departure
☆ナウティルス☆
その満月の夜、ゆるゆると海中を上昇したナウティルスは月光に煌めく、凪いだ海面で一旦停止した。
眼前にはかつて、太古に軌道エレベーターと呼ばれた建築物が有った島。
そこに十数人の人々を乗せたフォバーリムジンが浮いていた。
人々を従えるようにロイン・フッカ首席が立っている。
右隣に立つエゼキエル・カキザキ将軍は政治家であり軍のトップでもある。
左隣の一歩引いた位置に立つのは、まだ若いヨシュア・クローバー補佐官だ。
その後ろには、白髪の老人がいる。
その老人に似た眼鏡の壮年男性もいる。
巨漢と言える体格の、良く似た顔の中年男が五人並んでいる。
ごま塩頭の痩身の初老の男性がいる。
その男性を若くしたような青年になりかけの少年がいる。
カキザキ将軍から一歩後ろに離れた所に軍の制服姿の壮年士官がいる。
ナウティルスのエンジンに白く火が入った。
横たわったシロナガスクジラのような白い巨体が、ゆっくりと、ゆっくりと垂直に浮上する。
ホバーリムジンの軍服の男が声を発した。
「ロバート・クローバー艦長、ナウティルスクルーに敬礼!」
男たちは、あるものは軍式に、あるものは自らの信じる者に祈るように、敬礼を、礼をした。
その眼前でナウティルスは頭を心持ち揚げ、滑るように離れて行った。
「絶対に!絶対に!帰ってこいよぅ!」
ホバーリムジンの窓に駆け寄り少年が涙を流しながら叫んだ。
夜空の星程にしか見えなくなったナウティルスのエンジンの火が瞬いたように見えた。
もし、見ていた者がいたのなら、煌めく海面から、幽かな儚い光の矢が、瞬く星空に放たれたと想ったかもしれない。