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セカイ ノ コトワリ  作者: 冬ノゆうき
25/35

to_date('2028/05/13 08:00:00') location = '兵庫県 加古川近郊';

 少年が眺める朝空を断続的に砲弾が轟音をたてて飛翔していき、遙か先の大河の対岸に着弾する。

 兵庫県中央部を流れるその大河の名は加古川。

 その着弾地点には普段ならば廃墟と化した加古川市の市街地が一面灰色の様相を見せているはずだが、今は一面黒色に地面は覆われていた。

 その黒色の何かに向かって飛んできた野砲の弾が当たると、その黒いモノが飛び散り、一瞬だけその下の地面や廃墟の街が窺えた。

 しかしそれも一瞬で、すぐに周囲の黒いモノが広がってきて地面を覆い隠す。

 少年にはそれが冗談のように見えた。

 加古川の平野部に細長く広がるその黒いモノはすべて 世界敵 だった。

 この世界敵の大群に、姫路要塞から放たれる砲弾が着弾しているかどうか観測するのが少年の今の任務だった。

 須磨砦の消失から今まで、だいぶ運がまわってきたと少年は思う。

 須磨砦消失時にはたまたま先行して撤退開始していたために砦外に出ており難を逃れた。

 さらに姫路要塞に戻るやいなや加古川周辺の地理に詳しいということで、この第1010偵察中隊に配属されて今に至る。

 姫路要塞にいては否が応でも世界敵と戦わないといけない。それに比べてここでは弾が着弾するのを遠くから観測して本隊に報告するだけでいいのだ。

 ある意味とても安全な任務である。


ザッ


 突然、背後に何か降り立つ音がして少年は慌てた。

 世界敵は基本は集団から離れて単独行動する個体はいない。しかし絶対にいないとも限らない。

 双眼鏡から目を離したばかりで遠近感が掴めず、足元のライフル銃にようやく手を伸ばした瞬間、少年の肩に手が置かれた。

「新入り。あたしだよ。あたし」

「さ、猿渡軍曹………驚かさないでください」

 後ろに立つのは少年の上官にあたる女性兵だった。

「いやぁ~結構結構。あたしの接近に気が付かないってことは、それぐらい集中して観測していたってことだろ?感心感心。玉藻様のためにも1体でも多く仕留めておかないといけないからな」

 そう言って背中の大きなサックからゴテゴテしたハンドルなどがついた重そうな通信機を取り出す。

 少年は再び双眼鏡を構える。

 女性兵は彼の後ろでその機械を組み立て始めた

「軍曹は九尾ノ閣下のこと、ホント好きですよね」

「何だ?何だ?新入りは玉藻様のことが嫌いか?」

「いや、嫌いか好きかって言われれば好きですけど………あの人がいなければ、今の日本はないでしょうし………ただ軍曹ほど絶対的忠誠みたいなものは誓ってないっていうか」

「あ~わかるわかる。人間には理解しづらいかも知れないけど、人外種にとって妖狐族ってのは人間で言う貴族みたいなものでさ。その中でもあの人はちょっと別格なんだよねぇ。まあ、人間から見れば少し違和感を感じるだろうさ………ほれっ」

 女性兵が少年に組み立てた機械と繋がる通信機のマイクを渡す。

「いえ、確かに閣下がすごい人だというのは僕でもよくわかりますけどね。軍曹お願いします」

 女性兵は了解すると、通信機に付いたハンドルを回し始める。始めは重く、動きの鈍かったハンドルも次第に回転が速くなり、一定以上の回転になると通信機のランプが転倒し始めた。

「上々。通電確認!」

 女性兵の合図とともに、少年兵は双眼鏡を見ながら本体へ着弾観測の結果を報告する。

 観測作業の素人だが、幸いにも的の方が南北数km、東西十数kmに達する。大体の着弾地点を報告すれば、あとは専門家がイイ感じに補正してくれる。上官からはそう言われている。だから少年も気が楽だった。

 しばらく着弾のたびに位置を報告していた少年たちだが、世界敵が加古川の渡河を始めたところで本隊から撤収命令が下る。

 少年は双眼鏡、少しの携帯食料、ライフル銃を担ぎ、女性兵は軽々と通信機が入ったサックを背中に担いだ。

「それにしても新入り」

「はい」

「お前、器用だよなぁ。あたしも一度観測報告をしたことがあるけど、なんて言っていいのか混乱しちまってさ。観測作業なんて慣れないことばかりで大変だろ?」

「そうですね……でもオレ、銃とか撃つよりこういう方が向いてるし、少しでも役に立たないといけないじゃないですか」

「ん?」

「閣下たちが頑張ってくれないと、僕らの帰る場所がなくなりますからね。ホントに」

「うんうん。そうだな。そのためにももう少し任務続けないとな」

 女性兵は少年の言葉を肯定してから、彼を軽々と肩に担ぐ。そして来た時と同じように、隣の廃墟ビルへと跳躍した。

 ちょうど彼女たちの背後では、世界敵の大群が何か1つの生き物のように加古川を渡り始めていた。


 加古川から姫路要塞までは世界敵の足でおよそ丸1日の距離だった。

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