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セカイ ノ コトワリ  作者: 冬ノゆうき
20/35

to_date('2028/05/10 17:19:00') location = '兵庫県 姫路要塞 姫路城大手門周辺';

 街灯もなく真っ暗な市内の道を駆けて、姫路城の正面入口にあたる大手門まで来る。

 ここから北は統合自衛隊隊員のみが入ることのできるエリアになっている。

 ゲートで身分証を提示して中へ入る。

 大手門の警備兵がオレの事を訝しげに見ながらも通してくれた。何故かはオレにもわかっている。警備兵が常駐している建屋の窓ガラスには、オレのニヤニヤした顔が映っていた。

 夜に出歩く人はそれほど多くはない上に、何やらニヤニヤしながら近づいてくれば、怪しむのは当然だろう。

 幸いにも警備兵はオレの事を知っているらしく、特に咎められることは無く通してはもらえた。玉藻の息子って言うだけで結構有名なのが助かった。

 それでもあまり夜に変な顔で歩き回るのは誤解されそうだ。

 オレは手で口元を押さえながら城の敷地内を足早に歩いていると――

「くっくっく……何やら怪しい男が居るぞ」

 明らかにオレに向かって話されたその声に身体がビクリとする。

 声の主はすぐに見つかった。

 敷地内に点々と置かれているベンチに座り、こちらに向かって微笑んでいる。ベンチのすぐそばに篝火が焚かれていたので見つけられた――

 ――というか、あれに気がつかないなんて、オレはどれだけ浮かれていたんだ……

 ベンチに座っていたのは玉藻だった。


 玉藻がオレを手招きする。

 もちろん通り過ぎるつもりはない。

「玉藻、休憩中か?」

「ん。まあそんなところじゃ。ほれ」

 玉藻が促すので隣に腰掛ける。

「機嫌が良いな未知斗。何か良い事でもあったのか?」

「ん?まあ……良い事があったってわけじゃないんだけどさ……」

 別にミライからOKが正式に貰えたわけじゃないので、良い事があったとは言えない。

「そ、そんな事よりも、玉藻はここで何をしてるんだ?」

「ん?これか?」

 玉藻は手に持っている縫いかけの小袋を見せてくれる。

 実は彼女はさっきからオレと話をしながらも、裁縫道具でその小袋をチクチク縫っていた。

「ん~……御守り?」

「そうじゃ。あ、先に言っておくが未知斗にあげる物ではないぞ」

 オレのじゃない?本人のとは思えないから、愛の為にか?

 そんな事を考えていると、隣の玉藻が何かを思い出したように手をぽんと叩いた。

「そうじゃ、そうじゃ。忘れぬうちにこれを返しておこう」

 玉藻は手に持っていた御守りをベンチの端に置くと、着物の帯に差してあった小刀をオレに差し出す。これはあの袂モドキが投げたと思われる小刀だ。

「ああ。別に玉藻がずっと持っていてもいいんだぜ?」

「いや、わらわにはもう必要ないから未知斗に返す。しかしこれは実に色々役に立った。この小刀から色々な情報を抜き出せたからの」

「情報を抜き出す?妖術でか?」

「そんなところだ。未知斗には教えていなかったと思うがな。有機物に比べて難度は高いのだ。こういった無機物からも情報を探り出す術がある。例えば、何処で創られ、誰の手に渡り、使用者は何を想いながらこの道具を使い、武器ならばどんな気持ちで誰に危害を加えたか……などなど」

