14 スライムの核抜き
「で、サクラ。どうする?」
次の日、ギルドに行くとベルクさんに尋ねられた。
「どうするとは?」
「決まってるだろ。昨日、レッドリザードを討伐しただろう。」
「はあ。」
「目的のレベルには達したんだ。1ヶ月の予定だったが、今日で指導を終わってもいいぞ。」
そうだった。この指導は期間が1ヶ月で目標はレッドリザード討伐だった。
「サクラお兄さんとお別れですか。」
「いいんじゃねーの」
フランは悲しそうにしている。シークはいつも通りだ。
どうしようか。そういえば、突きは教わってなかったよな。
「あの、できればもうしばらく教わりたいんですが。突きの仕方も教わってないですし。」
「突き?そういえば、教えてなかったな。そうだな、折角だし他の技も教えてやるよ。」
「ありがとうございます。」
「お兄さんとまだ一緒にいられるんですね。」
「ああ、フランよろしく。」
こうして俺はもうしばらくベルクさんに指導を受けることになった。
今日もまた、素振りであった。毎日毎日素振りである。ただ、いつもと違うことが2つあった。一つは「突き」の素振りが増えたことと、もう一つは討伐依頼に誘われたことだった。
「サクラ、俺たちは午後から魔物の討伐に行くが、お前も一緒に来るか?」
どうやら、訓練後すぐにいなくなるのは討伐依頼に行っていたからだったようだ。
「いいんですか?」
「ああ、お前もそろそろ次のステップだ。いろいろなモンスターとの実戦はいい経験になる。」
「それでは一緒に行かせてください。」
もちろん、フランは大喜びで、シークは不満顔だった。
「皆さん、お疲れ。」
ギルドに戻るとレイラさんが声を掛けてくれる。レイラさんはいつも明るく声掛けをしてくれるので、男性冒険者の中にはファンが多いそうだ。確かにそうだろう。
「おう、レイラ。今日も討伐依頼を頼む。それと、今日からサクラも加わることになった。」
「サクラ君もですか。今日は、大ムカデをお願いしようと思ってたんですけど、やめた方がいいですね。」
大ムカデはこの辺ではかなり強い部類のモンスターだったはず。巨大で毒もあり、堅かったはずだ。レイラさんから貰った周辺のモンスター分布にそう載っていたはずだ。ちょっと怖いな。
「確か、ビックスライムの討伐依頼があったと思うがまだ残ってるか?」
「ビックスライムですか。ええ、残ってますけど、サクラ君の武器って木剣ですよね。いいんですか?」
「ああ、いい練習になる。」
「わかりました。それでは受理しておきます。」
レイラさんはそういうと俺たちにいくつかのビンを手渡した。
「スライムの体をこれに入れて持って帰ってきてください。」
そういうと、事務手続きに入った。
スライム系の討伐証明部位はないそうだ。そのため、スライムボディーを専用の容器で取ってくるそうだ。スライムボディーは結構高値で売れるらしい。
ビックスライムの生息地は東の森の中にある洞窟だそうだ。当然、東の森を通るわけで、レッドリザードに遭遇した。
「サクラ、突きの練習だ。やってみろ。」
俺はレッドリザードの目に向かって突きを放つ。今日習ったばかりの技だ。どれほど効くんだろうか。俺の木剣は狂いなくレッドリザードの右目に突き刺さる。レッドリザードは激しく痛がり、拍子でひっくり返ってしまう。柔らかそうな、のどが丸見えだ。俺は木剣を喉に突き刺すとあっけなく倒すことができた。
・・・昨日の苦労はなんだったんだろうか。
「まあまあだな。どうだ。突きの感想は」
「そうですね。昨日知っておきたかったですね。」
「すまん、すまん。まあ、威力はわったろう?外すとピンチになるから慎重に使えよ。」
「わかりました。」
俺は爪と牙を採ると洞窟を目指した。
洞窟はすぐに見つかった。まあ、ベルクさんは来たことがあったのだろう。
「よし。確認だ。スライムの特徴はなんだ。シーク。」
「ゲル状のモンスターで中に核が1から複数個あり、それにより形作られているモンスターです。その強さは大きさに比例し、ゲル状物質によってその種類が決まってきます。」
「正解だな。今回のビックスライムは普通のスライムのちょっと大きいやつで倒し方さえ知っていれば大したことない。フラン、倒し方は?」
「はい、核を物理的に砕くのが一般的です。魔法の場合、ボゲィの物質を爆散させる恐れがあるため、注意が必要です。」
「と、いう訳で、魔法は気を付けるように。」
とクリンの方を見る。なるほど、炎の魔法の場合、爆散する可能性があるのか。クリンの顔を見てもわかってなさそうだな。
「クリン、今日は魔法を使っちゃだめだからな。」
