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神代勇人は懇爛常態!  作者: 忍龍
腹の奥底(仮題)
81/144

02

「交通費と」


「ああ」


「滞在費」


「勿論、総てこちらで持とう」


「……食費がすごいぞ」


「大丈夫だ、依頼するのは私ではなく国、その程度では財布に大して響くことはないだろう」


「……ぁーそう」



 大してじゃなければ響くのかよ、とか、他人の財布で威張るなよ、とか、あるいは"国"からの依頼という今までに無いキーワードを投下してみたりと並べ立てられるツッコミどころのオンパレードだが、包み隠さずあからさまなツッコミ待ちの台詞だと分かっていた勇人は口には出さなかった


 口で渡り歩いていかなければならない貴族が失言をするということは致命的だと考えていい、つまり失言をする時は、相手を罠に嵌めるだとか自分のペースに引き込むだとか、そういった系統の思惑がある可能性が考えられるだろう


 まぁ素で失言をする頭の回転が少々心配になる貴族も中にはいるだろうが、少なくとも目の前の男、ラドゥがそうでないことは確かだ


 一方のラドゥだが、今までの綻びだらけの丁寧な言葉遣いと態度から、一見して雑な対応になった勇人の様子に特に驚きは無い

 煙たがられようとも散々付いて回って、彼女が依頼人に対してどういう態度をとるかはしっかりと把握しているからだ


 乗って来ない勇人に対して露骨に残念がるような態度をラドゥは披露したが、それすらもスルーされ、詳しい依頼内容に日程や海路と陸路、その他の細々としたことなどはラドゥが本国と連絡を取り細かく取り決めた上で、ということに決まり、取り敢えずラドゥ曰く祝いの(何のだよ)食事会は無難に幕を下ろす



 ……というワケで、乗船可能時間を迎えた面々は無事に乗船したのだが



「…………」


「ご要望の可能な限り質素な部屋だ」


「あぁ……そう……だな」



 部屋の内装自体は確かに質素に見える

 但し、大人数用であり、廊下からの出入り口は一箇所、中でダイニングルーム風の大部屋が一つに水周りと寝室が四部屋という内部構造だ、これまでの船で可能な限り選んできた部屋と大体似たり寄ったりというところだろう


 何であんたも一緒なんだよ、目的地まで前よりも距離詰め寄って共同生活かよ、と言いたいがやはり勇人は口に出さない

 というか、食事については既にレプスが毎回呼びに行く状態であり今更だろう



(突付かねーぞ、丸見えの地雷踏む程 俺は抜けてねーぞ)



 完全に藪蛇だろう、間違いなく



「寝室の間取りは多少異なるが広さは同じ、内装もどれも同じだ、余った一部屋は荷物置き場にでもすればいいだろう、暫く本国と連絡をとって依頼内容の調整をする、今日中には決まらないだろうが数日中には細かい調整まで済むだろう、夕食の時間になったら呼んでくれ」


「……」



 そう言ってラドゥは一番隅の部屋に入っていった



(突付かなくとも蛇が出ましたね)


(……言われなくても分かってるっつーの!)



 四つある寝室の内、一部屋余るなどという別の蛇(というか寧ろこちらの蛇の方がデカい)も飛び出たが勇人は気付かずシリウスは気付きはしたが特に気にも留めなかった


 因みにこの部屋は元々は別の客が抑えていたが、そこを金を払って譲ってもらったもので、実のところ、掛かった合計金額は同じ広さのランクが上の部屋を素直に借りるよりも遥かに高いということを蛇足として言い置いておく


 これだから金持ちって奴は……








*** *** ***








「父上、ラドゥです」



 寝室の一つを陣取ったラドゥは、早速連絡を取るための魔具を起動する

 相手の反応を待っている間、彼は旅装を解いて少ない荷物を寝台脇の小さなテーブルの上に置いた


 反応は思ったよりも早く、ラドゥは話しかけながら寝台に腰掛ける



「今日は早いな、どうした」


「なんとか招くことができそうです」


「ほう、早かったではないか」


「一応、直接働いてもらうのではなく、牽制や奮起といった名目で雇いたいと思っているのですが……」


「……そうだな、戦わせなくとも上が納得する理由となると大体そんなところだろう、できれば客人として招きたいが、アーシャルハイヴではな」


「取り急ぎ、陛下に謁見の申し入れをしていただけませんか」


「そこからなら二週間ほどか、分かった、今日中には申し入れておこう、兄上にも話しを通しておく、最近きな臭くなってきているからな、すんなり通る筈だ」


「そうでしょうね、寧ろそちらは二週間を長く感じるでしょうが……」


「あぁ……まぁなんとか持たせる、お前は今はそこまで気にしなくともよい」


「ええ、……伯父上に話を通すのは構いませんが、確立は高くとも万が一ということもありえます、僭越かとは思いますが……あまり、大きく期待を掛け過ぎないように、と」


「勿論だ……そこは兄上自身も充分に分かっておられる筈だ」



 沈黙が二人を襲い、気まずい空気を否が応でも感じ取る



「……宿はどうしましょう、正式なこととなれば、城に滞在を勧められる可能性が高いと考えられますが」


「そうだな……できれば兄上のところに……さもなくば我が家に滞在してもらいたいところだが……」


「謁見の申し入れをした時にでも進言してみていただけますか」


「分かっている」


「交通費など道中の経費は帰国次第 領収書を纏めて提出しますので、その時に」


「ああ、頼む……待っている」


「……はい」



 父の言葉に、ラドゥは見えないと分かっていても しっかりと頷いて応えた

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