to_date('2028/05/11 09:01:00') location = '兵庫県 姫路要塞 大手前公園内';
「ふわぁあぁぁ……」
早朝から第1連隊の幹部が集まっての会議に出席していた所為で、会議終了と同時に眠気が襲ってきた。
ただ、今日はまだ始まったばかりだ。しかも今度は小隊の隊員に対してブリーフィングを行うことになっている。眠いなんて言ってられない。
もともと各小隊専用のブリーフィングルームなど無いので、集まる場合は事前に会議室などを予約しておくのが普通なのだが、第31師団などが姫路要塞に編入してきたことで要塞内は現在爆発的に人員が増えていた。
そのため会議室の空きなど無く、しかたないので要塞内の公園や空き地でブリーフィングを行うこととなった。九尾ノ小隊は要塞内の大手前公園内の木陰に集まった。この周りにもオレ達と同じ様に、点々と他の小隊が集合している。
しばらくして久しぶりに小隊全員が揃っていた。
木に寄りかかっているオレの隣には副官の小泉流華少尉。
木製ベンチに座る九尾ノ愛少尉。
その愛のほっぺたをツンツン突っついてちょっかいを出している鬼瓦ミライ曹長。
ミライは昨日とは違い、表面上はいつも通りの様子に見える。特段、琉華が引っ張って連れてきたわけでもなく、寝坊することなく、自主的に今日のミーティングに時間通りに出てきてくれた。正直ホッとした。
「ねぇねぇ」
当のミライが何やらしきりに周囲を気にしている。
それもそのはずだ。今日のブリーフィングにはいつものメンバーに加えて、2人ほど多い。
「ああ、わかってる。早速だけど2人には自己紹介してもらおうか。まず……緑田沼から」
オレの真正面に直立不動で立つ少年。
背丈は愛と同じぐらいで、年も14歳と同い年だったはず。さらに2人には共通点がある。少年には愛と同様に頭の上に耳が、そしてお尻からは尻尾が生えている。ただ狐のそれではなく、狸の耳と尻尾だった。
所謂、化け狸である。
「はっはい!こ、このたび!第13師団第1連隊麾下九尾ノ小隊に配属されることになりました!み、緑田沼意次二等兵であります!よろしくお願いします!」
少年が直立不動からコキッと音が鳴るんじゃないかと思うぐらい直角に敬礼をする。
とりあえずやんわりと敬礼を返してやる。
「そして……」
緑田沼の隣にみんなの視線が移る。
そこには大きなヘリコプターが置いてあった。
いや、大きいと言っても全長が2mぐらいの大きさの、いわゆるラジコン模型のようなヘリコプターである。
ただし、紹介したいのはそのヘリコプターではなく、それを操る方だ。
そのヘリコプターの機内から伸びるタラップに人形が1体立っている。
その人形もヘリコプター模型と同様に、人形にしては大きめのサイズをしてはいるが全長30cmほど、ブロンド髪に欧米風(旧大戦時のドイツ風?)の軍服に身を包んでおり、軍人人形にしては可愛らしい顔立ちをしている。
「サー!第13師団第1連隊麾下九尾ノ小隊に配属されることになりました!リト・ヴァク一等兵であります!サー!」
緑田沼に負けないぐらいキッチリとした敬礼姿を見せた。
最近の新人はみんなこんな感じなのだろうか。
リトにも敬礼を返す。
「というわけで、みんなに報告だ。先ほどの大隊のブリーフィングで正式辞令がおりて、ここにいる緑田沼二等兵とヴァク一等兵が新しく小隊に配属となった。もともと大きく定員割れしていたからな。ようやく配属された期待の新人ってわけだ。それで……」
視線を流華に移す。
「彼女が小泉流華少尉。この小隊の副隊長をしている」
「小泉です。よろしく」
次にベンチの方を見る。
「で、左から九尾ノ愛少尉、鬼瓦ミライ曹長」
「よろしく……」
「よっろしくぅ~♪」
「よろしくおねがいします!!」
「よろしくおねがいします!サー!」
緑田沼とリトの双方が背中に鉄棒でも刺したかのような直立不動で返答する。
そんな2人をミライが足を組み、何処か偉そうな仕草で値踏みするように見ている。たぶん、初めて自分よりも低い階級の同僚が出来たことで先輩ぶっているのだろう。
「ねえ。緑田沼くんは下の名前は?」
「意次であります!」
「ふ~ん……じゃあ……おきっち……違うなぁ…………おっきー?」
ミライがチラッとオレの方に同意を求める仕草をする。求められても困るが、ミライも特に了承得ようとしたわけではないので、オレの返事を待たずに緑田沼を指さして言う。
「よしっ!君は今日からおっきーで、けってぇー!」
「は、はっ!」
指さされてビックリしながらまた敬礼する緑田沼。
こいつ緊張しすぎだけど大丈夫かな?
