13 レッドリザード討伐
東の森は街から歩いて30分程度のところにあった。
「シーク。まずは経験者のお前からだ。レッドリザードが見つかったら、一気に倒せ。」
「はい。」
ベルクさんの指示にシークは元気に答える。
「ちょっと待ってください、ベルク様。1対1で戦うんですか。」
「危険ですよ。」
ラックとハンソンの反論にベルクは不思議な顔をする。
「お前ら、心配するな。レッドリザードは弱い。それと、俺に様を付ける必要はないぞ。」
「は、はい・・・。」
二人の心配をよそに、どんどん中に進んでいく。
レッドリザード。きわめて大人しいモンスターでこちらから攻撃を仕掛けない限り、襲ってこない。攻撃方法は噛みつきと尻尾による薙ぎ払い。鱗は堅いが鉄の剣なら貫ける程度。買取部位は牙と爪。これが俺がギルドで調べた情報だった。
ベルクさんの指導の卒業試験対策として仕入れていた情報だがもう使うことになるとは。
「サクラ兄ちゃん。こっちからトカゲの匂いがするよ。」
クリンがレッドリザードを見つけたようだ。
「お前、レッドリザードを倒したことあるのか?」
「うん。とってもおいしいよ!」
食べるんだ。あれ、肉は買取り部位に無かったような。
「ほお。レッドリザードは食べれるのか?」
ベルクさんも気になったようだ。
「うんとね。たぶん人間は食べれないと思うよ。毒があるから。」
「毒。お前は大丈夫なのか、クリン。」
思わず叫んでしまう。
「大丈夫だよ。弱い毒だから、効かないんだ。」
クリンの言った通り、3匹のレッドリザードを発見した。3匹とも眠っている。
「3匹か。シーク、お前が2匹やれ。もう1匹はフランお前だ。」
「わかりました。父さん。」フランはそういうと武器を手に持つ。
「俺一人で3匹くらい余裕なのに・・。」悪態をつきながらもシークも武器を手に持つ。
二人が慎重に近づいていく。
「シーク。あなたは2匹なんで先制はどうぞ。」
フランはそういうとシークに先制を譲る。なぜ、一緒に攻撃をしないのだろうか。
俺の疑問はすぐに解消された。シークは大剣を振りかぶって手前のレッドリザードに攻撃を仕掛ける。眠っていたレッドリザードは避けることもできず、一刀のもとに真っ二つになる。しかも、攻撃の余波で残りの2匹は吹き飛ぶ。地面に小さな穴までできている。これは一緒に攻撃できない。
吹き飛んだレッドリザードは起き上がるとこちらに向かって威嚇体制をとる。一匹はすぐさまシークのほうに突撃していく。もう一方は、・・・。目を疑った。フランが眉間に剣を突き刺していた。いつの間に、刺したのだろうか。シークに突撃したレッドリザードはもちろん真っ二つにされていた。
「このようにレッドリザードを武器で倒すときは、相手の防御を上回る威力で攻撃するか、鱗のない部位を突き刺せばいい。3人ともわかったか。」
シークの馬鹿力は真似できない。となれば、鱗のない部分を攻撃するだけなのだが、フランも参考にはできない。少なくとも俺には見えなかった。
ラックとハンソンも戸惑っていた。あまりにかけ離れた技を見せられたため、驚きのあまり固まっている。しかし、二人ともすぐに立ち直り対策を見つけたようだ。俺も考えないと・・・。あれ?
