11 薬草採取は割に合わない
案の定、俺の体は全身筋肉痛だった。痛い身体を引きずってギルドに行くとレイラさんに心配され、シークには馬鹿にされた。
「兄ちゃん、だらしないな。あれくらいで。」
「あら、シーク。あなたは初めて父さんの指導を受けた次の日はベットから出れなかったはずよ。」
フランの言葉にシークは顔を赤くして黙る。
「仕方ない。今日は特別だぞ。」
呆れ顔のベルクさんはそう言うと魔法を唱えた。淡い光が俺の全身を包むと、体から痛みが消えた。
「これは?」
俺が不思議がっているとベルクさんが笑いながら教えてくれた。
「魔法だよ。水魔法の一つで回復魔法だ。」
意外だった。見た目からすると火魔法とかが得意そうなんだが。水魔法。しかも、回復魔法か。
「魔法も得意なんですか?」
「いや、使えるのはこの魔法だけだ。」
「えっ?」
「若い時、剣の修行ばかりしていてな。気がついたら、魔法はさっぱりだった。お前はちゃんと練習しておけよ。」
と言い、豪快に笑っていた。
今日の訓練もやっぱり素振りだけだった。ギルド横の訓練所で行われている。先ほどの回復魔法のおかげか昨日よりも楽だった。それでもきついことには変わりなかったが。
「よし、少し休憩だ。」
昨日はここでリタイアだった。今日はまだ大丈夫そうだ。体は何とか動く。
「今日は大丈夫そうだな。」
「先ほどの回復魔法のおかげですかね。」
「回復魔法にそんな効果はない。たった一日だが、お前の体が少し慣れたおかげだろう。」
ベルクさんはそう言ってれた。フランも「さすがですね。サクラお兄さん。」と褒めてくれた。シークは不機嫌そうに俺の方を見ていた。
しばらくして、素振りが再開した。後半戦の開始だ。また地獄が始まった。この地獄はいつまで続くのだろうか。俺は頭が真っ白になるまで剣を振っていた。
「今日はこれで終わりだ。まさか二日目で訓練についてこれるとは思ってなかったぞ。」
ベルクさんが俺を褒めてくれていたが、俺は疲れていて、それどころではなかった。何も考えれない状態だった。
「サクラ。俺たちはもう行くが、お前はちょっと休んで帰った方が良いぞ。」
ベルクさんはそう言うと帰って行った。
一時間ほど休憩すると、体が動くようになった。思ったよりも時間が掛かった。そういえば、「魔法の練習をしておけ」と言われたな。頑張るか。ついでだから、何か依頼でも受けておくか。俺はギルドのレイラさんの所に向かった。
「レイラさん。今日は依頼を受けてみたいんですが、何か良い依頼はありますか?」
「あら、サクラさん。やっと動けるようになったんですね。フランちゃんが心配してましたよ。後、ベルクさんから伝言です。「討伐系の依頼はやめて、採取系の依頼にでもしておけ。」だそうです。」
「それでは採取系の依頼でいいのはありますか?」
「ちょっと待っててね。」レイラさんはそう言うと、横のボードから二枚の紙を持ってきた。
採取依頼
ランクG
ライム草1本につき、30ゴールド
採取依頼
ランクG
リール草1本につき、30ゴールド
「この街の近くで取れる薬草よ。ライム草は回復薬、リール草は毒消し草の材料ね。」
「どこに生えているんですか。」
「街周辺の日当たりの良い草原に生えてるわ。南門周辺が一番生えているそうよ。」
「それではやってみます。」
レイラさんは依頼受付の手続きをすると、薬草の絵を渡しててくれた。
「サクラ君はこれがないと薬草がどれかわからないでしょ。あと、モンスターには気をつけてね。」
俺はお礼を言うと絵を受け取り、南門に向かった。
南門を出て薬草を探すが、どれも同じような草に見える。ラノベの主人公みたいに何か能力でもあれば、とものすごく思う。試しに鑑定と唱えてみたがやっぱりダメだった。
「クリン。お前、薬草の見分けはつくか?」
「ううん。わかんない。兄ちゃん、頑張って。そのかわり、モンスターが出たら任せて。」
薬草探しにはクリンは役立たなかったがモンスター対策としては頼もしい。
2時間後、ライム草7本とリール草5本を見つけたところで限界がきた。モンスターにも合うことなく、ゆったりとした時間だった。そう言えば、クリンの姿が見えないな。俺を守ってくれるんじゃなかったのか。どこに行ったんだ。
「クリン。そろそろ帰るぞ。」
「はーい。兄ちゃん悪いけどこっちに来て。」
向こうの方からクリンの声が聞こえる。行って見るとウサギが一匹倒れていた。
「サクラ兄ちゃんを襲いそうだったから、倒しといたよ。」
クリンは得意げに胸を張り、頭を突き出す。どうやら、見えないところで守ってくれていたようだ。疑ってごめんね。俺はクリンの頭をなでると嬉しそうに尻尾を振る。
