表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
腹の奥底(仮題)
95/144

16

 話しは少し遡る


 勇人やシリウスと引き離されたレプスは何度か分かれ道を歩かされどこかの簡素な客室に案内された

 自分が今現在何処に居るのか把握させないためだろうが、レプスはそんなこととは思いもよらず、同じ回廊を何度か歩かされたことにも気付かず素直に案内人の後を着いていき、今眼の前には整えられたテーブルがある



「謁見が終るまで、どうぞ此処で寛いでお待ち下さいませ」


「は……はぁ……」



 椅子を引かれて素直に座ると、着席を促した侍従がぴくりと反応した

 およそ身分も財産も持っているような気配のない娘が、椅子を引かれることに慣れているという事実に


 しかし、そのことについて考察する前に、客室の扉が誰かの訪いを告げた

 侍従が扉を開けるとカートと共に侍女が二人待っており、侍従と眼が合うと僅かに目礼して入室し、お茶の仕度を始める



「どうぞ、お召し下さい」


「ど、どうも」



 出されたカップのハンドルを右側に回して摘んだレプスは香りを確認するように一口含み、それからソーサーに元のようにカップを戻すと、今度はシュガートングで角砂糖を載せたティースプーンをそっとカップに沈め、ゆっくりと音を立てずに回して馴染ませた


 この国のものとは少々異なるが、それでも美しい作法に侍女たちも侍従も困惑する

 もし、この娘が貴族なのだとしたら、取り返しのつかない外交問題になるのでは? ……そう思いはするが、もう遅い


 彼女はもう既に、一口、飲んでしまったのだから


 いつ、その反応が現れるかと、彼らは固唾を呑んだが、時は何事も無く過ぎてゆく

 もしや入れ忘れたのだろうか? 怪訝そうな彼らの前でレプスはケーキスタンドに盛り付けられた菓子を前に迷っていた



「あの、お、お注ぎします」


「あ、どうも」



 今度は入念に淹れ直し、再びサーブするが、やはり、反応は無い

 またも何事も無く時間は過ぎ、彼らの中に焦りが生まれる

 だからなのか、侍女の一人が、もう一人の侍女の背に隠れ、ティーポットの中に残った茶を、一口、試してしまった



「っぐぅ!?」


「えっ?」



 がちゃんとカートを倒しながら倒れた侍女が、床に転がり苦しみにのたうつ



「あ゛ぁぁあ゛あ゛あぁあぎぃいああうううああ゛あ゛あ゛あ゛!!」


「ひっ、ミ、ミーナ?! ミーナしっかりして!!」


「飲んだのか?!」


「ぇ、ど、どうしただなす?! び、びょうきだすか?!」


『マリー! シリウスさまば呼ばねばなんね!』


「そ、そ、そだな、し、しりうすさまに助げでもらわねぇど! ど、どごさ行っだんだすかシリウスさまだぢは?!」



 うろたえていたレプスは、普段は挙動不審にならないよう人前では話し掛けないようにしていた母親に叱咤され、慌てて同じようにうろたえていた侍従にシリウスたちの居場所を問い質す



「シ、シリウスっ? あ、ぁあ、謁見の間に」


「すぐ案内ばすで下せぇ! シリウスさまだら助げでくれるべ!!」


「わ、わかったっ!」



 乱暴に扉を開けると、そこには近衛が五名待機していた

 疚しいところのある侍従はその姿に怯んだが、レプスはそうでは無かった



「どうした?!」


「急病人だす! 謁見の間さ行ぎてぇんだす!」


「謁見? そんな場所に医者はおらんぞ」


「シリウスさまばおられるだす! あん人なら治せるべな!」


「なに? それなら謁見の間ではない、こっちだ」


「案内すでくれるだか、ありがてぇ!」



 田舎育ちのレプスは、走っていると言っても過言ではない近衛の足にしっかりとついていくが、侍従はそうはいかないようで見る間に置いて行かれてしまう



「あの部屋だ」


「はいだす!」



 只ならぬ剣幕で駆け寄ってくる彼らの姿に、扉の前を警護していた近衛たちは非常事態かと気を引き締める



「何事だ」


「急病人だそうだ、取り次ぎを」


「しっ、しりうすさまぁぁあああああ!! たすけでくだせぇましぃぃいいいいいぃいいいいいっ!」


「お、おいっ」



 レプスを案内してきた近衛が、室内への取り次ぎを申し入れる間も無くレプスは叫びながら扉を叩きだす

 扉はすぐさま開かれ、レプスは転がり込むように勇人に縋りつく



「じ、じ、じじょじょじょじじっ!」


「まぁ、どうなさったの? 落ち着いて」


「あの、あの、」



 もがき苦しむ侍女を助けたくて事情を伝えようと思っても、焦りの所為か上手く言葉を出せないレプスに差し伸べられたハンカチを、レプスは命綱のように手に取った

 その、手の持ち主の姿が、レプスの時を止める



「……ぇ?」



――もっと眼は落ち窪んで、髪の色は



 ……そう、赤毛、……だった

 眼の前の、若く、美しい女性のように赤毛で、翡翠の眼を持ち

 その女性に寄り添う男性のように、いいえ、もっと、それよりも遥かに痩せて、眼の落ち窪んだ……



「サナト……リウムの、隔離部屋の……」


「え……」


「寝台に……縛り、付けられ……て」


「な……に……」


「わたしを……お……そ……」



 隔離部屋の、寝台に、縛り付けられる

 この言葉が何を表すのか、アーディグレフとその妻に、この場に居る全員に、心当たりが、あった



(ぁー……やっぱり切欠になっちまったか)



 今、勇人とシリウスが忌避していた事態に陥っている


 若返った二人は肌の張りは勿論、髪の色も眼の色も相応に戻っていた

 その上、急激に若返った関係で体力を消耗し、若干やつれたアーディグレフのその容貌は……


 薬物と虐待により痩せ衰え、寝台に拘束されていた彼らの息子、……ユーディレンフを彷彿とさせるものだった


 彼への慰問には、とある女性神徒が最初に訪ねて以来、その時の悲劇により、それ以降女性が訪れてはいない


 ……つまり、戒められた彼のその姿を見た記憶を持つ、レプスは

 かつて、発狂した彼に強姦され、その子供を孕み、出産の折に、命を……落とした



――シリウスの生母、だったのだ

お茶のマナーはネット検索による付け焼刃です

まぁ異世界の話しなんでマナーなんて適当でいいんですけどもね☆


というわけで、勇人は事実上婚家でアウェイっていうか一人だけ他人状態でしたv

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