんは二人とも美人だ。受付の横にあるボードがある。あれが依頼を張り付けるボードだろうか。あとは、いくつ机と椅子がおいてあり、冒険者と思われる人が何人か座っている。うん、規模こそ小さいがイメージ通りだ。
俺が入口でこそこそしていると、後ろから声を掛けられた。
「おい、ギルドに何かようか。」
振り向くと目つきの鋭い男が立っていた。身長は180ぐらいだろうか。細身の体だがよく鍛えられている。武器はもっていないが、かなりの実力者だと思われる。たたずまいに凄みがある。
「いや、あの、どんなところかちょっと気になりまして。」
俺が答えると男は疑問の目を向ける。
「そんなにギルドが珍しいのか?こんなの普通だろ。」
なんかどんどん疑われている気がする。こういう時にハヤトさんは助けてくれるんじゃなかったのか。辺りを見渡すが、ハヤトさんの姿が見えない。ハヤトさん、どういうことですか。どんどん自分の挙動が怪しくなっていってる気がする。
「怪しいやつだな。ちょっと来てもらおうか。」
俺は腕を掴まれると、男に無理やりギルドの中に連れていかれた。
「マスターはいるか?入口で怪しいやつを捕まえたんだ。」
男がそう言うと、受付の一人が急いでおくの部屋に走っていく。ギルドマスターを呼びに行ったのか。もう一人の女性はこちらに寄ってくる。
「ライカーくん。暴力はだめよ。いくら怪しいからと言って。」
「レイラさん。暴力はまだ振るってないよ。」
ライカーと呼ばれた男はそういとと慌てて、腕をつかんでいた手を離す。顔には冷や汗をかいている。
「そう、ならいいけど。で、君はギルドに何の用?2~3分程前から中を覗いていたけど。」
レイラと呼ばれた女性は俺の方に向き直ると質問してきた。ん、2~3分程前から?どうやら、俺の行動は中の人にはバレバレだったようだ。
「いや、どんなところか気になったもので。」
俺は正直に答えたが、やっぱり疑惑は晴れていないようだ。
「こんなギルド普通でしょ。子供が憧れるならわかるけど、大人にもなってその言い訳が通じると思うの。正直にいいなさい。」
さらに追及してくる。どうしよう。転移者であることを言って大丈夫なのだろうか?俺が思考を巡らせていると、意外なところから助け船がきた。
「レイラ。彼は昨日来たばかりの転移者だ。初めてギルドを見たんだ、興味を持ってもしかたないだろ。」
奥から白髪の筋肉質な男がやってくる。後ろには先ほど奥に入っていった受付の女性がいる。彼がギルドマスターだろう。
「彼がそうなんですか。」
レイラと呼ばれた受付の女性は驚きの声を上げると、俺の方を向き頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。レイラと申します。これからよろしくお願いいたします。」
「あんた転移者だったのか。それならそうと言ってくれよ。悪かったな。俺はライカーだ。C級冒険者だ。よろしくな。」
2人は俺に謝罪すると自己紹介をしてきた。
「俺は相川桜です。」
「サクラか。よろしくな。手続きが済んだらギルドを案内するぜ。」
「すぐに手続きをしましょう。」
なんか俺がギルドに入ることになってないか?まだ入ると言ってもないんだが・・・。どうしよう。
「2人とも。彼はまだギルドに入るとは言ってないぞ。気が早すぎだ。」
ギルドマスターが助けを出してくれた。助かった。
「そういえばそうだな。早とちりしてすまん。確かに、昨日来たばかりならサポート協会の研修も受けてないよな。研修を受けた後、ギルドに興味があったらまた来てくれ。」
俺は挨拶をするとギルドを後にした。ここでも転移者サポート協会の名前が出てきた。評判は悪くない。どうやらちゃんとした組織のようだ。