9 魔法適正検査の結果は・・・
俺は教会に来ていた。この世界最大の宗教、ユナス教の教会だ。主神ユナスを祭る宗教で、神官たちは神託を得るために日夜修業に励んでいる。その一環として、魔法適正検査や怪我人の治療などを行っている。
「サクラ様ですね。冒険者ギルドとサポート協会から連絡は受けております。どうぞ、こちらに。」
入口に行くと一人の神官が待っていて、奥に案内してくれた。案内された場所は礼拝堂のようだ。正面に大きな石像がある。おそらく主神ユナスの像だろう。その前に祭壇があり、水晶が祭られている。
「それでは、水晶に手を当てて目をつぶってください。後はこちらでします。」
俺は言われるままに水晶に手を置いて、目をつぶる。横で神官が何やら呪文のようなものを唱えている。神官が呪文を唱えると掌が少し熱くなってきた。
「もういいですよ。目を開けてください。」
目を開けると、水晶が緑色になっていた。
「水晶が緑になっているのはあなたの魔力の属性が風属性である証です。」
「風属性?」
「はい、その属性の魔法は覚えやすく、他の属性の魔法は覚えにくいです。」
「他の属性も覚えれるんですか?」
「他属性の修得は難しく、威力も落ちるため、修得する人は少ないですが可能です。ただ、人によっては覚えれない人もいるようです。」
「魔法はどうやって覚えるんですか?」
「誰かに教えてもらうのが一般的です。神殿に在籍している魔術師に習う事もできます。申し訳ありませんが、これは有料となっております。サクラさまは転移者ですので、レベル1の魔法を1つ無料で習うことが可能ですが、どうなさいますか。」
この返答は当然「イエス」である。それにしても、魔法を覚えるのはお金がかかるのか。結構大変そうだな。
「ねえ、ボクも魔法適正検査を受けたい。」
突然、後ろで座っていたクリンが声を出した。神官はびっくりしている。まさか狐がしゃべるとは思わないよな。
「こちらは従魔でしたか。じゃべれるとは賢いですね。従魔も検査は可能ですが、有料になりますがよろしいでしょうか?」
「有料なんですか。」
「はい、サクラ様は転移者ということで今回は無料で検査をしましたが、本来100ゴールド頂いております。」
どうやら転移者に対するサービスだったようだ。クリンはこちらを見上げて見つめてきている。させてくれ、というアピールか。ん?そういえば、昨日クリンは火の魔法を使っていなかったか?それなら適性は火なのでは?・・・検査を受けてみたいだけか。クリンはじっとこちらを見ている。そんなにしたいのか。
「わかったよ。クリン」
俺は諦めて許可する。神官に100G払う。クリンは「やったー」と喜び、尻尾をブンブン振っている。
「それでは抱え上げてください。」
俺はクリンを抱き上げると、水晶の前に体を持っていく。クリンは前足を水晶の上において目をつぶる。神官がまた呪文を唱える。水晶は赤く染まっていく。
「目を開けていいですよ。水晶が赤くなったので、属性は火属性ですね。」
「うん。ボク火魔法得意だよ。」
クリンは嬉しそうに答える。神官は何とも言えない表情をしている。火魔法が得意なら属性は火属性になるよな。神官は俺の方を向くと、何事もなかったかのように話を元に戻した。
「それでは、風魔法の魔術師のところにご案内します。」
俺は風魔法の魔術師のところに案内された。そこは神殿の一室で、初老の男性が本を読んでいた。
「いらっしゃい。」
「彼が例の転移者です。風魔法に適性があったので、初期魔法の指導、お願いします。」
神官は魔術師にそういうと去っていった。
「風魔法の初級魔法だと攻撃魔法のエアショットと防御魔法のエアシールドがありますが、どうなさいますか?適性があるので大丈夫だと思いますが、授業は1時間までです。それ以降は延長料金が発生します。最悪,覚えられなくても責任は持ちません。」
「ちなみに、延長料金はいくらなんですか。」
「レベル1の魔法は1時間1000ゴールドです。」
・・・結構高いな。それで、覚えれなかったらきついな。攻撃魔法と防御魔法か。どちらかと言われれは、当然攻撃魔法だよな。かっこ良さそうだし。
