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セカイ ノ コトワリ  作者: 冬ノゆうき
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to_date('2028/05/02 07:13:08') location = '兵庫県 明石近郊 国道2号線';

 次の日の朝早くに須磨砦を発った。


 今日中に九尾ノ小隊は姫路要塞に異動するように言われていたからだ。

 現在、須磨砦から姫路要塞までは徒歩と自衛隊が定期的に拠点間を走らせる輸送トラックに乗り合いさせてもらいながらの移動となる。移動だけでおよそ丸1日かかってしまう。そのため、朝のうちに出発する必要があった。

 そしてなにより砦内にいつまでもウロチョロしていたら、また大隊長に捕まってしまう恐れがあった。ミライと並んで歩いている時に会いでもしたなら、何を言われるかわかったものではない。


 早朝の幹線道路を小隊のみんなで歩いている。

 須磨から姫路までは昔は汽車が走っていたらしいが、現在はひん曲がったレールやあらぬ方向に転がっている枕木などが線路跡として点々と残るのみである。

 また周囲の市街地は世界敵との戦いの余波で廃墟と化していた。世界敵に襲われるおそれがあるため自衛隊員か、命がけで廃墟を漁る自称トレジャーハンター、もしくは自殺願望者ぐらいしかこの辺りを歩いている者はいない。

 そんな中、須磨砦への物資搬入ルートとして、幹線道路の国道2号線だけはかろうじて整備されている。オレたち九尾ノ小隊はその2号線を西へ向かって徒歩で移動中である。姫路までの道中、空は久しぶりの快晴で気持ちよかった。

 この2号線も物資輸送の木炭トラックがたまに通る以外は人っ子1人見あたらない。少なくとも視界に見える範囲内で動くモノはオレたちぐらいだった。

「うぅぅぇ……ぅーん」

 ………。

 そのオレたちしかいないこの場所で、何か怪物のうなり声のようなモノが聞こえてきた。しかも、オレのとてもとても近くから。

「ぅぅぅーぅ」

 仕方なく声のする方を振り返ると、少し離れたところで小鬼が蹲っていた。

「みーちーとぉー……あたまぁ~あたまいたぁ……い」

 ミライが頭を抱えたまま恨めしそうにこっちを見た。

 そりゃそうだろうよ。あれだけ飲んで騒いで踊り回っていれば二日酔いにもなる。


 ミライは結局、昨夜は日付が変わるぐらいまで飲み続けていた。

 オレはそれを蚊帳の外でずっと見守っていたが、何やら最後の方は酔った勢いで他の隊員と口論を始めた。しかも人間の隊員に掴みかかっていた。人外種は総じて人間種よりも腕力が強い。そんな人外種と酒の席で手加減無く絡まれては人間種は命に関わってしまう。

 オレは半ば強引に引きはがしてミライを彼女の部屋まで連れ帰った。

 周りの男性隊員たちからは白けた眼で見られたが、特に止めようとする奴はいなかった。

 たぶんこういう事をしているから『公認カップル』扱いされるのだろう。

 もちろん彼女を部屋のベッドに放り込んで、オレはそのまま自室に戻った。送り狼になったりしていない。そもそもミライはオンブしてすぐに、オレの背中でイビキをかいて寝てしまっていた。ムードもあったものではない。

 それでも一応、親父さんから『よろしく』と言われた矢先だ。面倒見ずに放っておくわけにもいかない。

 ……たぶん『よろしく』ってこういう意味じゃないのだろうけど。


「みぃーちぃーとぉぉぉぉ」

「あぁー!もう!だからなんだよ?」

「オンブぅーオンブさせてあげてもいいぞ」

 両手を前に伸ばして、オンブをせがむカッコをとる。

「いいえ、丁重にお断りさせていただきます」

「なっなぜぇ!?」

 いや、オレ的には断った事に対して、何故そんなに驚く。しかも驚いた拍子に頭痛がぶり返したようで、また頭を抱える。

「ぃててててっ……ぼ、ボクみたいな可愛い子をオンブさせてあげるって言ってるのに、普通は喜ぶものでしょ?ぅぅぅ……め、めったに無い事だよ?」

 しょっちゅうあっても困る。

 というか、昨夜オンブしたばかりだ。

「あのなぁ………大体、頼み方がおかしいだろ?何で『させてやる』みたいな上から目線なんだよ」

「え?だって……未知斗ってこういう強く言われる方が好きかと思って」

「なにサラッと人をマゾ扱いにしているんだよ。そんな気はまったくねぇよ」

「えぇぇぇ……じゃぁ………未知斗ぉ~おねがぁ~いオンブして~」

 今度はちょっと駄々っ子風に迫ってきた。

 いや、だからそもそも頼み方がどうこうという問題なのでは無くてだな。もう少し控えめに、ちょっと恥ずかしそうにお願いされたりすれば、オレも『助けてやろうかな』って気が湧くと言うのに………そんなミライ想像もできないけど。

「………何ニヤニヤいかがわしい顔してるのよ?」

「べ、別にしてねぇよ」

 駄々を捏ねながら近づいてきたミライがニヤリ笑いながら半眼でオレを見上げていた。

え、そんなに変な顔してたか?