俺がクリンのそう言うと、クリンは「わかった」と答え尻尾を振っていた。
洞窟の中には小さいスライムをたくさんいた。ベルクさんは全く気にせず進んでいく。邪魔なスライムは文字通り踏みつぶしていた。しばらくすると、開けたところにでた。ここが今回の狩場のようだ。少し大きなスライムが見える。
「まずはシーク。倒してこい。」
「はい。」
シークは自信なさげに返事をすると一匹のスライムに突っ込んでいく。そして、一撃でスライムを四散させてしまう。簡単に倒している。
「またやりましたわ。あのバカ力。」
フランが悪態をついている。そうか。四散させると回収できないのか。シークがしょぽんとしながら返ってくる。
「もう少し、加減を覚えろ。このままだと、集団戦で迷惑をかけることになるぞ。」
ベルクさんの言葉にシークはうなだれている。
「今度は私の番ですね。」
フランはそういうと、スライムに向かって走っていく。フランは何度か剣を振った後、鋭い突きを放った。
おそらく核を貫いたのだろう。スライムの体が崩壊していく。フランは慌てて懐からビンを取り出すと、地面に落ちる前のスライムボディーをビンに入れて蓋をする。
フランは自信満々に帰ってくる。
「サクラお兄さん見てくれました。ああやって、地面に落ちる前に回収すると不純物が入っていないので報酬がいいんです。」
「フランは問題ないな。次、サクラの番だ。」
俺は覚悟を決めて、一匹のビックスライムの前に立つ。近づくとその大きさがよく分からる。核を探すと中央部分に1つだけ見つかった。
「このまま突いても届かないな。」
俺は木剣を振るい、スライムの表面を割いていく。そして、核を狙える厚みになった時、渾身の突きを放った。
コツン。かなりの衝撃が俺の手を襲った。ビックスライムの核って、そんなに堅かったのか?俺は慌てて離れてビックスライムの核を見てみる。
・・・
・・・・・・
「あれ、核がない?」
いくら探しても核が見当たらない。そういえば、スライムも動かなくなったな。地面に目を向けると小石のようなものが転がっていた。核である。
「ほお、核の抜けたスライムか。久しぶりに見たな。」
ベルクさんが感嘆の声を上げている。
「核を壊さずにスライムから弾き出すとスライムが動きを止めてスライムボディーが取り放題になるんだ。だが、壊さずに核をはじくには絶妙な力加減がいるため滅多にできないんだ。鉄だと間違いなく破壊するから。おい、できるだけ回収するぞ。」
ベルクさんはそういうと大量のビンを取り出した。レイラさんに「念のため」と持たされていたそうだ。俺たちはせっせとスライムボディーのビン詰めを作っていく。100本近くはできただろうか。レイラさん、どれだけ渡しているんですか。
「このビンで終わりだな。」
ベルクさんはそう言うと、落ちていた核を拾い、ビンに入れて蓋をする。
「核も持って帰るんですか。」
「ああ、こいつは高く売れる。」
「ギルドの買取部位表にはなかったですよ。」
「スライムの核を取る技術はかなりの難易度なんで、未熟な冒険者には危険なんで載せてないんだ。」
こうして俺たちは大量のスライムボディーを手に街に戻った。
「お帰りなさい。」
ギルドに戻るとレイラさんが明るく出迎えてくれる。
俺たちは大量のスライムボディーと核、それと俺が倒したレッドリザードの爪と牙を提出する。
「すごい量ですね。ベルクさん、スライムの核抜きでも披露したんですか?」
レイラさんが大量のスライムボディーの入ったビンを見て言った。
「いいや、核抜きをやったのはサクラだ。」
「サクラ君がですか。彼、強くなったんですね。」
「まだまだだな。」
「ちょっと待っててくださいね。算定しますね。」
しばらくして、算定が終わった。
「えっとですね。スライムボディーが1本200ゴールドで110本、核が1000ゴールド、リザードマンの爪と牙は100ゴールドですね。合計で23100ゴールドになりますが、配分はどうされます?」
「フラン、シーク、サクラで3等分にしてくれ。」
「わかりました。それでは3人は身分証をお願いします。」
あれ?ベルクさんが頭数に入っていない。俺は疑問に思っていると、シークとフランは当然のような顔で身分証を提示する。
「ベルクさん、いいんですか?」
俺が尋ねると、ベルクさんは笑って答えた。
「気にするな。だいたい俺がこんな低レベルの依頼を受けれる訳がないだろう。指導もボランティアでやってるんだ。新米が気にするな。」
レイラさんを見ると「大丈夫ですよ。」と言ってくれた。俺も身分証を提示する。今日は7700ゴールドの収入か。ベルクさん、ありがとうございます。