「そんな事までわかるのかっ!?」

「……と、全てがわかると便利なんじゃがな」

「なんだよ……」

 玉藻が悪戯が成功した少年のように笑う。

 まったく、年に似合わず子供なんだからなぁ……

「ただ本当にわかったこともあるぞ。例えば、その小刀」

 オレの手の小刀を指さす。

「確かに袂の使っていた小刀じゃ」

「……はぁぁぁ!?じゃ、じゃあ――」

「ただし、未知斗が会ったという袂にそっくりな者は世界敵だ」

「………間違いないのか?」

「うむ。この小刀の来歴を読み取った。間違いない」

 玉藻はキッパリと言い切った。

 ならば以前、玉藻から聞いたように、相手の姿や記憶を盗み取る世界敵が袂として偽っているだけなのだろう。

「と言うわけだ。前にも言ったが、次に会ったならば必ず仕留めるのじゃぞ」

「……ああ。わかったよ。でも――」

 オレは手に持った小刀を玉藻の帯に差し戻した。

「ん、どうした?」

「そういうことならなおさら、これは玉藻が持っておけ。本物の袂が愛用していた小刀だったんだろ?」

「しかし……」

「いいから」

「………うむ」

 玉藻は渋々受け取った風で、その実、しっかり懐の小刀を抱きしめている。まったく素直じゃないんだから。

 たぶん、次に袂モドキに会ったときに躊躇しないように念押しのつもりでこんな話をオレにしたのだろう。心配性なのも昔から変わらずだ。

「さてと――」

 忙しい玉藻の貴重な休憩時間をオレとのお喋りで消化させちゃ可哀想だ。用件も済んだみたいだし、そろそろお暇するかな。

 腰を上げようとした矢先に、玉藻が思い出したかのように手を叩く。

「あ~そうそう。わらわ、最近新しい術を編み出してのぉ」

 おっと……まだ話はあったみたいだ。オレは浮きかけた腰を下ろす。

「新しい術って、どんなのなんだ?」

「うむ。重海水の原理を応用してな。術の開発自体は以前からしていたのだが、この小刀から読み出した情報をもとに一気に開発が進んでの。世界の理に深く干渉する術はやはり開発が難しかったぞ」