「兄ちゃん。次はこっち。」
クリンについて行くとさらにウサギが一匹。更に大鼠が一匹。・・・・・・。
結局、クリンは2時間の間にウサギを3匹、大鼠を2匹倒していた。レイラさんに聞いた情報だと、大鼠の買取部位はなかったはずだ。俺はウサギ3匹だけを持って街に向かって歩き出した。街まであと少しのところであることを思い出した。そう言えば、魔法の練習をしていなかった。どうしようか。ここで魔法の練習をしてもいいだろうか、などと考えていると、「ピィーッ」という甲高い鳴き声が上空から聞こえた。上を見上げると大きな鷹が飛んでいた。
「兄ちゃん、大ハゲタカだね。ちょっとどう猛なモンスターだね。どうする。」
「強いのか?」
「ボクが倒すなら、たぶん大丈夫だと思うよ。兄ちゃんだと、どうだろう?」
「それじゃあ、魔法の練習をしたいから、あいつに向かってエアショットを唱える。倒せなかったら、任せてもいいか?」
「うん。わかった。」
俺は空に向かってエアショットを唱えてみた。だいたい射程距離さえよく分からない。何も起こらなかった。外れたのだろうか。もう一回唱えてみた。今度は当たったみたいだ。ただ、ダメージはなさそうだ。大ハゲタカはこちらを睨んでいる。敵として認識されたようだ。エアショットはたぶんあと2、3回使えるはずだ。近づいてきたところで連続して撃ってみよう。俺は注意深く大ハゲタカを観察する。大ハゲタカは俺目がけて急降下してきた。いくぞ。俺は連続してエアショットを3回唱える。1発目ははずれた。2発目は掠った。少しバランスを崩す。3発目は命中した。少しスピードは落ちたが、ダメージはなさそうだ。俺の魔法では無理だったか。これはまずいな。全くダメージがないとは思わなかった。大ハゲタカは目前に迫って来る。これは攻撃を受けそうだ、と思った瞬間、黒い影が飛び込んできた。クリンだった。クリンは急降下してくる大ハゲタカに飛びつくとその首に噛みついていた。そして、大ハゲタカをくわえたまま見事に着地する。大ハゲタカは翼をバタバタして暴れていたが、すぐに力がなくなり息絶えてしまった。
俺は安心すると力が抜けて、地面に座り込んでしまった。クリンは大ハゲタカをくわえたままこちらにやってくると、俺のそばに大ハゲタカを置く。獲物を捕まえた猟犬のようだ。
「クリン、助かったよ。ありがとう。」
俺はお礼を言うとクリンは嬉しそうに尻尾を振って頭を出してくる。撫でてくれ、ということか。俺が頭を撫でると体をすり寄せて甘えてくる。
「おーい、大丈夫か。」
門の方から声が聞こえる。門番の兵士の人だ。
「大ハゲタカが襲っていたようだが、怪我はないか。」
どうやら心配して来てくれたようだ。
「大丈夫です。ご心配かけてすみません。」
「で、大ハゲタカはどこに・・・」
彼は俺の横に置かれた大ハゲタカを見て固まる。
「お前が倒したのか?大ハゲタカのランクはEだぞ。」
このモンスター、Eランクだったのか。次から手を出さないでおこう。
「いえ、倒したのはこの子ですよ。」
俺がクリンを指さす。
「この狐がですか。」
門番の兵士は驚く。
「ボク、強いんだよ。」
クリンがしゃべったため、さらに驚いたが、すぐに納得した。
「いやー、まさか転移してすぐに従魔を従えているとは思いませんでした。」
どうやら納得してくれたようだ。この世界の従魔はおそらくどれも強いのだろう。俺は門番の兵士といっしょに街に戻った。
「レイラさん、ただいま。」
「サクラ君、お帰り。どうでした。」
俺は回収したライム草7本とリール草5本を渡す。レイラさんは薬草を確認する。
「結構、大変だったでしょ。なかなか見つからないんですよね。その割に安いから、誰もしたがらないんですよ。」
確かに納得だ。2時間で12本、360ゴールド。割りに合わない仕事だ。
「そうだ。モンスターの買取もお願いします。」
そういって、ウサギ3匹と大ハゲタカを袋から出す。大ハゲタカは買い取ってもらえるかわからなかったため、とりあえず持って帰って来た。レイラさんは大ハゲタカを見て固まっている。本日2人目だ。
「あの、サクラ君。この大ハゲタカはどうしたんですか。」
俺は事の顛末を話すと、レイラさんは「クリンくんってホント強いのね。」とボソッと呟いた。
結局、薬草の納品代として360ゴールド、ウサギ3匹で300ゴールド、大ハゲタカ1匹で1000ゴールドの収入となった。薬草採取はホント割りに合わない仕事だ。
「クリン、今日は何か食べに行こうか。」
「行くー。」
「何が食べたい?」
「うーんとね。お肉。」
ギルドからの帰り、俺はクリンへのご褒美を兼ねて、ちょっと豪勢な夕食を取ることにしたのだった。




