男のフリをしてネッ友と宅飲みをした結果
キーワード企画
キーワードは『百合』『Twitter』『麦ジュース』です、それではどうぞ!
俺、いや、私には仲のいい友達がいる。
数年前Twitterで知り合った友達、通称『ネッ友』そのネッ友の一人が私の親友だ。
「あああああああああああぁぁぁ……」
私は頭を抱えながら唸った。私こと遊佐涼子は、ネットのハンドルネームとして『リョウ』と名乗っている。
そして問題はここから。私は自分を男だと言ってネットをしていた。いわゆるネナベだ。
その親友であるネッ友にも自分が女であることを隠していた。
そして今日、都会に、私の地元に引っ越してきたという友達と会い、麦ジュースをお互いに持ち寄り私の家で宅飲みをするという約束をしてしまったのだ。自分が女であることを隠しているのに、だ。
ネッ友との集合場所は自宅の近所の公園。だがこの女、ネッ友に真実を伝える気が全くと言っていいほどない。
今も尚小さいとは言えない胸にサラシを巻いている。思ったよりきつい。
髪は元々短く、男でも女でも大丈夫な髪型。
服は黒のパーカーにジーンズ。目を細めて目付きを常時悪くすることによって完璧に男に、自分で言うのもなんだが、美少年に変身した。
もちろん部屋にある女の子らしいぬいぐるみなどは押入れに詰まっている。なんの特徴もない普通の部屋だ。
「隠し通してみせる」
強い意志を感じる、これが人を騙す人間の覚悟だ。
その日、私はリョウを演じ続けると誓った。
* * *
待ち合わせ場所に着いた私はスマホを見ながら相手を探した。
少し長めの黒髪、おっとりした女顔の男。
そう、涼子の親友は男だ。
だからこそ、バレるわけにはいかない。親友とは言っても、初めて会う男の人なのだから。
「あ、いたいた!」
後からハスキーな声が聞こえてくる。
振り向くと、白いジャンパーを着た男が手を振りながら小走りで向かってきていた。
一瞬の警戒。だが、通話で聞いていた声と同じ声に自然と心を許していた。
「初めまして、リームです」
「初めまして、リョウです……」
お互いの顔を見ながら自己紹介。
彼の名前はリーム。もちろんネットの名前だ。
「「ぷっ……ははははは!!」」
いつも話をしていたのに、改まって自己紹介をしたのがなんだかたまらなく面白くて、二人揃って吹き出してしまった。
大丈夫、リームはいつもこんなふうに笑ってて、良い奴なんだ。
「失礼だけどもっと男らしい人だと思ってたよ、思ったより可愛い顔してるね」
「わ、俺のセリフだよ、こんなに女顔だったなんて、チャットだとあんなに暴れてるのに」
リームは、チャットでしばしば暴走することがある。暴言が出るなど、発言が大胆になってしまう。
大胆というより、自分の思ったことをそのまま書き込んでしまっているのだろう。
「とりあえず家行こうか、家どこ?」
「すぐそこだよ、それにしてもリームさん、ストゼロとはなかなかいい趣味をお持ちで」
私はリームの手にぶら下がっているビニール袋に詰められたストロングゼロを見ながらそう言った。
私はお酒に弱いわけではないが、流石にたくさん飲めば酔っ払ってしまう。
リーム、これだけのお酒を持参するということはかなりの豪酒なのだろうか。
「いやまぁ、はははっ」
作った笑顔で誤魔化す、豪酒というのは恥ずかしいことではないと思うよ、胸を張れリーム。
「何笑ってんだか、こっちだよー」
「あっちょっちょっと! こっちはお酒持ってて走れないんだよ〜!」
現実でもリームは弄りやすいなと思いつつ、私はリームをアパートに案内した。
* * *
自宅に到着、部屋の掃除はしっかりしたはずなのに、妙に不安になる。
大丈夫、ちゃんと掃除できてる。人を入れてもいい部屋にはなっているはず。
「ちょっと狭いかもしれないけど、遠慮せず上がって」
「う、うん。失礼します」
人の家に入るのに抵抗があるのだろうか。なんて礼儀正しいやつだ。
でもお前が私のマイルーム荒らしたの、忘れないからな? なんで家具が全部ひっくり返ってるんだよ、リームをマイルーム編集OKの設定にしたのは私だけど。
「何飲む? 色々あるよー」
リームに見えるように酒以外にほとんど食材が入っていない冷蔵庫を開ける。
昔ながらの片開き冷蔵庫だ。両開きの最新機種高いんだもん。お金貯めないとね。
「あーじゃあほろよいから飲もっか」
「了解」
言われた通りにほろよいを取り出す。とりあえずサワーでいいよね。これはジュース感覚で飲めるのでかなりオススメだよ。
「飲もー」
「おー」
テーブルの上に2缶ほろよいを置く。
ほろよいだけで酔うことはないが、いつも酒を飲む時に飲み終わった缶を見てよくこれだけ腹に入ったなと自分の体を疑うものである。
私だけ?