「あの、ベルクさん。俺の武器だと、どちらも難しいのではないですか?」
そう、俺の武器は木剣だ。一撃で倒すのは厳しい。かと言って、鱗のない部分を攻撃してもどれだけダメージが与えられるかわからない。
「お前は、どこでもいいからひたすら攻撃しろ。数撃てば、そのうち倒せる。そのための素振りだ。」
これは、ひたすら頑張れ、ということか。憂鬱になってきた。
「よし。次を探すぞ。」
シークとフランが買取部位の牙と爪を採取すると次のレッドリザード探しが始まった。とは言っても近づいたらクリンが見つけてくれるので楽だ。
「兄ちゃん、今度はこっち。大きいのがいるよ。」
しばらくして、クリンがまた発見したようだ。しばらく進むと、4匹のレッドリザードがいた。確かに一匹は少し大きい。
「よし。それではお前たち3人、頑張って倒してこい。」
ベルクさんはそういうと腕を組んだ。
「ベルクさん、相手は4匹なんですが・・・。」
俺がベルクさんにツッコんでいると、ラックとハンソンが動き出した。
ハンソンは矢をどんどん撃っていく。狙っているのは顔みたいだ。顔には、眉間、目といった急所がある。ハンソンは簡単に一匹を討伐できた。
ラックは槍を握りしめると正面から突っ込んでいく。シークのように一撃で倒そうとしているのだろうか。レッドリザードは反撃しようと大きく口を開けて噛みつこうとする。ラックは口の中に槍を突っ込んだ。槍は見事にレッドリザードを貫いていた。
・・・出遅れた。残るは俺だけだ。相手は2匹。しかも1匹はでかい。しかも、俺の武器は木剣。どうしよう。
「兄ちゃん、お腹すいたからボクが一匹貰うね。」
そういうと、クリンは走っていく。そして、炎の魔法を唱え、レッドリザードを丸焦げにする。クリンがもう一匹のレッドリザードを睨むと、レッドリザードは後ずさった。
「兄ちゃん、大きいのは兄ちゃんに残しとくね。」
そういうと、丸焦げになったレッドリザードをむしゃむしゃと食べ始めた。
「おい、サクラ。後はお前だけだぞ。」
ベルクさんの言葉に俺はしかたなくレッドリザードに戦いを挑んだ。
俺は素振りしかしていない。できることは、木剣をレッドリザードに叩きつけるだけだ。飛びかかってくるレッドリザードをかわし、横から頭を木剣で叩く。右腕を振りかぶってくると、躱しつつ右腕を木剣で叩き落とす。尻尾で薙ぎ払ってきたら、一度後ろに躱して、するどく踏み込んで木剣で頭を叩く。躱しては叩き、躱しては叩きを繰り返していく。そして30分後、なんとか倒すことができた。
「えらく時間が掛ったな。待ちくたびれたぞ。」
ベルクさんは文句を言ってきたが、俺はそれどころではなかった。はっきり言ってきつかった。体力的にもそうだが、精神的にもきつかった。
「サクラお兄さん、お疲れ様です。基本に忠実な剣でしたわ。」
フランはそう言うと俺に、水を渡してくれる。この子は俺にいつも優しい。
クリンは、レッドリザードを食べ終わって近くを散歩していた。俺が倒し終わったのを見て、トコトコ戻ってきている。
「あの、その木剣、普通の木剣ですよね。」
ラックが俺に聞いてきた。普通でない木剣ってあるのだろうか。俺は「ほら、」と木剣を手渡す。
「普通ですね。よく、これでレッドリザードをあれだけ叩いて、折れなかったですね。」
ととても不思議がっていた。
ギルドに戻ると会議室で反省会が行われた。
「まずはシーク。お前からだ。最初の一撃。力が強すぎる。もっと加減を覚えろ。」
「はい。」
シークはしょんぼりしている。おそらくあの一撃、見せ場と思って思いっきりしたんだと思う。
「次にフラン。お前は特に問題なかった。」
「ありがとうございます。」
フランは嬉しそうに答える。
「次にラック。槍で口の中を狙うと折られる可能性がある。できれば、目や眉間を狙った方が良かった。」
「はい。精進します。」
「次、ハンソン。お前も特に問題ない。かなりの技術だ。後は、もっと自信を持て。」
「は、はい。」
やっぱり少しビビってる。
「最後にサクラ。時間が掛りすぎだ。目をつけばよかっただろ。」
「ベルクさん。俺、突きの仕方は習ってないんですが。」
「・・・そうだったか?」
「父さん、素振りのメニューに突きはなかったわよ。」
「すまん。忘れてた。」
おいおい。忘れてたのかよ。
「ねえ、ボクは?」
クリンがベルクさんに尋ねる。
「えっと、お前は・・・」
たぶん見てなかったな。目が泳いでいる。
「そうだ。食べすぎに注意しろよ。」
「うん、わかった。」
こうして無事に初心者講習は終わり、レッドリザードを倒せた俺は初心者卒業となった。