 世界の理―――オレはその単語を聞いてドキッとした。

 それは忘れかけていた相須博士との会話を思い出させる。


「なあ、玉藻」

「それでその術というのが……ん、なんじゃ?」

「なんかさ…………みんな、オレに内緒にしている事がないか?」

 玉藻の顔の動きが止まった。

「玉藻?」

「……何故そう思う?」

 すぐに否定しないんだな。

「別に何となくなんだけど……」

 そう言ったが、気になる事ならいくつかある。


 相須博士が口にしていた『世界の理』について――

 その『世界の理』を少なくとも玉藻は教えてもらっている事――

 袂モドキが相須博士を『裏切り者』と呼んでいた事――

 その時に袂モドキと一緒に居た妖狐の少女を後日報告しても、それっきり何も上からはアクションが無い事――

 そして、相須博士の身体が世界敵と同様に四散した事――


「何となくか?まあ……わらわでも多少は未知斗に秘密にしているような事もあるしの」

「例えば?」

「ん?……例えばぁ~袂の父親の事とか」

 それはそれで凄く興味はあるけど、ちょっと違う。

「そういうプライベートな事じゃなくてさ……なんて言うか、隠し事というかそんな感じの」

「ふふふ……隠し事みたいな感じ?漠然じゃのぉ」

 確かに聞かされる方からすればとても漠然とした話だ。

「あぁ……わりぃ。やっぱり今の話は忘れてくれ」

 玉藻は微笑みながら『変な奴じゃ』と言ったきり、再び御守り作りを再開する。

 しばらく夜空を眺めていたが、玉藻は御守り作りに忙しいのか、それ以上の会話は起こらなかった。ここにずっと座っていてもしょうがない。

 愛を探し出して、ミライが立ち直った事を教えてやらないとな。心配しているだろうし。

「じゃ、オレ行くわ」

「ん……未知斗。そう言えば結局、相須とは話は出来たのか?」

「え?あ、ああ。ちょっとだけどな」

 絶妙のタイミングで話を振られ、浮きかかっていたオレの腰が三度ベンチに戻った。

「博士は何か言っていたか?」

「えっと………玉藻の昔話とかを聞かせてもらったよ」

「嘘じゃな」

 キッパリ言い切られた。

「いや、嘘じゃ――」

「そういった話もしたかもしれんが、もっと重要な話をしたのじゃないか?」

 玉藻がニヤリと笑う。

「例えば、それをわらわが聞くと気分を害してしまうような内容の話とか」

「………ったく。ホント、玉藻は何でもお見通しだな」

「ふふふ、大抵のことはな」

 玉藻は少し柔和な表情に変わる。

 こういう風に話を持っていかれては黙っておけるわけがない。オレは生野の研究所で相州博士と話したことをすべて玉藻に伝えた。

 おそらく玉藻には何となく内容は察していたとは思う。


「なるほどの。では、先程聞いた隠し事というのが、わらわが相須から聞いた『世界の理』の内容についての話かの?」

「……そんなとこ」

 ホントはそれだけじゃないけど。

 オレの話を聞きながらも、玉藻は御守り作りを続けていた。

「未知斗」

「ん?」

「先ほどのお前の質問だが………答えは肯定だ」

「先ほどの質問って、隠し事って話の事か?」

「うむ。わらわは未知斗に重大な隠し事をしている」

 玉藻が御守りを作る手を止めてこちらを見つめる。術を行使しているわけではないけど、それは何かオレの目を通して心を読み取られてしまうかのような探る瞳だった。

「えっと……それって何なんだよ?」

「知りたいか?」

「そりゃあ、教えてくれるなら――」

「それを知ったことで、お前の生き方や価値観が変わってしまうかもしれない。それでもよいか?」

 い、生き方!?大きくきたな。

「少しでも躊躇するようなら聞かない方が良いぞ」

玉藻の手が再び御守りづくりに戻ろうとする。

「玉藻」

「ん~?」

「それはオレだけに変化が来ることなのか?他のみんなは今までと変わらずにいられるのか?」

玉藻の手がピタリと止まった。

「例えば玉藻はどうなんだ?その話を聞いたときに考え方が変わったりしたのか?」

「わらわは……そうじゃなぁ。大きく変わったかもしれんな」

「それってもしかして………率先して人間を助けようと行動を起こしたこととかにも関係があるのか?」

「ふむ……それはよくわらわが皆から不思議がられている事柄の1つじゃな。『何故人間を助けようとしたのか?』………まあ、直接的な理由ではないが、影響は受けておる」

「そうなのか」

「さらに詳しく言えば『世界敵と戦う』ということに対する重要の理由になっておるな。その『世界の理』というのは。その結果、人間と共闘することとなっているという意味から、先ほどのは間接的に影響を受けていると言えるわけじゃ」

 うーん……正直、さっぱり話の内容が想像つかない。

 ただし大変な内容だと言うことだけはわかった。何せ、数千年の間ずっと人間から隠れ住んでいた人外種が、人間に自分たちの存在を明かしてまで世界敵と戦わざる終えない理由である。