ひとまずお互いにほろよいを持ち、プルタブの隙間に爪を引っ掛けて浮かせてから、指を入り込ませて上にあげる。
カシュっと気持ちのいい音が部屋に響き渡る。
「かんぱーい」
「かんぱい!」
おつまみは柿の種とチーズなどの安物。貧乏学生には焼き鳥なんて無縁の存在です。
喉にカルピスのような甘みが染み渡る。お酒は緊張で強ばった体を徐々に和らげてくれた。
「よーし、今日が初対面となりますが、何を話しましょうかリョウ選手」
「もう酔ってんの?」
「いつもこんな感じでしょうが」
文句を言いながらリームはほろよいを一気に喉に流し込む。
なんて美味しそうに飲みやがるっ……! これにはハンチョウさんもにっこり、焼き鳥もってこい焼き鳥。あとポテチもな。
あとやさしいおじさん、私にも三万円ください。
「気持ちいい飲みっぷりだね」
「美味しくてさ、あ、冷蔵庫開けていい?」
「もちろん、見られて困るものなんて無いし」
初めて会ったばかりなのに、人の家の冷蔵庫を開けられるとは、これが親友か。
あー、幸せだな。大学にも友達はいるけど、宅飲みするような人はいないからなー。
「何飲むん?」
「JINRO」
「JINRO!?」
おーう、JINRO。
ほろよいを取り出した時にリームの持ってきていたお酒を冷蔵庫に入れたのだが、まさかあの瓶がJINROだったなんて。
リームが冷蔵庫からするりと取り出したのは緑色の便に黄色いラベル、赤い文字。まさしくJINROだった。
瓶だぞそれ、コップ持ってこなきゃ。
いつの間にか酒を取り出すリームと、おつまみやコップを取り出す私という役割が決まっていた。
こうして、私とリームの酒盛りは続いた。
* * *
あれから何時間経ったのだろう。
上手く頭が回らない、ああ、酔ってるなと自分でもわかる。
「大丈夫?」
「らいりょうふ」
全然大丈夫じゃない。
これはまずい、リームに迷惑がかかってしまう。
というかなんでリームはこんなに冷静なんだ。私より飲んでたのに。
「ち、ちょっと、りゃすむよ」
「……了解」
テーブルに腕を置き、体を支える。
くそう、自分の体でさえ支えられないとは、これが泥酔か。
話すことは大体話したし、リームも一旦休憩してくれるだろう。その間少しだけ、少しだけ眠らせて。
——夢を見ていた。自分の体重が、二倍近く重くなり、上手く動けない。
というか現実だった。
状況がわからないみんなのために説明すると、私は数分意識を完全に失い、眠りに落ちたのだ。
そして今目覚めた。腹の上にはリームが乗っかっている。
え!? ダメダメダメダメ! R-18ついちゃうから! 一般に公開させられないそれになっちゃうから!
とりあえず退かさねばなるまい。自分が目を覚ましたことをリームにアピールする。
カッと目を見開く。ペルソナァ!
「あ、起きたぁ」
「リーム……まさかそっち側の趣味が……!」
「え? リョウって女の子でしょ?」
ハッと自分の胸を見る。
上着がはだけ、サラシが露出している。なにこれえっろ、私の体えっろ。
じゃなくて!
