ぼくと友人の浩史
「お前んとこのゾンビ姉ちゃん元気? 」
「ゾンビ姉ちゃん……って、自分の身内じゃないからって酷いこと言うなよ」
「だって、奈穂子さんって無敵じゃん」
「ダメ人間としてはな。それ以外はポンコツだよ」
友人の浩史とは、幼稚園から大学まで一緒という腐りきった縁で繋がっている。
大概、ぼくらは誰とでも適当に付き合える。知り合い程度なら周りに何人もいるけど、友人と呼べる存在はそう多くはない。
浩史は姉とも仲がよく。姉のダメさ加減もよく知っているので、たまに相談にものってくれる。
姉弟二人暮らしになってから、時々こうやって茶化すように我が家の近況確認してくるのは、奴なりの気遣いだと気付いていた。
「それでも、ゾンビはないだろ」
ぼくだって、クズ姉とかだダメ人間とは言うけど、ゾンビは可哀想だ。
「悪い悪い、あの不屈の精神への俺なりに尊敬の意味を込めたんだけど。敬介はお気に召さなかったか……」
「一応、姉だからね。っていうか、あれのどこに不屈の精神を感じるんだ? 」
1日の大半をだらっと過ごしていて、本を読むか、テレビを観るか、スマホを弄っているしかしてない相手のどこにそんなものがあるのだろう。
「敬介に注意されて落ち込んでいても、5分くらいしたら他のことで笑ってるとことか」
「悩んでも解決しなかったんだろ」
「ルリさんを激怒させても、けろっとしているとことか」
「却って余計に怒らせてるよな」
「何度も打ちのめされていても、絶対に甦ってくるとこがスゴいんだよ」
「確かにあの執念には、ある意味尊敬するけど……」
ルリさんは、よく姉の生活態度を注意するが、年に数回くらい静かに怒りを示すときがある。穏やかに淡々と的をつくような正論に、流石の姉も落ち込むのだ。
俯いて、声もださずに泣いて、数日は食欲もなく会話もない。まるで別人のような姉の姿は、一緒にいるこっちまで辛くなるほど鬱々としている。
生きているのか、死んでいるのかもわからないような姉よりは、クズのまま笑顔でいてくれたらと一瞬でも思うくらいに、そのときの姉は弱々しい。
それがどうしてなのか、気がついたときには、嘘のように晴々とした表情でやりたい放題しているのだ。
「本当にゾンビ並のクズだよな」
改めて思い返すと浩史のゾンビ姉ちゃん発言はあながち間違ってはいない。
ただ、我が家のゾンビは甦るたびにクズ度がアップするオプション機能付きだ。
「浩史、お前っていい奴だよな」
「はい? 突然どうしたんだよ? ってか、なんで拝んでんの⁉ 」
心の底からしみじみと呟く俺に、浩史は理解しがたいと言わんばかりのひきつった表情を浮かべる。
血の繋がった弟ですら見放したくなる姉のダメさ加減を長所のように扱ってくれるのは、身近な人間ではきっと浩史くらいだろう。
あわよくば、姉の永久お世話役に就任してもらいたいが、そこまでは望むまい。
せめて、明日も明後日も、それから先の日常も友人でありつづけたい。
「浩史様、これからもよろしくお願いします」
「だから、拝むのをやめろって! 」
感謝と尊敬の気持ちを込めて更に拝みつづけたぼくは、浩史から思いっきり頬をつねられた。