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セカイ ノ コトワリ  作者: 冬ノゆうき
3/35

to_date('2028/05/01 19:35:02') location = '兵庫県 須磨砦 大食堂';

「あっはっはっはっはー♪」

 須磨砦の大食堂で顔の真っ赤な小鬼が跳びはねている。

 その周りでは同じように顔を赤くして滅茶苦茶な踊りを踊っている男どもが15人ばかりいた。日中の戦いでの勝利を祝って、そこかしこで酒の入った隊員が大勢いる。そんな大食堂の中でもそこだけは祭りが起きてるかのような賑やかさだった。


 集団の中央で飛び跳ねている小鬼の名前は鬼瓦ミライ。日本に古来より隠れ住んでいた『人外種』の中でも最古参にして最大勢力『鬼族』の娘だ。

 オレより頭1つほど小さいチビだけど、歳は同じ18。ボブカットの紅髪にくりっとした赤目、愛嬌のある顔立ちに、健康的に日焼けした肌。野生動物を連想させる細身のしなやかそうな体つき。元気いっぱいなその雰囲気と背丈から、実際の歳よりも幼く見られがちだ。

 しかしこれでもれっきとした統合自衛隊の隊員である。階級は曹長。ちゃんと制服着ていればそれなりに立派に見えるのだけど、普段着姿では中学生にも間違えられたことがある。しかも結構最近の話だ。

 そんなミライだが、鬼族の中でもかなり有力な家柄のお姫さまだったりする。このじゃじゃ馬娘からは想像もつかないけど。


「みーーちーーとーー!みちとも~いっしょにのもぉ~」

 その由緒正しき御家の小鬼様がテーブルの上に立ってこっちに手を振っている。

「おぉぉ!小隊長殿もさあさあ!」

「いえ、オレは未成年なんで。オレには気にせず盛り上がってください」

 『同い年のミライは飲酒してるけど』というツッコミは特になく。そう言うとオレを引っ張り込もうと近づいてきた男たちもそれ以上無理強いはせずに戻っていった。一応ミライの上官で仲も良いから形だけ誘ったというところだろうか。

 意識しすぎかも知れないが、オレは訳あって他の隊員から避けられているところがある。別に嫌われているわけではない。オレをどう扱って良いのか困っている――といったところだろう。

 何せオレはあの人の息子、長男ってことになってるから。

「兄様。お茶」

 オレの空になった湯飲みを見て、隣に座る女の子がテーブルに置かれたヤカンからお茶を注いでくれた。

「ああ。サンキュ、愛」

「はい」

 お茶を注ぎ終えたヤカンを元の場所に戻し、再び同じようにミライのドンチャン騒ぎを無表情に眺めている。


 この少女の名は九尾ノ愛。階級は少尉。

 銀糸のように均一で縮れの無い綺麗な長い銀髪に、人形のように整った顔立ち。新雪のように真っ白な肌。人が十人いたら、間違いなく全員が美少女と認めるであろう、背の高さはミライよりも少し低い、13歳の女の子だ。

 ただしありきたり(?)な美少女ではない。

 少女の頭には毛に覆われて尖った獣耳が生えている。それは人間の耳とは明らかに異なった。さらに少女の背には腰のあたりから覆い被さるように、腕を三回りほど太くしたフサフサの獣の尻尾が2本立っていた。

 野生動物で似たような尻尾を持ったモノを何度か見たことがある。この耳も尻尾もキツネ属の哺乳類そのものだ。

 まあ、その手に詳しい人間が見れば彼女の事をこういうだろう。

――『九尾の狐』のようだと。

 本人は自分のことを人間とは異なる種族『妖狐』の1人だと言っている。

 種族名が『妖狐』で、その妖狐族の中でも特別力の強い狐を『九尾の狐』と呼ぶらしい。


「未知斗」

 湯飲みを口に付けると同時に声をかけられた。

 振り返るといつの間に来たのか、オレの後ろに女の子が立っていた。相変わらず気配を消すのが異常に上手い。


 彼女の名は小泉流華。階級は愛と同じ少尉。

 ミライより少し背丈があるけど年下の16歳。伸ばしておけば愛に負けないぐらい綺麗だと思われる長い黒髪を邪魔にならないよう頭に纏めており、理知的な顔立ちと相まってとても知的な印象を受ける女性だった。さらに右の瞳は髪と同じ黒色だが左の瞳は少し青みがかかったオッドアイなのが彼女をよけい神秘的な印象にさせている。

 そんな彼女は冷静沈着で頭の回転も早いので、オレの小隊では副官・補佐役をやってもらっている。このどんな状況でも表情を崩さずクールなところがイイと、他の隊の男連中の間ではかなり人気があるそうだ。

 ただし、中にはあまりに整った容姿なうえに感情をほとんど見せないためにロボットやアンドロイドの類じゃないのか?みたいな噂もあるそうだ。

 もちろん彼女はれっきとした人間だ――ただし外見上は殆ど判らないが、訳あって一部が機械の身体になっている。左眼の色が右のソレと異なるのも機械の眼を入れているからだ。そう言う意味では噂も完全に間違えというわけではない。

 ちなみに銃火器、特にライフルの扱いが得意で、その腕前はこの須磨砦でも1、2を争うレベルだ。世界敵の堅い表皮や体毛を避けて、遠距離から急所を銃撃するなど朝飯前である。


「ん。流華どうした?」

「食事中失礼します。大隊長がお呼びです」

「大隊長が?ああ、わかった」

 湯呑みのお茶を喉に流しこんでから立ち上がる。

 あ、そう言えば……

 オレは食堂の中央に目をやる。相変わらず宴会騒ぎは続いていた。すぐに終わりそうにもない。

別に今日の戦いが大騒ぎするほどの快勝だったわけではない。

 それでも、ミライはともかく他の隊員たちには相次ぐ連戦で挫けそうな心を奮い立たせ、士気を維持するためにこういった事が必要なのだろう。

 階級にモノを言わせて解散させることも出来るけど、そうやって止めるのは気が引ける。

「2人とも悪いんだけどミライがハメを外しすぎないように見張っていてくれ」

 普段からハチャメチャな奴だが、今はアルコールが入ってさらにおかしくなって、何をしでかすかわからない。一応釘を差しておこう。

 流華と愛の返事を確認して、オレは大食堂を出た。

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