『人間の協力を得ないと世界敵を倒すことができない』なんて理由ではないはずだ。

「………」

「聞くのは止めておくか?」

 玉藻が少し心配げに確認してくる。

 聞くまでもない。答えはすでに決まっている。

「……いや。教えてくれ」

「うむ」

 ここまで聞いてしまっては聞かないという選択肢はありえない。

 玉藻もそれはわかっているようで、淡々と話し始めた。

「『世界の理』の話というのは、まず一言で言うならば、この世界は神様が創ったという話じゃな」

「ん?神様?それは宗教的な話なのか?」

「いや、そうではない。わらわがここで言う神様とは万物創造の神ではなく―――」

 玉藻は静かに淡々と語り始めた。



むか~しむかし。


ある世界に暇を持て余している者がいたそうじゃ。


その者は暇を潰すため、遊び半分に新しい世界を創った。


その新しい世界は、創った人の意思に関係なく成長していくように創られておった。


創った人はその勝手に変化していく世界を毎日ただただ眺めるのがとても好きだった。


しかしある日、その新しい世界にイタズラをした別の者がいた。


イタズラによって世界にはそれまで存在しなかった化け物達がたくさん生まれてしまった。


そしてむかしから世界に棲んでいた生き物達を襲い始めた。


創った者は大そう嘆き悲しみ、どうにかして世界を救おうとするのじゃが。


しかしイタズラがあまりにも巧妙だったために世界を直すのには時間が必要だとわかった。


そこで世界を直すまでの時間稼ぎとして、まずこれ以上化け物が世界に広がらないように、海に壁を作ったそうじゃ。


そして化け物達に対抗できる強い生き物を創りだした。


強い生き物達は、化け物達を本能的に嫌悪し、敵として見なすように創られていた為、無意識に化け物達と戦うようになった。


また、強い生き物達はさらにこの世界に元々いる生き物達を本能的に守るように創られておった。


そしてそんな強い生き物達が突然現れても、むかしから世界にいる生き物達が怯えないように、強い生き物達がむかしからこの世界に隠れて棲んでいたことにしたのじゃった。


おしまい。



 それは昔話のような内容だった。

「……」

「……」

「……まだ『めでたしめでたし』とは終わってはいない話だがの」

「玉藻………そ、それって……ん」

 玉藻の人差し指がオレの口を塞ぐ。

「解ってもあまり口には出さない方がよいぞ。神様は『世界の理』が世間に広まるのを極度に嫌っているからの。あまり口外すると天罰が下るやもしれん」

 玉藻が人差し指をオレから離しながら苦笑するように言う。

「じゃあ何で教えたんだよ」

「未知斗が教えてほしいと言ったのであろう?」

 う……確かにそうだけど。

「………いや違うな」

 玉藻が自分の言葉を自分で否定した。

「おそらく、わらわは秘密を共有する相手が欲しかったのだろう。わらわの事をよく知る相手が欲しかったのだ」

 玉藻の横顔に自嘲気味の笑みが浮かぶ。

「もし先ほどの相洲の言った事が本当ならば、わらわの生きた……と思わされていた千年とは何だったのだろうな」

 昔から、形は小さいが何処か大きく見えていた玉藻の身体が、今はその身体の大きさ相当に、とてもとても小さく見えた。

 だからこそオレは―――何だか嬉しかった。

「………こう言うと誤解されるかも知れないけど、ちょっと嬉しいよ」

「ん?」

「玉藻でも本気で弱音を吐いてくれたりすることがあるんだなと思ってさ。しかもオレにその弱気なところを見せてくれるんだなって」

「ははは………予想外な感想じゃな。わらわ、そんなに弱音を吐いたりせんか?」

「ああ、しないね。オレや愛を不安にさせないように、わざと弱気な部分を見せないようにしてるな。昔っから」

 玉藻は少し照れくさそうに、そして困った表情を浮かべている。

 オレはこの際だから言葉を続けた。

「だからさ。そんな玉藻だからこそ、今の話は玉藻らしくないな」

「ん?」

「そんなの嘘に決まっているじゃないか。玉藻の1000年も袂の300年もオレの18年も間違いなく存在しているに決まっている。オレは今でも埼玉の焼け野原で玉藻に助けてもらったことをしっかり覚えている。袂も昔の怖かった頃の玉藻の事を面白おかしく話してくれた。玉藻だって自分が平安時代に京の都で暴れていたって言ってたじゃないか」

 玉藻は黙ったままオレの話を聞いている。

「子供の頃にミライの実家に遊びに行った時、ミライのおじいさんからも同じような話を聞かされた。みんなちゃんと記憶しているんだ。それ以上何か必要なのか?」

「………くっくっく」

 玉藻は不思議そうな表情を浮かべた後、愉快そうに小さく笑った。

「玉藻?」

「くっくっく……すまんすまん。ちょっと嬉しくなってしまってな」

「嬉しい?」

「うむ。真に人間は本当にあっという間に成長するものじゃな。立派になったな未知斗」

「ふん。何勝手に育ったみたいな事を言っているんだよ。玉藻が拾ってここまで育ててくれたんだろ?」

「も……もうそれ以上言うな。泣いてしまう………」

「たまには泣いたらいいんじゃないか?袂の時も我慢してただろ?」

 袂の葬式の時、結局玉藻はオレが見る限り、一度も表情を崩すような事は無かった。それは今でもハッキリと覚えている。

「…………のぉ未知斗……その……あまり良くないのかもしれんが」

「ん?」

「……ちょっと甘えてもいいか?」

 そう言いつつ玉藻がオレの方に身を預けてきた。そしてオレの服の胸元を両手で小さく握りながら、チラッとオレの方を見上げた。

「大丈夫。他のみんなには内緒にしておいてやるから」

 玉藻はそれを聞くと、胸元に顔を埋めると小さく震えた。

 どれぐらい経っただろうか?

 手で軽く抱きしめていた玉藻の肩が震えるのを止めた。そして玉藻がゆっくりとオレから離れていく。

「……すまぬな。もうよい」

「ああ。別にいつまででもこうしていいんだぜ?」

「それは嬉しい申し出じゃが……程々にしておこう。でないとミライから疎まれてしまう」

 玉藻がそう言って微笑を浮かべながらオレから離れた。

「ちょ、何でミライが疎むんだよ?」

「ん……だって未知斗。お主、ミライに告白したのであろう?」

 ぶぅぅぅぅぅぅぅ!!!

