to_date('2028/05/09 03:06:00') location = '兵庫県 須磨砦近郊';
未知斗達が生野で世界敵と交戦してから3日後――
かねてから計画されていた、須磨砦から守備隊を順次撤退させる作戦が開始されることとなった。
少年は現在、その作戦で先行して撤退を行う第113中隊に所属していた。
少年が所属した部隊が九尾ノ小隊に助けてもらった戦い以降、須磨砦は世界敵から襲われていない。
1週間ちょっとの間ではあるが、最近活発な世界敵の活動を考えると1週間まったく世界敵を見かけないなど珍しいを通り越して異常だと統合自衛隊上層部は考えたらしい。
計画を前倒しして撤退作戦を開始したのだ。
少年はその撤退部隊の第一陣である第113中隊に配属していた。結果的に砦のどの部隊よりも早く、この最前線から離れられるのだ。
自分は最近運が良くなってきていると少年は思った。
とりあえず世界敵に気がつかれずに移動する必要があるため、深夜だが必要最低限の灯りを点ける事しか許されていない。少年は足を踏み外さないように足下を気をつけながら歩を進める。
「おいおい少年。緊張しすぎだぞ」
そんな少年に声をかける女性兵がいる。
その頭には獣の耳、腰からはサルの尻尾のようなものが出ている。明らかに人外種だ。
「猿渡軍曹」
「心配するな。何かあったらあたしが守ってやるよ」
階級章から察するに、少年の上官にあたるその女性兵は少年の頭を少し乱暴に撫でながら言う。
「ぐ、軍曹!子供扱いはやめてください!」
「はっはっはっは」
「お前達。作戦中だ。静かにしろ」
「す、すみません……」
2人のさらに上官から叱責の声が飛ぶ。
少年は謝りながら軍曹を睨むが、軍曹の方は自分は関係ないとばかりにそっぽを向いて誤魔化している。
「(こそこそ)……軍曹。非道いですよ」
「………」
少年が小声で文句を言うと一瞬笑みを浮かべた軍曹だったが、すぐに自分の口に人差し指を立てて黙るように合図を送ってくる。
「軍曹?」
「……何か嫌な音がする」
女性兵は人間よりもよく聞こえる耳をピクピクさせながら答える。
その声を聞き止めた上官が他の隊員に確認する。
「索敵班。何か反応あるか?」
「……熱源反応はなし」
「こっちも視界内に世界敵は見当たりません」
探知機のような機械を操作する人間と全身に生やした目をクリクリ動かしていた人外種からは『問題なし』の回答だった。林の中を見渡していた隊員達からも『問題なし』の報告が来る。しかし1人、物音の発信源にいち早く気がついた猿渡軍曹が空を見上げて言った。
「大きな世界敵――」
周囲の者もつられて空を見上げる。
そこにはうっすらと雲がたなびく月夜の空を、雲よりも明らかに低高度を飛び、そして雲よりもハッキリとした質量を持つ、巨大なナニかが浮いていた。
「まさか……あ、あれが……世界敵だと?」
上官が絞りだすように声を出す。
そのナニかは明らかに100mを優に超える巨大な物体だった。
よく見るとその物体は非常にゆっくりとだが、こちらに向かって移動してきていた。
しばらくその物体を眺めていて、少年は気がついた。その物体の一部が小さく、赤く、発光し始めたのだ。
「軍曹、あれって――」
軍曹の方を振り向いた少年に何かが覆い被さってきた。少年はそのまま地面に押さえ込まれる。少年はすぐに覆い被さってきたモノが猿渡軍曹だとわかった。
そして少年は押し倒されながら、彼女越しに見上げる形となった空でソレを見た。
1本の真っ赤な太い光のスジが、砦のある方向に流れていくのを―――




