10 基礎は大事だ
「サクラ君、いらっしゃい。こっちよ。」
ギルドに行くとレイラさんが俺を呼ぶ。レイラさんの横には屈曲な戦士が立っている。さらにその横には少年と少女が立っている。戦士は40代ぐらいだろうか。身長は180ぐらいで、赤い髪に褐色の肌が特徴的な男だ。長剣を腰に装備している。レザーアーマーの隙間から見える筋肉は良く鍛えられている。少年は10代後半ぐらいだろうか。銀色の短髪で三角の耳がピンと頭に見えている。獣人だ。少女は10代前半ぐらいだろうか。ショートカットで髪の色は赤だ。戦士と同じ色だ。彼の娘だろうか。目や鼻の形も似ている。
「お前がサクラか。俺はベルクだ。お前の指導教官をしてくれって頼まれたんだが・・・・」
ベルクさんは途中で言葉を止めると俺をまじまじと見つめる。しばらく見た後にため息をつく。
「おい、レイラ。こいつを鍛えて大丈夫なのか?とても鍛錬についてこれるとは思えないぞ。」
「ベルクさん。ちゃんと話を聞いていましたか。サクラ君はとりあえず、戦える程度に鍛えてもらえば十分です。」
「それはどのくらいの強さだ?北の氷の国の狼の群れを倒せるぐらいか?」
「それだけ強かったら超一流ですよ。そうですね。レッドリザード一匹を倒せるぐらいで十分です。」
「レッドリザード?そんな弱いモンスターでいいのか?」
「ここら辺では、レッドリザードの討伐が一人でできたら初心者卒業なんです。」
「そんなもんで良かったんだ。」
ベルクさんは拍子抜けした表情だ。彼は俺の方を向き直すと肩を叩いて豪快に言った。
「がんばれよ、サクラ。まあ、それぐらいならすぐ倒せるようになる。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「まずは二人を紹介しよう。俺の娘のフランと弟子のシークだ。」
「「よろしくお願いします。」」
「二人ともよろしく。」
「二人とも俺の指導を受けて6ヶ月以上経つ。実力は二人ともお前より上だ。二人に追いつけるように頑張れよ。」
「はい、頑張ります。」
「俺の指導は午前中のみだ。期間は一ヶ月を予定している。内容は片手剣の使い方だ。えっと、剣は用意しているのか?」
ギルド横の訓練所に移動するとベルクさんが尋ねてきた。
「これでいいですか。」
俺はハヤトさんから貰った木剣を見せる。
「ほう、木剣か。珍しいな。まあ、レッドリザードぐらいなら何とかなるな。」
「あの。レッドリザードってどんなモンスターなんですか?」
「ああ、単なる赤いトカゲだ。全長は1メートルぐらいだな。」
「凶暴なんですか?」
「いや、極めて大人しい。草食で人を襲わない。」
「なんでそのモンスターが初心者卒業の相手なんですか?」
「・・・弱いかららしいぞ。俺もよくは知らんが。」
ベルクさんはまず、剣の持ち方、構え方を教えてくれた。その後は両手で剣を持ったときの素振り、片手で剣を持ったときの素振り、いろいろなパターンの素振りを教えてくれた。その後はひたすら素振りだった。
「いいか。基礎は大事だ。基礎のない奴はある程度までしか強くなれない。しばらくは、基礎的な訓練ばかりだからな。」
「はい、わかりました。」
俺は息を切らしながら答える。俺、体力ないな。明日は筋肉痛確定かな。俺の横でシークとフランも素振りをしているが、二人とも余裕でやっている。これが半年のアドバンテージだろう。きついため、太陽がよけいに暑く感じる。クリンは日陰で気持ちよさそうに寝ている。
「よし。少し休憩だ。」
ベルクさんの号令で俺は倒れ込む。もうだめだ。限界だ。こんなに運動したのは初めてだった。心臓がバクバク言っている。苦しい。のどが渇いている。腕が動かない。
「兄ちゃん、だらしないな。それでも年上かよ」
「シーク。そんなこと言わないの。はじめてにしては頑張ったんじゃない?」
シークにいじられて、フランにフォローされている。俺はきつくて反応すらできない。
「水を持ってきてやれ。」
「はーい。」
ベルクさんの命令でシークは水を取りにいく。しばらくすると、バケツいっぱいの水を頭から掛けられた。水を持って来いってそういことか。だが、冷たくて気持ちいい。体温が少し下がった気がする。
「何やってるの。こういう場合、コップに水を汲んでくるものよ。」
フランはコップの水を手渡してくれる。喉が潤う。これで少しは一息付けそうだ。
「二人ともありがとう。」
俺がお礼を言うと、シークは不思議そうな顔をする。こいつは普通に意地悪しただけのようだ。だが、体が冷えて気持ち良かったのは間違いない。でも、まだ動けない。
「よし。そろそろ再開するぞ。二人は素振りの続きだ。サクラは・・・これ以上は無理だな。休んでろ。」
シークとフランはまた素振りを始めた。こうしてみると、二人とも動きが鋭く力強い。とれもきれいだ。二人に見とれながらさらに時間が過ぎた。しばらくして、少し動けるようになった時、「本日の訓練は終わりだ」というベルクさんの声が聞こえた。こうして一日目の訓練は終わった。
「サクラ君、おつかれー。どうだった?」
ギルドに戻るとレイラさんに声を掛けられる。
「とても疲れました。途中でついていけなくなりました。自分の体力不足を認識できました。けど、為にはなったと思います。」
「まあ、最初はそんなもんよ。諦めないで頑張ってね。きっと強くなれるから。」
レイラさんに励まされた。
「ただ、素振りだけだったので、ちょっと・・・」
俺が口ごもるとレイラさんは笑いながら言う。
「意外だったんでしょ。初めて彼の指導を受けた人はみんなそう言うわ。でもね。ベルクさんの指導を最後まで受けた人はみんな一流の剣士になっているのよ。」
「そうなんですか。」
「しかも、ベルクさん自身が剣王の称号を持つ凄腕の剣士なのよ。」
「剣王ですか。すごい称号ですね。」
知らなかった。彼はそんな凄腕だったんだ。
「彼の口癖が「基礎が大事」だから、しばらく素振りが続くわよ。覚悟しておいてね。」
「わかりました。覚悟しておきます。」
それにしても「基礎は大事」か。高校の体育教師が同じセリフを言っていたな。「体育の授業で何言ってんだ」とみんなに陰口を叩かれていたが・・・。
「で、どうする。昼から何か依頼を受ける?」
「今日は疲れたんでやめときます。」
「そう。それじゃ、体をしっかり休めてね。」
俺はギルドを出て宿に戻ったが、考えたらまだ昼間だ。寝るには早い。俺はしっかりストレッチを行った後、少し勉強をすることにした。この世界についての知識を少しでも増やしておいた方がいい。確か、サポート協会からもらった本があったはずだ。ギルドからも何か冊子を貰っていたはずだ。よっぽど疲れていたのだろうか。俺は数ページ読んだところで眠りに落ちていた。次の日の朝、クリンに起こされるまでぐっすり眠っていた。




