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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
腹の奥底(仮題)
86/144

07

「形あるものはいつか壊れるって言うよな」


「ああ、それは良い考えだ、いっそ壊してしまった方が風通しも良いだろう」



 勇人がぽつりと溢した言葉を、ラドゥがしっかりと拾い上げる


 勇人は恩を売ることに決めた

 憶測や邪推であるとラドゥが宣言した上で彼らに聞かせた諸々の事情、それらの根拠、起こっている事実、すべて聞き、ラドゥが知る限りのことを聞いた勇人の頭の中に浮かぶのは、はっきり言えば「めんどくせぇ」という一言だったが、ここで手を拱くと後々更なる面倒ごとが発生するという懸念もある


 ……ということで、今のうちに根元から絶つことを選択した勇人は、自身の思考が大分女性寄りだということに気付いていない


 体が変化してから思考に変化が起きたわけでもなく、元からなので本人は微塵の違和感も感じていないが、所謂ところの男は対症療法、女は根絶治療とかいうアレだ


 名前を付けて保存に対し上書き保存とか、まぁ色々あるが今回発動したのは"臭いニオイは元から絶つ"というやつで、既に勇人は色々考えている

 因みに対は"臭いものには蓋"だが、蓋をしたところで永遠に開けずに済む保証は無い、ということで勇人の選択は絶つ一択だ










*** *** ***










 城に着くと別の案内役が数人待ち構えており、そこでもまた問題が起こる



「連れの方は別室でお待ち下さい」


「連れ? どういうことかね、謁見を申請したのは我が伯父でこの三人と一緒にということの筈だが」


「陛下の許可はアーシャルハイヴにのみ、とのことです」


「それはこの私も含め別室に……ということかね? 君の言う陛下とは誰かね、申し込みに対する返答も無く、謁見の許可についても先程聞かされたばかりだ、君の発言から考えるに伯父すらも謁見の許可が下りていないように聞こえるのだが?」


「……レンディオム大元帥閣下は間も無くお見えになる筈です」


「ほう? では陛下とは誰かね、こちらにも答えてくれたまえ」


「……」


「答えたまえ」


「……」



 ラドゥが威圧的に問うが、返事は無い

 爵位としても官位としてもラドゥの方が遥かに上だ

 案内役の顔色は悪いが沈黙は続く



「あー、いーよいーよ、ここは折衷案でいこうや、レプス、誠心誠意持て成されてきな」


「えっ、おらひどりっきりで留守番だすか?」


「大丈夫だレプス、ちゃんと危なくないように"見てる"から、寛いで待ってな」


「うぅ……はいだす」


「お待ち下さい、勝手に決められては困ります」


「あっそ、じゃあ勝手に滅びろ」


「?!」


「何の為にアーシャルハイヴが呼ばれたと思ってんだ、意味も無く来るわけねーだろ、まさか城勤めのくせして隣国がきな臭くなってることすら知らないとかねぇよな? 分かった上でそういう態度とってると見做していいってことだよな? こっちは国も何も背負っちゃいない自由の身だ、この国が滅びようがなにしようが影響なんぞ微塵もない」


「そ……れは」



 戦争の気配が濃厚になってきているところにアーシャルハイヴの手を借りるとなれば、人は自然と不利を連想し不安になる、勇人はそこを遠慮なく抉り不安を加速させてやった



「分かったら機嫌損なうようなマネはすんな、一人はそっちの予定通り待機させるっつってんだから、理解しろ」



 口では如何様にも暴言を操るが、内心は自分が国家権力に歯向かっているかと思うといつもより格段に胃の辺りがしくしくと痛む気がしてならない

 例え本当に不調を訴えているのだとしてもシリウスがすぐさま癒してしまうが、精神的なものであるためソレとコレとは別腹である

 家に帰ってひたすら弟妹を撫で回したいと心底思う


 とりあえず脅しは成功したようで、案内役が渋々とレプスを連れて行くのを見送った後、勇人たちも謁見の間へと案内される



「……最悪 人質にされてしまうぞ」


「大丈夫、見てると言っただろ」



 勇人がわざわざ会話に割り込んできたことから、何か考えがあるのだろうと黙って会話を見守っていたラドゥだが、流石に流れが悪いと感じたのか ひそり と苦言を呈す

 しかし勇人はシリウスの胸をたんたんと叩きその可能性については心配すらしない


 ラドゥには言わないが、レプスと別れたのは都合が良かったというのが一番の理由だ


 この先、話しの流れ次第ではレプスに聞かせたくない話しになる

 その時、彼女が思い出さなければ何の問題も無いが、普段の様子から考えると思い出してしまう可能性の方が遥かに高いだろう

 勇人としてもシリウスとしても、レプスの為に可能な限りソレは避けたいところだ



 謁見の間に通じる扉を守っていた衛兵たちが左右に退き、扉が開かれる


 眼に飛び込んできた眼を疑うような光景に、勇人は めんどくせぇな と独り言ちた


 なんと、同格と見られる豪奢な玉座が仲良く二つ並んでいる

 その一方に座す壮年の男が王で間違いないだろう、もう一方はラドゥの話していた王太后ということだろう


 素人でも分かる厚顔無恥さがなんとも痛々しい

 左右に並び立つ重臣たちは、その異常さにも気付かないのか、気付いても発言力が無いのか、まぁ勇人にとってはどうでもいいことだ


 後々の憂いを可能な限り少なくする為に、せいぜい上手く挑発して引っ掻き回してやるだけのこと


 勇人がそう考える一方で、謁見の間にいる大半の者の反応は顕著だった

 ……シリウスの顔を見て驚く者達、皆 大なり小なりの驚きを見せるが、その中でも蒼褪め、うろたえるような反応を見せた者がたった一人


――王太后だ

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