 な、ななななんで知ってるんだこの人は!?只者じゃないとは常日頃から思ってたけど、只者じゃなさすぎるだろっ!?

「……まいったなぁ……何で知ってんだ?」

 今度は玉藻がビックリしている。

「ま、まことに告白したのかっ!?あは……あはっはっはっは!これは目出鯛!」

 しまった……いつもの冗談だったのかっ!?

「冗談で言ったのかよぉ………そもそも告白しただけで、ミライの返事もわからないのに『めでたい』も何もないだろう」

「ん?ミライも受けたのではないのか?」

「…………決戦前だから返事は保留だそうだ。返事は落ち着いてからだってさ」

「ふむふむ……ミライにしては随分と殊勝な心構えじゃな。しかし先ほどミライも未知斗と同じ様にこの前を通り過ぎていったが、ニヤニヤした顔で軽くスキップまでしておったぞ?声をかけようかと思ったが、あまりに幸せそうだったので躊躇ったぐらいじゃったがな」

 うわぁ……自分の事じゃないのに、恥ずかしいのは何故だろう。

「まあお主らはお似合いじゃからな。幸せにしてやるのじゃぞ。あと、たまにでいいから実家には顔を出せよ。いや、今の家はいくらでも部屋も余っておるし2世帯住宅でも構わんぞ。ああ、それと孫は多いに越したことはないからの。最低でも3人はほしいの。一姫二太郎が理想じゃが、正直どちらからでもかまわん。未知斗とミライの子じゃから、男女どちらでも見目麗しい子であろうなぁ。性格も、落ち着き過ぎな未知斗と落ち着きが足りないミライを丁度足して割ったようなバランスの良い子だと良いな」

「だから、いつも話が飛躍しすぎなんだよ」

「楽しみじゃのぉ~♪」

「って、聞いちゃいないし……」

 この後、妄想が暴走しかける玉藻をどうにか宥めようと四苦八苦する。そして玉藻がようやく落ち着いてくれた頃には、相当の時間が経っていた。

 周りに時計が無いから正確な時間はわからないが、話し込んで1時間以上経ったんじゃないだろうか?

「さあ、時間を取らせたな。もう行って良いぞ。わらわはもう少しこれを作り進めないといけないからな」

 玉藻が作りかけの御守りを掲げてみせた。

「……大丈夫か?」

「心配無い。ほれ、時間を取らせたな。もういけ」

「ああ……なあ、さっき話した『世界の理』。玉藻は信じているんだよな?」

「……さぁどうかの。冷静になって考えてみれば、あのちょっとズレた変態博士の妄言だったかもしれんな」

「……そうか」

 オレの前で泣いてまで見せた玉藻が、妄言だと思っているはずがない。

 この人は何処までもオレに心配かけたくはないようだ。

 それでも泣いて落ち着いたのか、見た目だけでもいつもの玉藻に戻ったことに、オレは少し安心した。これ以上は御守り作りの邪魔にもなるだろうし、お暇することにした。



 玉藻は未知斗が見えなくなるまで微笑みを絶やさずに彼を見送った。

 そしてその息子が戻ってくる気配がないのを確認してから、手元の作りかけの御守りへと目を落とした。

 しかしその手は作業を再開しない。

「真に未知斗は純粋な性格じゃな………わらわが育てたとは思えん」

 顔をうつむかせたまま独り言をつぶやく玉藻の表情は、先ほどまでも優しい微笑みではなく、未知斗に『やめろ』と言われたばかりの自嘲気味な笑みになっていた。

「わらわと違い、純粋で優しい性格だから非情な答えに辿り着かなんだか?………実際のところ、わらわは別に過去の事がどうとかはあまり気にはしていないのだ」

 玉藻はそこに未知斗がいるかのような口調で寂しく語る。

「わらわ達人外種が、仮に世界敵を駆逐するためだけに生み出された存在だというならば。仮に世界敵を駆逐することが出来た暁には………わらわ達、人外種はこの世界に存在し続けられるのだろうかの?………それを考えるのがわらわは恐ろしいのだ」

 その場にいない未知斗から答えを求めるようにしばらく沈黙をする玉藻だったが、大切なことを思い出したのか、再び御守り作りの手を動かし始めた。

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