「で、リトちゃんは……というか、リトちゃんは女の子だよね?」
「サー!鬼瓦曹長。お言葉ですが、自分は軍人に男性、女性の区別は不要だと考えます」
ミライが琉華の方を伺う。
「軍人ではなく隊員ですが……私の持っている資料では女性として登録されています」
「ふむふむ……」
ミライはリトに興味津々らしく、彼女(?)の全身をくまなくジロジロ見ている。
リトの方は気にした様子も無く、微動だにしない敬礼姿勢のまま。
そんなリトに近寄ると、ミライはおもむろに彼女のズボンを引っ張って中を覗き込んだ。
「……うん。確かに女の子だ」
どんな確認方法だよ……それでもリトは微動だにしないのは大したものだけど。
だけど、きりが無いのでミライの頭を小突く。
「こら。ヴァク一等兵が困ってるだろ」
「えー、だって気になるじゃんか。未知斗も気になるでしょ?未知斗も確認する?」
「サー!隊長殿も確認してもらってもかまいません」
まさかのヴァク一等兵からも許可が出た。
……まあ、確認しないけど。
「ま、とりあえず女の子だったし、リトって名前、可愛いから、リトはリトね」
リト・ヴァク一等兵の呼び方が『リト』に決定したらしい。この手の決定に不服を申し立てる者はウチの小隊にはいないので、これで決定だろう。
「じゃあ続きの話するぞ。緑田沼二等兵――」
「おっきー」
ミライがそう呼べと視線を送ってくる。
「――意次は見ての通り『化狸』で幻術が得意だ。オレや琉華が後方支援する際の攪乱や強襲作戦時に活躍してもらう。他の妖術も基本的なものは習得していると聞いている。今までは愛にやってもらっていた命令伝達とかも代わりにやってもらう。その分、愛が前線での交戦に専念できるはずだ」
「は、はい!」
緑田沼はまだ堅い。
「そして、ヴァク一等兵――」
「リト」
「――リトは、フィギュアっていうのか?そういう人形の付喪神だ。彼女は後ろのヘリコプターを操縦することができる。主に小隊の弾薬や食料の運搬をやってもらうが、ヘリには最低限の武装も装備されている。琉華と一緒に後方支援攻撃も期待している」
「サー!」
「へ~、これってホントに飛べるんだ?」
ミライの興味がリト本人からヘリコプターの方に移った。
「サー!AH-64D。コードネーム『ロクヨン』であります。最大荷重は150kg、最高速度65km、30mmチェーンガンと空対地ミサイル8発、ロケット弾38発を装備可能です」
「へぇ~……燃料はどうするの?」
「付喪神のリトとこのヘリコプターは同一体とのことです。燃料は彼女が食事を取る以外には必要ないと聞いています」
「サー!副隊長殿の言うとおりであります!」
「ほぉ~楽でいいねぇ」
それからリト、ミライ、琉華によるヘリコプターの性能話に花が咲いた。
愛と緑田沼もその輪の中に入ってる。特に発言はしてないけど、じっと話を聞き入っている。
オレはそんな5人の姿をちょっと離れたところからしばらく眺めていた。
ミライも昨日のショックから表面上は立ち直ったようだ。新しいメンバー2人も上手く溶け込めたみたいだ。
それが嬉しくて眺めていると、1人離れているオレに気がついたミライがぴょんぴょんと軽快に近づいてくる。
「なになに?どうしたの未知斗。1人でしんみりしちゃって」
「ん?」
『ミライが元気になって嬉しいんだ』――と言いかけてやめた。
何だか照れくさいし、本人もそんな事言われたくないだろう。咄嗟に別の事を言った。
「いや……ついに補充要員が人外種だけになっちゃったな――と思ってさ」
「何?人外種が補充されるのは嫌なわけ?」
ミライがわざとらしく顔をしかめる。
「いや、違う違う。いまさら人外種だから嫌とか、オレが言うわけないだろ」
「あははは。ま、そうだと思ったけど。じゃあ何で?」
「人外種だけが補充されるってことは、人間の隊員がそれだけ減ってるってことだろ?そう思うと少ししんみりしちゃったってわけさ」
「あ……」