――ってかニヤニヤしてるのお前だろ。

「ねぇ流華ぁ。最近未知斗の目って、いやらしくない?」

「未知斗も年頃の男性です。そういう感情が顔に出ることも、たまにあるのはしょうがないです。多少は目を瞑ってあげてください」

 隣に立つ流華が淡々と答える。

 ホント……やさしいお言葉痛み入ります。

 流華の言葉を聞いて、ミライがわざとらしくモジモジしてみせる。

「ええええぇーやっだなぁ~未知斗はボクの事、意識してそう言う目で見てるわけぇ?」

「そんな目は間違ってもしてない。意識もしたことない」

「うっ……そんなハッキリ否定されると面白くないんだけどぉ」

 こいつは見てほしいのかほしくないのかどっちなんだよ?

 ミライが今度はホッペをいっぱいに膨らまして怒った事を表現している。

「あのなぁ……」

「兄様」

 オレのすぐ横から少し冷たい声がする。流華とは反対側からだ。

「何だよ?愛」

「兄様。そういうのは出来るだけ我慢」

 妹に真顔で注意された。

「いやいやいや。琉華も愛もよく考えてみろよ。そもそも昨夜部屋に送ってベッドに寝かすまで面倒見てやった上に、今朝もウンウン唸って起きてこないミライをわざわざ起こしてやって、しかも何も準備してなかったから、着替え以外の出発の準備をすべてしてやってるオレが何で怒られたりしなきゃいけないんだ?」

「……確かに兄様はミライをとても大切にしていると思う」

 そうだろ?

「にゃにぃぃ~愛っちはすぐに未知斗の味方になるぅぅぅ!ボクだってね未知斗の為に色々してあげてるんだよ」

「マジか…………初耳だな」

「素で驚くなっ!――って言うか!そこの2人も何で驚いてるの!?」

 オレと両隣の流華、愛を指さしてミライが叫んだ。

「もう!まったく……昨日の事だってさ、別に暴れてたわけじゃなくて、未知斗の悪口言われたからついカッとなってケンカになっただけなのに……」

「ん?そうなのか?」

「そうだよ!未知斗の事を『親の七光り』だとかなんとか言うからさ。つい文句言ったら口論になっちゃったんだよ。大体みんな知らなすぎなんだよ!未知斗はすごく頑張ってるのをみんな全然わかってな!!そもそも人間の身でこれだけ強くなるなんて並大抵の努力じゃないんだよ?そんな事も知らないくせに『上官の受けが良い』だとか『贔屓してもらってる』だとかネチネチネチネチ文句ばっかり言ってぇ………あぁぁぁぁ!!思い出すだけでも腹がたつぅぅぅ!!!」

 なるほど。昨夜、突然始めた口論はそれが原因か。

「突然ケンカし始めたかと思ったらそういう事だったのか?別にそんな事言われるのは今に始まったことじゃないんだから、適当に聞き流しておけばいいのに」

「いっ!やっ!いやなのっ!未知斗の事、そういう風に言われるのが!」

「ふ~ん……」

「な、なによ!」

「やけに拘るな?」

「そ、それは幼馴染みだし、一応友達だし……と、ともかく!未知斗が良くてもボクがイヤなの!」

 ミライは昨夜の怒りを思い出したのだろうか、それとも照れているのか、顔を赤くしながら立ち上がる。

 そしてオレたちを追い越してズンズンと先へ歩いていってしまった。

「兄様。ミライ、照れてた?」

「みたいだな」

 ホント、素直じゃないんだからな………というか、あいつ二日酔いじゃなかったっけ?

 そんな事を思い出しながら、先に行こうとしているミライから離されないように歩き出す。他の2人もオレについて再び歩き始めた。


 先頭ゆくミライのさらに先に広がる青空には、雲1つなく、見渡す限りの五月晴れだった。

 そしてその晴天を遮る街並みはもうここには無い。

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