「あのエアショットでお願いします。」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。適性があってレベル1の魔法を1回で覚えれなかった人はいませんから。」
できれば、そんなプレッシャーのかかるようなことは行ってほしくなかった。
結論から言うと、エアショットは修得できた。時間は57分ほどかかったが・・・。
最後の方は俺も焦っていたが、魔術師もかなり慌てていた。そりゃそうだよな。レベル1の魔法を覚えさせれなかった、となると指導力を問われるのかもしれない。
俺と魔術師の名誉のために言っておくが、俺や魔術師の才能が極端に低かった、という訳ではない。理由は簡単だ。本来は、一般常識として知っているはずの魔力に関する知識が全くない俺にそこから教えたため、時間が掛ったのだった。
魔術師によると、魔法はMPを消費して発動するらしい。MPが足りないと呪文は発動しないが、倒れるなどもないらしい。MPの残りの量を知ることができないため、1日に何回使えるか、などを調べて、MPに余裕を持って魔法を使うように、とのことだった。たしかに魔物との戦いでMPが足りなくて魔法が発動しませんでした、はシャレにならない。
俺は魔術師にお礼を言って教会を後にした。神官にも挨拶をしようと思ったが、会うことができなかった。俺は魔法を使うことができた。魔法使いになれたのだ。俺はオタクではなかったが、アニメやラノベは好きだった。アニメやラノベ好きの日本人の若者にとって、「魔法使いになる」というのは、正に夢の一つが叶ったといっても過言ではない。魔法の練習中は胃に穴が開きそうなくらいのプレッシャーだったが、今は晴れやかな気持ちだ。足取りも軽い。
「サクラ兄ちゃん、良かったね。魔法を覚えれて。」
「ああ、クリンも応援してくれてありがとう」
「ねえ、ところでどこに向かってるの?」
「決まってるだろ。」
俺はそう言うと門の方を指さした。外で魔法を試すに決まっている。
俺は昨日と同じ、西門の外に来ていた。ウサギを探して、エアショットを試す予定だ。エアショットは空気の塊を打ち出す魔法である。
「クリン、俺の手に負えなかったらよろしくな。」
「うん。任せて。」
クリンは尻尾をブンブン振りながら答える。相変わらず頼もしい返事である。ウサギはすぐに見つかった。俺はエアショットを唱える。ウサギに見事に命中するが倒しきれてない。1発でウサギを倒しきれないぐらいの威力か。ちょっと弱いな。俺が茫然としていると、クリンがウサギにとどめをさして持ってきた。
「サクラ兄ちゃん、練習すると魔法の威力は強くなるよ。」
「そうなのか?」
俺は次のウサギを探して、エアショットを唱える。やっぱり倒せなかった。吹き飛んだウサギはクリンがとどめをさして、回収してくる。また次のウサギを探してエアショットを唱える。クリンが回収・・・。五匹目のウサギのエアショットは発動しなかった。4発で打ち止めか。いや、訓練で1回発動しているから5回かなな?威力も回数もまだまだだな。要練習だな。
俺はウサギを5つ回収するとギルドに直行した。魔法適正検査の結果の報告とウサギを買い取ってもらうためだ。
ギルドに入るとレイラさんが声を掛けてきた。
「あれ。サクラ君、どうしたの?」
「魔法を覚えたんで、ウサギ相手に試してみたんですよ。ウサギって買い取ってもらえます?」
「ウサギですか。大丈夫ですよ。見せてもらっていいですか」
俺はウサギを手渡すと、査定で1匹100ゴールドと言われる。昨日と同じ買取額だった。俺は500ゴールドを受け取る。
「それで魔力の属性はなんだったの?」
「風属性です」
「ボクは火属性」
「へえ、ってクリン君も検査したんだ。100ゴールド払ったんですか。」
「ええ。」
レイラさんは呆れていた。まあ、当然だよな。まあ、100ゴールドはウサギ1匹分なんでクリンがいれば、大した金額ではないが。俺が帰ろうとすると、「いい教官が見つかったんで、明日を楽しみにしておいてね。」とのことだった。




