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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
腹の奥底(仮題)
82/144

03

「元帥がアーシャルハイヴを伴って陛下に謁見を?」


「はい、王太后陛下」


「大臣達は?」


「同席なさるようです」


「……大元帥は?」


「恐らく出席なさるかと」


「そう……レンディオム家が」



 爪は美しく整えられ、白く、染みは無く、けれども張りの衰えた手が、みしりと手に持った扇に力を込める



「その謁見、わたくしも同席します」


「は、しかし」



 ぱちん、と、傍に控えていた侍女からその言葉が漏れた瞬間、王太后の持つ扇が音を立てて閉じられた

 途端に壁際に置物のように立っていた騎士が、その侍女の腕を掴み、強引に引き摺る



「お、お許し下さい! どうかっ」



 また ぱちん、と音がして、今度は侍女の口が強引に塞がれる

 いくら抗おうとも、その力の差は圧倒的であり、僅かに緩むことすらも無かった



「わたくしは国母です、そのわたくしが同席することに、何の問題があると言うのですか」



 引き摺られていく侍女に誰一人として視線を向けることもなく、その場に残された侍女達は頭を垂れた、手が震えないように、ぐ、と爪が食い込む程に押さえつけながら



「すぐに、予定を調整いたします」


「そのようになさい」



 侍従の言葉に王太后は高慢でありつつも高尚に頷いた


 予定を調整すると言っても、王太后の空いた時間を知らせるのであって、日時に合わせて王太后自身の予定を調整するということではない

 このように国王を蔑ろにするような横暴が罷り通っている時点でこの国の内情がどんなものかお察しものだろう


 王太后、あるいは国母、方や先代国主の正妻、方や現国主の生母

 どちらにしても尊い身分であることは確かだが、だからと言って まかり間違っても国主より権威が勝るものではなく、けしてそのようなことがあってはならない


 ……それを王太后が理解できているかどうかは、知ったことではないが








*** *** ***








「では、改めて依頼する、私はエレアス大陸内陸部に位置するシャンガル国の王国軍上級大将を務めるランドゥルーグ・カリア・レンディオム、シリウス殿には軍部に臨時指導官としてお越しいただきたい」


「嫌です」


「臨時ねぇ、……とりあえずいつまでだよ」


「最短で君たちが魔女に依頼した期限の二週間前だな」


「あーそう(つまりぎりぎりまで引き伸ばすのかよ)」


「情勢によっては、再び来国してもらうことになる」


「さいですか(ってことは一時的に出国することもできるわけか、ホワイトなんだかブラックなんだか)」



 シリウスは即座に切って捨てたが、勇人とラドゥの会話はそのまま続く


 勇人の膝にはバケツサイズ(見た感じ25リットル程度)の器が抱えられており、その中には程よく焦がされて香ばしい香りを放つカラメルがたっぷりと掛けられた焼きプリンが納まっていた

 通販で購入したレンジが実力を発揮し、この大きさであっても均一に火が通っており出来栄えは上々だ、そんな渾身の一品を勇人は会話の片手間に控えめに言ってシャモジ? というような感じのスプーンでごっそりと掬い取ってシリウスの口に押し込み、黙らせる


 テーブルには通常サイズのプリンも所狭しと並んでおり、レプスも真面目な話しをしている筈のラドゥも遠慮なく手を伸ばしている、因みにラドゥは既に六個目のお代わりだ

 更に言うならシリウスは八杯目のバケツプリンである



「詳しい業務の内容や例外事項、支払われる報酬、滞在施設、滞在費などはここに記してある、よく眼を通してほしい、疑問があれば遠慮なく何でも聞いてくれ」


「んー……(びっちりとよくもまぁ……、読むのもうんざりするような羅列の中にこっそり不利なことが含まれてる契約書みたいだな)」



 渡された書類にざっと眼を通しながらシャモジ……ではなくスプーンでごっそり掬い取ったプリンの山に一口齧り付いた勇人は、まだたっぷりとプリンが載ったスプーンをシリウスの口に運ぶ

 蒸したプリンもいいが、どちらかと言えば勇人は焼きプリンの方が好きだ

 更には全く関係無いが豆腐は調理用なら木綿、そのまま食べるなら玉子豆腐派である、因みに玉子豆腐は豆腐の文字を含みはするが豆腐ではない


 それはまぁ置いておくとして、兎も角話し合い(という名のプリンを心行くまで堪能する会)は幕を閉じ、各々自分の寝室へと戻った



「おまえ不貞腐れんなよなー」


「不貞腐れてなどいません」


「そーですかそーですか」


「そうです」



 個室に引き上げて寝台に座り込み、膝に小さな存在を抱えた状態で書類を確認する勇人の腰周りを猫のように横たわったシリウスがぐるりと抱え込む

 シリウスは眼を瞑っており、表情は無いがどことなく不貞腐れた空気が醸し出されている



(まぁ結局嫌がってても気にはするんだよなー……こいつの性格上)



 などと考えると、抗議のためか勇人の脇腹の皮がふにりと摘まれた



「ひっは、ひゃめ、やめろこら!」



 べちべちとやっとの思いで叩き落して再び書類に視線を戻す

 大人の真似をするのが楽しいのか、小さな存在も勇人の真似をして真剣な表情で読めもしない書類に視線を注いでいた

 その頭を撫ぜてやりながら、勇人は内心重く息を吐き出す



(ひと波乱……どころじゃ済まないよなぁ……やっぱ)

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