「リーム……なんでこんな……」
本気で身の危険を感じていた。相手は男。同じ部屋に男女が二人きり。何も起こらないはずもなく。
という最悪の展開は回避しなければならない。
一か八か、リームを逆に押し倒して拘束するっ。
「はああ!!」
リームの体の中心を狙って思い切り起き上がりながら手で突っ張る。
ぽにゅん
「ひゃっ!」
……え? なんか柔らかい感触が。
なんだろうこれは、すごく気持ちいい、揉んでいるととても素敵な気分になれる。
ああそうだ、これは正しくおっぱい。おっぱい!?
「リーム、まさかっ」
「ううっ」
間違いない、リームは女の子だ。
つまり、男同士で会う約束をして、私は男装をしていて、リームも男装をしていると。
そしてお互いに男だと思い込んでいるが実はお互いが女だったと。
薔薇が咲いたと思ったら百合が咲いていた。何を言ってるのかわからねぇと思うが以下略。
今、私とリームは正座で向かい合っている。
さっきの出来事で酔いは完全に覚めた。
「なんでこんなことをしたの?」
「私、リョウのことが好きで……酔ってるから、少しくらいイタズラしてやろうと思って上着をはだけさせたんだけど……」
「サラシが見えたと」
まって、なんか今大事なこと言ってなかった?
好きで……? え、リームって私のこと好きだったの?
「それでね、女の子って気づいて」
「イタズラをやめたと」
「女の子でもいいかなって」
「いやなんでよ」
あれか、この子は私が女だと気づいて百合に目覚めたのか。
リョウなら男でも女でもよかったのか。
「でも私が男だとしたらリームって痴女だよね?」
「ち、違うの! 私はリョウが好きだから、誰でもいいわけじゃないの……! むしろリョウじゃないとダメなの!」
重い、重いよ。この子の愛が重いよ。もうこの子をリームとして見れないよ。
そして女の子だと知ったらもう男に見えないよ! 初めから女っぽい人だとは思ってたけど、多少感じていた男っぽさが今一切ないよ!
「なんだろうね、嫌じゃないんだけど、思考が追いつかない」
「お酒って怖いねー」
「ねーっ! バカか!?」
「うっ、ごめんなさい」
この期に及んでストロングゼロをちびちびと飲んでいる。というか舐めている。
ってかそれ私の飲みかけの缶。
「えへへー間接キス」
「はぁ……まあいいけどさ。それでどうする? 私はもう気にしてないよ?」
だって性的な目的じゃなくてイタズラだったわけだし。
「本当!? え、えっと、私と付き合ってください!」
「それはちょっと……」
「……!!」
リームの顔がキラキラと輝いて見えた。
か、可愛い。
もう女の子でもいいかもしれない。いやむしろ女の子の方が。
いかんいかん、私まで堕ちたら収拾がつかなくなる。
「じゃあさ、また、今度飲も? 今度は男装なんかしないでお互いありのままの姿でさ」
「うん!」
ふと、疑問に思った。私はリームの本名を知らない。現実世界で飲み合うような人の名前を知らないのは少しばかり怖い。
この子なら尚更だ。
「だとすると、名前知らないのってなんか変だね。名前聞いてもいい?」
「夢村由奈、夢を英語にしてドリーム、そこからドを取ってリームなんだよー」
「私ね、私は遊佐涼子。涼子を文字ってリョウね」
「涼子ちゃん! 夢村涼子かぁ」
え、何この子怖い。話聞いてた? 私の名前遊佐だよ? なんで由奈ちゃんの名字と合体してるのかな?
「ここまでしといてあれだけど……本当に怒ってない?」
「怒りが一切ないって言ったら嘘になる」
「うわあああ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいい! 嫌いにならないでえええ!」
「大丈夫、大丈夫だから、ちゃんと謝ってくれたし。ね、また今度遊ぼ?」
その後、次に会う日を決め、その日の酒盛りはお開きとなった。
あんなことがあったのに、私一人だけの部屋が妙に寂しく感じた。また会いたい、そう思ってしまった。
こうして、私、リョウとリームは本当の意味での親友となった。




