2 転移者サポート協会
目が覚めると、俺はベットに横たわっていた。体を動かそうとすると痛みが走る。この痛みが先ほどの大狐と大狼の戦いが現実であったことを証明している。体を起こし、周囲を観察する。木造の質素な部屋で、ベット以外何も家具が置いていない。扉は一つしかない。窓はあるが鉄格子がしてあり外に出られない様にしてある。牢屋というには言いすぎである。軟禁室といったところだろう。
「すみません。誰かいますか。」
叫んでみたが返事はない。扉の向こうで人が動く気配はする。しばらくすると、隣の部屋から人が入ってきた。上等な服を着ているが、服装から見て現代日本の服装ではない。やはり、まだ異世界にいるようだ。
「目が覚めたようだな。体調は大丈夫か?」
「はい、助けてもらったみたいで、ありがとうございます。」
「君が街の門の近くに倒れているのを発見されて、ここに連れ込まれたのだ。俺の名前はハヤトだ。君は?」
「桜です。助けていただいてありがとうございます。」
「で、サクラ、君はどこから来たんだい?」
俺は返答に窮した。素直に言っていいのだろうか?「異世界からきました」などと言うと、変人扱いされるか、悪ければ悪魔とか魔族などと言われて処刑される可能性があるのではないだろうか。慎重に答えないといけない。かと言って無言でいるのもまずいか。
「えっと、東の方からです。」
俺は曖昧に答えた。とりあえず、様子をみることにした。
「心配いらないよ。君は異世界から来たんだろう。来ていた服を見ればわかる。東の方か。・・・君は日本人かい?」
いきなり見破られた。しかも、日本のことも相手は知っているようだ。日本と交流があるのだろうか?日本にいる時はき聞いたこともないが。
「警戒しているな。私は転移者サポート協会のメンバーだ。まずは話を聞いてくれ。この世界では異世界から人が迷い込んでくることがある。えっと確か地球という世界だよな。人が転移してくることは稀なんだが、少なくはない。転移してきた彼らを助けるのが我々転移者サポート協会だ。」
「どうして日本人だと?」
「ああ、黒髪・黒目だからだよ。あと、東の方とか東の海の向こう、って誤魔化す人は日本人が多いって、マニュアルに書いてあるんだ。」
「マニュアルですか。」
「ああ、この協会の初代会長が日本人なんだ。その人がマニュアルを作ったんだ。」
「その人とお会いすることはできますか?」
「もう、百年程前に亡くなったよ。」
百年!かなり昔からある組織のようだ。しかも、彼が亡くなったということは元の世界には帰れなかったということだ。
「それにしても、冷静だな。普通こんな状況だと、ここまで冷静ではいられないぞ。」
「これでもびっくりしてますよ。」
「俺が以前あった転移者は話を聞くと半狂乱になったぞ。まあいいか。この世界はお前たちがいた世界とはかなり違っている。風習や文化もだか、こちらの世界では魔法が発達し、魔物や精霊などが存在する。俺たちは転移者がスムーズにこちらの世界で生活できるようにサポートする団体だ。」
彼の言っていることは何となく理解できた。しかし、なぜ転移者を保護するんだろうか。裏があるのだろうか。今の話だけでは説明がつかないところがある。
「納得していないみたいだな。元々この組織は転移者が転移者を救うためにできた組織なんだ。この世界は魔法で栄えた文明で君たちの科学で栄えた文明の情報はとても貴重なんだ。そのため、昔は転移者を捕らえられていたんだ。無理やり情報を聞き出すためにな。」
そういうと彼は一息ついた。すまなそうに視線を下に落とす。先祖のしていたことだが、彼は責任を感じているようだ。
「昔の話でしょう。今は違うんですよね。気にしないでください」
「そう言ってくれるとありがたい。・・・話を戻すぞ。110年ほど前は転移者狩りがピークの時期でな。転移者をめぐって戦争まで起こっていたんだ。そのためこの世界は滅びかけたんだよ。」
「戦争でですか?」
「戦争が主な原因ではないんだが。まあ、それで世界の7つの大きな国の代表が集まって転移者に取り扱いの取り決めを行ったんだ。その時各国の仲介をしたのが転移者サポート協会の前身の組織だったんだ。」
「だいたいは分かりました。お聞きしたいんですが、転移者はどのくらいいるんですか?」
「詳しくは分かっていないが、そんなには多くない。2世、3世や自称の人は多いがな。」
「自称ですか。」
「ああ。厄介な奴らだ。お前にも接触してくるかもしれんが気をつけろよ。」
「はあ。」
「本来の話に戻るぞ。俺たち転移者サポート協会の役割だが、転移者への教育と職業支援と見舞金の支給だ。期間は最大半年となっている。もちろん、断ることも可能だがお勧めしない。返事は今すぐでなくていい。3日以内に決めてくれ。他の人の話も聞きたいだろうしな。希望するなら、その間の護衛も付けることが可能だ。」