さすがのミライも察したのか、神妙な表情になる。
「あぁ……悪い悪い。湿っぽくなっちゃったな。まあ、考えようによってはウチみたいな特殊小隊には、なかなか人間の隊員は補充されなくて当たり前だからな」
「私やミライと並んで戦うのは普通の人間には難しい」
「ん、ああ。そうだなんだよな」
いつの間にか側にきた愛がフォローしてくれた。
というより、愛が挨拶以外で声を出したのは今日初めてな気がする。
「未知斗」
「あ、ああ」
流華に続きを促されてしまった。
「みんなに他にも伝えておかないといけないことがある。隊員も増えてさっそくなんだが、世界敵の動きが慌ただしくなっている―――」
オレと流華は大隊のブリーフィングですでに聞いた情報を、他の4名に伝えた。
大筋は『世界敵の大集団が発見された』というあまり愉快じゃない内容だ。
「―――というわけで、世界敵の大軍が旧神戸市街地を西進してきているのが確認された。さらに西へ侵攻してくるかどうかはわからないがな」
「大軍ってどれぐらい?」
「ん?数万って話だが、大阪防衛戦でのことを考えれば10万は軽くこえるだろうな。実際は正確に数えきれてないって事なんだろう」
「10万かぁ………一人一殺で……」
ミライが物騒なことを呟いているが無視する。
「仮にこのまま世界敵が西進してきた場合、早くて2日後にはここ姫路要塞まで世界敵が達するだろう。そのために今日中にも物資の調達および最終確認を済ませる。流華」
「はい」
「必要物資の不足分の洗い出し。完了しているな?」
「はい。すでに昨日のうちに不足分は申請済みです。私とリトが扱う銃火器の弾丸および各自が携帯する予備食料だけなので、後は受領しに行くだけです」
「さすが仕事が早いな。それじゃあ流華はミライとリトを連れて物資を受け取りに行ってくれ。必要ならリトのロクヨンを使ってもいい」
「了解です」
「サー!イエッサー!」
「えぇ~じゃあ未知斗は何するの?」
ミライの奴どういうわけだか必ずオレが何するのか聞いてくるよな。
「オレと愛、意次の3人は連隊司令部の護衛だ」
「護衛?」
小首を傾げるミライに、オレは南東の方角を指さす。ミライの視線もそっちに向く。
「要塞の外にある仁寿山と小富士山に第1連隊麾下の部隊は展開することになった」
「へぇ~あんな小山で陣地作って大丈夫なの?」
「両山とも標高は170mほどだが、登る斜面は急峻だから世界敵が大軍で登ってくる事は稀だろう。それに連隊司令部が置かれる仁寿山自体は拠点化がほぼ完了して半要塞化されているから、ちょっとやそっとで抜かれる事は無いはずだ。そして今回はそのさらに東の小富士山山頂にも高射砲隊を配備する予定だ。その陣地の構築状況を10:00から連隊長殿が視察に行かれるので、その護衛だ。何もないとは思うけど、意次が戦場に慣れる意味でも丁度いいかなと思ってな」
そう言って緑田沼の方を向く。
緑田沼は自分の事を言われたのだと気がつくと、再び直立不動で敬礼した。
それにしても堅ったいなこいつは。
「うぅぅ……私もそっちに行きたいなぁ……」
ミライがイジケルように呟いて、オレを少し上目遣いに見上げてくる。
こ、こいつ……無意識なのか、確信犯なのか、今朝はいつも以上に甘えるような仕草を見せる。それとも告白(無かった事にされたけど)して昨日の今日だから、オレの方が意識しすぎなだけで、いつもこんな感じだっただろうか?
…………思い出せない。
「だ、駄目だ。ミライよりも愛の方が護衛に向いている。それにお前の方が力持ちだろ。物資運ぶの手伝ってくれ」
「ぶぅぅ~女の子に力仕事させるなんてぇー」
小隊一の力持ちが可愛く膨れてみせた。
「………じゃあ後は任せた流華。集合場所は視察終了後に追って連絡する」
「はい」
「え?ちょっ!?逃げるなぁー!バカ未知斗ぉ!」
ミライの罵声を背中に浴びながら、愛と緑田沼を連れてさっさと要塞内へ戻ることにした。




